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第37話
しおりを挟むしばらくして、ルイスとソフィアが入場する番になった。
二人は大広間の扉の前に立った。
「ルイス・グラシア伯爵、並びにソフィア嬢の入場です」
大きな声が会場に響く。
ソフィアはルイスにエスコートしてもらいながら、前を向いて歩いた。
昔、習った事を思い出しながら姿勢に気をつけ、薄っすらと笑みを浮かべて、転ばない様に優雅に歩く。
すると、ソフィアの姿を目にした貴族達がポーッと見惚れる。
グラシア伯爵は毎年パートナー無しで参加すると有名なのに、今回は隣にソフィアの姿があり、皆驚いた。
しかもそのパートナーがとても美しいのだから尚更である。
「美しい…どこのご令嬢だ」
「いや、しかし家名が呼ばれなかったぞ」
「それでは、平民か」
「しかし、平民にしては所作が美しかろ」
ソフィアを見てヒソヒソと周りが噂を広げていく。
特に、ルイスより先に入場していたのは男爵や子爵であったので、ソフィアの顔を知っている者は殆どいなかった。
高位貴族になると城に登城した時に、王子達と遊ぶソフィアとレティシアの姿を目にした者が多い為、英雄の娘であると知っている者が殆どである。
いろんな声が聞こえてくる中、次々に伯爵、侯爵、公爵が入場してくる。
そして最後に王族が入場し、王と王妃の後ろにソフィアの両親である英雄二人が続いた。
王族と共に入場する英雄を見たルイスは、確かによく見るとソフィアとレティシアが英雄達の子供だと分かる程に似ている。
特に母である、ヴァレンティナの美貌は娘二人に受け継がれていた。
1年ぶりに英雄二人の姿を拝見出来た貴族たちは嬉しそうに声をあげる。
「英雄様よ!1年ぶりに拝見いたしましたが相変わらずアルセニオ様は格好いいですわ」
「ヴァレンティナ様もとてもお美しい」
「英雄様達は毎年建国祭の為にわざわざ帰国して下さっているのよね」
興奮冷めやらない中、王の挨拶が始まった。
「今年も、こうして集まってくれた事を嬉しく思う。皆、楽しんでいってくれ」
とても短い王の挨拶が終わると共に音楽隊が楽器を奏で初め、王族のダンスが始まった。
王と王妃、王太子と王太子妃のダンスに貴族達が魅入る。
特に王太子妃であるセラフィナ妃の姿には皆、見惚れてしまう。
双子の母とは思えない程に美しい美貌と美しいダンス、青みがかったシルバーの髪が踊るたびにシャンデリアの光に照らされて光輝いている。
そして、王太子がセラフィナ妃を見つめる、その瞳は愛おしくてしかたがないと、誰もが分かるくらいの溺愛ぶりである。
王族達のダンスが終わると今度は貴族達のダンスが始まる。
ルイスとソフィアは何曲かダンスをしている人達を眺めながら、軽めのお酒を飲み談笑していた。
「ソフィアはダンスは踊れるのか?」
「はい、踊れますよ。昔一緒に練習したので」
「一緒に?」
「ふふっ」
子供の頃、王子のダンスの練習相手をしていたソフィアは一通りのダンスは踊れる。
しかも王子の相手をしていた為、そこら辺の高位貴族の令嬢より上手い。
他にも一人で勉強したくないと駄々を捏ねていたシャルロットの勉強に付き合って、王族が学ぶ殆どの勉強も習得済みなソフィアであった。
「では、1曲私と踊っては頂けませんか?」
そう言ってルイスはソフィアに手を差し伸べた。
「はい、喜んで」
ソフィアは頬を染めながらルイスの手に、自分の手を添えた。
音楽が次の曲へ切り替わる時、二人はホールの真ん中へ進んだ。
体格の良いルイスと、華奢なソフィアを見た貴族の中で「まるで美女と野獣だな」と揶揄う声が聞こえた。
だが、そんな蔑む声はダンスが始まると共にピタッと止まった。
次に流れた曲が、高難度のダンス曲だった。
どうせ、踊れないだろうとルイスとソフィアを見ていた貴族達は、二人が息ぴったりに難しいステップを踊っている姿に驚いた。
ルイスがここまでダンスが上手かった事にも驚いたが、それ以上にパートナーの平民だと思っていた女性が、次々に難しいステップを踏んでいる事に驚愕したのだ。
「あの美しい女性はいったい誰なんだ!?本当に貴族ではないのか」
「どこかの貴族の御落胤の娘なんじゃないか?」
「次々に脱落していっているのにまだ踊っているぞ」
高難度のダンスを踊りきれずに脱落していくペアの中、ルイスとソフィアは未だに踊り続けている。
そんなソフィアに対しての憶測が飛び交っていく。だが、噂をしているのは下位貴族達だけだ。
それを冷やかな目で高位貴族達は見ていた。
「賢き者ならヴァレンティナ様を見て気が付くであろうに」
「変に、ソフィア嬢に絡まなければ良いが…」
「忠告したほうが良いだろうか?」
「いや…愚か者に何を言っても通じん。
それに、平民だからと見下して言い訳では無い、愚か者には一度痛い目にあった方が身の為であろう」
高位貴族は、近くでヒソヒソとその悪口を言っている令嬢を横目で見た。
「ふんっ、平民風情があんなドレス着て生意気だわ」
「どこの誰だか知らないけど、あんなに目立っちゃって」
「気に入らないわね、身の程知らずが」
数人の令嬢が小さな声で呟いて、怖い顔で楽しそうに踊っているソフィアの姿を睨んでいた。
ダンスが終わりルイスとソフィアは休憩をとりにシャンパングラスを持ちながらバルコニーへと出た。
満点の星空の中、二人は見つめ合いグラスを傾け「「乾杯」」と言ってシャンパンを口にした。
「夜風が気持ちいな…しかし久しぶりのダンスがあの曲とは思わなかった」
「ふふっ、でも楽しかったです。ルイスさんダンスお上手なんですね」
「そうか?比較的身体を動かすのが得意だからダンスは好きだったな…。騎士の学生時代にダンスの授業があって、男同士で踊らされたな」
良くゴンサロ……じゃない、ルナ・ルースが女性パートを踊って、相手をさせられた記憶を思い出したルイスであった。
「ソフィアも、とてもダンスが上手なんだな。驚いたぞ、あの曲が踊れるとわ」
「小さい頃からあの方達の練習に付き合っていたので踊れる様になったんです」
そう言ってソフィアはガラス扉の向こうにいる王太子を見た。
ソフィアの視線の先にいる人物に気づいたルイスは納得した。
「そうなのか、道理で上手いわけだ」
「ふふっ、ありがとうございます」
照れくさそうにお礼を言ったソフィアは、ふとシャンパングラスを見て口紅が落ちたのに気が付いた。
「ルイスさん、少しお化粧直しに行ってきますね」
「一人で大丈夫か?途中まで送るぞ」
流石に化粧室まで男性であるルイスが着いていく訳にはいかないが、その近くまで着いていこうかと思った。
「いえ、大丈夫ですよ。直ぐに戻りますので」
ソフィアは勝手知ったる王城内。
子供の頃から来ているので一人でも大丈夫だと思い、大広間から出て化粧室へと向かった。
ルイスは、ソフィアが戻ってきた時直ぐに分かるように大広間の扉の前で待機していたら、見知った相手が近づいて来て話しかけてきた。
「おぉ!グラシア伯爵じゃないか!久しぶりだな」
「ロペス伯爵。お久しぶりです」
ロペス伯爵とは前第三騎士団長でルイスが一般騎士だった時にとても良くして貰った人物だった。
元々伯爵の三男だった彼は第三騎士団長を務めていた時に伯爵家の一人娘に見初められ婿入りしたのだ。
彼はとても良い人なのだが、話し始めると長いのがたまに傷である。
ロペス伯爵も先程のルイスとソフィアのダンスを見て心を打たれた一人であり、ルイスに感動を伝えたかったのであろう早口で話し出した。
ルイスは早くソフィアの元へ行きたかったのだが話を切ることが出来ずに困っていた。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
ルイスがロペス伯爵に捕まっている頃
化粧室から戻ってきたソフィアはルイスの姿を探していた。
入り口で待っていると言っていたルイスだが、中々その姿をソフィアは見つけられない。
「ルイスさんはどこかしら?」
キョロキョロとルイスの姿を探していると、カツカツとヒールを鳴らしソフィアの元に3人組の貴族令嬢が目の前にやってきた。
「ちょっと、そこの平民。止まりなさい」
高圧的に話しかけてきた、だいぶ化粧と香水の匂いが強めの令嬢がソフィアをギロリと睨んだ。
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