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第28話
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パオに帰り着くと二十時前で、日の長いここでまだ日没まで二十分ほどあったが、既に大きな焚き火がひとつと、煮炊き用の焚き火が三つ焚かれ、盛大に燃えさかっていた。
地元組は宴の準備に忙しい。砂の上にラグを敷き、果物や酒などを並べてゆく。
酒は砂漠に生えるロキという茨の実を発酵させたものだ。棘は鋭いものの果実はウズラの卵くらいの大きさで食用にもなり、茨の茎は火持ちの良い燃料にもなるという、砂漠では有難い植物である。
霧島と京哉は主賓ではあったが客というより仲間だ。そこで手伝おうとしたが皆に邪魔だと言われ、パオの裏の小型ヘリへと避難した。随分と涼しくはなってきたが、エアコン慣れした日本人には砂から立ち上る熱がまだつらい。
民間機とは逆、霧島が右のパイロット席、京哉が左のコ・パイ席に座っている。
最新の自動小銃について霧島は京哉から詳しく説明を受けたばかりだった。
「すると急進派武装勢力が武器弾薬の入手ルートとカネがある者をバックに持っているのは間違いないが、何れにせよ問題は『デザート・ローズ計画』だな」
「そもそも僕らも間違えたみたいに特別任務を下した人たちは『ロゼ=エヴァンジェリスタ作戦』に『デザート・ローズ計画』と間違って命名しちゃったんですかね?」
「おそらく、そうじゃないのか。まさかカードの意味が次なる『デザート・ローズ計画』の予告だとは知らなかったのだろう」
「でもここまできて『デザート・ローズ計画』を発動させられませんよね」
「『先進諸国の国土自体を脅して主権を手に入れる』ときたものだ。いっそのこと、さっさとラッセルの毒花野郎をぶち殺すというのはどうだ?」
「忍さん、貴方はやっぱり最近ハードルが低くなりすぎてますよ。よっぽどラッセルが気に食わないんですね、珍しい。分からないでもありませんが、ぶち殺してもそれこそロゼじゃないけれど第二、第三のラッセルが出てくるんじゃないでしょうか?」
「『あれ』がある限り、か」
「何なんでしょうね、作りかけの『あれ』って」
「そうだな……一本くれるか?」
霧島は少しドアを開け、京哉から煙草を一本貰う。京哉も煙草を咥えると二本分にオイルライターで火を点けた。ポケットから吸い殻パックを出す。
「手段を問わず暫定政権を先進諸国に認めさせたい人間は誰だ?」
「『手段を問わず』って言うならラッセルたちの急進派武装勢力でしょうね」
「ラッセルたちに『今までになかった方法』で先進諸国を脅せるか?」
「『ロゼ作戦』だってそうだったじゃないですか」
「ならばラッセルたちが何かを作れるか?」
「砂漠を四駆で放浪しながら作れる形あるものって限られますよね」
「種を蒔いても生えん砂漠だからな」
コンソールに肘をついて京哉は首を傾げた。
「大勢集めて軍事教練やってるとか……だめですね。外から見えるような大掛かりなものだったら軍事衛星でとっくに国連サイドに発見されてる。その割に今日PKFの武装ヘリは彼らを見つけておきながら、死者は出したけど牽制するに留まった」
「PKF、牽いては国連は急進派武装勢力に対して本気ではないということだな」
「損耗を被るから相手にするだけ無駄って感覚かも。頭の上のハエは追い払うけど、わざわざと人員を割いてまでは相手にするだけの価値がないって思ってるとか」
吸い殻パックに灰を落とした京哉はそれを霧島にも差し出す。
「国連、牽いては先進諸国はそれほど焦っていないんだ。長期的に見れば何れ先進諸国がここのレアメタルにありつく日がくる。たった三社がもたらした外貨は絶大だった。プラーグの民衆が貨幣経済社会の垢にまみれて、大手企業の誘致を自ら乞う時がくるだろう」
「急進派は自分たちに旨味のある形でそれをやろうと焦ってるんですよね」
自分も灰を落とし、霧島はドアの隙間から紫煙を吐いた。
「急進派のみならず、ハミッシュたち暫定政権もこのプラーグ国民の想いを代表し切にそれを願っている。手段が違うだけでな」
二人は暫し紫煙を吐いてから吸い殻パックで煙草を消す。霧島が訊いた。
「そこで問題、誰が一番焦っているんだ?」
「急進派、暫定政権、火中の栗を拾いにきた中小企業」
「誰が『あれ』を作り得る? 国連サイドに知られず先進諸国に脅威となる兵器を」
「中小企業、武器メーカー、死の商人……?」
「私はダーマー工業と思っている。あとで今日落とした資料の読み込みだな」
携帯を取り出しクラウドから資料を落とそうとした京哉を霧島はそっと止めた。
「あとでいい。それよりあれを見ろ」
砂漠の地平線に真っ赤な太陽が沈もうとしていた。空は既に青くなく紺色から紫、紫からピンクへと見事なグラデーションになっている。赤い円盤は金のふちどりだ。
気の早い星がひとつ、ふたつと輝き出し、追い立てられるように太陽は砂漠のシルエットに姿を隠そうとしている。まるで熟した果実が樹から落ちてゆくようだった。
ここだけの光景に見入る京哉の瞳は潤んだように輝いていて、霧島は夕日よりもそれに目を奪われる。細い躰を抱き寄せると伊達眼鏡を外させて口づけた。
巧みな誘いに応じた京哉は軽く歯列を開く。侵入した霧島の舌は、柔らかな京哉の舌を捉えて絡んだ。口内を舐め回し唾液をすくい取っては飲み干す。
互いにシートから上体を乗り出し、抱き締め合ってふわりと離れた。
次の瞬間、小型ヘリのドアを叩く音がした。伊達眼鏡をかけ直した京哉が開けると顔を赤くしたユーリンが立っていた。暫く待っていたのかブーツが砂に半ば埋もれている。
「あの、みんなが、主役がいないって……始めるから、来て」
そう言うとユーリンは脱兎の如く駆け出して行ってしまった。
「うーん、見られちゃった」
「前にもあったパターンだが免疫もないクセに男をタラすとは、大した度胸だな」
「砂漠の女性の怖さですよね」
小型ヘリのアビオニクスを落とし二人は外に出た。熱を蓄える水分の少ない砂漠はあっという間に気温が下がり肌寒いくらいである。砂に接した靴底だけがじわりと温かい。
銃を抜くのを阻害しないよう、霧島は布を左肩で結んで袈裟懸けにした。同じく左側で結んで袈裟懸けにした京哉に今度はソフトキス、二人はパオの表側へと歩き出す。
地元組は宴の準備に忙しい。砂の上にラグを敷き、果物や酒などを並べてゆく。
酒は砂漠に生えるロキという茨の実を発酵させたものだ。棘は鋭いものの果実はウズラの卵くらいの大きさで食用にもなり、茨の茎は火持ちの良い燃料にもなるという、砂漠では有難い植物である。
霧島と京哉は主賓ではあったが客というより仲間だ。そこで手伝おうとしたが皆に邪魔だと言われ、パオの裏の小型ヘリへと避難した。随分と涼しくはなってきたが、エアコン慣れした日本人には砂から立ち上る熱がまだつらい。
民間機とは逆、霧島が右のパイロット席、京哉が左のコ・パイ席に座っている。
最新の自動小銃について霧島は京哉から詳しく説明を受けたばかりだった。
「すると急進派武装勢力が武器弾薬の入手ルートとカネがある者をバックに持っているのは間違いないが、何れにせよ問題は『デザート・ローズ計画』だな」
「そもそも僕らも間違えたみたいに特別任務を下した人たちは『ロゼ=エヴァンジェリスタ作戦』に『デザート・ローズ計画』と間違って命名しちゃったんですかね?」
「おそらく、そうじゃないのか。まさかカードの意味が次なる『デザート・ローズ計画』の予告だとは知らなかったのだろう」
「でもここまできて『デザート・ローズ計画』を発動させられませんよね」
「『先進諸国の国土自体を脅して主権を手に入れる』ときたものだ。いっそのこと、さっさとラッセルの毒花野郎をぶち殺すというのはどうだ?」
「忍さん、貴方はやっぱり最近ハードルが低くなりすぎてますよ。よっぽどラッセルが気に食わないんですね、珍しい。分からないでもありませんが、ぶち殺してもそれこそロゼじゃないけれど第二、第三のラッセルが出てくるんじゃないでしょうか?」
「『あれ』がある限り、か」
「何なんでしょうね、作りかけの『あれ』って」
「そうだな……一本くれるか?」
霧島は少しドアを開け、京哉から煙草を一本貰う。京哉も煙草を咥えると二本分にオイルライターで火を点けた。ポケットから吸い殻パックを出す。
「手段を問わず暫定政権を先進諸国に認めさせたい人間は誰だ?」
「『手段を問わず』って言うならラッセルたちの急進派武装勢力でしょうね」
「ラッセルたちに『今までになかった方法』で先進諸国を脅せるか?」
「『ロゼ作戦』だってそうだったじゃないですか」
「ならばラッセルたちが何かを作れるか?」
「砂漠を四駆で放浪しながら作れる形あるものって限られますよね」
「種を蒔いても生えん砂漠だからな」
コンソールに肘をついて京哉は首を傾げた。
「大勢集めて軍事教練やってるとか……だめですね。外から見えるような大掛かりなものだったら軍事衛星でとっくに国連サイドに発見されてる。その割に今日PKFの武装ヘリは彼らを見つけておきながら、死者は出したけど牽制するに留まった」
「PKF、牽いては国連は急進派武装勢力に対して本気ではないということだな」
「損耗を被るから相手にするだけ無駄って感覚かも。頭の上のハエは追い払うけど、わざわざと人員を割いてまでは相手にするだけの価値がないって思ってるとか」
吸い殻パックに灰を落とした京哉はそれを霧島にも差し出す。
「国連、牽いては先進諸国はそれほど焦っていないんだ。長期的に見れば何れ先進諸国がここのレアメタルにありつく日がくる。たった三社がもたらした外貨は絶大だった。プラーグの民衆が貨幣経済社会の垢にまみれて、大手企業の誘致を自ら乞う時がくるだろう」
「急進派は自分たちに旨味のある形でそれをやろうと焦ってるんですよね」
自分も灰を落とし、霧島はドアの隙間から紫煙を吐いた。
「急進派のみならず、ハミッシュたち暫定政権もこのプラーグ国民の想いを代表し切にそれを願っている。手段が違うだけでな」
二人は暫し紫煙を吐いてから吸い殻パックで煙草を消す。霧島が訊いた。
「そこで問題、誰が一番焦っているんだ?」
「急進派、暫定政権、火中の栗を拾いにきた中小企業」
「誰が『あれ』を作り得る? 国連サイドに知られず先進諸国に脅威となる兵器を」
「中小企業、武器メーカー、死の商人……?」
「私はダーマー工業と思っている。あとで今日落とした資料の読み込みだな」
携帯を取り出しクラウドから資料を落とそうとした京哉を霧島はそっと止めた。
「あとでいい。それよりあれを見ろ」
砂漠の地平線に真っ赤な太陽が沈もうとしていた。空は既に青くなく紺色から紫、紫からピンクへと見事なグラデーションになっている。赤い円盤は金のふちどりだ。
気の早い星がひとつ、ふたつと輝き出し、追い立てられるように太陽は砂漠のシルエットに姿を隠そうとしている。まるで熟した果実が樹から落ちてゆくようだった。
ここだけの光景に見入る京哉の瞳は潤んだように輝いていて、霧島は夕日よりもそれに目を奪われる。細い躰を抱き寄せると伊達眼鏡を外させて口づけた。
巧みな誘いに応じた京哉は軽く歯列を開く。侵入した霧島の舌は、柔らかな京哉の舌を捉えて絡んだ。口内を舐め回し唾液をすくい取っては飲み干す。
互いにシートから上体を乗り出し、抱き締め合ってふわりと離れた。
次の瞬間、小型ヘリのドアを叩く音がした。伊達眼鏡をかけ直した京哉が開けると顔を赤くしたユーリンが立っていた。暫く待っていたのかブーツが砂に半ば埋もれている。
「あの、みんなが、主役がいないって……始めるから、来て」
そう言うとユーリンは脱兎の如く駆け出して行ってしまった。
「うーん、見られちゃった」
「前にもあったパターンだが免疫もないクセに男をタラすとは、大した度胸だな」
「砂漠の女性の怖さですよね」
小型ヘリのアビオニクスを落とし二人は外に出た。熱を蓄える水分の少ない砂漠はあっという間に気温が下がり肌寒いくらいである。砂に接した靴底だけがじわりと温かい。
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