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第7話
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幸い休日の間は大事件の報も入らず、月曜から食事当番を交替した霧島はいつもの朝食をこさえた。
霧島の作る朝食は京哉の和食に対し洋食で、バゲットのフレンチトーストに冷凍ほうれん草と京哉の好きな赤いウインナー炒め、カップスープとインスタントコーヒーというメニューである。それらをしっかり摂って二人は出勤した。
白いセダンの運転はジャンケンで負けた京哉で、約五十分後に県警本部庁舎裏の関係者専用駐車場に辿り着く。スムーズな到着に安堵して京哉は車を降りた。
京哉もパトカーを運転するのに必要な青免は持っているが、覆面パトカー慣れしているのと持って生まれた運動・反射神経で運転は霧島にとても敵わない。
お蔭で霧島教官を助手席に乗せてステアリングを握るのは少々緊張するのだ。
ともあれ二人は本部庁舎の裏口へと歩き出したが何やら表の方が騒がしい。
「いったい何なんでしょうね?」
「分からん。デモか街宣車かも知れんな」
腕時計を見ると八時二十分、僅かながら時間があるのを見取って霧島も頷く。二人して庁舎の正面に回ってみた。
庁舎の前庭は全面が駐車場になっている。その向こうの大通りからスピーカーを通した声が響いていた。駐車場を縦断し歩道まで出てみることにする。
すると表通りは大渋滞していた。
大迷惑にもワンボックスカーが超低速で移動し、窓から身を乗り出した男がスピーカーで演説しているのが原因だ。
それだけではなく歩道にはワンボックス乗員の仲間と思しきお揃いの緑色したタスキ掛けの男女が立ち、通り掛かる人々にビラのようなものを配り歩いている。その男女らも声を張り上げていた。
この辺りでは珍しい現象である。それ故に見物渋滞が起こっている訳だ。だが二人ほど暢気でいられなかったらしく警備部の制服組までが出動する騒ぎとなっていた。
二人は何となく納得して踵を返そうとしたが、目敏く走り寄ってきた女性に有無を言わさずビラを押しつけられてしまう。京哉は手にした資源ゴミに目を落とした。
「『他国の内戦を食い物にする悪鬼』。へえ、何処かで見たような見出しですね」
「載っている写真は『戦争を食い物にする男たち』のスチルそのものだな」
「肖像権とか映像著作権とかの侵害に当たらないんでしょうか?」
「知らん。機捜の管轄外だ、関係ない」
「そうですね。でも当代の名士もこうして載ると手配犯みたいに見えて面白いかも」
「縮小されて陰影が濃いから余計だろう。っと拙い。遅刻するぞ、鳴海巡査部長」
「あっ、本当だ。待って下さい、霧島警視!」
慌てて二人は駐車場を縦断し、古めかしくも重々しいレンガ風の外観を持つ十六階建て庁舎の正面エントランスから飛び込んで階段を二階まで駆け上った。左側一枚目のドアを開けるとそこが機捜の詰め所である。
隊長の出勤に気付いた隊員たちが一斉に身を折る敬礼をした。ラフな挙手敬礼で応えておいて霧島はデスクに就く。
一方で京哉は給湯室に駆け込んで茶を配る準備を始めた。お茶汲みだって秘書たる京哉の大事な仕事である。
美味しいと思って貰える茶を皆に飲んで貰い、隊長と副隊長の尻を叩いてノートパソコンでのゲームを止めさせ職務を遂行させるのが京哉の職務だ。
実際はすぐサボる上司二人の書類の代書が職務のメインとなりつつある。
言われた訳ではないが秘書のポストは霧島隊長が京哉のために無理矢理作ってくれたのだと理解していた。
暗殺肯定派の瓦解の件で京哉が暗殺スナイパーだとまではバレなかったが関係者という噂は立ってしまい、『知る必要のないこと』に耳を塞ぎたがる所轄署の仲間から疎外されて仕事にならなくなってしまったのだ。
どうにかして一旦リセットするしかないと思った矢先に当時の課長から機捜への異動を打診され了承したのである。
そういう経緯があるからこそ『必要とされる秘書』でいようと決めていた。
在庁者に茶を配っていると、暢気にも十五分遅刻で副隊長の小田切警部が姿を見せる。
「小田切さん、遅刻ですよ」
「分かってるさ。だけどこいつに時間を取られてね」
振って見せたのは京哉たちも持っている資源ゴミだった。
「だからって渡されるだけで十五分も時間は食わないでしょう。もしかして渡してくれたのがナイスバディな美人の女性でしみじみお話を伺っていたとか?」
「いや、まあ、その……さあて、今日も職務に励むぞ~っ。本日上番は一班か」
「誤魔化したって無駄ですよ、生活安全部の香坂怜警視殿に言いつけますからね」
「私からメールを打っておいてやろう」
「ちょっ、勘弁してくれよ。昨日もあいつから膝蹴り食らって腹に青あざが――」
これでも小田切はキャリアで霧島の二期後輩なのだ。ただ国家公務員総合職試験をビリで何とかクリアしたという違いはあるが、キャリアなる人種である以上とんでもなく優秀な筈である。
けれど男女問わない恋愛遍歴を積み重ねた挙げ句に上から睨まれた。お蔭でたらい回しされてこの機捜に流れ着いたのだ。
二十六歳で霧島に少し足らないくらいの長身に茶色い目の持ち主である。
そうやって普段は軽いタイプだが、特技は射撃で京哉と同じくSAT狙撃班員でもある。機捜副隊長としては限度もあるが、同じ狙撃手として互いに階級は忘れようと言ってくれて、京哉としては気安く話せる相手だった。
気安すぎて霧島は気に食わないらしいが。
三人が騒いでいる間に昨日朝から上番していた三班の隊員と本日上番の一班の隊員が整列していた。交代には小田切が立ち会う。霧島は日報を確認したのち下番して帰ってゆく三班員を労いながらノートパソコンを立ち上げて書類仕事を始めるふりだ。
京哉は空いた湯呑みを下げて洗い物を片付けるとデスクに就き、まずは煙草を咥えた。一本吸いつつノートパソコンの起動を待つ。警邏に出て行く一班の隊員たちを見送りつつ本日の仕事を確認し、そして容赦なく書類を隊長と副隊長に割り振った。
「さあて、麻雀だの空戦ゲームだのに嵌らず、今日もバリバリ仕事をしましょう」
皆が出て行っていきなり詰め所は閑散とする。だがここが静かになることはない。
今も新婚の真偽を顔に出さない生真面目かつ心配性な一班長の竹内警部補が機捜本部の指令台に就いて機捜専務系及び基幹系無線でやり取りする声と、情報収集用に点けっ放しにしてあるTVの音声が響いている。
そこに京哉が上司を叱る声だ。
叱り飛ばしながらも京哉自身は上司二人に任せておいては到底間に合わない報告書類の代書に熱中する。時折上司に檄を飛ばしながら午前中に三通を仕上げて関係各所にメールで送り付けた。
代書も当たり前になりすぎて警視の名と責任の付きまとう書類を重く感じていた頃が懐かしい。
やがて隊員たちが昼食休憩でポツポツ帰ってくる。京哉は席を立ってお茶汲みだ。
隊員たちは相変わらずの幕の内弁当を頬張りながら京哉の方を見てニヤニヤしている。何で皆がこっちを見ているんだろうと暢気な疑問を抱いていた京哉はふいに気付いて内心青くなった。昨日霧島が首筋に複数つけた痕を晒してしまっていたのだ。
「いやいや、隊長も若いからなあ」
「涼しい顔して週末は溜め込んでるもんな」
「鳴海、ちゃんと避妊して貰えたか?」
不思議なほど女性率の低い機捜で皆が下ネタに走るのは仕方ない。話題を提供するのも新入りの務めだと思ってはいた。そんな京哉でもこれは恥ずかしくて堪らず、訳の分からないことを口走る。
「こっ、これはアサリに噛まれたんですっ!」
叫んでおいて三人分の幕の内弁当を確保すると上司二人と自分のデスクに配給し、茶も用意して皆の方を見ないよう昼食に集中する。
ここでは隊員たちの夜食も含め一日四食三百六十五日が全て近所の仕出し屋の幕の内弁当と決まっていた。
迷うことを知らない霧島隊長がそれしか注文しないからだが、季節によってそれなりに内容も変わるので皆も文句は言わない。
霧島の作る朝食は京哉の和食に対し洋食で、バゲットのフレンチトーストに冷凍ほうれん草と京哉の好きな赤いウインナー炒め、カップスープとインスタントコーヒーというメニューである。それらをしっかり摂って二人は出勤した。
白いセダンの運転はジャンケンで負けた京哉で、約五十分後に県警本部庁舎裏の関係者専用駐車場に辿り着く。スムーズな到着に安堵して京哉は車を降りた。
京哉もパトカーを運転するのに必要な青免は持っているが、覆面パトカー慣れしているのと持って生まれた運動・反射神経で運転は霧島にとても敵わない。
お蔭で霧島教官を助手席に乗せてステアリングを握るのは少々緊張するのだ。
ともあれ二人は本部庁舎の裏口へと歩き出したが何やら表の方が騒がしい。
「いったい何なんでしょうね?」
「分からん。デモか街宣車かも知れんな」
腕時計を見ると八時二十分、僅かながら時間があるのを見取って霧島も頷く。二人して庁舎の正面に回ってみた。
庁舎の前庭は全面が駐車場になっている。その向こうの大通りからスピーカーを通した声が響いていた。駐車場を縦断し歩道まで出てみることにする。
すると表通りは大渋滞していた。
大迷惑にもワンボックスカーが超低速で移動し、窓から身を乗り出した男がスピーカーで演説しているのが原因だ。
それだけではなく歩道にはワンボックス乗員の仲間と思しきお揃いの緑色したタスキ掛けの男女が立ち、通り掛かる人々にビラのようなものを配り歩いている。その男女らも声を張り上げていた。
この辺りでは珍しい現象である。それ故に見物渋滞が起こっている訳だ。だが二人ほど暢気でいられなかったらしく警備部の制服組までが出動する騒ぎとなっていた。
二人は何となく納得して踵を返そうとしたが、目敏く走り寄ってきた女性に有無を言わさずビラを押しつけられてしまう。京哉は手にした資源ゴミに目を落とした。
「『他国の内戦を食い物にする悪鬼』。へえ、何処かで見たような見出しですね」
「載っている写真は『戦争を食い物にする男たち』のスチルそのものだな」
「肖像権とか映像著作権とかの侵害に当たらないんでしょうか?」
「知らん。機捜の管轄外だ、関係ない」
「そうですね。でも当代の名士もこうして載ると手配犯みたいに見えて面白いかも」
「縮小されて陰影が濃いから余計だろう。っと拙い。遅刻するぞ、鳴海巡査部長」
「あっ、本当だ。待って下さい、霧島警視!」
慌てて二人は駐車場を縦断し、古めかしくも重々しいレンガ風の外観を持つ十六階建て庁舎の正面エントランスから飛び込んで階段を二階まで駆け上った。左側一枚目のドアを開けるとそこが機捜の詰め所である。
隊長の出勤に気付いた隊員たちが一斉に身を折る敬礼をした。ラフな挙手敬礼で応えておいて霧島はデスクに就く。
一方で京哉は給湯室に駆け込んで茶を配る準備を始めた。お茶汲みだって秘書たる京哉の大事な仕事である。
美味しいと思って貰える茶を皆に飲んで貰い、隊長と副隊長の尻を叩いてノートパソコンでのゲームを止めさせ職務を遂行させるのが京哉の職務だ。
実際はすぐサボる上司二人の書類の代書が職務のメインとなりつつある。
言われた訳ではないが秘書のポストは霧島隊長が京哉のために無理矢理作ってくれたのだと理解していた。
暗殺肯定派の瓦解の件で京哉が暗殺スナイパーだとまではバレなかったが関係者という噂は立ってしまい、『知る必要のないこと』に耳を塞ぎたがる所轄署の仲間から疎外されて仕事にならなくなってしまったのだ。
どうにかして一旦リセットするしかないと思った矢先に当時の課長から機捜への異動を打診され了承したのである。
そういう経緯があるからこそ『必要とされる秘書』でいようと決めていた。
在庁者に茶を配っていると、暢気にも十五分遅刻で副隊長の小田切警部が姿を見せる。
「小田切さん、遅刻ですよ」
「分かってるさ。だけどこいつに時間を取られてね」
振って見せたのは京哉たちも持っている資源ゴミだった。
「だからって渡されるだけで十五分も時間は食わないでしょう。もしかして渡してくれたのがナイスバディな美人の女性でしみじみお話を伺っていたとか?」
「いや、まあ、その……さあて、今日も職務に励むぞ~っ。本日上番は一班か」
「誤魔化したって無駄ですよ、生活安全部の香坂怜警視殿に言いつけますからね」
「私からメールを打っておいてやろう」
「ちょっ、勘弁してくれよ。昨日もあいつから膝蹴り食らって腹に青あざが――」
これでも小田切はキャリアで霧島の二期後輩なのだ。ただ国家公務員総合職試験をビリで何とかクリアしたという違いはあるが、キャリアなる人種である以上とんでもなく優秀な筈である。
けれど男女問わない恋愛遍歴を積み重ねた挙げ句に上から睨まれた。お蔭でたらい回しされてこの機捜に流れ着いたのだ。
二十六歳で霧島に少し足らないくらいの長身に茶色い目の持ち主である。
そうやって普段は軽いタイプだが、特技は射撃で京哉と同じくSAT狙撃班員でもある。機捜副隊長としては限度もあるが、同じ狙撃手として互いに階級は忘れようと言ってくれて、京哉としては気安く話せる相手だった。
気安すぎて霧島は気に食わないらしいが。
三人が騒いでいる間に昨日朝から上番していた三班の隊員と本日上番の一班の隊員が整列していた。交代には小田切が立ち会う。霧島は日報を確認したのち下番して帰ってゆく三班員を労いながらノートパソコンを立ち上げて書類仕事を始めるふりだ。
京哉は空いた湯呑みを下げて洗い物を片付けるとデスクに就き、まずは煙草を咥えた。一本吸いつつノートパソコンの起動を待つ。警邏に出て行く一班の隊員たちを見送りつつ本日の仕事を確認し、そして容赦なく書類を隊長と副隊長に割り振った。
「さあて、麻雀だの空戦ゲームだのに嵌らず、今日もバリバリ仕事をしましょう」
皆が出て行っていきなり詰め所は閑散とする。だがここが静かになることはない。
今も新婚の真偽を顔に出さない生真面目かつ心配性な一班長の竹内警部補が機捜本部の指令台に就いて機捜専務系及び基幹系無線でやり取りする声と、情報収集用に点けっ放しにしてあるTVの音声が響いている。
そこに京哉が上司を叱る声だ。
叱り飛ばしながらも京哉自身は上司二人に任せておいては到底間に合わない報告書類の代書に熱中する。時折上司に檄を飛ばしながら午前中に三通を仕上げて関係各所にメールで送り付けた。
代書も当たり前になりすぎて警視の名と責任の付きまとう書類を重く感じていた頃が懐かしい。
やがて隊員たちが昼食休憩でポツポツ帰ってくる。京哉は席を立ってお茶汲みだ。
隊員たちは相変わらずの幕の内弁当を頬張りながら京哉の方を見てニヤニヤしている。何で皆がこっちを見ているんだろうと暢気な疑問を抱いていた京哉はふいに気付いて内心青くなった。昨日霧島が首筋に複数つけた痕を晒してしまっていたのだ。
「いやいや、隊長も若いからなあ」
「涼しい顔して週末は溜め込んでるもんな」
「鳴海、ちゃんと避妊して貰えたか?」
不思議なほど女性率の低い機捜で皆が下ネタに走るのは仕方ない。話題を提供するのも新入りの務めだと思ってはいた。そんな京哉でもこれは恥ずかしくて堪らず、訳の分からないことを口走る。
「こっ、これはアサリに噛まれたんですっ!」
叫んでおいて三人分の幕の内弁当を確保すると上司二人と自分のデスクに配給し、茶も用意して皆の方を見ないよう昼食に集中する。
ここでは隊員たちの夜食も含め一日四食三百六十五日が全て近所の仕出し屋の幕の内弁当と決まっていた。
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