グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第四章 新たな一歩

101 ミコト解決

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 「我の考え、か。その前に1つ、うぬに訂正しておくことがあるのじゃ」

 「?」

 「うぬは先程、我が理由を聞きたがる理由を『予言者になるという覚悟を決めるために、みんなのルーツを聞いて、背中を押してほしい……?』と言っておったじゃろ。
 残念じゃが、あれには少しだけ間違いがある」

 「え゙」

 え゙。まじか。
 間違ってたの? 俺、小さい子の考えはわかりやすいとか内心ドヤってたのに?

 「我は本当は、既に覚悟は決めておるのじゃ。予言者になるという覚悟を」

 「えっ、そうだったの!?
 じゃあ、なんで……」

 「不安だったのじゃ。
 大きな役目、その役目に相応しい程の理由を我は持っておらなんだ。
 そんな我が、本当に予言者としてやっていけるのか。その答えが知りたかったのじゃ」

 「…………」

 俺は少し、この子を甘く見ていたのかもしれない。
 この歳で自分の役目を理解し、そう生きるための覚悟を決められているだけでなく、自分がその役目として相応しいのかどうかまで考えられている。
 既に充分なまでに立派だ。

 「そして我はうぬらに興味を持った。
 宇宙に来て戦っておることではない。うぬらは地球でもトップクラスのプレイヤーだと聞いている。そんなうぬらがどういった理由でサッカー選手になろうと考えたのか知りたくなったのじゃ。
 我の理由と、何か共通している点があってほしいと願って」

 そうだったのか。
 だとしたら、まあなんというか運が悪かったな。尖った答えを返すメンバーが揃っていたし。
 普通の答えを返してくれそうなザシャやクレにはちょうど会えなかったし。

 俺とファクタは……答えるのが遅くなってしまったしな。

 「正直、我の理由とは異なる理由が多く、挫けそうになっておった。
 じゃが、うぬらの答えは違った」

 「ミコト様も、予言者という役目を好いておられたのですか……?」

 「ふむ……正確には、好きとは少し異なっておるがの。
 我は、予言をした後の、民衆の安堵する姿、民衆の喜ぶ姿を見るのが好きじゃった。
 そして、予言をすることで大勢の民を笑顔にし、その役目を誇りを持って果たしておる母もまた好きじゃった。
 そんな民衆と母の関係を見ておると、心がポカポカしてきたのじゃ」

 「…………」

 「じゃが、我には母のように毅然と振る舞えるほどの誇りは持てておらん。
 我が予言者になりたいと決めた理由は、我の力で民衆を笑顔にし、そして我の心をポカポカさせたい。これだけじゃ。
 重要な役目を果たすには浅い理由なのか……悩んでおった」

 「そんなこと――」
 「わかっておる。うぬらの話を……いや、今回聞いた全ての者の話を聞いて理解した。
 何かを始めるのに、理由の浅い深いなんて関係ないということを。始めたいと思った、そのこと自体が大切なことなのじゃろう?」

 俺は黙って頷く。
 賢い子だ。まだ9歳だと聞いていたが、とてもそうは思えない。
 この子なら、予言者としても立派にやっていけるだろう。

 「ミコト様……ご立派になられて……」

 隣で感動しているファクタ。
 これにて、今回の一件は落着かな。

 「突然押しかけて悪かったの。
 お礼と言ってはなんじゃが、あの小娘、未来といったか。あやつの面倒は我らに任せておれ。責任を持って修行させてやるわ」

 「そんなことまで……ありがとうございます」

 「それで……あの……」

 「? どうかされました?」

 「良ければ、じゃが、少しの間でいいから、我と共に出かけてくれぬかの。
 うぬらが忙しいのはわかってるおる! 故に、時間のある者だけで構わないのじゃが、その……我にとってエリラの外に出る機会は貴重じゃから……」

 「恐れ多いですが、そういうことなら是非!
 いいよね!? キャプテン!」

 「うぇ、えっと……」

 正直試合2日前ということを考えたらもう一度練習に戻りたい気持ちもあったが、今は未知の力を発現させるために特別なことをすることも必要だしな。
 それに、今回のミコトちゃんの一件で新たに気付かされたこともある。

 「そうだな、せっかくだし少し出かけようか」

 「……真か! やったっ」

 「喜ぶ姿は年相応の子どもだな」

 「なっ、べ、別に喜んでなどおらぬわ! 無礼者!」

 こうして、ミコトちゃんと俺たち数人の同行者とでのオグレス巡りが1時間程行われた。
 ミコトちゃんの行きたい場所へとワープさせてくれたフィロさんも影の功労者だ。

 そしてまた宿舎へと戻ってきた現在、突如ミコトちゃんの身体が紫に光り始め……

 「ちょうど3時間。そろそろ時間のようじゃ」

 「時間……?」

 「うぬらも不思議に思わなんだか? いくら予言者が貴重な存在とはいえ、能力を持つものは子のうち1人。我のように役目に乗り気でないものもおったじゃろう。じゃが、最終的には全員が予言者として大成し、子を産み、次の世代へと能力を繋いでおる」

 確かにな。手厚く保護されているとはいえ、確実ではない。これが数年ではなく数百年続いているのだ。何かあると考えた方が自然か。

 「その答えがこれじゃ。
 エリラの呪い」

 「呪い?」

 「大昔、この星が宗教星だったというのはうぬらも知っておるじゃろう。
 宗教……人の祈りの力というのは恐ろしいものでな、時には人知を超えた力まで生み出してしまいおる。
 生まれ落ちた奇跡の子。受け継がれる力。大昔のオグレスの民はこの力の消失を恐れた。そして祈った。その結果生まれたのがこの呪い『力が目覚めるまでの予言者をミロク・エリラに閉じ込める』」

 「力が目覚めるまで……閉じ込める……」

 「あれ? でもミコト様この間の試合は見に来ておられましたよね?
 外に出られるのは時間制限があるということですか?」

 「そうじゃ。
 3時間。これを超えるとエリラへと強制送還される」

 「そんな……」

 「じゃが勘違いするでないぞ。我が予言者になる覚悟を決めたのは、この呪いがあるからなどではない。自分の意思じゃ。
 我の心に生まれた、予言者になりたいという気持ち。これは、何に影響を受けたものでもない。目で見て、感じた、偽りなき我の本心じゃ」

 なるほど。本当に強い子だ。

 「ミコトちゃんなら、絶対に立派な予言者になれると思う」

 「そうか……」

 驚き、そして笑顔になるミコトちゃん。すると、ミコトちゃんの体がこれまで以上に強く輝き出す。もう戻ってしまうということだろうか。

 「そろそろ、じゃな。
 久々の外出は至福の時じゃった。
 予てからの悩みも解決し、今のオグレスも満喫することができた。
 うぬらには本当にかん――」
 「待って!」

 背後から声。その正体は……

 「ネイト!? お前もう今日の特訓終わったのか!?」

 「う、うん。でも今はそんなことより……ミコトちゃん! 結局君の考えはどうなったの?」

 「ネイトよ。大丈夫じゃ。我の考えは間違っておらなんだ。
 だから、きっとうぬだって間違ってはおらぬ。
 大丈夫じゃ。
 次の試合は応援しておる」

 その言葉を聞き、涙を流すネイト。
 2人の関係性については俺たちもよく知らない。
 おそらくネイトが宿舎を出ていってから出会ったのだろうが、何か共通の悩みを持っていたのだろう。ミコトちゃんの言葉的に、ネイトのサッカーを始めた理由はおそらく……。

 俺たちでも解決できなかったネイトの悩み。その解決のトリガーとなるのがミコトちゃんとは。ほんと、何があるのかわからないな。

 すると、ネイトが俺の方を向く。その目は今までに見たことのない、決意の籠った目。その目に対し、俺も逸らすことなく真正面から向き合う。

 「キャプテン、僕、出るよ。
 次の試合。もう逃げない」

 「ああ、頑張ろう。ネイト」

 俺たちのやり取りを聞き届け。満足したかのように、ミコトちゃんは消えていったのだった。
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