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第20話
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それからは小難しい話は抜きでジョセがアリシアやリサと共に、大きなカップに入ったアイスコーヒーや皿に盛った果物などを運び込み、机の上に並べ始めた。
簡単ではあるがキャラハンの言った歓迎会らしい。
「さてと。みんな席に着いて頂戴」
ジョセの仕切りでガタガタと椅子が鳴る。ハミッシュが代表して挨拶だ。
「堅苦しいことは要らないな、霧島と鳴海は我々の仲間だ。だが今の我々が生きてここにいるのはこの二人のお蔭なのは間違いない。感謝してもし足りない。しかしまだ昼日中だからな。夜には砂漠流の歓迎会も計画しているので今はほどほどにしてくれキャラハン。互いに元気で再会が果たせたことに、乾杯!」
冷水で淹れたコーヒーをひとくち飲んで、大豆か何かを炒った代用品らしいと京哉は気付いた。大統領以下全員が反政府ゲリラ時代から変わらぬ作業服のような着古したものを身に着け、擦り切れた布を巻いていてこの国の貧しさを痛感させられる。
それでも質素ながら心のこもった歓迎をしてくれた、このコーヒーは象徴のような気がする京哉だった。大切にコーヒーを味わいながら京哉は隣に座ったレズリーを見上げる。
「みんな、もう街に住んでるんですよね?」
「ああ、今はな。俺は政府の役人ってガラじゃねぇから、落ち着いたら砂漠に戻って放浪生活もいいんじゃねぇかと思ってる」
「ふうん。そういえば急進派グループが放浪してるって聞きましたけど」
「耳が早いな。あいつらには俺たちもどうしていいか対応に悩んでるんだ」
「まだ国連平和維持軍にアタックしてるんですって?」
「そうなんだ。かつて俺たちがやってたように一撃離脱で駐屯地に仕掛けてるのさ」
「自分たちがやってきたことを踏襲されて扱いづらいという訳か?」
双方向通訳を務めながら口を挟んだ霧島にレズリーは頷いた。
「あいつらだってこのプラーグのことを思ってやってる。だが俺たちは円卓に着くことを選んだんだ。武力闘争を認める訳にはいかねぇし、けど全否定もできねぇんだ」
「対応は国連平和維持軍任せですか?」
「まあな。討って出て内紛状態になるのが一番怖い。もろとも潰されるのが、な」
「でしょうね。それにせっかく武器を置いたんですし」
「奴らと俺たちが同じ目で国際社会から見られるのは心外だが、仕方ねぇ話なのさ」
元のグループにいたメンバーの消息などを訊いているうちに、ユーリンとクリフォード=バルトが顔を出した。クリフは霧島と京哉を見て目を輝かせる。
「霧島さん、鳴海さん。あんたらも元気だったんだな」
「何だ、相変わらず偉そうだな、クリフ」
「だって俺が助けてやったんだぜ?」
「分かった分かった、そういうことにしておいてやる」
「ってゆうか、クリフって少し見ない間に大きくなってないですか?」
「育ち盛りだからな。まだまだ、あんたらよりでかくなるよ、俺は」
この仮大統領府にしょっちゅう出入りしているらしくクリフはユーリンからカップを受け取ると堂々と椅子のひとつに陣取った。一方ユーリンは皆に心配をかけたくないのか青い目で二人に懇願している。元より二人も余計なことを言うつもりはない。
カゴのオレンジを取り、腰のナイフを抜いて皮に切れ目を入れながら京哉が訊いた。
「もうレアメタルの採掘も始まってるんですって?」
「それは俺の領域だな」
聞いていたクーンツが笑みを浮かべて身を乗り出した。
「副大統領とは名ばかりで俺は渉外係長なんだ」
「せめて部長くらい名乗ったら……いや、副大統領兼、外務大臣だったか」
バイヨルが揶揄して皆が笑う。
「とにかく、だ。現在はライネ資源工業にアダン総合金属株式会社、ダーマー工業が名乗りを上げてこの三社に採掘権を持たせている。税率はマーティンとルークに相談して決めたがこれだけでも砂の花輸出時と殆ど変わりない外貨が得られて、レアメタルの威光には全く驚かされるばかりだ。中小企業と聞いていたから余計に驚いたよ」
更にハミッシュが付け加えた。
「かつてと違って利益を独占する者がいなくなった分、村々への配給物資も少しは厚みを増せた。砂漠の灌漑が行われて食糧自給率が上がるまで、皆を飢えさせずに済む計算だ」
「それで砂漠の灌漑事業の目処は立っているのか?」
「業者の出入りはあるが、まだ国連からは色良い返答はきていない」
「でもさ、俺たちは時間の問題じゃないかと思ってる」
と、キャラハンは水筒を振りながら続けた。
「こんな美味しい採掘場を小さな三社だけに独占させて、甘い汁を吸わせておく先進諸国じゃないからな。国際社会の考え方も俺たちだって少しは学習したんだ」
「確かにな。ライネ資源工業とアダン総合金属株式会社にダーマー工業か。どの社も原油採掘から始めたインディペンデント系、つまりメジャーと呼ばれる大手ではない独立系の社だな。中小故に身軽に時代を先取りした採掘場の開発にも携わってきた。なるほどな」
さすがは霧島カンパニー会長御曹司で、火中の栗を拾いに来た企業も名さえ聞けば簡単に知識を開陳する。だが語りつつも僅かに霧島の目が眇められたのを京哉は見逃さない。
けれどそんなことなど今は追及する時ではなく、ただ心に留めて京哉は皆と愉しく雑談にいそしんだ。訳して貰ってはいるが英会話の勉強も実践である。
そのうち砂漠の灌漑がなされたらどうするか、などという雑談に話がシフトした。
鶏を飼って卵を腹一杯食べるだの、青々とした野菜畑を作るだの、実った小麦の金色の大地を見たいなどと、皆の夢は膨らんでいるようだった。キャラハンは不似合いにも花畑を作るなどといって、皆から胡散臭そうな顔をされる。
「ところで霧島さんに鳴海くん。貴方たちは何処に泊まってるの?」
ジョセに訊かれ、二人は宿の名前さえ覚えていないことに気付く。
「空港に向かって右側、一階がコンクリートブロックで上がプレハブみたいな……」
「ああ、ティーノの所ね。でも今晩からはうちに来て貰うわよ」
「ちょっと待てよ、ジョセ。俺んとこの方が部屋は余ってるぜ」
レズリーが言うと、キャラハンは一晩中二人と一緒に飲み明かすのだと言い張った。バイヨルやマーティンたちまでが申し出る中、結局はジョセの勢いに押され、霧島と京哉はマクギャリー家に世話になることが勝手に決められた。
十五時に採掘場の視察という予定が入っている首脳陣に、霧島と京哉も同行することを許されて一旦歓迎の茶会はお開きになる。
雑事があるという大統領と副大統領、その他の首脳陣を置いて、二人は後片付けを手伝って終わらせ、ジョセとユーリン、クリフに続いて学校から出た。
外は相変わらず殺人的な暑さだった。
簡単ではあるがキャラハンの言った歓迎会らしい。
「さてと。みんな席に着いて頂戴」
ジョセの仕切りでガタガタと椅子が鳴る。ハミッシュが代表して挨拶だ。
「堅苦しいことは要らないな、霧島と鳴海は我々の仲間だ。だが今の我々が生きてここにいるのはこの二人のお蔭なのは間違いない。感謝してもし足りない。しかしまだ昼日中だからな。夜には砂漠流の歓迎会も計画しているので今はほどほどにしてくれキャラハン。互いに元気で再会が果たせたことに、乾杯!」
冷水で淹れたコーヒーをひとくち飲んで、大豆か何かを炒った代用品らしいと京哉は気付いた。大統領以下全員が反政府ゲリラ時代から変わらぬ作業服のような着古したものを身に着け、擦り切れた布を巻いていてこの国の貧しさを痛感させられる。
それでも質素ながら心のこもった歓迎をしてくれた、このコーヒーは象徴のような気がする京哉だった。大切にコーヒーを味わいながら京哉は隣に座ったレズリーを見上げる。
「みんな、もう街に住んでるんですよね?」
「ああ、今はな。俺は政府の役人ってガラじゃねぇから、落ち着いたら砂漠に戻って放浪生活もいいんじゃねぇかと思ってる」
「ふうん。そういえば急進派グループが放浪してるって聞きましたけど」
「耳が早いな。あいつらには俺たちもどうしていいか対応に悩んでるんだ」
「まだ国連平和維持軍にアタックしてるんですって?」
「そうなんだ。かつて俺たちがやってたように一撃離脱で駐屯地に仕掛けてるのさ」
「自分たちがやってきたことを踏襲されて扱いづらいという訳か?」
双方向通訳を務めながら口を挟んだ霧島にレズリーは頷いた。
「あいつらだってこのプラーグのことを思ってやってる。だが俺たちは円卓に着くことを選んだんだ。武力闘争を認める訳にはいかねぇし、けど全否定もできねぇんだ」
「対応は国連平和維持軍任せですか?」
「まあな。討って出て内紛状態になるのが一番怖い。もろとも潰されるのが、な」
「でしょうね。それにせっかく武器を置いたんですし」
「奴らと俺たちが同じ目で国際社会から見られるのは心外だが、仕方ねぇ話なのさ」
元のグループにいたメンバーの消息などを訊いているうちに、ユーリンとクリフォード=バルトが顔を出した。クリフは霧島と京哉を見て目を輝かせる。
「霧島さん、鳴海さん。あんたらも元気だったんだな」
「何だ、相変わらず偉そうだな、クリフ」
「だって俺が助けてやったんだぜ?」
「分かった分かった、そういうことにしておいてやる」
「ってゆうか、クリフって少し見ない間に大きくなってないですか?」
「育ち盛りだからな。まだまだ、あんたらよりでかくなるよ、俺は」
この仮大統領府にしょっちゅう出入りしているらしくクリフはユーリンからカップを受け取ると堂々と椅子のひとつに陣取った。一方ユーリンは皆に心配をかけたくないのか青い目で二人に懇願している。元より二人も余計なことを言うつもりはない。
カゴのオレンジを取り、腰のナイフを抜いて皮に切れ目を入れながら京哉が訊いた。
「もうレアメタルの採掘も始まってるんですって?」
「それは俺の領域だな」
聞いていたクーンツが笑みを浮かべて身を乗り出した。
「副大統領とは名ばかりで俺は渉外係長なんだ」
「せめて部長くらい名乗ったら……いや、副大統領兼、外務大臣だったか」
バイヨルが揶揄して皆が笑う。
「とにかく、だ。現在はライネ資源工業にアダン総合金属株式会社、ダーマー工業が名乗りを上げてこの三社に採掘権を持たせている。税率はマーティンとルークに相談して決めたがこれだけでも砂の花輸出時と殆ど変わりない外貨が得られて、レアメタルの威光には全く驚かされるばかりだ。中小企業と聞いていたから余計に驚いたよ」
更にハミッシュが付け加えた。
「かつてと違って利益を独占する者がいなくなった分、村々への配給物資も少しは厚みを増せた。砂漠の灌漑が行われて食糧自給率が上がるまで、皆を飢えさせずに済む計算だ」
「それで砂漠の灌漑事業の目処は立っているのか?」
「業者の出入りはあるが、まだ国連からは色良い返答はきていない」
「でもさ、俺たちは時間の問題じゃないかと思ってる」
と、キャラハンは水筒を振りながら続けた。
「こんな美味しい採掘場を小さな三社だけに独占させて、甘い汁を吸わせておく先進諸国じゃないからな。国際社会の考え方も俺たちだって少しは学習したんだ」
「確かにな。ライネ資源工業とアダン総合金属株式会社にダーマー工業か。どの社も原油採掘から始めたインディペンデント系、つまりメジャーと呼ばれる大手ではない独立系の社だな。中小故に身軽に時代を先取りした採掘場の開発にも携わってきた。なるほどな」
さすがは霧島カンパニー会長御曹司で、火中の栗を拾いに来た企業も名さえ聞けば簡単に知識を開陳する。だが語りつつも僅かに霧島の目が眇められたのを京哉は見逃さない。
けれどそんなことなど今は追及する時ではなく、ただ心に留めて京哉は皆と愉しく雑談にいそしんだ。訳して貰ってはいるが英会話の勉強も実践である。
そのうち砂漠の灌漑がなされたらどうするか、などという雑談に話がシフトした。
鶏を飼って卵を腹一杯食べるだの、青々とした野菜畑を作るだの、実った小麦の金色の大地を見たいなどと、皆の夢は膨らんでいるようだった。キャラハンは不似合いにも花畑を作るなどといって、皆から胡散臭そうな顔をされる。
「ところで霧島さんに鳴海くん。貴方たちは何処に泊まってるの?」
ジョセに訊かれ、二人は宿の名前さえ覚えていないことに気付く。
「空港に向かって右側、一階がコンクリートブロックで上がプレハブみたいな……」
「ああ、ティーノの所ね。でも今晩からはうちに来て貰うわよ」
「ちょっと待てよ、ジョセ。俺んとこの方が部屋は余ってるぜ」
レズリーが言うと、キャラハンは一晩中二人と一緒に飲み明かすのだと言い張った。バイヨルやマーティンたちまでが申し出る中、結局はジョセの勢いに押され、霧島と京哉はマクギャリー家に世話になることが勝手に決められた。
十五時に採掘場の視察という予定が入っている首脳陣に、霧島と京哉も同行することを許されて一旦歓迎の茶会はお開きになる。
雑事があるという大統領と副大統領、その他の首脳陣を置いて、二人は後片付けを手伝って終わらせ、ジョセとユーリン、クリフに続いて学校から出た。
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