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第43話(最終話)
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ダブルベッドで転がるように抱き合い、擦り合っているうちに霧島は京哉のパジャマを破れんばかりに性急に脱がせた。
下着まで引き剥がすと霧島は自らも衣服を脱ぎ捨てる。全ての衣服は床に投げ捨て、互いの裸身を晒し合う。見上げて京哉は溜息をついた。
「わあ、忍さんってば、すごいかも。もう発情期は終わったんじゃないんですか?」
「分からんがお前が欲しくて、もう私はこんなに……また痛くさせるかも知れん」
切なく訴える霧島の躰の中心は京哉が息を呑むほどに滾っていた。そして逞しい胸からは柑橘系のトワレが香っている。ペンハリガンのブレナムブーケだ。京哉も大好きな香りなのだが、いつもは現場に匂いを残せないと言ってつけてくれない。
だが行為の時だけはこうして香らせてくれるのである。
これほどまで自分を欲する男が愛しくて堪らなくなり、京哉は躰を開くと最初から何もかもを露わにしてみせる。
狭い兵舎のベッドと違い、慣れたダブルベッドで二人は存分に溺れた。思い切り溢れさせ合う。時間も気にせず二人は存分に互いを貪った。
そうしていつしか京哉は眩暈のような快感に意識を溶かす――。
◇◇◇◇
ふと目を開くと目前に灰色の目があった。意図を察して腕時計を見せてくれる。
「三時半過ぎ……」
出した声は嗄れていて霧島がベッドサイドのライティングチェスト上のグラスの水を口に含み、飲ませてくれた。三回繰り返しやっとまともな声が出せるようになる。
「忍さん、また貴方は寝てなかったんですか?」
「今から寝るから、ガミガミ言うな。だが……すまん」
「謝ることはないでしょう、僕が誘ったんだし」
「いや、これは私の気分だからな。謝らせてくれ」
そう言って覗き込む霧島の目は格段に落ち着きを取り戻していた。やっと帰ってきたかのような愛し人に京哉は微笑む。そこに霧島は携帯を突き出した。
「どういうルートか知れんが、これがさっき届いた」
枕元に腰掛けた霧島が携帯画面を京哉に見せる。そこには画像が表示されていた。
「あっ、スティードだ。家族も無事だったんですね」
「嫁さんも子供たちも皆、怪我もなかったそうだ。スティードは駐屯地医務室での手術も上手く行って入院中らしい。軍人は続けられないがアルペンハイム製薬の役員から残った社屋の小児病棟での仕事を打診されているという話だ」
「ふうん、良かったですね」
頷いた霧島は普段と変わらぬ顔つき、だが僅かな翳りを京哉は見取る。その脳裏にはアラキバで逝ったイーサン=ハーベイや、ハスデヤ防衛同盟の爆撃で目の当たりにした六百名余りの死傷者を思い浮かべているのだろう。
ふいに目を逸らした霧島はライティングチェストに置いていた京哉の煙草を弄ぶ。
「煙草、吸いたいならどうぞ」
「ん……ああ、吸うか」
オイルライターの蓋がカシャンと閉められ霧島が紫煙で溜息を誤魔化すまで京哉は黙って見ていた。ベッドのふちに腰掛けた愛し人の背に静かに京哉は声を掛ける。
「……何処にでも不公平は転がっていますよ。この日本でもね」
「そんなことは分かっている」
「あんまり考えすぎない方がいいですよ、僕らに可能なことは限られていますし」
「それも分かっている。ただ、私は忘れない。私が確かにこの目で見たあの戦いは、数百人が死んだ一度の戦いではなく、数百の人生が叩き折られた、数百人分の戦いだったということだ。せめてそれを覚えていたいだけだ」
「そっか。忍さんらしいですね」
珍しく二本目の煙草を点けた霧島に京哉はそっと頬を寄せて太腿に擦りつけた。年上の愛し人を京哉はそれでもあまり心配はしていない。自身の力量を超えたことでウダウダ悩む性質ではないのを知っているからだ。
「トリシャとカールの赤ちゃんはミルクをお腹いっぱい飲めるようになるんです。強い子に育ってあの国で今ニコルたちが作った希望をきっと受け継ぐんですよ」
「そうだな。ああ、そういえば画像、もう一枚あるぞ」
煙草を消してベッドに上がった霧島は京哉の被った毛布に潜り込み、まるで子供が秘密基地に隠した宝物でも見せるかのように毛布の中で携帯を操作した。
明るくなった毛布の中でニコルとルーカス、ナイジェルが映し出される。蒼穹の下で笑顔のニコルとルーカスはそれぞれ美人の女性兵士の肩に手を回していた。
「ルーカスはあんな涼しい顔して子供ができたらしい。結婚も決まったそうだ」
「へえ、やりますね。でもああいう国で子供を作るってかなり勇気が要りそうかも」
「だが、みんながみんな踏み止まっていたら、終わってしまうだろう?」
「そうですね。あとでお祝いメールしなくちゃ。今日はもう寝ませんか?」
頷いて霧島は携帯を枕元に放り出す。そして温かな京哉を背後から抱き締めた。
「あれだけ精勤したんだ、今日はもう有休か代休消化にしないか?」
「それは構いませんが、有休にして何をするんですか?」
「……もう一回、だめか?」
「さっき謝った人が。それに忍さん、発情期は終わったんじゃなかったんですか?」
「誰がそんなことを言ったんだ? 私は京哉、お前と一緒にいる限り発情期だぞ」
「あっ、そこは……ああっ、はぁんっ!」
何もない黄色い砂礫の大地でも希望が生み出せることを、笑顔が作れることを教えてくれた彼らからの便りを胸に、思うさま愛し合った二人が眠りに就いたのは夜が明けてからだった。
了
下着まで引き剥がすと霧島は自らも衣服を脱ぎ捨てる。全ての衣服は床に投げ捨て、互いの裸身を晒し合う。見上げて京哉は溜息をついた。
「わあ、忍さんってば、すごいかも。もう発情期は終わったんじゃないんですか?」
「分からんがお前が欲しくて、もう私はこんなに……また痛くさせるかも知れん」
切なく訴える霧島の躰の中心は京哉が息を呑むほどに滾っていた。そして逞しい胸からは柑橘系のトワレが香っている。ペンハリガンのブレナムブーケだ。京哉も大好きな香りなのだが、いつもは現場に匂いを残せないと言ってつけてくれない。
だが行為の時だけはこうして香らせてくれるのである。
これほどまで自分を欲する男が愛しくて堪らなくなり、京哉は躰を開くと最初から何もかもを露わにしてみせる。
狭い兵舎のベッドと違い、慣れたダブルベッドで二人は存分に溺れた。思い切り溢れさせ合う。時間も気にせず二人は存分に互いを貪った。
そうしていつしか京哉は眩暈のような快感に意識を溶かす――。
◇◇◇◇
ふと目を開くと目前に灰色の目があった。意図を察して腕時計を見せてくれる。
「三時半過ぎ……」
出した声は嗄れていて霧島がベッドサイドのライティングチェスト上のグラスの水を口に含み、飲ませてくれた。三回繰り返しやっとまともな声が出せるようになる。
「忍さん、また貴方は寝てなかったんですか?」
「今から寝るから、ガミガミ言うな。だが……すまん」
「謝ることはないでしょう、僕が誘ったんだし」
「いや、これは私の気分だからな。謝らせてくれ」
そう言って覗き込む霧島の目は格段に落ち着きを取り戻していた。やっと帰ってきたかのような愛し人に京哉は微笑む。そこに霧島は携帯を突き出した。
「どういうルートか知れんが、これがさっき届いた」
枕元に腰掛けた霧島が携帯画面を京哉に見せる。そこには画像が表示されていた。
「あっ、スティードだ。家族も無事だったんですね」
「嫁さんも子供たちも皆、怪我もなかったそうだ。スティードは駐屯地医務室での手術も上手く行って入院中らしい。軍人は続けられないがアルペンハイム製薬の役員から残った社屋の小児病棟での仕事を打診されているという話だ」
「ふうん、良かったですね」
頷いた霧島は普段と変わらぬ顔つき、だが僅かな翳りを京哉は見取る。その脳裏にはアラキバで逝ったイーサン=ハーベイや、ハスデヤ防衛同盟の爆撃で目の当たりにした六百名余りの死傷者を思い浮かべているのだろう。
ふいに目を逸らした霧島はライティングチェストに置いていた京哉の煙草を弄ぶ。
「煙草、吸いたいならどうぞ」
「ん……ああ、吸うか」
オイルライターの蓋がカシャンと閉められ霧島が紫煙で溜息を誤魔化すまで京哉は黙って見ていた。ベッドのふちに腰掛けた愛し人の背に静かに京哉は声を掛ける。
「……何処にでも不公平は転がっていますよ。この日本でもね」
「そんなことは分かっている」
「あんまり考えすぎない方がいいですよ、僕らに可能なことは限られていますし」
「それも分かっている。ただ、私は忘れない。私が確かにこの目で見たあの戦いは、数百人が死んだ一度の戦いではなく、数百の人生が叩き折られた、数百人分の戦いだったということだ。せめてそれを覚えていたいだけだ」
「そっか。忍さんらしいですね」
珍しく二本目の煙草を点けた霧島に京哉はそっと頬を寄せて太腿に擦りつけた。年上の愛し人を京哉はそれでもあまり心配はしていない。自身の力量を超えたことでウダウダ悩む性質ではないのを知っているからだ。
「トリシャとカールの赤ちゃんはミルクをお腹いっぱい飲めるようになるんです。強い子に育ってあの国で今ニコルたちが作った希望をきっと受け継ぐんですよ」
「そうだな。ああ、そういえば画像、もう一枚あるぞ」
煙草を消してベッドに上がった霧島は京哉の被った毛布に潜り込み、まるで子供が秘密基地に隠した宝物でも見せるかのように毛布の中で携帯を操作した。
明るくなった毛布の中でニコルとルーカス、ナイジェルが映し出される。蒼穹の下で笑顔のニコルとルーカスはそれぞれ美人の女性兵士の肩に手を回していた。
「ルーカスはあんな涼しい顔して子供ができたらしい。結婚も決まったそうだ」
「へえ、やりますね。でもああいう国で子供を作るってかなり勇気が要りそうかも」
「だが、みんながみんな踏み止まっていたら、終わってしまうだろう?」
「そうですね。あとでお祝いメールしなくちゃ。今日はもう寝ませんか?」
頷いて霧島は携帯を枕元に放り出す。そして温かな京哉を背後から抱き締めた。
「あれだけ精勤したんだ、今日はもう有休か代休消化にしないか?」
「それは構いませんが、有休にして何をするんですか?」
「……もう一回、だめか?」
「さっき謝った人が。それに忍さん、発情期は終わったんじゃなかったんですか?」
「誰がそんなことを言ったんだ? 私は京哉、お前と一緒にいる限り発情期だぞ」
「あっ、そこは……ああっ、はぁんっ!」
何もない黄色い砂礫の大地でも希望が生み出せることを、笑顔が作れることを教えてくれた彼らからの便りを胸に、思うさま愛し合った二人が眠りに就いたのは夜が明けてからだった。
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