復讐的好奇心、五里霧中

狐火

文字の大きさ
上 下
1 / 3

動悸

しおりを挟む
 俺の憎む相手の妹が、俺のバイト先の近くで働いていた。なんと言う偶然。いや、必然……?兎に角、俺は不意にあの男のことを思い出してしまった。自分の意思じゃないのに考えさせられるなんて、なんて図々しいんだ!まったく腹が立つ。妹に罪はないが、俺はその兄貴がどうしても許せないのだ。
 昨日、俺はバイトの帰りにコンビニへ寄った。なにか飲み物を買おうと思ったのだ。俺は熱を出していた。普段は健康な体も、風邪を引いてしまっては、どうしようもないらしい。それでも根性でバイトを終えて、帰宅する途中だった。
 飲料をレジへ持っていったとき、馴染みの店員は他の客の荷物を扱っていた。最近はコンビニも様々な業務で忙しそうだ。少し待とうと思ったときだ。奥からさっともう一人店員が出てきた。「こちら、どうぞ」そういう店員は名札にトレーニング中とあった。新人か……。俺は改めて名札に目をやった。―俺は対応してくれる店員の名札を見る癖がある。
 すると。どうだ。気に食わない名字がそこにあった。珍しい名だ。はっとして店員の顔をみた。…………そっくりだ!!俺はお釣りを受け取ったあと不自然に一瞬立ち止まってしまった。
「あ……レシートを……」そう言ってごまかした。
 そういえばあいつには兄妹がいたんだったか。寒空の下、帰りながら考えていた。なぜだ。あれの家はもっと遠かったはずだぞ。なぜこんなところで妹が働いているのだ。それも夜遅くに……!
 風邪のせいか、同じ顔に出会ってしまったせいか頭がぐるぐる唸った。
 「もうやめてくれ……。」
俺を不快にさせるのは……。自分の鼓動がやけにはっきりと感じられる。脈がいつもより速い。気づけば俺は早足になっていた。
 見なかったことにすれば済むのに。関わらなければ良い話なのに。俺は今もあの男に一発食らわせてやる瞬間を待ち望んでいるのだ。だからこんなにも体が火照ってしかたがないのだ。すっかり風邪であることを忘れて、俺は家へ帰った。
 あのコンビニへはしばらく行けない。……でも俺の心の一部がまた今度行こうと囁いている。あぁ、俺は一度痛い目に遭わないとわからない大馬鹿者なのだ。嗤ってくれ。でも、それでも俺は憎らしいあいつと関わってしまいたいのだ。この手であいつの罪を裁きたいのだ。

 俺は決めた。あのコンビニへは暫くは行かない。あの妹に罪はないのだと何度も自分に言い聞かせる。今の俺には守らなければならないものがある。自分を大切にしなければならない理由も。だから……目を瞑るのだ。あの男に関わればろくなことにはなるまい。
 いつか、決着がつくまで。俺は我慢しよう。じっくりと堪えるのだ。

 俺は我にかえって風邪薬を三錠、買ってきた飲料で飲み干した。部屋は真っ暗だった。
しおりを挟む

処理中です...