砂中で咲く石Ⅱ~Barter.13~

志賀雅基

文字の大きさ
20 / 53

第20話

しおりを挟む
 それからは小難しい話は抜きでジョセがアリシアやリサと共に、大きなカップに入ったアイスコーヒーや皿に盛った果物などを運び込み、机の上に並べ始めた。
 簡単ではあるがキャラハンの言った歓迎会らしい。

「さてと。みんな席に着いて頂戴」

 ジョセの仕切りでガタガタと椅子が鳴る。ハミッシュが代表して挨拶だ。

「堅苦しいことは要らないな、霧島と鳴海は我々の仲間だ。だが今の我々が生きてここにいるのはこの二人のお蔭なのは間違いない。感謝してもし足りない。しかしまだ昼日中だからな。夜には砂漠流の歓迎会も計画しているので今はほどほどにしてくれキャラハン。互いに元気で再会が果たせたことに、乾杯!」

 冷水で淹れたコーヒーをひとくち飲んで、大豆か何かを炒った代用品らしいと京哉は気付いた。大統領以下全員が反政府ゲリラ時代から変わらぬ作業服のような着古したものを身に着け、擦り切れた布を巻いていてこの国の貧しさを痛感させられる。

 それでも質素ながら心のこもった歓迎をしてくれた、このコーヒーは象徴のような気がする京哉だった。大切にコーヒーを味わいながら京哉は隣に座ったレズリーを見上げる。

「みんな、もう街に住んでるんですよね?」
「ああ、今はな。俺は政府の役人ってガラじゃねぇから、落ち着いたら砂漠に戻って放浪生活もいいんじゃねぇかと思ってる」
「ふうん。そういえば急進派グループが放浪してるって聞きましたけど」

「耳が早いな。あいつらには俺たちもどうしていいか対応に悩んでるんだ」
「まだ国連平和維持軍にアタックしてるんですって?」
「そうなんだ。かつて俺たちがやってたように一撃離脱で駐屯地に仕掛けてるのさ」
「自分たちがやってきたことを踏襲されて扱いづらいという訳か?」

 双方向通訳を務めながら口を挟んだ霧島にレズリーは頷いた。

「あいつらだってこのプラーグのことを思ってやってる。だが俺たちは円卓に着くことを選んだんだ。武力闘争を認める訳にはいかねぇし、けど全否定もできねぇんだ」
「対応は国連平和維持軍任せですか?」
「まあな。討って出て内紛状態になるのが一番怖い。もろとも潰されるのが、な」

「でしょうね。それにせっかく武器を置いたんですし」
「奴らと俺たちが同じ目で国際社会から見られるのは心外だが、仕方ねぇ話なのさ」

 元のグループにいたメンバーの消息などを訊いているうちに、ユーリンとクリフォード=バルトが顔を出した。クリフは霧島と京哉を見て目を輝かせる。

「霧島さん、鳴海さん。あんたらも元気だったんだな」
「何だ、相変わらず偉そうだな、クリフ」
「だって俺が助けてやったんだぜ?」

「分かった分かった、そういうことにしておいてやる」
「ってゆうか、クリフって少し見ない間に大きくなってないですか?」
「育ち盛りだからな。まだまだ、あんたらよりでかくなるよ、俺は」

 この仮大統領府にしょっちゅう出入りしているらしくクリフはユーリンからカップを受け取ると堂々と椅子のひとつに陣取った。一方ユーリンは皆に心配をかけたくないのか青い目で二人に懇願している。元より二人も余計なことを言うつもりはない。

 カゴのオレンジを取り、腰のナイフを抜いて皮に切れ目を入れながら京哉が訊いた。

「もうレアメタルの採掘も始まってるんですって?」
「それは俺の領域だな」

 聞いていたクーンツが笑みを浮かべて身を乗り出した。

「副大統領とは名ばかりで俺は渉外係長なんだ」
「せめて部長くらい名乗ったら……いや、副大統領兼、外務大臣だったか」

 バイヨルが揶揄して皆が笑う。

「とにかく、だ。現在はライネ資源工業にアダン総合金属株式会社、ダーマー工業が名乗りを上げてこの三社に採掘権を持たせている。税率はマーティンとルークに相談して決めたがこれだけでも砂の花輸出時と殆ど変わりない外貨が得られて、レアメタルの威光には全く驚かされるばかりだ。中小企業と聞いていたから余計に驚いたよ」

 更にハミッシュが付け加えた。

「かつてと違って利益を独占する者がいなくなった分、村々への配給物資も少しは厚みを増せた。砂漠の灌漑が行われて食糧自給率が上がるまで、皆を飢えさせずに済む計算だ」
「それで砂漠の灌漑事業の目処は立っているのか?」

「業者の出入りはあるが、まだ国連からは色良い返答はきていない」
「でもさ、俺たちは時間の問題じゃないかと思ってる」

 と、キャラハンは水筒を振りながら続けた。

「こんな美味しい採掘場を小さな三社だけに独占させて、甘い汁を吸わせておく先進諸国じゃないからな。国際社会の考え方も俺たちだって少しは学習したんだ」

「確かにな。ライネ資源工業とアダン総合金属株式会社にダーマー工業か。どの社も原油採掘から始めたインディペンデント系、つまりメジャーと呼ばれる大手ではない独立系の社だな。中小故に身軽に時代を先取りした採掘場の開発にも携わってきた。なるほどな」

 さすがは霧島カンパニー会長御曹司で、火中の栗を拾いに来た企業も名さえ聞けば簡単に知識を開陳する。だが語りつつも僅かに霧島の目が眇められたのを京哉は見逃さない。

 けれどそんなことなど今は追及する時ではなく、ただ心に留めて京哉は皆と愉しく雑談にいそしんだ。訳して貰ってはいるが英会話の勉強も実践である。

 そのうち砂漠の灌漑がなされたらどうするか、などという雑談に話がシフトした。
 鶏を飼って卵を腹一杯食べるだの、青々とした野菜畑を作るだの、実った小麦の金色の大地を見たいなどと、皆の夢は膨らんでいるようだった。キャラハンは不似合いにも花畑を作るなどといって、皆から胡散臭そうな顔をされる。

「ところで霧島さんに鳴海くん。貴方たちは何処に泊まってるの?」

 ジョセに訊かれ、二人は宿の名前さえ覚えていないことに気付く。

「空港に向かって右側、一階がコンクリートブロックで上がプレハブみたいな……」
「ああ、ティーノの所ね。でも今晩からはうちに来て貰うわよ」
「ちょっと待てよ、ジョセ。俺んとこの方が部屋は余ってるぜ」

 レズリーが言うと、キャラハンは一晩中二人と一緒に飲み明かすのだと言い張った。バイヨルやマーティンたちまでが申し出る中、結局はジョセの勢いに押され、霧島と京哉はマクギャリー家に世話になることが勝手に決められた。

 十五時に採掘場の視察という予定が入っている首脳陣に、霧島と京哉も同行することを許されて一旦歓迎の茶会はお開きになる。
 雑事があるという大統領と副大統領、その他の首脳陣を置いて、二人は後片付けを手伝って終わらせ、ジョセとユーリン、クリフに続いて学校から出た。

 外は相変わらず殺人的な暑さだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...