異世界アイドルが世界を変える物語

DragonK

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星が呼ぶ夜、記憶の入り口

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# 風の音と星明かり、そして記憶
村の夜は昼とはまったく違う顔をしていた。
祭りの喧騒が静まり、路地ごとに静かな闇が降りた後、私はひとりで村をゆっくり歩いた。
一日中頭から離れなかったルークの痕跡、そしてここに残された手がかりたち。
でも夜になると、すべての悩みや不安がしばし静まり、ただ星明かりだけが視界を満たした。
私は村の外れの小さな丘へと足を運んだ。
ここは昼間も静かだが、夜になるとまるで世界から切り離されたような静けさが漂った。
丘の上に立ち、私はゆっくりと顔を上げて夜空を見上げた。
都会で見たぼんやりした星明かりとは違い、この場所の夜空は息を呑むほど鮮やかだった。
無数の星が濃紺の空を埋め尽くし、星明かりが肩や髪に降り注ぐような錯覚さえした。
風は涼しく、草の葉が風に擦れる音が遠くで囁くように聞こえてきた。
私はその場にしばらく立ち尽くしていた。
星明かりの下で、ふと心の中に一人の人がはっきりと思い浮かんだ。
ルーク。
彼はいつも夜空を見上げていた人だった。
静かに、何も言わず、世界と距離を置いたまま。
「ルークは……いつもああやって星を見ていたっけ。」
彼の静かな後ろ姿が淡く蘇った。
都会の明かりの下、練習室の屋上で星を見ていたあの夜。
その記憶はまるで昨夜のことのように鮮明だった。
私は目を閉じた。
風の音と星明かり、そしてルークの声と表情が、私の中でゆっくりと蘇っていった。

#(回想) 屋上、そして星
都会の夜、練習室の屋上。
コンクリートの床、手すりに腕をかけて立つルークの後ろ姿が闇の中に静かに溶け込んでいた。
頭上にはぼんやりと星明かりが流れ、風が彼の髪をそっと揺らした。
私はそっと屋上のドアを開け、ゆっくり隣に立った。
「ここにいたんだね、ルーク。」
ルークは少しだけ顔を向けたが、また視線を空へ戻した。
「……はい、PDさん。ここ、静かで……好きなんです。」
私は手すりに腕を乗せ、ルークの隣で星を見上げた。
「君、もともと星を見るのが好きだったの?」
ルークはしばらくためらい、静かに答えた。
「はい。子どもの頃……夜空を見ていると、ただ……何も考えなくて済むから、好きなんです。」
彼の声は低く、語尾がよく途切れた。
私はその静かな横顔を見つめながら、いつもより内向的に感じた。
「時々……あの星の間に、自分が失くした何かがあるような気がします。
……でも、それが何なのかはよく分かりません。」
私は微笑み、そっと体を預けた。
「君、思ったより感傷的だね。普段は何でもないふりをしているのに。」
ルークは気まずそうに笑い、視線をそらした。
「……PDさんがいるから、話せるんだと思います。
……なんとなく、安心するんです。PDさんは。」
冷たく華やかな外見、
透き通る肌とくっきりした顔立ち、
暗い髪と鋭い目元。
遠くから見れば冷たい彫刻のようだけど、
近くで見るとその中に静かに燃える温もりを感じた。
外は冷たく華やかでも、
内側は誰よりも繊細で温かい人――
それが、私の知っているルークだった。
星明かりの下、私たちはしばらく無言で屋上に寄り添っていた。
都会の喧騒とは違う、静かで深い夜だった。

# 現在 ― 異世界の夜、星を探して
私はゆっくりと目を開けた。
まるでさっきまでルークと並んで屋上に立っていたかのように、彼の静かな息遣いと都会の冷たい空気が指先に残っている気がした。
でも、ここはもうあの夜の屋上ではなかった。
私は再び異世界、村の夜に立っていた。
村は祭りの痕跡が消えたせいか、さらに静かだった。
路地ごとに闇が降り、街灯すらない道には淡い月明かりがやさしく差し込んでいた。
私はゆっくりと路地を歩いた。
足元で小石がかさりと音を立て、どこかで虫の声が低く響いていた。
「この村で、ルークならどこで星を見ていただろう?」
私は自然と見晴らしのいい場所を探して歩き始めた。
村の外れに出ると、昼間見ていた小さな丘が闇の中でシルエットだけを残して私を待っていた。
石段を一歩一歩登るたびに、草の露が足首をくすぐった。
丘の上に行くほど風は涼しくなり、息を吸い込むたび草と土の匂いが濃くなった。
丘の頂上に着くと、視界が一気に開けた。
まるで村全体が一望できるようだった。
そして、頭上には無数の星が降り注ぐように広がっていた。
星明かりは波のように空を埋め、天の川が淡く長く流れていた。
私はゆっくりと息を吐いた。
星明かりの下に立つと、現実と夢の境界が曖昧になる気がした。
ここなら、ルークもきっと夜空を見上げて、しばし心の荷を下ろしていただろう。
草むらに座り、私は空を見上げた。
星は驚くほど近く見え、その光は瞳にまっすぐ刺さった。
風が髪をやさしく揺らし、服の裾がふわりと揺れた。
私は手のひらを地面につき、冷たい土と石の感触を味わった。
「ここなら、私もルークのように……しばらく何も考えず星だけを見ていられるかな。」
私はそっと目を閉じ、また開いた。
星明かりが降り注ぐこの丘の上で、
私はもう一度ルークの痕跡、そしてアルカの仲間たちを思い浮かべた。
異世界の夜、
星明かり、風、草の匂い、そして心の奥で静かに揺れる懐かしさと希望。
そのすべてが、この瞬間私のそばにあった。
# 小さな案内人、儀式の場所

丘の頂上で星を見上げてぼんやり立っていたその時だった。
視界の端に何か小さくて丸い影がよぎった。
顔を向けると、草むらの端で小さな動物が二本足で立ち、私を見ていた……その動物はリスに似ていたが、この世界の生き物らしくどこか丸く、目がとても大きく澄んでいた。
柔らかな茶色の毛、しっぽは綿菓子のようにふわふわだった。
その小さな生き物は好奇心いっぱいの目で私をしばらく見つめ、首をかしげた。
私は思わず息をひそめ、そっと近づいた。
草がさやさや鳴るたび、小さなリスは一歩ずつ後ろに下がりながら私を導いた。
なぜかその動物についていかなければならない気がした。
まるで何かに誘われたように、私は草むらの中へそっと足を踏み入れた。
草の葉が足に触れ、露が肌に冷たく残った。
小さなリスはいつの間にか草むらの向こうへ消え、
私はその場に立ち止まった。
その瞬間、目の前に広がる光景に息を呑んだ。
草むらの間、まるで誰かがずっと前から用意していたかのような空間が現れた。
石が一定のパターンで、まるで儀式をしたかのように精巧に並べられていた。
中央には古くて大きな石板が置かれ、
周りには小石や野の花が円を描くように散らばっていた。
私はゆっくりその場所に近づいた。
星明かりが石板の上にやわらかく降り、
風が石の間を抜けて低い音を立てた。
ここはきっと普通の場所じゃない。
この世界の誰か、あるいはずっと昔から存在する何かが
特別な意味を込めて残した、神聖で秘密めいた場所。
私はそっと石板を持ち上げた。
表面には見慣れない記号や文字がびっしりと刻まれていた。
いくら見ても、その文字が何を意味するのかまったく分からなかった。
「これは……いったい何の文字?この世界の言葉でもなさそう……」
指先に伝わる石板の冷たさ、
草の間から染み込む夜気、
そしてまだそばをうろつく小さなリスの視線。
私は石板を胸に抱き、
この不思議な石と石板の正体を探るために
エミリオのもとへ行くことに決めた。
星明かりの下で、
私はこの世界が私に差し出す新しい手がかりと向き合っていた。

# 解読依頼 ― 神聖な力と未完のメッセージ
私は石板を抱えて図書館へ向かった。
夜の冷たい空気がまだ指先に残り、心の片隅には説明できない緊張感が漂っていた。
エミリオは静かに机に座っていた。
私は息を整え、石板をそっと差し出した。
「エミリオさん、この石板の文字、読めますか?」
エミリオは驚いた表情で石板を受け取った。
指先で表面をゆっくりなぞり、しばらく黙って模様を見つめた。
「これは……ソノリスの文字ですね。とても古い形です。」
「本当ですか?私にはまったく分からなくて……解読できますか?」
エミリオはしばらくうなずいた。
「はい、実はこの文字は上級ソノリスだけが読めます。私は候補生でしたし、特にソノリス文字の読解に才能があると評価されていました。だから……ある程度は解読できると思います。」
私はそっとエミリオの指先を見つめた。
彼が文字をなぞりながら低くつぶやいた。
「『アルカ、希望の光』……その先は一部が摩耗していて、これ以上は読めません。」
短い沈黙が流れた。
私は胸が高鳴った。
「ルークがこの文字を残したのかな?ソノリスの文字とアルカ、そして希望の光……すべてはどう繋がるんだろう?」
「ところで……この石板、どこで見つけたんですか?そしてなぜ私に解読を頼んだんですか?」
私は少し迷った。
エミリオの目には真剣な好奇心と慎重な警戒が同時に浮かんでいた。
「……草むらで偶然見つけたんです。石の間に、まるで誰かが儀式をしたみたいに石が並んでいて、その中央にこの石板がありました。」
エミリオは石板から目を離さず、静かに言った。
「ルナさん、実は最初から気になっていました。あなたは外部の人間で、ときどき想像もつかない力を見せます。そして、私たちが理解できない行動をとることもある。正体が分からない部分が多いです。」
私は突然の言葉に戸惑い、手に力が入った。
「私……それは……ただ、偶然こんなものを見つけて、エミリオさんなら信じられると思って……。」
声がどんどん小さくなった。
自分がこの場所でどれだけ異質な存在なのか、そして自分の行動が誰かには疑わしく映るかもしれないことをあらためて感じた。
自分が誰なのか、なぜここに来たのか――もう明かすべき時なのだろうか?
心の中で激しい葛藤が巻き起こった。
戸惑う私を見ていたエミリオは、やさしく微笑んだ。
「ごめんなさい、ルナさん。不快に聞こえたなら謝ります。私はただ……ルナさんが私を信じてこんな大事なことを任せてくれただけで十分感謝しています。話せない事情があるなら、準備ができたときにいつでも聞かせてください。」
私はようやく少し安心してうなずいた。
「はい……ありがとう、エミリオさん。いつかきっと……私の話をします。」
エミリオはもう一度静かに微笑み、石板を返してくれた。
「この石板はルナさんにとってとても大切な手がかりになると思います。これからも疑問があればいつでも聞いてください。私はいつでも力になります。」
私は石板を胸に抱き、夜空を見上げた。
まだ解けない秘密と、心の奥を満たす不安と期待が
静かに、でも確かに揺れていた。


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