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『久視伝(キュウシデン)』
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久視伝
『本来、斯様な事態は決してあってはならぬことであり、その罪は万死に値するものである。されどもこの件に関しては、冥界を統べる方の御恩によって不問に付すことと相成った。私、久方 霞子は、この後百年に渡る冥府・冥界の変革期の始まり、事の始めとなりし件をここに記す。』
久方 霞子『久視伝』・序文(2095年・天の原文庫)
「つまり、お前は〞狩られた〟んだな?それで間違いないんだな?」
安久津 昇の詰問とも取れる問いに、見目麗しい顔立ちをした二十歳前後の女は頷いた。彼女の、美しい、腰まで伸ばされた黒髪がサラリと音をたてる。成人式にと、おおよそ二年の年月をかけて、大切にしてきたのであろう黒髪が、昇の目には哀れに映ってしまった。
「間違いありません。私は確実に、〞狩られ〟ました。それ故に、川を渡らねばならなかったのです」
その声音には、恐れといったマイナスの感情は一切込められていなかった。昇に恐れを成した様子もなく―その声音からは、ただただ、死後数時間の人間ならば持ち得ない冷静さだけが感じられた。
女は、他の一般的な人間と比較して、明らかに秀でた才覚を有していた。そしてそれ故に、妬まれ―〞死〟へと追いやられた。
〞陽炎〟は、人のマイナス感情と神霊が融合した、姿を持つ呪詛のような存在だ。近年、他人を妬む者の悪意によって生まれたこの〞陽炎〟が、この女のような人間を〞狩る〟という事例が急増していた。
もはや、冥府が黙認を続けることが出来ないほどに。
「もう少し丁重に対応できないのか?これは取り調べではない。我々はあくまで、〞狩り〟の被害者らの善意で事情聴取をしているんだぞ」
上司の言葉に、昇は目を伏せてから答えた。
「〞狩り〟の被害は拡大の一途を辿っています。このままでは、何らかの寄合に所属していない者は皆殺しにされてしまう。―多少、目をつむってはくれないのですか」
昇の言葉に上司は深い溜息をつく。
「―あちらのでかい寄合にその辺は依頼してある。〞狩られ〟きっていない奴には手を差し伸べるようにとな」
根本的な解決策には全くなっていないでしょう、と昇は苛立ちを露わにした。
「それでも―相当の、目立つ人間にしか気を配ってはくれないのでしょう?我々は―冥府は、傍観の姿勢を続けるつもりなのですか?冥府の官吏が、直接的に〞陽炎〟を攻撃するような組織を構成することはできないのですか?」
「無理だ」
上司はにべもなく答えた。
「それをするには、我々は余りに黄泉に染まりすぎている。それに―そう自身を責めるな、安久津。歯痒い思いをしているのはお前だけではない。冥府としても、このままではかなりまずいということは把握している。故に―大王を説得して冥界に断罪機関を組織する旨の正式文書を作成した」
昇の上司―その昔、昼は朝廷にて天皇に伺候し、夜は冥府の官吏としても働き。時の天皇の命に逆らい、遣唐使船に乗らなかったことによって隠岐に流されるも返り咲いた、という伝説を持つ男は―そう言って自嘲気味に笑った。
「――――」
この男なら、やる。かつて野狂と呼ばれたこの男なら。
千五百年以上に渡って、死後の世界―黄泉―との間に流れる川を渡る者の、戸籍を管理してきた組織―冥府。これまで、現世で信じられてきたような断罪機関を一切有していなかった冥府。この男なら、それを組織してみせるだろう。
「尤も、今更何をしても手遅れかもしれないがな。直接的に、〞陽炎〟を生み出している輩に手出しできるわけでもないのだから。だが、何もしないよりは幾分かマシだろう―?」
十年前に、黄泉路を下った。下らざるを得なかった。家族のもとを去り、川を渡らなければならなかった。だが、出会った。冥官としての掟に抵触してまで、現世で最も有名な冥官は―安久津 昇という、才覚を有していたが故に死ななければならなかった若造を、視に来たのだ。
「どんな気分だ?三途の川を渡るのは」
背後からの声に、びくりと肩を震わせた。
死んでから川に至るまでは、獄卒らしきモノの後をついて歩くだけだったから。人間の声を聞くのは、久方振りだったから、かもしれない。若しくは、これが人ではないことに―気づいていたから、なのか。
「お前、越えられるな?」
かつて野狂と呼ばれていた(と後に知ることとなる)男は、川に足を踏み入れかけたまま固まっていた自分の肩に手を置いた。
「本は好きか?安久津 昇」
三途の川でするにはあまりに場違いな、その上かなりストレートな問いに、ぎこちなく頷いた。
好き、などというレベルではなく―安久津 昇という、まだ碌に世界も知らない若造にとって、本は全てだった。本が全てだった。本は、現実とは凡てが異なる世界への―扉だった。本を開けば、そこには自分がまだ知らない世界があったし、何度同じ世界に訪れたとしても、そこでは必ず新たな発見があった。だから、安久津 昇は、本を愛してすらいた。もしかしたら、自分の為に死んだ、母親よりも。ずっと。
「どうだ、この後十年もすれば、過去の文豪を超える女が出てくるんだが」
その言葉に、ゆっくりと振り返る。
黒曜のような、澄んだ夜色の瞳。怖い男なのだろうな、と思った。
「川を渡り全てを喪うよりも先に、冥府でその才女を待ってみないか?」
「事は急を要する。最早、一刻の猶予もない。―悪意で〞狩られる〟無辜の民は、守らねばならない。―〞陽炎〟は、討たねばならん。そして、〞陽炎〟を生み出した輩は―〞水月〟は、断罪されなければならない」
冥府の官吏を統率し、冥界の王の傍らに在る男は―冥府百官の前で重々しく口を開いた。
「冥府開闢以来、一度たりとも有してこなかった断罪機関をここに組織する。心して、〞水月〟の罪を断じろ!」
『2013年1月12日。〞陽炎〟を生み出し、他者を〞死〟へと追いやった輩・〞水月〟のみを断罪対象とする断罪組織を、冥府は組織した。その建議を奏したのは、希代の冥官・小野 篁。この後冥府は安久津 昇を中心として、〞陽炎〟とそれを生み出す輩・〞水月〟を追い詰めていくこととなる。』
久方 霞子『久視伝』(2095年・天の原文庫)
―あぁ、もうダメだ。
走りながら、そう思った。
―私は、〞狩られ〟てしまう――。
絶対に、ヒサカサンに入ってはいけないよ。穂乃歌―。
曾祖母の言葉が思い出された。数多の曾孫の中で、私を最も慈しんでくれた人。
お前が一番、おばあちゃんに似ているから。可愛くて手放せないんだよ。
そう言って、何処へ行く時にも私を連れていった。私を愛してくれた、才能豊かな人。誰もが、羨まずにはいられないような才能を持っていた。歌も踊りも、画も生け花も―。和裁も洋裁も、あの人の手にかかればお安い御用だった。人形の洋服を作ってもらったのだって、一度や二度ではない。
ヒサカサンに入ってはいけない。他の人には何ともない、普通の神域でも、穂乃歌にとってはそうじゃないから。もしも入ってしまったら―川を、渡らなければならないでしょうね。
彼女の言葉を。十年経った今でも、よく、覚えている―――。
―それでも。神域であれを撒けるのであれば―。
あれに殺されるよりは、神に殺された方がいい。そう思って、中村 穂乃歌は―自らにとっては絶対鬼門である鳥居を潜ろうとした―。
駄目なんだよ、穂乃歌――。
死の床で。自身の血を色濃く引いた娘息子ではなく、孫ではなく。ただ一人、数多の曾孫の中から穂乃歌だけを呼んで、皺だらけの手で、頬を撫でてくれた。最期の時の、濁って白みがかった、薄鈍色の双眸――――。
「ヒサカサンは駄目だって都紫子から聞いてないのか!死ぬぞ、お前」
鳥居に踏み込もうとした瞬間、手前の狛犬の脇に居た、自分とさほど変わらないであろう年頃の少年が、穂乃歌を怒鳴りつけた。
「なん―っ」
―トシコって、私の曾祖母を指してんの?人様の曾祖母呼び捨てって、どんな神経してんのよ!
怒りに任せて口を開こうとしたのだが、今度は別の方から大きな音がした。
耳を疑う。
―銃声に、聞こえたのだけれど。
そちらへゆっくりと目を遣った。
ハーフなのだろうか、純粋な日本人とはとり難い顔立ちをした、小学生と思しき少年が拳銃を構えていた。硝煙が確認出来たので、発砲したのは確実にこの子なのだろう。
「――消えろ。影だけの存在、煌めきを喰らうことでしか生きてゆけない化け物よ。フロウ=シューターは、お前を認めない!」
そう言って、もう一度発砲した。カゲと呼ばれたそれは、「人形の影」の姿を維持出来なくなったのか、サァッと消えていく。
かに見えたのだが、最期の足掻きとでも言うかのように、それは穂乃歌に向って手を伸ばした。刹那、目の前が真っ暗になる。
「かすみ!」
さっきは怒鳴っていた少年が、泣きそうな声で私を呼んだ―。
闇しかなかった。自分の手さえ、確認できないほどの深い闇。身体の感覚は、辛うじて残されていた。
―ああ、〞捕らえ〟られてしまった。
ここまで来てしまったらもう、戻れない。川を渡らなくてはならないから。
知っていた。少なくとも、私が知っている物語では―
―闇に〞捕らえ〟られてしまったら、もう戻れない。
おばあちゃんは。木原 都紫子は。何度も何度も、鳥居をくぐったが為に帰れなくなった女の子の話をした。私が、怖がって他の話をせがんでも。もう聞き飽きたと、嘘をついても。それでも、寝物語の最後には、絶対にその話があった。
「その川は、総てを押し流す。渡りきったその時には、もう何も残っていない―」
そう呟いてみると、本当に喪うのだなと急に実感が湧いてきた。思い出も、確かにその時私の中にあった感情も、もしかしたら、この先の人生で得られたかもしれない幸せも―。
―私はまだ、何も成していない。
それでも、川を渡らなくてはならない。カゲに敗北して、夢をかなえることもないままに―。
そう思って、瞳を閉じた。闇の中で目を閉じたので、開けていた時と明暗は変わらない。でも、閉じたことによって更に暗くなったような気がした―。
―私が、諦めたからなのだろうか。
刹那―背後から、チリンと鈴の音がした。
「日頃は大人しいが、実は平然と人様の顔面にゲンコツ入れる奴じゃなかったのか?お前は」
先程、私の曾祖母を「都紫子」呼ばわりした少年の声だった。でも、そんなことはどうだってよかった。もう、何があっても戻れない。川を渡らなければならない。だから、この少年が〞何〟であったとしても関係ない―。
「中村 穂乃歌。97年1月18日に島根県出雲市にて誕生。現在十五歳。間違いないな?」
今の少年は、冷静だった。でもどこか、必死さを感じさせる口調だった。
だから私は、目を開いた。相変わらず真っ暗だったが、少年の声がした方向に振り返る。闇の中でも、少年と目が合ったことが分かった。
「幼いころから空想癖があり、趣味は読書と寺社仏閣巡り。空間把握能力と平衡感覚が著しく欠如しているため、日に何度も躓き、周囲の人間から本気で心配されている。重度の方向音痴で、自転車で十分の距離にある市立図書館への道が五年経っても覚えられない。何か相違点はあるか?」
「―――――」
諦めと、少年の言葉の異常さにより唖然としているのに苛立ったのか、少年は私との距離を詰めた。私の目の前で立ち止まり、座り込んでいる私と目線を合わせるようにしゃがみ込む気配がする。
「先の四月から第一志望の私立高校に進学し、茶道部とさんざん迷った挙句、文芸部に入部。高校にはギリギリ入学し―」
そこで一旦、言葉を切った。
「おい、お前のことだぞ。中村 穂乃歌。〞陽炎〟に〞呑まれた〟ぐらいで諦めんな!」
そして―私の頬を、打った。
「まだ、死んじゃいない!戻れる。戻してやる!だからっ―」
諦めるな―!
「どうして今回の件を、彼に任せたんだい?」
フロウ・シューターの長、テオーデリヒ=ベーレンスの問いに、現世で最も有名な冥府の官吏は気怠そうに答えた。
「あいつを官吏に登用する際に、『冥府で才女を待ってみないか』と持ちかけた。現在、その才女の身に危険が迫っている。何かの縁とかこつけて、顔見知りにしておいても悪くない。〞陽炎〟に〞死〟へと追いやられて、才女にならなかったなどと言ったら、話が違うとキレかねないしな」
「今回、うちからロイスダールを借りたのも―その才女のため?」
「〞陽炎〟の活動は、戸籍帳に反映されん。故に――百まで生ききって大往生するはずの若造が、十五、六で〞陽炎〟に殺される」
「だから、黙認できないのか」
冥官は、軽く首肯してから言った。
「その才女は、この先八十年かけて―後世に名を残す文豪になる。だが、それだけではない。そいつの血を引く奴らは、今後事あるごとに世界を救うキーパーソンになる。――此岸だけではない。冥府もまた、救われる。久方 霞子は、冥府千年の在り方を変えてでも生かしたい人材だ」
十五年前。初めて中村 穂乃歌の戸籍を目にしたときは驚いた。冥府が管理する戸籍には、その人物が人生で経験することがあらかじめ掲載されている。寿命のことだけが現世では有名なようだが、冥府の戸籍には文字通り総てが載っているのだ。
「なぁ、テオ。―冥府は、変わるぞ。安久津 昇と、久方 霞子によってな」
「まぁ、いいんじゃないの?中村 穂乃歌にしても久方霞子にしても、今の冥府の悪弊を取り除くんだろう?―そしたら君も、必要とあらばフロウ・シューターからいくらでも借りられるようになるんだから」
「キリスト教世界での警察組織から人員を借りて批判を受けるのは、もう慣れたんだがな」
「変わるに越したことはないよ。風通しは良くした方が良いんだから。うちはさ、ほら、宗教改革時に刷新したから。―まぁ、そろそろ二回目が必要なんだけど」
「そうか。―だが、冥府の改革が終わるまでは始めてくれるなよ?」
冥官の頼みに、テオーデリヒ=ベーレンスは和えかに笑った。
諦めるな―!
そう言った少年は、涙を流した。
「お前は、久方 霞子なんだから!まだ、何も残していないのに!そんなこと、許さない!許さないぞ、俺は!」
そんなに一生懸命言われてしまえば、私としても「どうだっていい」で片づける訳にはいかない。
「―どうして、そんなに私に拘るの?何故、泣いているの?」
そう言うと、少年は驚いたような顔をして左手で自身の頬に触れた。
「どうして、って―」
「確かに私は、あなたの言うとおり中村 穂乃歌であり久方 霞子でもある。でも、どうして知っているの?」
問うと、少年は落ち着きを取り戻した様子で語り始めた。
「俺の名前は、安久津 昇。俺は、お前がお前である故に拘っている―」
十年ほど前に、俺は少々面倒な奴から妬まれた。思い込みの激しい、それでいて、朗らかで優しい奴だった。俺は、妬まれているということに長い間気付かなかった。席が前後で、身長もほぼ同じ、運動神経も同じようなもんだったから、随分と縁があるもんだなと思っていて。そいつは全科で学年トップを平気でとるような秀才だったから。
だから、あの時まで一度も気付けなかった。妬まれていたっていうことに。そしてその事実が、あいつを―〞水月〟にしてしまっていたということに。
さっきお前を襲ったのは、〞陽炎〟だ。人のマイナス感情と神霊が融合した、つまり姿と意思を持つ呪詛のような存在だ。昔から在ったし、被害者だってまぁそおこそこ居たには居たんだが、この十年で、被害者数が倍増している。俺たちが黙認出来なくなるぐらいにはな。〞陽炎〟を生み出した輩のことを、〞水月〟と俺たちは呼んでいるんだが―。「陽炎稲妻水の月」という言葉を知っているか?
私に呼びかけようとしているのだけれども、今の私が中村 穂乃歌なのか、それとも久方 霞子なのかが判らず困惑しているのだなと思った。
「久方 霞子は、基本部活内だけでの呼称なので。中村穂乃歌の方が適切ですよ?」
先程、私が〞陽炎〟に〞呑まれた〟際に「かすみ」と呼んだのを聞いていたので―少々気が引けはしたけれど、そのことには気がつかない振りをした。
「そうか。では、中村 穂乃歌。お前は、『陽炎稲妻水の月』という言葉を知っているか?」
「―捕らえることのできないもの、身軽ですばしこいものの喩えですね」
その言葉の、何と軽いことか――。
辞書通りの答えしか返すことのできない自分の無知さが、恥ずかしかった。
「俺たちは、それをその奇異な呪詛の喩えに使用している」
とにかく、〞水月〟となってしまっていたあいつは、〞陽炎〟を使って俺を〞死〟へと追いやった。俺は、川へと足を踏み入れ―そこで、篁さんに出会った。
そこまで言ったところで、昇ははたと気づいた。
―中村 穂乃歌に、将来の話をしてしまっていいものなのか?
生前読んだ『最近あった本当の怖い話』という諏訪 明美さんの本にも、確かこんな話があった。
『鶏に、これからの人生で起こることを全部話すと―鶏は人生に絶望して死んでしまった。』
死なれちゃ困る、と思った。俺はこいつの、作品を読むためだけに冥官になった。冥府に留まった。
そう考えて、思い出した。
―相生 祐。―俺を〞死〟へと追いやってしまうほどに自らを追い込んだ、級数。
〞水月〟となった級友は、四年間、ひたすらに昇を妬み続けていた。否。四年間妬み続けてしまったが故に、〞水月〟と相成った。良識を持った、正義感の強い奴でもあったから、〞陽炎〟を生み出して尚、苦しんだ。
昇を殺して自分は楽になる。だが、それは正しいのだろうか、と―。
最後は、〞陽炎〟を生み出したにも拘らず妬みの〞対象〟を殺さない〞水月〟に、〞陽炎〟が痺れを切らし。―〞陽炎〟が、暴走した。それでも級友は、昇を殺そうとはしなかった。
「駄目だ。駄目だ、駄目なんだ、殺さないでください、神よ―」
奴は、あのようなことを言ってはならなかった。一度、妬みで神を引き寄せるほどにまで想ってしまえばもう―神・〞陽炎〟は、〞対象〟を殺さずにはいられない。殺すまで、在り続け―主・〞水月〟を、蝕み続ける。
「「「ならば、汝が対象と成るのかえ?」」」
そう言って〞陽炎〟は、黒い影の腕を級友へと向けた。
「「「汝もまた、少なからず妬み嫉みの〞対象〟ではあるからのぅ。汝でも、構わぬ」」」
そう、はっきりと。級友が生み出した〞陽炎〟は言った。
はっきりと。意思を伝えることができるほど、に。級友が生み出した〞陽炎〟は、強かった。
昇は、瞬間的にそれを理解した。
だから、昇は―〞陽炎〟の前に立ちはだかった。
「〞対象〟は、俺なんだろう!俺を殺せよ!!殺せるのであれば、だけどな!!」
勝算など、なかった。死にたくも、なかった。世界にはまだまだ、昇が知らない何かがある。見たかった。知りたかった。生きている限り、何もかも。でも。
「お前がこいつを殺したら、道理に悖るだろうが!」
―そうだ。ああして俺は死んだんだ。
日頃は思い出さないが、折に触れて思い出すと―
―やっぱり、心が痛い。
「安久津さん?」
中村 穂乃歌―否。久方 霞子が、怪訝そうな顔で自分の名前を呼んでいることに気が付いた。昇が気づいたことにフッと笑って、少し間をおいて口を開く。
「―何か、心に懸かることでもありましたか?」
先程と比べると、少し低い声音だった。
―闇に〞飲まれ〟ている状況下で、余裕が出てきたってことなのか?
『何か、心に懸かることでもありましたか?』
私立妙谷女子高等学校・文芸部。一年生部員・久方 霞子。先の7月に発行された文芸誌にて、彼女は『鏡紋』という短編を執筆した。その冒頭部分の件が―。
『何か、心に懸かることでもありましたか?』
ちゃんと反応した昇に、霞子はうっそり笑う。
「『隠し事があるから、気もそぞろになるのですよ―?』」
その言葉に、昇は口元を歪めた。
―何が、久方 霞子ではなく中村 穂乃歌の方が適切です、だ。
「久方 霞子、お前は本当に―」
「『全てを明らかにしてしまえば、そこに神秘は存在しない―』。あなたが誰であったとしても、正体を明かさなくていいわ。―ここから、私を救えるのでしょう?助けてくれますか?安久津 昇さん」
その言葉に、昇は左手を差し伸べた―。
「結局、冥官だって言わなかったのかい?」
テオーデリヒ=ベーレンスのおどけたような声音に若干の苛立ちを覚えつつも、昇は冷静を装っていた。
「ええ、言えば彼女は信じたでしょうが―そしたら、彼女はきっと気づいてしまう。自らの危機に、冥官が動いた理由に。まぁ、敢えて言わずとも彼女は読んだんですけどね。」
久方 霞子。1997年1月に島根県出雲市にて誕生。高校で文芸部に入部したのをきっかけとして、執筆活動を開始。私立大学で弁をとる一方で作家としての活動を続け、生涯作家で在り続けた。彼女の作品で最も有名なのは『梅花伝』を始とする花伝シリーズだが、『玄月記』を代表とする月記シリーズも根強い人気を誇る。また、彼女の作品に必ず登場する「左利きの少年」は各シリーズで良い味を出しており、読者から絶大な支持を得ている。この少年にはモデルがいるとされているが、誰であるかは謎に包まれている。
久方 霞子は2094年に老衰で死去するが、その翌年、遺作である『久視伝』が発表された。これまでの彼女の作風とは大きく異なるので、本当に久方 霞子の作なのかと様々な憶測が飛んだ。しかし、彼女の曾孫である女優・加古川 美凪が、「おばあちゃんは、死ぬ直前まで『久視伝』のことばかり考えていました」と県南新聞の『久方 霞子を偲んで』で語ったことから偽作騒ぎは収束した。
2127年に勃発した第二次冷戦に於いて、日本の外務大臣として米露間の緊張緩和に努め、見事冷戦を終結させた女傑・中村 瑠依子は久方 霞子の曾孫の一人。また、2136年にアフリカ大陸の全内乱を沈めた柏由布子も彼女の娘の曾孫。2198年に第二四一代総理大臣に就任した中村 美春は彼女の直系の7代後の子孫である。中村 美春の治世は戦後最高と称えられ、嘗て無いほど国民の幸福度が高い世の中であった。
中村 霧夜 『ひさかたの夢の記憶』・終章一部抜粋 (2238年、天の原文庫)
『
冥府の官吏が、法(のり)を破って、一人の少女がために現世へ出向く。キリスト教世界の警察組織・フロウ=シューターから人手を借りて〞陽炎〟を討つ―。本来、斯様な事態はけしてあってはならぬことであり、その罪は万死に値するものである。されどもこの件に関しては、冥界を統べる方の御恩によって不問に付すことと相成った。久方 霞子、安久津 昇の両名は、此の後八十一年後再び冥府にて会い見え、冥府を変革してゆくこととなる。私、久方 霞子は、この後百年に渡る冥府・冥界の変革期の始まり、事の始めとなりし件をここに記す。
』
そう打ち込んで、深く息を吐いた。じきに死ぬのは判っていたが、残していくこととなる家族と最期の日々を過ごすよりも―
「私には、『久視伝』が大切だった」
掠れきった声。ゼエゼエと聞き苦しいことこの上ない呼吸。じきに、川へ向かう。愛する家族を置いて。彼女らに会えなくなるのは寂しいが、私は十五のときに約束した―。
これが、お前を守ってくれる。お前は二度と、〞陽炎〟に襲われることはない。『陽炎稲妻水の月』―。陽炎と水の月の間に割って入って、稲妻が妬み嫉みの絆を絶ってくれる。菅原 道真って知ってるか?彼は901年に失脚して、大宰府に左遷された。都を去る際、『東風吹かば 匂ひをこせよ 梅の花 主なしとて 春なわすれそ』という歌を詠み、その梅が歌に呼ばれて、京の都から一晩にして道真の住む屋敷の庭へ飛んできたという「飛梅伝説」もある―。菅公って言えば、北野の雷神だろう?梅と稲妻は、縁がある言葉だ。だからこの、梅細工を閉じ込めたガラス玉は―お前を守ってくれる。お前の才に嫉妬して堕ちる輩など、気にするなよ――。
「―おばあ様。美凪です」
あの一時を瞼の裏に思い起こしていたとき、呼び出しておいた曾孫が部屋を訪れた。
「お入りなさい」
「お呼びだと伺ったのですが―」
中村 美凪。黒いセーラー服のよく似合う、十五歳の中学三年生だ。
そして―
「お前が一番私に似ているから、可愛くてしょうがないよ。美凪」
最も、中村 穂乃歌の一面である久方 霞子を継いだ曾孫。
「私の宝物を、お前にあげようと思ってね」
宜しく頼むよ、美凪―。
その言葉とともに、自身の血を引いた最愛の娘に手にキラキラ輝くソレを握り込ませた。
左手を差し伸べた彼は、少しだけ頬を赤く染めた。私はそれに気がつかない振りをして、彼の手を取る。彼は、一言 も喋らなかったし、話さなかった。
そのことは、私にとっては何の問題もなかったのだけれど。
暫く歩くと、鳥居が幾重にも連なっている道が現れた。京都にある伏見稲荷大社みたいだなと思って、知らず知らずのうちに笑みが零れる。
―不思議な少年と手をつないで、鳥居の中を優雅に散歩――。
とても幸せな気分だった。何とも言えない高揚感。きっと、この先の人生でこんな経験―二度とない。
夢の時間が終わると―彼は私に、手を出すように言った。
「これがお前を守ってくれる。二度と〞陽炎〟に襲われることもない。八十一年後に、また会おう。―中村穂乃歌」
最後に彼は、漸く私の名前を呼んだ。だから私も、そういった意味では初めて、彼の名前を呼んだ。
「ええ、八十一年後にね―。安久津 昇」
―素敵な花を、ありがとう――。
【久視】(キュウシ)
① 長らえて見つづける。長生不老をいう。道家の語。
〔老子、五十九〕是謂ニ深根固柢長生久視之道‐(これをシンコンコテイチョウセイキュウシのみちという(ふ))。→これを、深く固い根があって永遠に生きられる道と言う。
② じっと長く見つめる。 (大修館書店、新漢語林)
でん【伝】
① 古くから言いつたえられていること。また、その記録。言いつたえ。
「―王羲之(おうぎし)筆」「―説」
(大修館書店、明鏡国語辞典)
『
「おばあちゃんは、死ぬ直前まで『久視伝』のことばかり考えていました。」
そう語る加古川 美凪は、曾祖母の思い出の品として、梅細工が閉じ込められているビー玉を持参していた。「これは、おばあちゃんが十五歳の時に貰ったのだそうです。手渡されたときに、花が綻んで咲いたんだって。久方 霞子らしい感性でしょう?」不思議な話ですね、加古川さんは信じますかと訊ねると、彼女は楽しげに笑ってから大きく頷いた。「おばあちゃんは、事実しか書かなかったし、話さなかった。久方 霞子の言葉には、神が宿る。それが、久方 霞子の才なんです。だから私は、信じます―。
』
『本来、斯様な事態は決してあってはならぬことであり、その罪は万死に値するものである。されどもこの件に関しては、冥界を統べる方の御恩によって不問に付すことと相成った。私、久方 霞子は、この後百年に渡る冥府・冥界の変革期の始まり、事の始めとなりし件をここに記す。』
久方 霞子『久視伝』・序文(2095年・天の原文庫)
「つまり、お前は〞狩られた〟んだな?それで間違いないんだな?」
安久津 昇の詰問とも取れる問いに、見目麗しい顔立ちをした二十歳前後の女は頷いた。彼女の、美しい、腰まで伸ばされた黒髪がサラリと音をたてる。成人式にと、おおよそ二年の年月をかけて、大切にしてきたのであろう黒髪が、昇の目には哀れに映ってしまった。
「間違いありません。私は確実に、〞狩られ〟ました。それ故に、川を渡らねばならなかったのです」
その声音には、恐れといったマイナスの感情は一切込められていなかった。昇に恐れを成した様子もなく―その声音からは、ただただ、死後数時間の人間ならば持ち得ない冷静さだけが感じられた。
女は、他の一般的な人間と比較して、明らかに秀でた才覚を有していた。そしてそれ故に、妬まれ―〞死〟へと追いやられた。
〞陽炎〟は、人のマイナス感情と神霊が融合した、姿を持つ呪詛のような存在だ。近年、他人を妬む者の悪意によって生まれたこの〞陽炎〟が、この女のような人間を〞狩る〟という事例が急増していた。
もはや、冥府が黙認を続けることが出来ないほどに。
「もう少し丁重に対応できないのか?これは取り調べではない。我々はあくまで、〞狩り〟の被害者らの善意で事情聴取をしているんだぞ」
上司の言葉に、昇は目を伏せてから答えた。
「〞狩り〟の被害は拡大の一途を辿っています。このままでは、何らかの寄合に所属していない者は皆殺しにされてしまう。―多少、目をつむってはくれないのですか」
昇の言葉に上司は深い溜息をつく。
「―あちらのでかい寄合にその辺は依頼してある。〞狩られ〟きっていない奴には手を差し伸べるようにとな」
根本的な解決策には全くなっていないでしょう、と昇は苛立ちを露わにした。
「それでも―相当の、目立つ人間にしか気を配ってはくれないのでしょう?我々は―冥府は、傍観の姿勢を続けるつもりなのですか?冥府の官吏が、直接的に〞陽炎〟を攻撃するような組織を構成することはできないのですか?」
「無理だ」
上司はにべもなく答えた。
「それをするには、我々は余りに黄泉に染まりすぎている。それに―そう自身を責めるな、安久津。歯痒い思いをしているのはお前だけではない。冥府としても、このままではかなりまずいということは把握している。故に―大王を説得して冥界に断罪機関を組織する旨の正式文書を作成した」
昇の上司―その昔、昼は朝廷にて天皇に伺候し、夜は冥府の官吏としても働き。時の天皇の命に逆らい、遣唐使船に乗らなかったことによって隠岐に流されるも返り咲いた、という伝説を持つ男は―そう言って自嘲気味に笑った。
「――――」
この男なら、やる。かつて野狂と呼ばれたこの男なら。
千五百年以上に渡って、死後の世界―黄泉―との間に流れる川を渡る者の、戸籍を管理してきた組織―冥府。これまで、現世で信じられてきたような断罪機関を一切有していなかった冥府。この男なら、それを組織してみせるだろう。
「尤も、今更何をしても手遅れかもしれないがな。直接的に、〞陽炎〟を生み出している輩に手出しできるわけでもないのだから。だが、何もしないよりは幾分かマシだろう―?」
十年前に、黄泉路を下った。下らざるを得なかった。家族のもとを去り、川を渡らなければならなかった。だが、出会った。冥官としての掟に抵触してまで、現世で最も有名な冥官は―安久津 昇という、才覚を有していたが故に死ななければならなかった若造を、視に来たのだ。
「どんな気分だ?三途の川を渡るのは」
背後からの声に、びくりと肩を震わせた。
死んでから川に至るまでは、獄卒らしきモノの後をついて歩くだけだったから。人間の声を聞くのは、久方振りだったから、かもしれない。若しくは、これが人ではないことに―気づいていたから、なのか。
「お前、越えられるな?」
かつて野狂と呼ばれていた(と後に知ることとなる)男は、川に足を踏み入れかけたまま固まっていた自分の肩に手を置いた。
「本は好きか?安久津 昇」
三途の川でするにはあまりに場違いな、その上かなりストレートな問いに、ぎこちなく頷いた。
好き、などというレベルではなく―安久津 昇という、まだ碌に世界も知らない若造にとって、本は全てだった。本が全てだった。本は、現実とは凡てが異なる世界への―扉だった。本を開けば、そこには自分がまだ知らない世界があったし、何度同じ世界に訪れたとしても、そこでは必ず新たな発見があった。だから、安久津 昇は、本を愛してすらいた。もしかしたら、自分の為に死んだ、母親よりも。ずっと。
「どうだ、この後十年もすれば、過去の文豪を超える女が出てくるんだが」
その言葉に、ゆっくりと振り返る。
黒曜のような、澄んだ夜色の瞳。怖い男なのだろうな、と思った。
「川を渡り全てを喪うよりも先に、冥府でその才女を待ってみないか?」
「事は急を要する。最早、一刻の猶予もない。―悪意で〞狩られる〟無辜の民は、守らねばならない。―〞陽炎〟は、討たねばならん。そして、〞陽炎〟を生み出した輩は―〞水月〟は、断罪されなければならない」
冥府の官吏を統率し、冥界の王の傍らに在る男は―冥府百官の前で重々しく口を開いた。
「冥府開闢以来、一度たりとも有してこなかった断罪機関をここに組織する。心して、〞水月〟の罪を断じろ!」
『2013年1月12日。〞陽炎〟を生み出し、他者を〞死〟へと追いやった輩・〞水月〟のみを断罪対象とする断罪組織を、冥府は組織した。その建議を奏したのは、希代の冥官・小野 篁。この後冥府は安久津 昇を中心として、〞陽炎〟とそれを生み出す輩・〞水月〟を追い詰めていくこととなる。』
久方 霞子『久視伝』(2095年・天の原文庫)
―あぁ、もうダメだ。
走りながら、そう思った。
―私は、〞狩られ〟てしまう――。
絶対に、ヒサカサンに入ってはいけないよ。穂乃歌―。
曾祖母の言葉が思い出された。数多の曾孫の中で、私を最も慈しんでくれた人。
お前が一番、おばあちゃんに似ているから。可愛くて手放せないんだよ。
そう言って、何処へ行く時にも私を連れていった。私を愛してくれた、才能豊かな人。誰もが、羨まずにはいられないような才能を持っていた。歌も踊りも、画も生け花も―。和裁も洋裁も、あの人の手にかかればお安い御用だった。人形の洋服を作ってもらったのだって、一度や二度ではない。
ヒサカサンに入ってはいけない。他の人には何ともない、普通の神域でも、穂乃歌にとってはそうじゃないから。もしも入ってしまったら―川を、渡らなければならないでしょうね。
彼女の言葉を。十年経った今でも、よく、覚えている―――。
―それでも。神域であれを撒けるのであれば―。
あれに殺されるよりは、神に殺された方がいい。そう思って、中村 穂乃歌は―自らにとっては絶対鬼門である鳥居を潜ろうとした―。
駄目なんだよ、穂乃歌――。
死の床で。自身の血を色濃く引いた娘息子ではなく、孫ではなく。ただ一人、数多の曾孫の中から穂乃歌だけを呼んで、皺だらけの手で、頬を撫でてくれた。最期の時の、濁って白みがかった、薄鈍色の双眸――――。
「ヒサカサンは駄目だって都紫子から聞いてないのか!死ぬぞ、お前」
鳥居に踏み込もうとした瞬間、手前の狛犬の脇に居た、自分とさほど変わらないであろう年頃の少年が、穂乃歌を怒鳴りつけた。
「なん―っ」
―トシコって、私の曾祖母を指してんの?人様の曾祖母呼び捨てって、どんな神経してんのよ!
怒りに任せて口を開こうとしたのだが、今度は別の方から大きな音がした。
耳を疑う。
―銃声に、聞こえたのだけれど。
そちらへゆっくりと目を遣った。
ハーフなのだろうか、純粋な日本人とはとり難い顔立ちをした、小学生と思しき少年が拳銃を構えていた。硝煙が確認出来たので、発砲したのは確実にこの子なのだろう。
「――消えろ。影だけの存在、煌めきを喰らうことでしか生きてゆけない化け物よ。フロウ=シューターは、お前を認めない!」
そう言って、もう一度発砲した。カゲと呼ばれたそれは、「人形の影」の姿を維持出来なくなったのか、サァッと消えていく。
かに見えたのだが、最期の足掻きとでも言うかのように、それは穂乃歌に向って手を伸ばした。刹那、目の前が真っ暗になる。
「かすみ!」
さっきは怒鳴っていた少年が、泣きそうな声で私を呼んだ―。
闇しかなかった。自分の手さえ、確認できないほどの深い闇。身体の感覚は、辛うじて残されていた。
―ああ、〞捕らえ〟られてしまった。
ここまで来てしまったらもう、戻れない。川を渡らなくてはならないから。
知っていた。少なくとも、私が知っている物語では―
―闇に〞捕らえ〟られてしまったら、もう戻れない。
おばあちゃんは。木原 都紫子は。何度も何度も、鳥居をくぐったが為に帰れなくなった女の子の話をした。私が、怖がって他の話をせがんでも。もう聞き飽きたと、嘘をついても。それでも、寝物語の最後には、絶対にその話があった。
「その川は、総てを押し流す。渡りきったその時には、もう何も残っていない―」
そう呟いてみると、本当に喪うのだなと急に実感が湧いてきた。思い出も、確かにその時私の中にあった感情も、もしかしたら、この先の人生で得られたかもしれない幸せも―。
―私はまだ、何も成していない。
それでも、川を渡らなくてはならない。カゲに敗北して、夢をかなえることもないままに―。
そう思って、瞳を閉じた。闇の中で目を閉じたので、開けていた時と明暗は変わらない。でも、閉じたことによって更に暗くなったような気がした―。
―私が、諦めたからなのだろうか。
刹那―背後から、チリンと鈴の音がした。
「日頃は大人しいが、実は平然と人様の顔面にゲンコツ入れる奴じゃなかったのか?お前は」
先程、私の曾祖母を「都紫子」呼ばわりした少年の声だった。でも、そんなことはどうだってよかった。もう、何があっても戻れない。川を渡らなければならない。だから、この少年が〞何〟であったとしても関係ない―。
「中村 穂乃歌。97年1月18日に島根県出雲市にて誕生。現在十五歳。間違いないな?」
今の少年は、冷静だった。でもどこか、必死さを感じさせる口調だった。
だから私は、目を開いた。相変わらず真っ暗だったが、少年の声がした方向に振り返る。闇の中でも、少年と目が合ったことが分かった。
「幼いころから空想癖があり、趣味は読書と寺社仏閣巡り。空間把握能力と平衡感覚が著しく欠如しているため、日に何度も躓き、周囲の人間から本気で心配されている。重度の方向音痴で、自転車で十分の距離にある市立図書館への道が五年経っても覚えられない。何か相違点はあるか?」
「―――――」
諦めと、少年の言葉の異常さにより唖然としているのに苛立ったのか、少年は私との距離を詰めた。私の目の前で立ち止まり、座り込んでいる私と目線を合わせるようにしゃがみ込む気配がする。
「先の四月から第一志望の私立高校に進学し、茶道部とさんざん迷った挙句、文芸部に入部。高校にはギリギリ入学し―」
そこで一旦、言葉を切った。
「おい、お前のことだぞ。中村 穂乃歌。〞陽炎〟に〞呑まれた〟ぐらいで諦めんな!」
そして―私の頬を、打った。
「まだ、死んじゃいない!戻れる。戻してやる!だからっ―」
諦めるな―!
「どうして今回の件を、彼に任せたんだい?」
フロウ・シューターの長、テオーデリヒ=ベーレンスの問いに、現世で最も有名な冥府の官吏は気怠そうに答えた。
「あいつを官吏に登用する際に、『冥府で才女を待ってみないか』と持ちかけた。現在、その才女の身に危険が迫っている。何かの縁とかこつけて、顔見知りにしておいても悪くない。〞陽炎〟に〞死〟へと追いやられて、才女にならなかったなどと言ったら、話が違うとキレかねないしな」
「今回、うちからロイスダールを借りたのも―その才女のため?」
「〞陽炎〟の活動は、戸籍帳に反映されん。故に――百まで生ききって大往生するはずの若造が、十五、六で〞陽炎〟に殺される」
「だから、黙認できないのか」
冥官は、軽く首肯してから言った。
「その才女は、この先八十年かけて―後世に名を残す文豪になる。だが、それだけではない。そいつの血を引く奴らは、今後事あるごとに世界を救うキーパーソンになる。――此岸だけではない。冥府もまた、救われる。久方 霞子は、冥府千年の在り方を変えてでも生かしたい人材だ」
十五年前。初めて中村 穂乃歌の戸籍を目にしたときは驚いた。冥府が管理する戸籍には、その人物が人生で経験することがあらかじめ掲載されている。寿命のことだけが現世では有名なようだが、冥府の戸籍には文字通り総てが載っているのだ。
「なぁ、テオ。―冥府は、変わるぞ。安久津 昇と、久方 霞子によってな」
「まぁ、いいんじゃないの?中村 穂乃歌にしても久方霞子にしても、今の冥府の悪弊を取り除くんだろう?―そしたら君も、必要とあらばフロウ・シューターからいくらでも借りられるようになるんだから」
「キリスト教世界での警察組織から人員を借りて批判を受けるのは、もう慣れたんだがな」
「変わるに越したことはないよ。風通しは良くした方が良いんだから。うちはさ、ほら、宗教改革時に刷新したから。―まぁ、そろそろ二回目が必要なんだけど」
「そうか。―だが、冥府の改革が終わるまでは始めてくれるなよ?」
冥官の頼みに、テオーデリヒ=ベーレンスは和えかに笑った。
諦めるな―!
そう言った少年は、涙を流した。
「お前は、久方 霞子なんだから!まだ、何も残していないのに!そんなこと、許さない!許さないぞ、俺は!」
そんなに一生懸命言われてしまえば、私としても「どうだっていい」で片づける訳にはいかない。
「―どうして、そんなに私に拘るの?何故、泣いているの?」
そう言うと、少年は驚いたような顔をして左手で自身の頬に触れた。
「どうして、って―」
「確かに私は、あなたの言うとおり中村 穂乃歌であり久方 霞子でもある。でも、どうして知っているの?」
問うと、少年は落ち着きを取り戻した様子で語り始めた。
「俺の名前は、安久津 昇。俺は、お前がお前である故に拘っている―」
十年ほど前に、俺は少々面倒な奴から妬まれた。思い込みの激しい、それでいて、朗らかで優しい奴だった。俺は、妬まれているということに長い間気付かなかった。席が前後で、身長もほぼ同じ、運動神経も同じようなもんだったから、随分と縁があるもんだなと思っていて。そいつは全科で学年トップを平気でとるような秀才だったから。
だから、あの時まで一度も気付けなかった。妬まれていたっていうことに。そしてその事実が、あいつを―〞水月〟にしてしまっていたということに。
さっきお前を襲ったのは、〞陽炎〟だ。人のマイナス感情と神霊が融合した、つまり姿と意思を持つ呪詛のような存在だ。昔から在ったし、被害者だってまぁそおこそこ居たには居たんだが、この十年で、被害者数が倍増している。俺たちが黙認出来なくなるぐらいにはな。〞陽炎〟を生み出した輩のことを、〞水月〟と俺たちは呼んでいるんだが―。「陽炎稲妻水の月」という言葉を知っているか?
私に呼びかけようとしているのだけれども、今の私が中村 穂乃歌なのか、それとも久方 霞子なのかが判らず困惑しているのだなと思った。
「久方 霞子は、基本部活内だけでの呼称なので。中村穂乃歌の方が適切ですよ?」
先程、私が〞陽炎〟に〞呑まれた〟際に「かすみ」と呼んだのを聞いていたので―少々気が引けはしたけれど、そのことには気がつかない振りをした。
「そうか。では、中村 穂乃歌。お前は、『陽炎稲妻水の月』という言葉を知っているか?」
「―捕らえることのできないもの、身軽ですばしこいものの喩えですね」
その言葉の、何と軽いことか――。
辞書通りの答えしか返すことのできない自分の無知さが、恥ずかしかった。
「俺たちは、それをその奇異な呪詛の喩えに使用している」
とにかく、〞水月〟となってしまっていたあいつは、〞陽炎〟を使って俺を〞死〟へと追いやった。俺は、川へと足を踏み入れ―そこで、篁さんに出会った。
そこまで言ったところで、昇ははたと気づいた。
―中村 穂乃歌に、将来の話をしてしまっていいものなのか?
生前読んだ『最近あった本当の怖い話』という諏訪 明美さんの本にも、確かこんな話があった。
『鶏に、これからの人生で起こることを全部話すと―鶏は人生に絶望して死んでしまった。』
死なれちゃ困る、と思った。俺はこいつの、作品を読むためだけに冥官になった。冥府に留まった。
そう考えて、思い出した。
―相生 祐。―俺を〞死〟へと追いやってしまうほどに自らを追い込んだ、級数。
〞水月〟となった級友は、四年間、ひたすらに昇を妬み続けていた。否。四年間妬み続けてしまったが故に、〞水月〟と相成った。良識を持った、正義感の強い奴でもあったから、〞陽炎〟を生み出して尚、苦しんだ。
昇を殺して自分は楽になる。だが、それは正しいのだろうか、と―。
最後は、〞陽炎〟を生み出したにも拘らず妬みの〞対象〟を殺さない〞水月〟に、〞陽炎〟が痺れを切らし。―〞陽炎〟が、暴走した。それでも級友は、昇を殺そうとはしなかった。
「駄目だ。駄目だ、駄目なんだ、殺さないでください、神よ―」
奴は、あのようなことを言ってはならなかった。一度、妬みで神を引き寄せるほどにまで想ってしまえばもう―神・〞陽炎〟は、〞対象〟を殺さずにはいられない。殺すまで、在り続け―主・〞水月〟を、蝕み続ける。
「「「ならば、汝が対象と成るのかえ?」」」
そう言って〞陽炎〟は、黒い影の腕を級友へと向けた。
「「「汝もまた、少なからず妬み嫉みの〞対象〟ではあるからのぅ。汝でも、構わぬ」」」
そう、はっきりと。級友が生み出した〞陽炎〟は言った。
はっきりと。意思を伝えることができるほど、に。級友が生み出した〞陽炎〟は、強かった。
昇は、瞬間的にそれを理解した。
だから、昇は―〞陽炎〟の前に立ちはだかった。
「〞対象〟は、俺なんだろう!俺を殺せよ!!殺せるのであれば、だけどな!!」
勝算など、なかった。死にたくも、なかった。世界にはまだまだ、昇が知らない何かがある。見たかった。知りたかった。生きている限り、何もかも。でも。
「お前がこいつを殺したら、道理に悖るだろうが!」
―そうだ。ああして俺は死んだんだ。
日頃は思い出さないが、折に触れて思い出すと―
―やっぱり、心が痛い。
「安久津さん?」
中村 穂乃歌―否。久方 霞子が、怪訝そうな顔で自分の名前を呼んでいることに気が付いた。昇が気づいたことにフッと笑って、少し間をおいて口を開く。
「―何か、心に懸かることでもありましたか?」
先程と比べると、少し低い声音だった。
―闇に〞飲まれ〟ている状況下で、余裕が出てきたってことなのか?
『何か、心に懸かることでもありましたか?』
私立妙谷女子高等学校・文芸部。一年生部員・久方 霞子。先の7月に発行された文芸誌にて、彼女は『鏡紋』という短編を執筆した。その冒頭部分の件が―。
『何か、心に懸かることでもありましたか?』
ちゃんと反応した昇に、霞子はうっそり笑う。
「『隠し事があるから、気もそぞろになるのですよ―?』」
その言葉に、昇は口元を歪めた。
―何が、久方 霞子ではなく中村 穂乃歌の方が適切です、だ。
「久方 霞子、お前は本当に―」
「『全てを明らかにしてしまえば、そこに神秘は存在しない―』。あなたが誰であったとしても、正体を明かさなくていいわ。―ここから、私を救えるのでしょう?助けてくれますか?安久津 昇さん」
その言葉に、昇は左手を差し伸べた―。
「結局、冥官だって言わなかったのかい?」
テオーデリヒ=ベーレンスのおどけたような声音に若干の苛立ちを覚えつつも、昇は冷静を装っていた。
「ええ、言えば彼女は信じたでしょうが―そしたら、彼女はきっと気づいてしまう。自らの危機に、冥官が動いた理由に。まぁ、敢えて言わずとも彼女は読んだんですけどね。」
久方 霞子。1997年1月に島根県出雲市にて誕生。高校で文芸部に入部したのをきっかけとして、執筆活動を開始。私立大学で弁をとる一方で作家としての活動を続け、生涯作家で在り続けた。彼女の作品で最も有名なのは『梅花伝』を始とする花伝シリーズだが、『玄月記』を代表とする月記シリーズも根強い人気を誇る。また、彼女の作品に必ず登場する「左利きの少年」は各シリーズで良い味を出しており、読者から絶大な支持を得ている。この少年にはモデルがいるとされているが、誰であるかは謎に包まれている。
久方 霞子は2094年に老衰で死去するが、その翌年、遺作である『久視伝』が発表された。これまでの彼女の作風とは大きく異なるので、本当に久方 霞子の作なのかと様々な憶測が飛んだ。しかし、彼女の曾孫である女優・加古川 美凪が、「おばあちゃんは、死ぬ直前まで『久視伝』のことばかり考えていました」と県南新聞の『久方 霞子を偲んで』で語ったことから偽作騒ぎは収束した。
2127年に勃発した第二次冷戦に於いて、日本の外務大臣として米露間の緊張緩和に努め、見事冷戦を終結させた女傑・中村 瑠依子は久方 霞子の曾孫の一人。また、2136年にアフリカ大陸の全内乱を沈めた柏由布子も彼女の娘の曾孫。2198年に第二四一代総理大臣に就任した中村 美春は彼女の直系の7代後の子孫である。中村 美春の治世は戦後最高と称えられ、嘗て無いほど国民の幸福度が高い世の中であった。
中村 霧夜 『ひさかたの夢の記憶』・終章一部抜粋 (2238年、天の原文庫)
『
冥府の官吏が、法(のり)を破って、一人の少女がために現世へ出向く。キリスト教世界の警察組織・フロウ=シューターから人手を借りて〞陽炎〟を討つ―。本来、斯様な事態はけしてあってはならぬことであり、その罪は万死に値するものである。されどもこの件に関しては、冥界を統べる方の御恩によって不問に付すことと相成った。久方 霞子、安久津 昇の両名は、此の後八十一年後再び冥府にて会い見え、冥府を変革してゆくこととなる。私、久方 霞子は、この後百年に渡る冥府・冥界の変革期の始まり、事の始めとなりし件をここに記す。
』
そう打ち込んで、深く息を吐いた。じきに死ぬのは判っていたが、残していくこととなる家族と最期の日々を過ごすよりも―
「私には、『久視伝』が大切だった」
掠れきった声。ゼエゼエと聞き苦しいことこの上ない呼吸。じきに、川へ向かう。愛する家族を置いて。彼女らに会えなくなるのは寂しいが、私は十五のときに約束した―。
これが、お前を守ってくれる。お前は二度と、〞陽炎〟に襲われることはない。『陽炎稲妻水の月』―。陽炎と水の月の間に割って入って、稲妻が妬み嫉みの絆を絶ってくれる。菅原 道真って知ってるか?彼は901年に失脚して、大宰府に左遷された。都を去る際、『東風吹かば 匂ひをこせよ 梅の花 主なしとて 春なわすれそ』という歌を詠み、その梅が歌に呼ばれて、京の都から一晩にして道真の住む屋敷の庭へ飛んできたという「飛梅伝説」もある―。菅公って言えば、北野の雷神だろう?梅と稲妻は、縁がある言葉だ。だからこの、梅細工を閉じ込めたガラス玉は―お前を守ってくれる。お前の才に嫉妬して堕ちる輩など、気にするなよ――。
「―おばあ様。美凪です」
あの一時を瞼の裏に思い起こしていたとき、呼び出しておいた曾孫が部屋を訪れた。
「お入りなさい」
「お呼びだと伺ったのですが―」
中村 美凪。黒いセーラー服のよく似合う、十五歳の中学三年生だ。
そして―
「お前が一番私に似ているから、可愛くてしょうがないよ。美凪」
最も、中村 穂乃歌の一面である久方 霞子を継いだ曾孫。
「私の宝物を、お前にあげようと思ってね」
宜しく頼むよ、美凪―。
その言葉とともに、自身の血を引いた最愛の娘に手にキラキラ輝くソレを握り込ませた。
左手を差し伸べた彼は、少しだけ頬を赤く染めた。私はそれに気がつかない振りをして、彼の手を取る。彼は、一言 も喋らなかったし、話さなかった。
そのことは、私にとっては何の問題もなかったのだけれど。
暫く歩くと、鳥居が幾重にも連なっている道が現れた。京都にある伏見稲荷大社みたいだなと思って、知らず知らずのうちに笑みが零れる。
―不思議な少年と手をつないで、鳥居の中を優雅に散歩――。
とても幸せな気分だった。何とも言えない高揚感。きっと、この先の人生でこんな経験―二度とない。
夢の時間が終わると―彼は私に、手を出すように言った。
「これがお前を守ってくれる。二度と〞陽炎〟に襲われることもない。八十一年後に、また会おう。―中村穂乃歌」
最後に彼は、漸く私の名前を呼んだ。だから私も、そういった意味では初めて、彼の名前を呼んだ。
「ええ、八十一年後にね―。安久津 昇」
―素敵な花を、ありがとう――。
【久視】(キュウシ)
① 長らえて見つづける。長生不老をいう。道家の語。
〔老子、五十九〕是謂ニ深根固柢長生久視之道‐(これをシンコンコテイチョウセイキュウシのみちという(ふ))。→これを、深く固い根があって永遠に生きられる道と言う。
② じっと長く見つめる。 (大修館書店、新漢語林)
でん【伝】
① 古くから言いつたえられていること。また、その記録。言いつたえ。
「―王羲之(おうぎし)筆」「―説」
(大修館書店、明鏡国語辞典)
『
「おばあちゃんは、死ぬ直前まで『久視伝』のことばかり考えていました。」
そう語る加古川 美凪は、曾祖母の思い出の品として、梅細工が閉じ込められているビー玉を持参していた。「これは、おばあちゃんが十五歳の時に貰ったのだそうです。手渡されたときに、花が綻んで咲いたんだって。久方 霞子らしい感性でしょう?」不思議な話ですね、加古川さんは信じますかと訊ねると、彼女は楽しげに笑ってから大きく頷いた。「おばあちゃんは、事実しか書かなかったし、話さなかった。久方 霞子の言葉には、神が宿る。それが、久方 霞子の才なんです。だから私は、信じます―。
』
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