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第25話
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買ってきた何かの肉の唐揚げ弁当を操縦しながら器用に食しつつ、京哉は振り返り霧島と瑞樹を見比べる。こちらもトンカツ弁当らしきものを食いながら霧島は肩を竦めた。
「もう寄り道はパス、燃料が足りなくなります。本当に夜の生け捕り作戦ですか?」
「夜行性の猛獣の飯にはされたくないな」
「今ならアーヴィンの動きも止まってるけど」
名づけるならミックスフライ弁当といったものを手際よく片づけながら、瑞樹はモニタ機器を指してから窓外に目を向けた。漆黒の夜空に五月蠅く感じるほどの星が輝き、巨大な三日月が猫の目のような金色で地上を照らしている。
京哉と霧島は主導権を握ったも同然の瑞樹を見つめ、瑞樹は多少心細さを感じたようで霧島を見つめ返した。見られた霧島は弁当をライスの一粒まで綺麗にさらえてから言う。
「低空・低速でラティス湖畔まで進入。生け捕れる状況かどうか偵察行動に移れ」
「アイ・サー」
「食ってからでいい」
「ラジャー」
モニタ機器と小型ヘリのレーダー装置はリンクさせてある。京哉はプラスチックのフォークを持った右手でアーヴィンを示す輝点を小さなディスプレイに表示させた。
焦ることなく食べ終えて手を合わせると、吸い殻パック片手に咥え煙草だ。吸い終えると霧島が紙コップを配給する。ストローの刺さったそれは紅茶だった。生温いそれをひとくち飲んで霧島に返し、それまで瑞樹に保持させていた操縦桿を取り戻して宣言する。
「現在地ラティス湖畔上空、只今より偵察行動に移る。前照灯、俯角六十度。ビーパターンにて降下。総員、下方に注意を向けよ」
慣れないナイトフライト故、京哉は対地接近警報装置が三十メートルを切れば警告音が鳴るようセットした。蜜蜂のように8の字を描きながら慎重に降下してゆく。
「うー、やっぱり無理っぽい気が。このヘリのダウンウォッシュで鳥は逃げますよ」
「確かにこれだけの騒音に強風だ、蹴散らしているようなものかも知れんな」
「でもまだアーヴィンは捕捉できてるし、何とか降りられないかな?」
GPWSの警告音が鳴った。耳障りなそれを京哉は二十メートルにセットし直す。だが衝突防止装置がいきなり作動した。
急激に上昇させたりはせず、機を滞空させたまま全員で窓外をチェックすると、二十メートルと離れていない湖畔に高さが十五、六メートルはあろうかという大木が数本生えていた。
それらを窓から肉眼で確認しながら霧島は京哉に提案する。
「京哉、無理するな。それより近場で着陸できるポイントを探した方がいい」
「歩いてここまでこられるランディングポイント、結構難しいかも」
僅かに高度を取って下方を前照灯で照らしつつ月明かりにも頼って全員で地上を舐めるように見つめ続ける。何度も旋回したのちにやっと平らな原っぱを探し当てた。
「湖畔まで約二キロはあるけど、目視が利かない今はここしかないですね」
「サバンナでは分からんが、通常なら歩いて三十分か。仕方あるまい」
「じゃあ降りますよ。いきなりお腹を空かせた猛獣に出くわさないことを祈って」
平原にランディングするのは容易だった。難なくスキッドを接地させ京哉はターボシャフトエンジンを停止させる。まさか泥棒はいないだろうが、一応ヘリの始動キィは抜いて京哉が持った。真っ先に霧島が降機しショルダーバッグを担いだ京哉とアーヴィンのモニタ機器を手にした瑞樹が続いた。全員フラッシュライトも手にしている。
外は虫の音で満ちていた。三人の気配にも負けず高く低く耳鳴りのように途切れなく聞こえていて、それは生命に満ち溢れたこの大地を象徴しているようでもあった。
「こうしてみると意外に明るいよね」
「三日月なのに変身できそうな気分ですね」
「だがこれだけ虫が五月蠅いと気配も読みづらいな」
危険を察知しづらい状況だった。ちゃんと見えてはいても高度文明圏の申し子たちは緊張感からフラッシュライトを最大レンジにして辺りを照らす。瑞樹が機器を見ながら指差した。
「あの林の方向に真っ直ぐだよ」
五十メートルほどの平原を三人は横並びで歩いた。灌木の林になると自然と霧島が先頭になる。瑞樹を真ん中に挟んで進んだ。林といっても木々はまばらな上に身長よりも高い位置にしか葉は茂っておらず案外歩きやすい。
ただ虫の音に加えて夜行性の鳥の鳴き声が混じり、時折動物の悲鳴のような声までがして霧島ですらギョッとさせられる。
「頼むから私を捕食するようなのは勘弁してくれよ」
「ライオンとかトラとかって、ネコ科だから夜行性ですよね?」
「こういった樹の上にはヒョウやチーターがいるかも知れないな」
「嬉しそうに言うんじゃない」
「忍さんを食べてる間にしっかり観察できるかも知れませんね」
「言っておくけれど、ここでは人より動物の方が存在価値は高いんだからね」
「頭から食い付かれても撃つなと言うのか? ……うわあっ!」
「忍さんっ!」
妙にひんやりとした弾力のあるモノがドサリと降ってきて、思わず二人で銃を向けた。シュルシュルと草の上を這って行くのは体長が五メートル近くある蛇だ。胴回り直径が二十センチはありそうなそれに瑞樹は歓喜の声を上げて駆け寄る。
「すごい、パイソンだ!」
ニシキヘビの冷たい胴体を愛しげに撫でる動物フェチに、霧島と京哉は顔を見合わせて首を振った。パイソンなどリボルバのコルト・パイソンの方が馴染みのある二人には、自分すら呑み込みかねないヘビに向ける愛情など理解不能である。
「もう寄り道はパス、燃料が足りなくなります。本当に夜の生け捕り作戦ですか?」
「夜行性の猛獣の飯にはされたくないな」
「今ならアーヴィンの動きも止まってるけど」
名づけるならミックスフライ弁当といったものを手際よく片づけながら、瑞樹はモニタ機器を指してから窓外に目を向けた。漆黒の夜空に五月蠅く感じるほどの星が輝き、巨大な三日月が猫の目のような金色で地上を照らしている。
京哉と霧島は主導権を握ったも同然の瑞樹を見つめ、瑞樹は多少心細さを感じたようで霧島を見つめ返した。見られた霧島は弁当をライスの一粒まで綺麗にさらえてから言う。
「低空・低速でラティス湖畔まで進入。生け捕れる状況かどうか偵察行動に移れ」
「アイ・サー」
「食ってからでいい」
「ラジャー」
モニタ機器と小型ヘリのレーダー装置はリンクさせてある。京哉はプラスチックのフォークを持った右手でアーヴィンを示す輝点を小さなディスプレイに表示させた。
焦ることなく食べ終えて手を合わせると、吸い殻パック片手に咥え煙草だ。吸い終えると霧島が紙コップを配給する。ストローの刺さったそれは紅茶だった。生温いそれをひとくち飲んで霧島に返し、それまで瑞樹に保持させていた操縦桿を取り戻して宣言する。
「現在地ラティス湖畔上空、只今より偵察行動に移る。前照灯、俯角六十度。ビーパターンにて降下。総員、下方に注意を向けよ」
慣れないナイトフライト故、京哉は対地接近警報装置が三十メートルを切れば警告音が鳴るようセットした。蜜蜂のように8の字を描きながら慎重に降下してゆく。
「うー、やっぱり無理っぽい気が。このヘリのダウンウォッシュで鳥は逃げますよ」
「確かにこれだけの騒音に強風だ、蹴散らしているようなものかも知れんな」
「でもまだアーヴィンは捕捉できてるし、何とか降りられないかな?」
GPWSの警告音が鳴った。耳障りなそれを京哉は二十メートルにセットし直す。だが衝突防止装置がいきなり作動した。
急激に上昇させたりはせず、機を滞空させたまま全員で窓外をチェックすると、二十メートルと離れていない湖畔に高さが十五、六メートルはあろうかという大木が数本生えていた。
それらを窓から肉眼で確認しながら霧島は京哉に提案する。
「京哉、無理するな。それより近場で着陸できるポイントを探した方がいい」
「歩いてここまでこられるランディングポイント、結構難しいかも」
僅かに高度を取って下方を前照灯で照らしつつ月明かりにも頼って全員で地上を舐めるように見つめ続ける。何度も旋回したのちにやっと平らな原っぱを探し当てた。
「湖畔まで約二キロはあるけど、目視が利かない今はここしかないですね」
「サバンナでは分からんが、通常なら歩いて三十分か。仕方あるまい」
「じゃあ降りますよ。いきなりお腹を空かせた猛獣に出くわさないことを祈って」
平原にランディングするのは容易だった。難なくスキッドを接地させ京哉はターボシャフトエンジンを停止させる。まさか泥棒はいないだろうが、一応ヘリの始動キィは抜いて京哉が持った。真っ先に霧島が降機しショルダーバッグを担いだ京哉とアーヴィンのモニタ機器を手にした瑞樹が続いた。全員フラッシュライトも手にしている。
外は虫の音で満ちていた。三人の気配にも負けず高く低く耳鳴りのように途切れなく聞こえていて、それは生命に満ち溢れたこの大地を象徴しているようでもあった。
「こうしてみると意外に明るいよね」
「三日月なのに変身できそうな気分ですね」
「だがこれだけ虫が五月蠅いと気配も読みづらいな」
危険を察知しづらい状況だった。ちゃんと見えてはいても高度文明圏の申し子たちは緊張感からフラッシュライトを最大レンジにして辺りを照らす。瑞樹が機器を見ながら指差した。
「あの林の方向に真っ直ぐだよ」
五十メートルほどの平原を三人は横並びで歩いた。灌木の林になると自然と霧島が先頭になる。瑞樹を真ん中に挟んで進んだ。林といっても木々はまばらな上に身長よりも高い位置にしか葉は茂っておらず案外歩きやすい。
ただ虫の音に加えて夜行性の鳥の鳴き声が混じり、時折動物の悲鳴のような声までがして霧島ですらギョッとさせられる。
「頼むから私を捕食するようなのは勘弁してくれよ」
「ライオンとかトラとかって、ネコ科だから夜行性ですよね?」
「こういった樹の上にはヒョウやチーターがいるかも知れないな」
「嬉しそうに言うんじゃない」
「忍さんを食べてる間にしっかり観察できるかも知れませんね」
「言っておくけれど、ここでは人より動物の方が存在価値は高いんだからね」
「頭から食い付かれても撃つなと言うのか? ……うわあっ!」
「忍さんっ!」
妙にひんやりとした弾力のあるモノがドサリと降ってきて、思わず二人で銃を向けた。シュルシュルと草の上を這って行くのは体長が五メートル近くある蛇だ。胴回り直径が二十センチはありそうなそれに瑞樹は歓喜の声を上げて駆け寄る。
「すごい、パイソンだ!」
ニシキヘビの冷たい胴体を愛しげに撫でる動物フェチに、霧島と京哉は顔を見合わせて首を振った。パイソンなどリボルバのコルト・パイソンの方が馴染みのある二人には、自分すら呑み込みかねないヘビに向ける愛情など理解不能である。
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