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第29話・怪しい船旅と空の旅で目的地らしい
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伸び上がってシドも前方を見つめる。なるほど、緑がもっさりと茂った小島が見えていた。遠目に桟橋があるのが分かる。貨物船はゆったりとした低速でそちらに向かっていた。
桟橋には人影が幾つか待ち受けている。
「何だ、野菜の、何つったっけ?」
「ブロッコリー」
「そう、それみたいな島だな。それにえらく小さくねぇか?」
「うーん、確かに小さいかも」
見た目、直径三百メートルくらいにしか思えない島に貨物船は接岸した。バイト漁師がロープを投げる。もやいを受け取ったのは、これもコーディーとエリックではなかった。斜めに階段状の歩み板が渡され、シドとハイファに四人のチンピラは降ろされる。
これで貨物船の用が済んだのかと思いきや、漁師二人がデリックで荷を下ろし始めた。荷は棺桶くらいの大きさの箱が三つだ。次に貨物船の後部ハッチが開けられて小型リフトコイルが登場し、半ば水に浸かりながら砂浜に棺桶三つを運んで、また後部ハッチの中に戻る。
それでやっと仕事は終わったらしく貨物船はもやいを外し、アンカーを巻き上げてエンジン音も高らかにヘズ島から去っていった。
残されたチンピラたちとともに、シドは待ち受けていた男二人をじっと眺めた。
彼らはひとことで言えば兵士だった。迷彩の戦闘服を身に着けて軍用ブーツを履いている。武装もしていて腰にはヒップホルスタ、中身はやや小型のパウダーカートリッジ式旧式銃だ。サスペンダーには鞘に収まったナイフも下げている。頭にはオリーブドラブのバンダナだ。
彼らが醸すプロの雰囲気に、シドはやや気を引き締める。
貨物船の乗組員たちに対しても口を利かなかった兵士たちは何かを待っているようだ。ふとシドは気配を感じて空を仰ぐ。黒い点が近づいてきて、まもなくそれは軍用中型BELだと判明した。垂直降下してきたBELは砂浜に接地する。
「こいつをBELに載せる、手伝ってくれ」
兵士の一人から声が掛かり、全員で棺桶のような箱を持ち上げた。八人の男でひとつを移動させるのに汗をかくほど重い箱だった。
ハイファが目配せを寄越し、シドは小さく頷いた。中身は間違いなく武器弾薬だ。
中型BELの後部に荷を運び入れてしまうと全員が乗機させられる。すぐにテイクオフ、ブロッコリーのようなヘズ島を眼下に収めてハイファがシドに囁いた。
「鉄砲玉軍事教練の場所が極秘なのは分かるけど、こうして不特定多数のバカ、もとい人員が出入りすることを考えると、かなりの警戒ぶりじゃない?」
「いよいよF4密造の気配が濃くなってきたな。場所は分かるな?」
「MCS支援でバッチリだよ」
テラ系星系で人が住んでいる惑星上空には必ず軍事通信衛星MCSが上がって監視しているのだ。別室リモータはそれと直接干渉する権限がある。
以降は狭い機内でそれ以上は口を閉ざした。二十分もしないうちにBELは降下する。
上空からシドは最終目的地らしい場所を見下ろした。双子のような島が並んでいる。両方とも、やや膨らんだ二等辺三角形をしていた。切ったショートケーキをふたつ、縦に並べたような形である。片方の孤を描いた部分に、もう片方の鋭角部分が突き刺さって、そこで僅かな陸地が繋がり、島から島へは歩いてでも行けるらしいことを見取った。
それらを眺めてシドは不思議に思う。既視感に囚われたのだ。こんな星で見たことがある筈もない、なのにどういう訳か確かに見覚えがある。
「地図上ではローダ島とシリン島っていう島らしいよ。それぞれ長い所で約十キロだってサ」
「ふうん。両側合わせれば周囲五、六十キロか、結構デカいな」
眺めるに島の最末端は崖になっていて、あとは双子島の両方とも、ぐるりと白い砂浜が取り巻いている。砂浜の内側は殆ど全体が鬱蒼とした森だった。
「で、他に何か出たか?」
「ううん、そこまでは資料を仕入れてこなかったから。でもいやに立派な建物じゃない?」
ハイファが囁いて示した通りにシリン島の最末端、崖のすぐ近くには、かなりの占有面積で以て大きな屋敷が建っていた。広々とした庭園らしき土地もある。
あとは島の両方ともに点々と石造りらしい小さな家屋が見えた。だが家屋はどれも残骸めいて殆ど緑の森に埋もれかけている。
「町の跡……誰も住んでなさそうだね」
「あの屋敷は誰か隠遁でもしてるのかもな」
「屋敷っていうか、お城みたいだよね。お姫様でも幽閉されてたりして」
「城か……そうだ、そいつだ!」
思わず声を上げてしまい、同乗者たちの視線を浴びてシドは黙る。怪訝な顔をしたハイファへの説明もあと、BELが着陸するのをジリジリとして待った。
最終的に中型BELが降下したのは城のような屋敷の存在しないローダ島側、後ろ側のケーキの方だった。島の中心部よりも、やや孤を描いた側に近い鬱蒼とした森の中、木々を伐採して作られた広場にランディングする。
兵士の指示で降りてみれば青々とした下草が茂り、小鳥の声が鳴き交わされていて、何とものどかな風情だった。広場の隅には石の天井が崩れた家屋の残骸がひとつ建っている。
荷は降ろされないまま、兵士二人と客六人を置いてBELはまた飛び立って行った。倉庫にでも持って行くのかと思いながら、シドは暫し空を振り仰いでBELを見送った。
またも兵士の指示が飛び、全員が朽ちかけた家屋の残骸へと向かう。
桟橋には人影が幾つか待ち受けている。
「何だ、野菜の、何つったっけ?」
「ブロッコリー」
「そう、それみたいな島だな。それにえらく小さくねぇか?」
「うーん、確かに小さいかも」
見た目、直径三百メートルくらいにしか思えない島に貨物船は接岸した。バイト漁師がロープを投げる。もやいを受け取ったのは、これもコーディーとエリックではなかった。斜めに階段状の歩み板が渡され、シドとハイファに四人のチンピラは降ろされる。
これで貨物船の用が済んだのかと思いきや、漁師二人がデリックで荷を下ろし始めた。荷は棺桶くらいの大きさの箱が三つだ。次に貨物船の後部ハッチが開けられて小型リフトコイルが登場し、半ば水に浸かりながら砂浜に棺桶三つを運んで、また後部ハッチの中に戻る。
それでやっと仕事は終わったらしく貨物船はもやいを外し、アンカーを巻き上げてエンジン音も高らかにヘズ島から去っていった。
残されたチンピラたちとともに、シドは待ち受けていた男二人をじっと眺めた。
彼らはひとことで言えば兵士だった。迷彩の戦闘服を身に着けて軍用ブーツを履いている。武装もしていて腰にはヒップホルスタ、中身はやや小型のパウダーカートリッジ式旧式銃だ。サスペンダーには鞘に収まったナイフも下げている。頭にはオリーブドラブのバンダナだ。
彼らが醸すプロの雰囲気に、シドはやや気を引き締める。
貨物船の乗組員たちに対しても口を利かなかった兵士たちは何かを待っているようだ。ふとシドは気配を感じて空を仰ぐ。黒い点が近づいてきて、まもなくそれは軍用中型BELだと判明した。垂直降下してきたBELは砂浜に接地する。
「こいつをBELに載せる、手伝ってくれ」
兵士の一人から声が掛かり、全員で棺桶のような箱を持ち上げた。八人の男でひとつを移動させるのに汗をかくほど重い箱だった。
ハイファが目配せを寄越し、シドは小さく頷いた。中身は間違いなく武器弾薬だ。
中型BELの後部に荷を運び入れてしまうと全員が乗機させられる。すぐにテイクオフ、ブロッコリーのようなヘズ島を眼下に収めてハイファがシドに囁いた。
「鉄砲玉軍事教練の場所が極秘なのは分かるけど、こうして不特定多数のバカ、もとい人員が出入りすることを考えると、かなりの警戒ぶりじゃない?」
「いよいよF4密造の気配が濃くなってきたな。場所は分かるな?」
「MCS支援でバッチリだよ」
テラ系星系で人が住んでいる惑星上空には必ず軍事通信衛星MCSが上がって監視しているのだ。別室リモータはそれと直接干渉する権限がある。
以降は狭い機内でそれ以上は口を閉ざした。二十分もしないうちにBELは降下する。
上空からシドは最終目的地らしい場所を見下ろした。双子のような島が並んでいる。両方とも、やや膨らんだ二等辺三角形をしていた。切ったショートケーキをふたつ、縦に並べたような形である。片方の孤を描いた部分に、もう片方の鋭角部分が突き刺さって、そこで僅かな陸地が繋がり、島から島へは歩いてでも行けるらしいことを見取った。
それらを眺めてシドは不思議に思う。既視感に囚われたのだ。こんな星で見たことがある筈もない、なのにどういう訳か確かに見覚えがある。
「地図上ではローダ島とシリン島っていう島らしいよ。それぞれ長い所で約十キロだってサ」
「ふうん。両側合わせれば周囲五、六十キロか、結構デカいな」
眺めるに島の最末端は崖になっていて、あとは双子島の両方とも、ぐるりと白い砂浜が取り巻いている。砂浜の内側は殆ど全体が鬱蒼とした森だった。
「で、他に何か出たか?」
「ううん、そこまでは資料を仕入れてこなかったから。でもいやに立派な建物じゃない?」
ハイファが囁いて示した通りにシリン島の最末端、崖のすぐ近くには、かなりの占有面積で以て大きな屋敷が建っていた。広々とした庭園らしき土地もある。
あとは島の両方ともに点々と石造りらしい小さな家屋が見えた。だが家屋はどれも残骸めいて殆ど緑の森に埋もれかけている。
「町の跡……誰も住んでなさそうだね」
「あの屋敷は誰か隠遁でもしてるのかもな」
「屋敷っていうか、お城みたいだよね。お姫様でも幽閉されてたりして」
「城か……そうだ、そいつだ!」
思わず声を上げてしまい、同乗者たちの視線を浴びてシドは黙る。怪訝な顔をしたハイファへの説明もあと、BELが着陸するのをジリジリとして待った。
最終的に中型BELが降下したのは城のような屋敷の存在しないローダ島側、後ろ側のケーキの方だった。島の中心部よりも、やや孤を描いた側に近い鬱蒼とした森の中、木々を伐採して作られた広場にランディングする。
兵士の指示で降りてみれば青々とした下草が茂り、小鳥の声が鳴き交わされていて、何とものどかな風情だった。広場の隅には石の天井が崩れた家屋の残骸がひとつ建っている。
荷は降ろされないまま、兵士二人と客六人を置いてBELはまた飛び立って行った。倉庫にでも持って行くのかと思いながら、シドは暫し空を振り仰いでBELを見送った。
またも兵士の指示が飛び、全員が朽ちかけた家屋の残骸へと向かう。
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