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第35話・自動車教習所の教官の気持ち
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シドは食堂に近い方のA教室で頭を抱えていた。
まずはその日のうちに始まった各種ハンドガンの簡易分解、いわゆるフィールドストリッピングからつまずいた。組み立てられずにパーツが余るくらいなら可愛い方で、弾を抜いた旧式銃ならともかく、組み上がったレーザーガンのトリガをその場で引くバカたちが出現したのだ。
当然ながらA教室は阿鼻叫喚の坩堝と化した。シドが反射的にレールガンで撃ち壊さなければ冗談でなく死人が出るところだった。
「マジであと三日間でライフルまで分解結合させるっていうのかよ?」
取り敢えずの安全策としてレーザーガンのトリガ部品だけ抜いて集めたシドに、教官兵士の一人であるセブという男が、さすがに引き攣った表情で答える。
「そうですね。ライフル射撃体験もさせますから、自分の銃は自分で整備が鉄則ですし」
「嘘だろ、おい。過去に死人は出なかったのか?」
「部屋同士、つまりは敵対ファミリー同士のカチコミでなら死人は数名……お蔭でメディックは二十四時間待機ですよ。訓練中の死人はまだです、怪我人は絶えませんけどね」
そこでレーザーのバッテリに感電したジャックが金髪を逆立てながらゴトリと倒れた。
「初の死人が出る方に千クレジットだ」
「自分も今期は出る方に賭けたいと思います」
「ふん、賭けにもならねぇか。ったく、ウチのタマに『お手』を教え込む方が簡単だぜ」
喫煙欲求に耐えながら、シドはまだナゾな兵器をこさえているチンピラたちを眺める。
そのとき隣のB教室に面した壁がタ、タ、タ、と木っ端を散らして穴が開き、シドの側頭部を掠めた一発の弾が背後の電子ホワイトボードにめり込んで止まった。
「馬鹿野郎、ユーリー、この段階で実包を与えるんじゃねぇっ!」
「ごめーん、大丈夫だった?」
暢気な声が壁の向こうから響いてきて、シドは相棒の胆の太さに呆れるしかない。銃の分解結合の詳細図を大きく映し出した電子ホワイトボードのド真ん中に命中してひしゃげた弾を掘り起こしながら頭を振る。
「ド阿呆、『大丈夫』じゃねぇだろ! 本当に当たったらどうすんだよ。幾らメディックが優秀でも、ここには病院もねぇんだぞ!」
「病院はありませんが、近くで最先端医療は受けられますよ」
取り出したルール・オブ・エンゲージメント違反ものの鉛玉を弄びながらセブを見た。
「医務室ったって一番手前のユニットだろ。あんな所に再生槽でもあるのかよ?」
「いいえ、そうじゃなくてですね、重傷者は公爵の城に運ぶんです」
「公爵の城……そういや公爵サマが病気がちなんだよな?」
「ええ。それであそこには最先端医療と医師が揃っているんですよ」
「へえ、重傷者は受け入れてくれるのか。やけに親切じゃねぇか」
「ノブレス・オブリージュってヤツじゃないですかね。今まで四人がお世話になってます」
「四人も死にかけたのか、危ねぇな」
だがこれは貴重な情報だった。自分が五人目になるのは勘弁だが、誰か怪我をした奴に付き添う形で乗り込めば、城の内部に潜入できるのだ。上手く行けば城主のジュリアン=ベジャール公を直接拝する機会に与れるかも知れない。
しかし何処までが軽傷で何処から先が重傷なのか分からなかった。トリガパーツを返し、弾も配布すれば、誰かがレーザーかオートマチックでロシアンルーレットでもやらかしてくれるんじゃねぇかと期待を持ち始める。
「お世話になっているのは、それだけじゃありません」
「何だ、まだあるのかよ」
「ここでの成績優秀者を城のガードとして雇ってもくれるんです」
「いやに気前がいいな。けどマフィアの三下にガードが務まるのかよ?」
「足を洗う絶好の機会ですからね、公爵に一生を捧げる誓いをする者もいますよ」
「ふうん、なるほどな――」
シドが考えに耽る間にも隣室からは旧式銃の撃発音が続けざまに轟き届いていた。中には聞き覚えのある音も混じっている。ハイファのテミスコピーだ。
いったいナニをしているのか心配になったとき、リモータが振動した。
日暮れの二十時に合わせた、本日の予定終了の合図だった。
「おい、テメェら! そいつの分解結合を明日朝までにマスターしておけよ!」
そう叫んでレーザーガンとチンピラどもを残し、シドはとっととA教室を出て食堂に向かった。
まずはその日のうちに始まった各種ハンドガンの簡易分解、いわゆるフィールドストリッピングからつまずいた。組み立てられずにパーツが余るくらいなら可愛い方で、弾を抜いた旧式銃ならともかく、組み上がったレーザーガンのトリガをその場で引くバカたちが出現したのだ。
当然ながらA教室は阿鼻叫喚の坩堝と化した。シドが反射的にレールガンで撃ち壊さなければ冗談でなく死人が出るところだった。
「マジであと三日間でライフルまで分解結合させるっていうのかよ?」
取り敢えずの安全策としてレーザーガンのトリガ部品だけ抜いて集めたシドに、教官兵士の一人であるセブという男が、さすがに引き攣った表情で答える。
「そうですね。ライフル射撃体験もさせますから、自分の銃は自分で整備が鉄則ですし」
「嘘だろ、おい。過去に死人は出なかったのか?」
「部屋同士、つまりは敵対ファミリー同士のカチコミでなら死人は数名……お蔭でメディックは二十四時間待機ですよ。訓練中の死人はまだです、怪我人は絶えませんけどね」
そこでレーザーのバッテリに感電したジャックが金髪を逆立てながらゴトリと倒れた。
「初の死人が出る方に千クレジットだ」
「自分も今期は出る方に賭けたいと思います」
「ふん、賭けにもならねぇか。ったく、ウチのタマに『お手』を教え込む方が簡単だぜ」
喫煙欲求に耐えながら、シドはまだナゾな兵器をこさえているチンピラたちを眺める。
そのとき隣のB教室に面した壁がタ、タ、タ、と木っ端を散らして穴が開き、シドの側頭部を掠めた一発の弾が背後の電子ホワイトボードにめり込んで止まった。
「馬鹿野郎、ユーリー、この段階で実包を与えるんじゃねぇっ!」
「ごめーん、大丈夫だった?」
暢気な声が壁の向こうから響いてきて、シドは相棒の胆の太さに呆れるしかない。銃の分解結合の詳細図を大きく映し出した電子ホワイトボードのド真ん中に命中してひしゃげた弾を掘り起こしながら頭を振る。
「ド阿呆、『大丈夫』じゃねぇだろ! 本当に当たったらどうすんだよ。幾らメディックが優秀でも、ここには病院もねぇんだぞ!」
「病院はありませんが、近くで最先端医療は受けられますよ」
取り出したルール・オブ・エンゲージメント違反ものの鉛玉を弄びながらセブを見た。
「医務室ったって一番手前のユニットだろ。あんな所に再生槽でもあるのかよ?」
「いいえ、そうじゃなくてですね、重傷者は公爵の城に運ぶんです」
「公爵の城……そういや公爵サマが病気がちなんだよな?」
「ええ。それであそこには最先端医療と医師が揃っているんですよ」
「へえ、重傷者は受け入れてくれるのか。やけに親切じゃねぇか」
「ノブレス・オブリージュってヤツじゃないですかね。今まで四人がお世話になってます」
「四人も死にかけたのか、危ねぇな」
だがこれは貴重な情報だった。自分が五人目になるのは勘弁だが、誰か怪我をした奴に付き添う形で乗り込めば、城の内部に潜入できるのだ。上手く行けば城主のジュリアン=ベジャール公を直接拝する機会に与れるかも知れない。
しかし何処までが軽傷で何処から先が重傷なのか分からなかった。トリガパーツを返し、弾も配布すれば、誰かがレーザーかオートマチックでロシアンルーレットでもやらかしてくれるんじゃねぇかと期待を持ち始める。
「お世話になっているのは、それだけじゃありません」
「何だ、まだあるのかよ」
「ここでの成績優秀者を城のガードとして雇ってもくれるんです」
「いやに気前がいいな。けどマフィアの三下にガードが務まるのかよ?」
「足を洗う絶好の機会ですからね、公爵に一生を捧げる誓いをする者もいますよ」
「ふうん、なるほどな――」
シドが考えに耽る間にも隣室からは旧式銃の撃発音が続けざまに轟き届いていた。中には聞き覚えのある音も混じっている。ハイファのテミスコピーだ。
いったいナニをしているのか心配になったとき、リモータが振動した。
日暮れの二十時に合わせた、本日の予定終了の合図だった。
「おい、テメェら! そいつの分解結合を明日朝までにマスターしておけよ!」
そう叫んでレーザーガンとチンピラどもを残し、シドはとっととA教室を出て食堂に向かった。
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