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第22話・推理に終始。震電で空戦でもいいから書きたい
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エントランスに設置されたリモータチェッカをクリアしてセンサ感知、回転式のオートドアからホテルに足を踏み入れた。ビジネスホテルだが、ありがちな無人システムではなく、ちゃんとフロントに制服の男女が詰めていた。
ここで声を掛けるのはいつもハイファの役目だ。
「喫煙でダブル一室、ありますか?」
この科白に照れてしまい、シドが目を泳がせるのもいつものことである。
「お待ち下さい……十七階の一七〇五号室になりますが、宜しいでしょうか」
珍しく料金先払い制で、これも別室からの経費を握るハイファが支払った。朝十時になれば自動的にデリートされるというキィロックコードをシドもリモータに流して貰い、エレベーターホールに向かう。
一七〇五号室はビジネスホテルらしく華美さこそないが、清潔で機能的な部屋だった。
ダブルベッドに端末付きデスクとチェア、独り掛けソファを挟んでロウテーブルに灰皿、飲料ディスペンサーも付いていて、結構サーヴィスがいい。
対衝撃ジャケットを脱いだシドは煙草を咥え、立ったままオイルライターで火を点ける。
ハイファは狭い部屋の中を検分し、バスやトイレにダートレスまで覗いてから窓外に目を向けた。だが眼下の通りを行き交う人波と、それを挟んで向かい側のビルしか見えず、戻ってチェアに腰掛ける。シドは独り掛けソファに陣取った。
リモータアプリの十四インチホロスクリーンを立ち上げ、ハイファが別室任務付属資料に目を通した頃を見計らってシドが訊く。
「んで、問題のF4っつーのは何なんだよ?」
「テラ連邦法で各星系政府は独自の軍を持てない。その代わりに有人惑星一個につきテラ連邦軍基地を一ヶ所または駐屯地を三ヶ所以上設けることが義務づけられてて、このルフタス星系第六惑星ブラートにも軍の基地が一ヶ所ある」
「ふん、それで?」
「ここの基地には医科技研も併設されててコードネームF4なるウイルスの情報が漏洩したんだよ」
聞いてシドはあからさまに不愉快といった顔をした。
「けっ、F4はバイオ兵器ってことか」
「まあ、そうだね。F4の『F』はFear、そのまま『恐怖』の略で、4は単に4番目に作られ実用化できると判断されたから付けられた。つまりF4の感染者は『恐怖心が無くなる』ってとこかな」
「それで人を傷つけることに対する禁忌が消える訳か」
「その通り。F4を摂取すると、まさに恐いものが無くなる。そして服用後は約三十時間でウイルスは体内で死滅し痕跡も消える、一週間程度の記憶と一緒にね」
「ふうん。どうせ恐いもの無しの兵士でも作ろうって腹でウイルス開発したんだろ。税金使って軍はロクでもねぇな……って、あのジャンキーもどきたちは、そいつを食ってやがった証拠でもあるのか?」
「まだ証拠は出ないけど、可能性は大いにあるんじゃないかな」
切れ長の目を煌めかせたシドが、やや任務に興味を示したのを見取ってハイファは続ける。
「F4はこのルフタス星系からロニアマフィアを介して各星系に流れ込んでるよ」
「くそう、またロニアかよ」
「まあ、常套だろうからねえ。取り敢えずはコーディー=カーライズとエリック=モーリスについて調べてみるから、貴方はリフレッシャでも浴びてきたら?」
「ヒマだし、そうするか」
執銃を解いてホルスタごとレールガンをロウテーブルに置くとバスルームに向かう。脱いだものをダートレスに放り込み、リフレッシャの温かい洗浄液を頭から浴びた。
黒髪からつま先までを丁寧に洗って熱い湯で洗浄液を流すと、ワープで溜まった疲労物質も流れ出してゆくようだ。充分温まってからバスルームをドライモードにする。
全身を乾かして出てみると、ハイファの手によって下着とホテルのローブが置かれていた。身に着けて出て行くと、ハイファの顔つきでシドは調査結果が芳しくないことを知った。
「このルフタス星系にいるのは確かだけど、先が全然読めないんだよね。どうしよう?」
「なら、ロニアでそいつらが何をしてたのか調べてみちゃどうだ?」
「ロニアでって、F4の売り込みじゃないの?」
「それはそうかも知れんが、F4が問題になったのはつい最近だろ。だがこの二人は一年半前からロニアとここを往復してるんじゃねぇのか?」
「あっ、そっか。他にも何か目的があるのかも知れないよね。じゃあ、別室戦術コンを通してロニアのネットシステムを探らせてみるよ」
早速ハイファは別室戦術コンに送る文面を練り始めた。
「ダイレクトワープ通信だから……よし、二十四キロバイト、軽い軽い。えいっ!」
通常の通信はワープする宙艦によりリレー形式で運ばれる。だが通常航行の分だけ届くのに時間が掛かるのは仕方ない。しかしダイレクトワープ通信は亜空間レピータを使用しラグタイムなしで相手に届く。
けれど亜空間レピータは維持管理の難度が高いため、資本主義社会のテラ連邦圏に於いて、非常にコストの掛かる通信方法として知られているのだ。
お蔭でハイファはいつもできるだけ小容量にしなければならない世知辛さなのである。
やれることをやってしまうと、ハイファもバスタイムだ。
独りになったシドは飲料ディスペンサーでジンジャーエールを紙コップに注ぐと、何となくホロTVを点けてみる。ソファに腰掛け、適当に地元局のニュースに合わせて眺めた。
だがニュースはすぐに終わってしまう。ざっと流して視たがどの局もニュースはやっておらず、仕方なく『古城を巡って』なる番組で妥協した。
ここで声を掛けるのはいつもハイファの役目だ。
「喫煙でダブル一室、ありますか?」
この科白に照れてしまい、シドが目を泳がせるのもいつものことである。
「お待ち下さい……十七階の一七〇五号室になりますが、宜しいでしょうか」
珍しく料金先払い制で、これも別室からの経費を握るハイファが支払った。朝十時になれば自動的にデリートされるというキィロックコードをシドもリモータに流して貰い、エレベーターホールに向かう。
一七〇五号室はビジネスホテルらしく華美さこそないが、清潔で機能的な部屋だった。
ダブルベッドに端末付きデスクとチェア、独り掛けソファを挟んでロウテーブルに灰皿、飲料ディスペンサーも付いていて、結構サーヴィスがいい。
対衝撃ジャケットを脱いだシドは煙草を咥え、立ったままオイルライターで火を点ける。
ハイファは狭い部屋の中を検分し、バスやトイレにダートレスまで覗いてから窓外に目を向けた。だが眼下の通りを行き交う人波と、それを挟んで向かい側のビルしか見えず、戻ってチェアに腰掛ける。シドは独り掛けソファに陣取った。
リモータアプリの十四インチホロスクリーンを立ち上げ、ハイファが別室任務付属資料に目を通した頃を見計らってシドが訊く。
「んで、問題のF4っつーのは何なんだよ?」
「テラ連邦法で各星系政府は独自の軍を持てない。その代わりに有人惑星一個につきテラ連邦軍基地を一ヶ所または駐屯地を三ヶ所以上設けることが義務づけられてて、このルフタス星系第六惑星ブラートにも軍の基地が一ヶ所ある」
「ふん、それで?」
「ここの基地には医科技研も併設されててコードネームF4なるウイルスの情報が漏洩したんだよ」
聞いてシドはあからさまに不愉快といった顔をした。
「けっ、F4はバイオ兵器ってことか」
「まあ、そうだね。F4の『F』はFear、そのまま『恐怖』の略で、4は単に4番目に作られ実用化できると判断されたから付けられた。つまりF4の感染者は『恐怖心が無くなる』ってとこかな」
「それで人を傷つけることに対する禁忌が消える訳か」
「その通り。F4を摂取すると、まさに恐いものが無くなる。そして服用後は約三十時間でウイルスは体内で死滅し痕跡も消える、一週間程度の記憶と一緒にね」
「ふうん。どうせ恐いもの無しの兵士でも作ろうって腹でウイルス開発したんだろ。税金使って軍はロクでもねぇな……って、あのジャンキーもどきたちは、そいつを食ってやがった証拠でもあるのか?」
「まだ証拠は出ないけど、可能性は大いにあるんじゃないかな」
切れ長の目を煌めかせたシドが、やや任務に興味を示したのを見取ってハイファは続ける。
「F4はこのルフタス星系からロニアマフィアを介して各星系に流れ込んでるよ」
「くそう、またロニアかよ」
「まあ、常套だろうからねえ。取り敢えずはコーディー=カーライズとエリック=モーリスについて調べてみるから、貴方はリフレッシャでも浴びてきたら?」
「ヒマだし、そうするか」
執銃を解いてホルスタごとレールガンをロウテーブルに置くとバスルームに向かう。脱いだものをダートレスに放り込み、リフレッシャの温かい洗浄液を頭から浴びた。
黒髪からつま先までを丁寧に洗って熱い湯で洗浄液を流すと、ワープで溜まった疲労物質も流れ出してゆくようだ。充分温まってからバスルームをドライモードにする。
全身を乾かして出てみると、ハイファの手によって下着とホテルのローブが置かれていた。身に着けて出て行くと、ハイファの顔つきでシドは調査結果が芳しくないことを知った。
「このルフタス星系にいるのは確かだけど、先が全然読めないんだよね。どうしよう?」
「なら、ロニアでそいつらが何をしてたのか調べてみちゃどうだ?」
「ロニアでって、F4の売り込みじゃないの?」
「それはそうかも知れんが、F4が問題になったのはつい最近だろ。だがこの二人は一年半前からロニアとここを往復してるんじゃねぇのか?」
「あっ、そっか。他にも何か目的があるのかも知れないよね。じゃあ、別室戦術コンを通してロニアのネットシステムを探らせてみるよ」
早速ハイファは別室戦術コンに送る文面を練り始めた。
「ダイレクトワープ通信だから……よし、二十四キロバイト、軽い軽い。えいっ!」
通常の通信はワープする宙艦によりリレー形式で運ばれる。だが通常航行の分だけ届くのに時間が掛かるのは仕方ない。しかしダイレクトワープ通信は亜空間レピータを使用しラグタイムなしで相手に届く。
けれど亜空間レピータは維持管理の難度が高いため、資本主義社会のテラ連邦圏に於いて、非常にコストの掛かる通信方法として知られているのだ。
お蔭でハイファはいつもできるだけ小容量にしなければならない世知辛さなのである。
やれることをやってしまうと、ハイファもバスタイムだ。
独りになったシドは飲料ディスペンサーでジンジャーエールを紙コップに注ぐと、何となくホロTVを点けてみる。ソファに腰掛け、適当に地元局のニュースに合わせて眺めた。
だがニュースはすぐに終わってしまう。ざっと流して視たがどの局もニュースはやっておらず、仕方なく『古城を巡って』なる番組で妥協した。
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