鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百弐拾九話 駄作を鍛えて反省していますが何か!

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すいません。年度初めの会合や春祭りの準備などで忙しくて短いです。

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 人魚族の島に流れ着き、その後にゴタゴタがあったものの俺は迎えが来るまでの間、島の村にある鍛冶小屋の主・ボルコスの元で鎚を振る事になった。
 村の鍛冶小屋は、村で扱う刃物から武具まで金属鋼で作られる物は何でも手掛ける『野鍛冶』だが、その分様々な注文に対応しなければならない為、俺にとっては実に面白い仕事場となっていた。
そんな中でも、俺が一番興味をそそられたのは村を守る『守手衆』が手にするトライデントだった。
トライデントは元々魚を突く銛から発展した武具で、その最大の特徴はその名の由来ともなった鋭く尖った三又の穂先だった。
俺は初め三又に分かれていればそれで良いとばかり思っていたのだが・・・

「違う違う!そうではない、この村の人魚族が使うトライデントは水中での使用も念頭に鍛えねばならん。水の中では地上で長柄の武具を扱うような薙ぎ払いなどは水の抵抗を受けてどんなに力が強い者であっても満足に振るう事など出来ん。
だから、人魚族は水中で扱う場合『刺突』に運用が制限されるのだ。その辺を考慮しトライデントを鍛えねば使い物にはならんぞ。」

俺が鍛えたトライデントもどき・・・を見たボルコスからダメ出しが出てしまった。
トライデントもどきは、ボルコスが鍛え、守手衆が好んで使うトライデントよりも穂先が太く刺突だけでなく薙ぎ払いや打ち払いなど様々な運用が出来る長柄武具だったのだが、どうやら俺は水中で使うという事がどういう事なのかを深く考えずに武具を鍛えてしまったようだ。

「う~ん・・・地上と水中ではかなり勝手が違うからねぇ。昔、ボルコスさんも同じような失敗をしたって聞いた事があるから、こればっかりは実際に体験してもらうか、そう言うもんだと諦めてもらうしかない事なんだろうね。」

ダメ出しをされてトライデントもどきの三つ又槍を落胆した表情で見つめる俺に、そう優しく慰めてくれたのは、スフォルツに代わり新たに守手長に抜擢されたアコルデだった。
今回俺が鍛えたトライデントもどきは、新たに守手長になったアコルデが守手長の大役就任を機に長年使っていたトライデントを新調するという事で依頼されたものだった。

「・・・水の抵抗か。確かにその事はすっかり抜け落ちていたなぁ。
すまない、アコルデ殿。俺の考えが足らなかったようだ、もう一度一から鍛え直すからもう少し時間を貰えないか?」

俺は自分の失態を素直に謝りつつ鍛え直したいと告げると、アコルデは残念そうに苦笑を浮かべた。

「・・そうですね。出来れば三日後の守手長の任命式に間に合えば嬉しかったんだけど、仕方ないかなぁ。分かったよ、それじゃ頼んだね。」

そう言うと軽く手を挙げて鍛冶小屋を出て行った。その後ろ姿は少し肩が落ち、落胆させてしまったようだった。俺はアコルデの後ろ姿をいつまでも目で追っていたが、そんな俺の背中に衝撃が走った。

「『バッシーン』これ!そんな情けない面を浮かべておるな。初めて手掛ける武具を依頼して来て守手長の任命式までになどと考えるアコルデも考えが足らんのだ。お互い様なのだから気にするな!」

厚いボルコスの平手が叱咤する言葉と共に大きな音を立てて俺の背中に炸裂した。

「うぐぅ・・・ボルコス、謂わんとする事は分かるが、そんなに力一杯張り手をしないでも・・・」

背中に受けた衝撃に思わず涙目になるのをグッと我慢して抗議の言葉を口にしたが、ボルコスは豪快に笑い飛ばす。

「がっはっはっは! 活を入れてやったんだ、ありがたいと思え!!
それで、どうするつもりだ?先ほどの様子だと、言葉だけではまだシックリときていないのではないか?」

俺はボルコスの言葉に頷き、

「そうだな・・・やはり実際にトライデントを揮っている所を見て判断したいところだな。
その上で、何か良い方法が無いか俺なりに模索したいところではあるが・・・」

そう口にすると、ボルコスも大きく頷き

「まぁ、職人が他人の言葉を鵜呑みにしていては良い物は作れんからな。試したい事があるならやってみるが良い。フォルテに相談すれば良い様に取り計らてくれるだろう。」

と、俺の意向に賛同してくれた。
俺はボルコスに礼を言って鍛えたトライデントもどきを片手に鍛冶小屋を出て、フォルテが居る族長フィナレの元へと向かった。
スフォルツの件の後、フィナレは族長の地位から自ら退こうとしたが、ボルコスやフォルテに諌められて族長からの退位は思い止まったものの、自らに蟄居を科して家の奥へと引き籠ってしまい、族長としての指示は事情を知るフォルテを経由して出すようになっていたため、フォルテは問題が発生した時には即座に族長の指示をあおげるように族長の家に詰める様になっていた。

村の集落の中心に立つ族長の家に向かい、中に入ろうと声を掛けようと戸口に立った時、中からフォルテの声が聞こえてきた。

「アコルデ、もう一度言って見なさい!津田さんを鍛冶師モドキなんて、失礼にも程がある!撤回しなさい!!」」

戸口の外にまで響く声に、俺は扉に掛けた手を止め耳を澄ませた。

「フォルテさん・・何をそんなにムキになっているんですかぁ?
大体、スフォルツさんが島から追放されてあんな鍛冶師モドキが居座るなんて可笑しいんですよ。今ならまだ間に合います、族長に考え直すように伝えて下さいよ。」

「『今ならまだ間に合う』とはどういう事ですか?スフォルツの追放は三日も前に布告されたことではありませんか。・・まさか!?まだ履行されていないのですか!」

アコルデの言葉に絶句しつつも詰問の言葉を発したフォルテにアコルデは臆することなく、

「まぁ、一応は履行されてますよ。取り敢えずこの島の外に出て行ってもらってますが、直ぐ連絡が取れるようにしてあるだけです。
そもそも、今回の族長の判断は真っ当な判断だと言えるんですか?あんなどこの馬の骨とも分からない奴を優遇して、これまで守手長として務めを果たしてきたスフォルツさんが島からの追放なんて。オレだけでなく今回の族長の判断に異を唱える者は大勢いるんですよ。
それでも、話の通りにまともな武具を鍛えられるならまだしも、トライデントを頼んでみれば、鍛えたのはガラクタだし・・」

と、先ほどみせたトライデントもどきについて酷評する声が。俺は言われても仕方ないと苦笑しながら、扉をノックして

「あの~ぉ、フォルテさんは居ますか?」

と声を掛けると、中からバタバタと慌てているような物音がしたと思ったら、

「はい! 津田さんでしょうか?居ますよどうぞお入りください。」

というフォルテの声がしたと思ったら、「ちょ、ちょっとフォルテさん・・・」とアコルデの困惑する声が漏れて来た。俺は取り敢えず聞いていないふりをして扉を開け中に入り、フォルテとアコルデを視界に捉えると

「フォルテさん、あれ?アコルデさんも居たんですか。なら丁度いいお二人にちょっと相談がありまして・・・」

声を掛けながら二人の様子を窺うと、フォルテは特に変わった所は無かったが、アコルデは少し表情を引き攣らせていた。

「実は、アコルデさんからトライデントを注文してもらったのに、人魚族の人達がトライデントをどんな風に使っているのか知らないで鍛えてしまったので、使い物にならないこんな物を鍛えてしまったんです。それで、実際にどのようにトライデントを扱っているのか実際に見せてもらいたいと思っているんだけど、お願いできませんか?」

持っていたトライデントもどきを見せながらそう言うと、

「見ただけで使い物になるトライデントが鍛えられるとでも?そんな事が可能なら、鍛冶師なんて誰だって出来るんじゃないのかい。」

俺の言葉に、小馬鹿にしたような言葉を口にしながら睨み付けて来るアコルデ。だが、俺はアコルデの言葉に反論することなく黙ったままジッと二人を見つめていると、アコルデは反応を示さない俺につまらなそうに鼻で笑い、

「ふっ! まぁ良いか、好きなようにすれば良いよ後はフォルテさんに任せるから・・・だけど、色々と便宜を図ってもらったにも拘らず不出来な物しか出来なかったら二度と鍛冶師なんて名乗らない事だね。他の本物の鍛冶師に失礼だからね!」

そう言うとアコルデはさっさと出ていってしまった。後に残されたフォルテは、アコルデを戸口まで追って行ったが直ぐに戻って来て

「ごめんなさい。アコルデが失礼な物言いを・・・」

と頭を下げて来た。俺は慌てて、

「そんなぁ! フォルテさんが頭を下げる事なんてないです。悪いのは俺なんですから。
折角注文をしてくれたのに、意に沿わないような物を鍛えてしまって。いつもはちゃんと注文してくれた人の使い方や力量を確認してから鍛冶仕事を始めるのに、今回はそれを怠ってしまって。
幾ら久しぶりに鍛冶仕事が出来るからと浮かれていたとはいえ、我ながら情けなくなります。」

そう言って、フォルテに頭を下げる俺にフォルテは困ったような表情を浮かべたが、直ぐに気を取り直して、

「分かりました津田さん。トライデントを使っている所を見せる様に守手衆に話をしましょう。しっかりと確認をして、今度は文句を言われないような物を鍛え上げて下さい。では早速行きましょう、ついて来てください!」

そう言って笑顔を浮かべ歩き出すフォルテ。俺はそんな彼女の後ろをトライデントもどきを持ってついて行った。



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