怪演!ゴーストレストラン

日向コタ

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第3章 不測の事態

2.死後の世界

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 人としての意識を完全に失ってから、どれくらいの時間が経っただろう。いや、まだそれほど経っていないはずだ。まだ救急車も、警察も来ていない。
 光太は徐々に意識が回復してきた。
 
 "ん、生きてる…?

 そう思ったのも束の間、光太の身体からはその意識だけがメリメリと音をたて剥がれていった。

 「ちょ、ちょっと待って!やめろー!」

 いくら叫んでも誰も振り向きやしない。皆光太の身体を心配し、ゆすったり声をかけたりしている。
 光太の身体から完全に剥がされた意識の部分は、ゆっくりと青空に向かって昇っていった。どれだけもがいても同じペースで上へ上へと昇っていく。

 「まだやりたいことが沢山あるんだよ…」

 光太は泣きたかった。しかし、涙が出ない。心は泣いているはずなのに…。
 やがて雲に入った。とても分厚い雲なのか、昇っても昇っても雲が晴れることがない。すでにもがく気力もなくなった光太は、眠るようにして静かに天へと昇っていった。

 雲を抜けると、どこまでも続く、透き通った青い空間が広がっていた。まるで水平線を眺めているような、幻想的なその空間は、心の安らぎさえ覚える。死後の世界は、意外なほど穏やかだった。
 昇りきったのだろう。光太は自分の足で歩けることに気が付くと、ゆっくりと歩き出した。しかし、どの方向に歩いても同じ景色が広がっているからか、すぐに歩き疲れてしまった。そして、光太はその場に仰向けに寝転んだ。一体この後は何が待ち受けているのだろう。何か苦しいことや拷問をされるのではないかという不安がよぎった。
 すると、目の前にモヤモヤとした水蒸気のようなものがどこからともなく集まってくる。

 「え?!なに?!」光太はいきなりどこかへ連れていかれるのだと思い、警戒して後退りした。

 徐々に大きくなっていくその白いモヤモヤは、やがて成人男性ほどの大きさになった。すると、そのモヤモヤが優しい口調で話しかけてきた。

 「錦光太さん。あなたは死ぬのが少し早すぎた。何かやり残したことはありませんか?」

 「あ、あります。なんならメチャクチャあります。レストランも最後までやりたいですし、親とも最後にちゃんと話したいし、あと…あと弥生ちゃんにも告白しないと!」

 「光太さん。残念ながら、そんなに沢山のやり残したことを叶えてあげることはできません。どれか一つ決めてください。」

 「そ、そんな…。選べないよ。第一なんで僕が死ななければならなかったんだ!」

 「人が死ぬときは、誰にも予測できません。中には、予期せず突然死んでしまう人もいます。私は、そのような若くして亡くなってしまった人に対して、救済措置を施す役割を担う者です。」

 「どれか一つなら、叶えてもらえる…。それだけでも、ありがたいってことか…。」光太はしばらくの間考え込んだ。今自分がやりたいこと、最後までやりとげたいことは何なのかー。

 「決めました。レストランを最後までやりとげたいです。あと2カ月で相方の零が天国へと旅立ちます。それまで一緒にやらせてください。」

 「零さん…。そういえば、以前に亡くなった若い男性がいましたね。まさか一緒にレストランをやられているとは。」

 「10カ月ほど前に偶然道端で会ったんです。そこでレストランやらないかって誘われて、一緒にゴーストレストランを始めたんです。」

 「もしかしたら、わかっていたのかもしれないですね…。」

 「え、何がですか?」

 「零さんは、あなたの死期が近いことをわかっていたのかもしれません。まれに幽霊となって現世に戻った者の中に、目の前の人間があとどれくらい生きられるのかをわかる者がいるんです。あえてあなたを選んだのには、何か理由があるはずですよ。」

 「何か理由が…」

 「それは現世に戻ってから、それとなく聞いてみてください。さ、それでは準備をします。」

 白いモヤモヤが話終えると、光太の隣に人の身体が横たわっていた。若い、だいたい同じくらいの年回りの男の子の身体だ。

 「さあ、腕組みをして念じるのです。そうすればその男の子の身体に入ることができます。身体から離脱するときも同じようにするのです。」

 光太は腕組みをして男の子の身体に入るよう念じた。すると次の瞬間、先ほど横たわっていた男の子と視覚・聴覚・手足の感覚など、全てがリンクしていた。

 「すごい…。でも、これじゃあ光太ってことは認識されないね。」
 
 「そうです。なぜならあなたは亡くなったいるのですから、現世で生きて動いていては問題になります。その姿で、やり残したことをやり遂げてきてください。タイムリミットは2カ月です。それではー。」

 白いモヤモヤが話終えると、目の前が暗くなった。どのくらいの時間が経ったのだろう。光太はふと意識を取り戻すと、全身にうちつけるシャワーのようなものを感じた。

 「うんん…なんだこれは…」

 起き上がると、どしゃ降りの雨が降っていた。

 「雲、厚かったからなぁ。へ、へ、ヘックション!!」

 4月の終わりとは言え、全身ずぶ濡れでは寒さで風邪を引きそうだった。光太は急いで、いつものキッチンへと向かった。
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