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第14話・変人医師の飯代は大概、的を射ている
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医師としてなのか、はたまた多くの星系を渡り歩いてきたからか、それとも単純に変人の発想かは分からないが、マルチェロ医師は当然の如く奇抜な意見を述べた。対してハイファは柳眉をひそめて訊く。
「『罹りに行った』って、自分からってこと?」
首を傾げたハイファに紫煙を吹きかけて医師が笑った。
「おうよ。記憶がぶっ飛ぶ前の加害者は全員、被害者に恨みを持ってたんだろう? 恨みを晴らすための景気づけに、テメェから『罹りに行った』確信犯ってこった」
「けど、例えばTVか何かでサブリミナル的な催眠術がなされた可能性もあるよ?」
「それだけ分母がデカかったら、世の中もっと大変なことになってますって」
「うーん、そっか」
会話を聞きながらシドは咥え煙草でリモータ操作を始めていた。捜査戦術コンの自動更新される情報を検索、事件のマル被に他星系への渡航歴がないかを調べる。だが残念ながら今のところはノーヒットだった。諦めずにリロードし続けていると、新たな情報が入る。
「喧嘩で四人をフクロにしたデューク=ロジャー議員だがな、四人のうちの一人から証言が取れた。四人はロジャー議員の嫁さんと親しくしていて、議員は嫁さんを寝取られたと思い込んでいたらしい。そいつが事実か否かはともかく、議員は四人に恨みがあったってことだな」
上品にコーヒーを啜ってハイファがごく軽く頷いた。
「ふうん。でもまあ、管内でこれ以上の暴行事件が起こらないよう祈るしかないよね」
極めて軽い調子で言ったハイファは、もう事件に飽きたらしい。カップのコーヒーを干して煙草を消したマルチェロ医師も大欠伸して立ち上がる。
「旨いメシをごちそうさん。俺は帰って寝る。おやすみ」
「おやすみなさい」
「先生、おやすみ」
医師を送り出してしまうと、シドはまたリビングのソファに戻ってコーヒーにダバダバとウィスキーを流し込み、ハイファに睨まれているのに気づかぬフリを必死で続けた。だが怖いのでウィスキー瓶に栓をしてサイドボードに仕舞い、カップのコーヒー割りウィスキーをちびちび飲みながら煙草を味わう。
そうしながらも頭から離れないのはマルチェロ医師の言った、『罹りに行った』なる言葉である。
おやつがカタツムリ&イモムシ(生食)の変人だろうと、一度病気を発症したら多くの星系でペルソナ・ノン・グラータとされた真性のサドでも、マルチェロ医師の言葉は時折ヒットを飛ばすのだ。それも事件の最初期段階で。
故にシドは『罹りに行った』が気になっている。
罹るといえば病気だろうが、治れば普通に元通りだ。今回の暴力犯たちが一定期間を経て、己の所業の全てを忘れてしまったように。
真剣に考えこんでいるシドを暫く眺めて堪能したハイファはキッチンで片付け物をしながら、頃合いを見計らってシドに声をかけた。
「ねえ、先にリフレッシャ浴びてくれない? ダートレス回しちゃいたいし」
「んあ、了解」
考え事をしながらでもリフレッシャは浴びられる。シドはバスルームに立った。洗面所の前で服を脱ぐと片端からダートレス――オートクリーニングマシン――に放り込む。バスルームでリフレッシャのスイッチをオンにした。
温かな洗浄液を頭から浴び、黒髪からつま先まで泡立てる。顔まで洗浄液を塗りたくって薄いヒゲも剃った。
熱い湯に切り替えて泡を洗い流しながら、昨夜はハイファと口喧嘩してロクに喋らなかったのを思い出す。朝になって起きたら元通りという犬も食わない何とやらだが、きっかけはシドの過去の女性問題だった。
今頃はハイファも向かいの自室でリフレッシャを浴びているのだろうが、戻ってきて蒸し返されぬよう心せねばと思う。そんな風に考えていたら、ふいに背後から抱きつかれた。
見事に物音も気配も隠されていたのには驚いたが、顔には出さずポーカーフェイスのまま振り向く。
「ハイファ、狭いんだからさ」
「あん、そんなつれないこと言わないで。それとも欲しくないの?」
「大きな子供に何を要求してるんだ?」
涼しい顔で言ってのけたシドをハイファは睨む。互いに冷めにくい土鍋性格だと知っていて、次には笑い出していた。もうシドが拒むことなどできないのも分かっている。背に擦りつけた肌の感触と甘い誘いだけで、シドは躰の中心を半ば成長させていた。
「本当は欲しいクセに」
「当たり前だろ、お前は昨日から触らせてもくれなかったんだからさ」
「だって『指に輪っかくらい嵌め慣れてる』なんて……ショックだったんだもん」
「だーかーら、そこらの露店で売ってるだろ、カップル狙いの安モン」
「それを過去の彼女たちと嵌め慣れてたから、この指輪も……」
「違うって! いや、値段の桁だけの話じゃなくてさ、あああ!」
昨夜と同じ轍を踏みかけてシドは手っ取り早くハイファの口を己の口で塞ぐ。
「『罹りに行った』って、自分からってこと?」
首を傾げたハイファに紫煙を吹きかけて医師が笑った。
「おうよ。記憶がぶっ飛ぶ前の加害者は全員、被害者に恨みを持ってたんだろう? 恨みを晴らすための景気づけに、テメェから『罹りに行った』確信犯ってこった」
「けど、例えばTVか何かでサブリミナル的な催眠術がなされた可能性もあるよ?」
「それだけ分母がデカかったら、世の中もっと大変なことになってますって」
「うーん、そっか」
会話を聞きながらシドは咥え煙草でリモータ操作を始めていた。捜査戦術コンの自動更新される情報を検索、事件のマル被に他星系への渡航歴がないかを調べる。だが残念ながら今のところはノーヒットだった。諦めずにリロードし続けていると、新たな情報が入る。
「喧嘩で四人をフクロにしたデューク=ロジャー議員だがな、四人のうちの一人から証言が取れた。四人はロジャー議員の嫁さんと親しくしていて、議員は嫁さんを寝取られたと思い込んでいたらしい。そいつが事実か否かはともかく、議員は四人に恨みがあったってことだな」
上品にコーヒーを啜ってハイファがごく軽く頷いた。
「ふうん。でもまあ、管内でこれ以上の暴行事件が起こらないよう祈るしかないよね」
極めて軽い調子で言ったハイファは、もう事件に飽きたらしい。カップのコーヒーを干して煙草を消したマルチェロ医師も大欠伸して立ち上がる。
「旨いメシをごちそうさん。俺は帰って寝る。おやすみ」
「おやすみなさい」
「先生、おやすみ」
医師を送り出してしまうと、シドはまたリビングのソファに戻ってコーヒーにダバダバとウィスキーを流し込み、ハイファに睨まれているのに気づかぬフリを必死で続けた。だが怖いのでウィスキー瓶に栓をしてサイドボードに仕舞い、カップのコーヒー割りウィスキーをちびちび飲みながら煙草を味わう。
そうしながらも頭から離れないのはマルチェロ医師の言った、『罹りに行った』なる言葉である。
おやつがカタツムリ&イモムシ(生食)の変人だろうと、一度病気を発症したら多くの星系でペルソナ・ノン・グラータとされた真性のサドでも、マルチェロ医師の言葉は時折ヒットを飛ばすのだ。それも事件の最初期段階で。
故にシドは『罹りに行った』が気になっている。
罹るといえば病気だろうが、治れば普通に元通りだ。今回の暴力犯たちが一定期間を経て、己の所業の全てを忘れてしまったように。
真剣に考えこんでいるシドを暫く眺めて堪能したハイファはキッチンで片付け物をしながら、頃合いを見計らってシドに声をかけた。
「ねえ、先にリフレッシャ浴びてくれない? ダートレス回しちゃいたいし」
「んあ、了解」
考え事をしながらでもリフレッシャは浴びられる。シドはバスルームに立った。洗面所の前で服を脱ぐと片端からダートレス――オートクリーニングマシン――に放り込む。バスルームでリフレッシャのスイッチをオンにした。
温かな洗浄液を頭から浴び、黒髪からつま先まで泡立てる。顔まで洗浄液を塗りたくって薄いヒゲも剃った。
熱い湯に切り替えて泡を洗い流しながら、昨夜はハイファと口喧嘩してロクに喋らなかったのを思い出す。朝になって起きたら元通りという犬も食わない何とやらだが、きっかけはシドの過去の女性問題だった。
今頃はハイファも向かいの自室でリフレッシャを浴びているのだろうが、戻ってきて蒸し返されぬよう心せねばと思う。そんな風に考えていたら、ふいに背後から抱きつかれた。
見事に物音も気配も隠されていたのには驚いたが、顔には出さずポーカーフェイスのまま振り向く。
「ハイファ、狭いんだからさ」
「あん、そんなつれないこと言わないで。それとも欲しくないの?」
「大きな子供に何を要求してるんだ?」
涼しい顔で言ってのけたシドをハイファは睨む。互いに冷めにくい土鍋性格だと知っていて、次には笑い出していた。もうシドが拒むことなどできないのも分かっている。背に擦りつけた肌の感触と甘い誘いだけで、シドは躰の中心を半ば成長させていた。
「本当は欲しいクセに」
「当たり前だろ、お前は昨日から触らせてもくれなかったんだからさ」
「だって『指に輪っかくらい嵌め慣れてる』なんて……ショックだったんだもん」
「だーかーら、そこらの露店で売ってるだろ、カップル狙いの安モン」
「それを過去の彼女たちと嵌め慣れてたから、この指輪も……」
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