forget me not~Barter.19~

志賀雅基

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第23話

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 滑走路に停まったビジネスジェットから降りようとして霧島は仰け反った。出迎えてくれたのは辺りが煙って見えるほどの大雨だったからだ。
 幸いジェット機は動きを止めたまま霧島たちを追い出そうとはしなかったが、いつまでも留まっている訳にもいかない。

「雪の次は雨ときたか」
「ちょっとこれはすごいですね」
「びしょ濡れになるのも困るし……どうしようか」

 だが背後に並んでいるザックを担いだ四人の客のうち、若い男が声を掛けてきた。

「今は雨季ですからね。でも心配要りませんよ、このスコールはすぐ止みますから」

 どうやらここアールは初めてではないらしい。
 彼らに倣って五分ほどタラップドアの出入り口に留まっていると監視局の人間らしい作業服にキャップを被った男が大型トラックを運転してきて窓から「乗れ」と合図した。

 多少は濡れたが仕方がない。大型トラックの屋根のある荷台に収まって監視局兼研究所へと運ばれる。走行するトラックの後部から京哉が外を眺めると、遠くで重く垂れ込めた雨雲が雷の閃光で地と繋がれるのが見えた。

 たった数分で監視局兼研究所のビルに辿り着く。車寄せにも屋根があり、濡れずに済んで幸いと京哉は思っていたが、トラックから全員が降りると同時に雨はピタリと止んだ。振り仰ぐと雲間から太陽が燦々と光を降らせ、途端にむっとした蒸し暑さを感じる。

「あっ、虹が出てますよ。それも二重になってる」
「えっ、何処……ああ、すごく綺麗!」

 京哉と瑞樹の弾んだ声で霧島が振り返ると、なるほど広大な大地には完璧な形の七色の架け橋が二段になって架かっていた。暫しその場の皆で虹に見入る。
 それも徐々に空に溶け始め、頃合いを見計らってキャップの男が皆を促した。

「そろそろいいか? ついてきてくれ」

 ビルに入るとそこはエアコンが利いた文明の風で満たされていた。
 まずはロビーの受付に並んでそれぞれがパークレンジャーの証明書を見せ、氏名とIDを登録する。次に環境税なる名目で一人五百ドルを支払った。これで監視局内外の施設が使えるらしかった。なるほど自然を満喫するにも経済力が必要らしいと霧島は思う。

 カネを払うと綺麗に化粧した制服の女性係員に案内され、全員エレベーターに乗せられた。押したボタンは十二階、表示からこのビルが二十二階建てだというのを霧島は知る。十二階でつれて行かれたのは、ブラインドが下ろされた会議室のような部屋だった。

 パソコン付き長机の間のパイプ椅子に腰掛けるなり、挨拶もなくごくシステマチックに前方の天井から下がった大型TV画面に施設案内の映像が流れ始める。

 映像に依ればビルの一階から二階が事務所、三階から十階までが研究所、十一階から十五階が監視局で十六階から二十二階までが関係者の住居兼来訪者の宿泊所ということだった。
 数階おきにある医務室は自由に利用できるが、車両などの使用料が別料金というのは我らが資本主義のシブいところである。動物のモニタ機器も同様だ。

 そのあと五月蠅く注意事項などが流れるかと思えばそうでもなく、あっさりと映像は消えてブラインドが上げられた。基本はパークレンジャーなら心得ているということなのだろう。そこで女性係員が笑顔を作るでもなく口を開いた。

「各出張所の宿泊施設は零時まで、このビル二十二階宿泊所は終日受け付けております。車両やヘリ、機器類をご利用になる方はこの場で申し出て下さい」

 これには京哉と瑞樹が席を立って利用申請し、カードで料金を支払う。
 戻ってきた瑞樹と京哉がヘリの始動キィを霧島に見せているとドアからキャップの男が入ってきた。キャップから覗いた髪は茶、瞳はヘイゼルで先程まで持っていなかったライフルをスリングで担いでいる。そのまま前に立つと通る声で喋り始めた。

「聞いてくれ。アール島ではここ暫く、動物の毛皮や牙、角や羽根などを目当てに密猟者が横行している。奴らは武装していて非常に危険だ。先日もパーティーの一人が撃たれ重傷を負った。奴らを見かけたら速やかに退避し監視局に連絡をして欲しい」

 パークレンジャーの一人が手を挙げる。

「それって空港で食い止められないんでしょうか?」
「奴らはアール島付近まで船舶で移動、毎回違うポイントから上陸しているとみられる。このアール島付近にはレーダー基地もなく捕捉が難しい状態だ。他に質問は?」

 撃たれたなどと穏やかでない話に皆がしんと静まり返っていた。

「では、くれぐれも気を付けてくれ。以上だ」

 男が去ると何となくホッとした空気が流れる。やはり目の前で銃を見せつけられると、普通の人間は落ち着かないらしい。

「本国のユラルト王国の首都タブリズへは休暇の人員用のビジネスジェットが出るので、予定はお問い合わせ下さい。それではこれで解散とします」

 素っ気なく言うと女性係員はパイプ椅子のひとつに腰掛けてパソコンを起動、キィボードを叩いて入力作業を始めた。本物のパークレンジャー四名は会議室の外に出て行く。
 一連の話を京哉に通訳していた霧島は、何気なく窓から外を眺めた。
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