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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)
第弐百弐拾参話 海に落ちてしまいましたが何か!
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「ふぅ~~、ヒヤヒヤ物ではあったがなんとかなったのぉ♪・・しかし慣れぬ事はする物では無いな。イチチチ・・・」
四肢を痙攣させ大の字に倒れた刀傷男を見下ろしながら、ホッと息を吐き呟くモーヴィ。その右手は相手の鼻がめり込むほど強く殴り付けた為に鬱血し腫れあがり、握っていた朴刀の柄を放そうと掌を広げる事さえ辛いようだったが、その顔は痛みに引き攣りながらもどこか満足そうな表情を浮かべていた。そんなモーヴィに俺の傍らで観戦していたファレナはヒルダやリリスが悪戯を思いついた時の様な顔をしながら、モーヴィに歩み寄ると腫れる右手を無造作に掴み、
「あ~ぁ、これはよく腫れましたねぇ。しかし、相手の顔面を殴り付けた程度でこの様に腫れるとは少々修練が足らないのではありませんか?まぁ、良いでしょう。此度は取り敢えず何とかなったから良うですからね。」
そう言うと視線をモーヴィから後甲板の方へと向けた。俺はファレナの視線と言葉につられて視線を振ると、海賊船の船尾の方に集まり後方に迫っていたレヴィアタン街所属の僚艦に向かって弓矢などを放ち抵抗をていた海賊たちは、モーヴィと共に乗り込んできた海兵と僚艦からの弓矢や投槍による挟撃によって多くの者が手傷負い、武器を捨てて投降の意思を示していた。
ファレナに腫れた手を掴まれて、顔を顰めていたモーヴィだったが苦悶の表情をなんとか我慢し、
「よ、よし!投降した者達を拘束して船倉に放り込んでおけ。街に戻ってから一人一人じっくりと締め上げて、本境地は何処か白状させねばならんからな!!
海賊船も曳航するぞ、僚艦にもそう伝え・・」
「ボォン!!」
モーヴィが指示を出していると突然、俺たちの足元から大きな爆発音がしたかと思と、急激に海賊船が傾き出した。
「な、なんだ!? 何が起きたぁ!」
「右舷側壁が破裂して大穴が開き浸水してます!復元の見込み、皆無!!」
「何だとぉ! 総員急いで船に戻れぇ!!」
何が原因なのか分からないが乗っている海賊船の横っ腹に穴が開きそこから海水が入り込んだ為に、急速に傾いているらしかった。俺はモーヴィの指示に従い紫慧達の待つ船に戻ろうとしたのだが、その時に目に飛び込んで来たのが海賊船に接舷するためにファレナが撃ち込んだ錨だった。
この錨をこのまま放置したら、沈む海賊船に巻き込まれて・・・・」
俺は急いで錨の元に走り、食い込んだ甲板から錨を抜こうと引っ張ったのだが、錨は甲板に深く食い込みなかなか抜けなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「全員戻ったかぁ?!」
儂は海賊船に乗り込んだ乗員の安否を確認する為、大きな声をあげた。その声に乗組員たちはお互いの事を確認して行き、先に戻っていた副長が皆を代表して、
「戦闘によって手傷を受けた者達もいますが、乗組員無事全員乗船しています!」
と応え安堵したのも束の間、ファレナ様が撃ち込んだ錨がそのままになっていたために船が沈む海賊船に引かれ始めた。儂は慌てて錨の綱を斬る様に声を上げようとしたその時、
「つ、津田殿!?何をされているのです。はっ早く、早く船に戻りなさい!!」
ファレナ様の悲鳴のような声が木霊した。
その声に促される様にファレナ様の視線の先に目を向けると、そこでは未だ沈みゆく海賊船から戻らず、海賊船の甲板に突き刺さっている錨を外そうとしている鍛冶師殿が・・・
「なっ、何をされておるのだ鍛冶師殿! 突き刺さった錨など鎖を断ち切ってしまえば済む事。錨など捨て置いて早く船に飛び移られよ!!」
と大声で呼びかけた。その声に鍛冶師殿は返事をするように片手を挙げると、甲板の端で立ち止まる。一体何をしてるのだ?とイライラしていると、手に持っていた黒い杖のような物を顔の位置まで上げたかと思うと、一度目を閉じ次の瞬間頭に被っていた頭巾に隠れていた額の目が開くと同時に黒い杖の中から紅蓮に輝く刃が姿を現した。
鍛冶師殿は、まるで火焔を纏ったような刃を軽く一振りしたかと思うと即座に納刀する。
次の瞬間、海賊船と儂らの船を繋いでいた錨の鎖がプツリと切れ、それまで錨によって繋ぎとめられていた海賊船が頼る術が無くなったかの様に、見る見るうちに海の中へと吸い込まれていく。
一方、鍛冶師殿は納刀後鎖が切れるのが分かっていたかのように、その場から跳躍し枷を外れ宙を舞う鎖へと手を伸ばした。
その光景に、これで鍛冶師殿も大丈夫だと安堵した瞬間、鎖へと手を伸ばしている肩に何処からか飛来した矢が突き刺さり、鍛冶師殿の手は鎖を掠め、その身は海へと没してしまった。
「鍛冶師殿~~!」「驍廣~!!」
海に没した鍛冶師殿に呼び掛ける儂の声と重なる様に、鍛冶師殿を呼び掛ける声が響いた。その声は、船倉に居たはずの鍛冶師殿のお連れの女性の声であった。
女性は欄干に駆け寄ると、鍛冶師殿が没した海を見つめ・・鍛冶師殿を助けようとしたのか欄干に足を掛け海に飛び込もうとした。
儂は慌ててその女性を羽交い絞めにし、
「何を考えておるのじゃ! 馬鹿者が!!」
「驍廣が・・驍廣が海に。放してぇ!ボクなら直ぐに助けられるんだからぁ!!」
「何が『ボクなら助けられる』じゃ! 今飛び込んだら、お主まで海に呑み込まれてしまうわ!!
そんな事に成れば鍛冶師殿を捜索する手をお主にまで回さねばならんじゃろうがぁ!」
と言い聞かせたのじゃが、一向に言う事を聞かなんだ。そこにファレナ様が近づいてきていきなり、
「紫慧紗殿、すまぬなぁ。」
そう言うと女性の頸椎に手刀を打ち込んだ。いきなり打ち込まれた手刀に、女性はビクリと体を震わせたかと思うと、クタリと儂の腕の中で気絶してしもうた。
儂はファレナ様の為さり様に非難の視線を送ると、ファレナ様は申し訳なさそうな表情を浮かべられていた。
その後、女性をもう一人の鍛冶師殿のお連れに預け、儂らは沈む海賊船を横目に海に没した鍛冶師殿を探したのだが、ついぞその身を発見することは出来なかった。
ドーファン以下多くの船員が鍛冶師殿の安否を絶望視する中、何故か儂とファレナ様はあの鍛冶師殿が死んだとは思えなかった。
しかし、海賊どもを船倉に詰め込んだままで鍛冶師殿の捜索をする訳にもいかず、ファレナ様と副長に海賊どもの事を任せ、儂は鍛冶師殿の連れである二人の女性・紫慧紗殿とアルディリア殿と共に海賊船を追跡していた僚艦・宗谷虎太良が指揮する船へと移乗して、鍛冶師殿の捜索を続ける事にした。
目指したのは今までの経験から海賊船が沈んだ海域で海に攫われた者が良く流れ着く、海流が集まる島。
人魚族の住まう小島へと儂らは進路をとった。
四肢を痙攣させ大の字に倒れた刀傷男を見下ろしながら、ホッと息を吐き呟くモーヴィ。その右手は相手の鼻がめり込むほど強く殴り付けた為に鬱血し腫れあがり、握っていた朴刀の柄を放そうと掌を広げる事さえ辛いようだったが、その顔は痛みに引き攣りながらもどこか満足そうな表情を浮かべていた。そんなモーヴィに俺の傍らで観戦していたファレナはヒルダやリリスが悪戯を思いついた時の様な顔をしながら、モーヴィに歩み寄ると腫れる右手を無造作に掴み、
「あ~ぁ、これはよく腫れましたねぇ。しかし、相手の顔面を殴り付けた程度でこの様に腫れるとは少々修練が足らないのではありませんか?まぁ、良いでしょう。此度は取り敢えず何とかなったから良うですからね。」
そう言うと視線をモーヴィから後甲板の方へと向けた。俺はファレナの視線と言葉につられて視線を振ると、海賊船の船尾の方に集まり後方に迫っていたレヴィアタン街所属の僚艦に向かって弓矢などを放ち抵抗をていた海賊たちは、モーヴィと共に乗り込んできた海兵と僚艦からの弓矢や投槍による挟撃によって多くの者が手傷負い、武器を捨てて投降の意思を示していた。
ファレナに腫れた手を掴まれて、顔を顰めていたモーヴィだったが苦悶の表情をなんとか我慢し、
「よ、よし!投降した者達を拘束して船倉に放り込んでおけ。街に戻ってから一人一人じっくりと締め上げて、本境地は何処か白状させねばならんからな!!
海賊船も曳航するぞ、僚艦にもそう伝え・・」
「ボォン!!」
モーヴィが指示を出していると突然、俺たちの足元から大きな爆発音がしたかと思と、急激に海賊船が傾き出した。
「な、なんだ!? 何が起きたぁ!」
「右舷側壁が破裂して大穴が開き浸水してます!復元の見込み、皆無!!」
「何だとぉ! 総員急いで船に戻れぇ!!」
何が原因なのか分からないが乗っている海賊船の横っ腹に穴が開きそこから海水が入り込んだ為に、急速に傾いているらしかった。俺はモーヴィの指示に従い紫慧達の待つ船に戻ろうとしたのだが、その時に目に飛び込んで来たのが海賊船に接舷するためにファレナが撃ち込んだ錨だった。
この錨をこのまま放置したら、沈む海賊船に巻き込まれて・・・・」
俺は急いで錨の元に走り、食い込んだ甲板から錨を抜こうと引っ張ったのだが、錨は甲板に深く食い込みなかなか抜けなかった。
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儂は海賊船に乗り込んだ乗員の安否を確認する為、大きな声をあげた。その声に乗組員たちはお互いの事を確認して行き、先に戻っていた副長が皆を代表して、
「戦闘によって手傷を受けた者達もいますが、乗組員無事全員乗船しています!」
と応え安堵したのも束の間、ファレナ様が撃ち込んだ錨がそのままになっていたために船が沈む海賊船に引かれ始めた。儂は慌てて錨の綱を斬る様に声を上げようとしたその時、
「つ、津田殿!?何をされているのです。はっ早く、早く船に戻りなさい!!」
ファレナ様の悲鳴のような声が木霊した。
その声に促される様にファレナ様の視線の先に目を向けると、そこでは未だ沈みゆく海賊船から戻らず、海賊船の甲板に突き刺さっている錨を外そうとしている鍛冶師殿が・・・
「なっ、何をされておるのだ鍛冶師殿! 突き刺さった錨など鎖を断ち切ってしまえば済む事。錨など捨て置いて早く船に飛び移られよ!!」
と大声で呼びかけた。その声に鍛冶師殿は返事をするように片手を挙げると、甲板の端で立ち止まる。一体何をしてるのだ?とイライラしていると、手に持っていた黒い杖のような物を顔の位置まで上げたかと思うと、一度目を閉じ次の瞬間頭に被っていた頭巾に隠れていた額の目が開くと同時に黒い杖の中から紅蓮に輝く刃が姿を現した。
鍛冶師殿は、まるで火焔を纏ったような刃を軽く一振りしたかと思うと即座に納刀する。
次の瞬間、海賊船と儂らの船を繋いでいた錨の鎖がプツリと切れ、それまで錨によって繋ぎとめられていた海賊船が頼る術が無くなったかの様に、見る見るうちに海の中へと吸い込まれていく。
一方、鍛冶師殿は納刀後鎖が切れるのが分かっていたかのように、その場から跳躍し枷を外れ宙を舞う鎖へと手を伸ばした。
その光景に、これで鍛冶師殿も大丈夫だと安堵した瞬間、鎖へと手を伸ばしている肩に何処からか飛来した矢が突き刺さり、鍛冶師殿の手は鎖を掠め、その身は海へと没してしまった。
「鍛冶師殿~~!」「驍廣~!!」
海に没した鍛冶師殿に呼び掛ける儂の声と重なる様に、鍛冶師殿を呼び掛ける声が響いた。その声は、船倉に居たはずの鍛冶師殿のお連れの女性の声であった。
女性は欄干に駆け寄ると、鍛冶師殿が没した海を見つめ・・鍛冶師殿を助けようとしたのか欄干に足を掛け海に飛び込もうとした。
儂は慌ててその女性を羽交い絞めにし、
「何を考えておるのじゃ! 馬鹿者が!!」
「驍廣が・・驍廣が海に。放してぇ!ボクなら直ぐに助けられるんだからぁ!!」
「何が『ボクなら助けられる』じゃ! 今飛び込んだら、お主まで海に呑み込まれてしまうわ!!
そんな事に成れば鍛冶師殿を捜索する手をお主にまで回さねばならんじゃろうがぁ!」
と言い聞かせたのじゃが、一向に言う事を聞かなんだ。そこにファレナ様が近づいてきていきなり、
「紫慧紗殿、すまぬなぁ。」
そう言うと女性の頸椎に手刀を打ち込んだ。いきなり打ち込まれた手刀に、女性はビクリと体を震わせたかと思うと、クタリと儂の腕の中で気絶してしもうた。
儂はファレナ様の為さり様に非難の視線を送ると、ファレナ様は申し訳なさそうな表情を浮かべられていた。
その後、女性をもう一人の鍛冶師殿のお連れに預け、儂らは沈む海賊船を横目に海に没した鍛冶師殿を探したのだが、ついぞその身を発見することは出来なかった。
ドーファン以下多くの船員が鍛冶師殿の安否を絶望視する中、何故か儂とファレナ様はあの鍛冶師殿が死んだとは思えなかった。
しかし、海賊どもを船倉に詰め込んだままで鍛冶師殿の捜索をする訳にもいかず、ファレナ様と副長に海賊どもの事を任せ、儂は鍛冶師殿の連れである二人の女性・紫慧紗殿とアルディリア殿と共に海賊船を追跡していた僚艦・宗谷虎太良が指揮する船へと移乗して、鍛冶師殿の捜索を続ける事にした。
目指したのは今までの経験から海賊船が沈んだ海域で海に攫われた者が良く流れ着く、海流が集まる島。
人魚族の住まう小島へと儂らは進路をとった。
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