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第3話

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「SSCⅡテンダネス……ここでもテンダネス? って何だ?」
「ここでいうテンダネスは有機・無機、更には量子コンピュータまでをも結集させて作られた未来予測装置とまでいわれる大容量特殊戦略コンだよ。中央情報局の地下十階に埋まってる。……ここでもっていうか、もしかしたらさっきのクラッキングも彼女の悪戯なのかも知れない」
「コンピュータが勝手に悪戯だって?」
「ありえない話じゃないんだよ。デュアルシステムとして開発されたSSC初号機のグローリアは世を儚んで自殺したくらいなんだから」

 大真面目に言うハイファにシドは呆れた。

「コンピュータが自殺? 何だそれ?」
「そのくらい自律思考する能力を持ってるってこと。そして彼女らを開発したチームの長が、確かオイゲン=ワトソン博士だったと思う」
「ふうん。で、ペルセフォネ号って?」
「何だっけ、何処かで聞いたような気が……」

 と、リモータを操作し別室戦術コンから指令と共に流されてきた資料を開いた。アプリの十四インチホロスクリーンを立ち上げて表示させる。

「宙艦、それも豪華旅客艦だね。明日の晩にタイタン第一宙港から出港だってサ」
「テラ連邦内の各星系を巡る豪華旅客艦百日クルーズ……はあ、百日ぃ?」
「別に僕らに百日乗ってろなんて言ってないじゃない。テンダネスのソースコードを入手したら、最寄りの惑星で降りればいいんだから」
「あ、そうか。ヴィンティス課長をそんなに喜ばせるのかと思って焦ったぜ」
「たまには課長の胃袋にも休暇をあげなくちゃ、いい加減に穴が開くよ。不健康なまでに低血圧だって噂だし。それにしても貴方、制服が間に合って良かったね」

 何も知らないシドは手にしたガーメントバッグを持ち上げて眺める。

「こいつを着て行くのか?」
「任務は護衛だし特に隠蔽カヴァーしろって書かれてないからいいでしょ。それにこういう豪華旅客艦にはドレスコードがあるから。食事は朝・昼・お茶・夕食・夜食の五回」
「そんなに食うのかよ?」
「食べる食べないは勝手だけどそういう決まり。社交の場だよ。普段着でいいのは夕方までかカジュアルナイトの指定があるときのみ。夜は殆どフォーマルで他にウェルカムディナーとかフェアウェルパーティー、催し物のときも同じ。そのたびにディレクターズスーツとかタキシードを貴方が着たいって言うなら止めないけどね」

 天井を仰いでシドはひとこと。

「そいつは勘弁だ」
「でしょ? 僕は貴方のビシッとキメた姿を見るのも愉しみだけど、やっぱり何日掛かるか分からない任務だし、いつでも何処でも通用する制服が執銃にも便利だしね」

 タキシードなど着た日には、ハイファのように左脇に吊るショルダーホルスタならともかくシドのような右腰のヒップホルスタは下げられない。

「まあ、宙艦内で発砲するような事態には普通ならないと思うけど」

 宇宙線が金属を透過する際に変容して人体に害を与えるのを防ぐため、宙艦の外殻は意外と薄いが実情なのだ。まともな脳ミソの持ち主なら宙艦内で銃をぶっ放すことは避けるだろう。

「しかしお前、詳しいのな」
「任務で潜入したこともあるしファサルートの跡継ぎとして、それなりにね」

 ハイファはテラ連邦でも有数の企業ファサルートコーポレーション、通称FC会長の御曹司でもあった。ファサルートは血族の結束を重んじる企業でありハイファも名ばかりとはいえ、今現在も代表取締役専務などという肩書きを背負わされている。

「ふうん。それでオイゲン博士とやらを懐柔して、ソースコードとやらを分捕ると」
「オイゲン=ワトソン博士、テラ標準歴で八十二歳だって」
「そんなに爺さんな訳でもないんだろうが、これは……」

 現代のテラ人の平均寿命は百三十歳前後といわれている。だが資料に付属しているポラの人物は結構な歳、どころかもう余命いくばくもない人間のように見えた。

「それもその筈だね。このペルセフォネ号は名前の通り冥府の女神って訳だよ」
「どういう……何だ、『ホスピス艦』?」
「ペルセフォネ号のパンフレットが付いてる。『貴方の来世を汎銀河の星々で探す旅・心安らかな最期をサポート致します』だってサ」
「じゃあ死にかけた爺さん婆さんばっかり乗ってるのかよ? 辛気くせぇーっ!」

 言うぞ、言うぞと思っていた通りのシドの科白にハイファは苦笑いだ。

「とってもストレートなご感想をどうも。まあ、平均年齢は高そうだよね」
「ならこのオイゲン=ワトソン博士も病気か何かで死にかけてるってことか?」

 頷いたハイファが諸手を挙げる。

「余命は三ヶ月、テンダネスのご機嫌も麗しからずで、中央情報局も焦ってるってことだね。早くソースコードを手に入れて『デイジーデイジーの歌』を聴かせてやらないと、彼女が暴走した日にはこのセントラルエリアだけじゃなく、テラ連邦全てのコンピュータネットワークが破壊されるよ」
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