Shot~Barter.9~

志賀雅基

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第15話

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 皆が着席するとパイロットはターボシャフトエンジンを始動させた。大型輸送ヘリ二機は夜空に次々とテイクオフ。騒音に負けじと京哉は大声を出して霧島に訊く。

「それで、このヘリはリンド島の何処に着くんですかね?」

 京哉の問いを霧島が通訳するとパイロットたちだけでなく向かいに座った兵士たちも笑った。笑いながらまだ十代だろう幼顔をしたロッドという兵士が答えてくれる。

「ブレナン基地、つまり南軍の本拠地ですよ」
「ブレナン家、選挙で勝ったスチュアート=ブレナンか」
「ええ、そうです。南軍の本拠地はブレナン家から取ってブレナン基地、北軍の本拠地はアーキン家から取ってアーキン基地と呼ばれています。我々四名は整備兵でブレナン基地で不足している整備兵を補うために仮配属されるんですよ」
「そんなことも知らないで、あんたらは大丈夫なのかい?」

 聞けば大尉というコ・パイロットが揶揄して、突然の飛び入り参加者が何者か知らない整備兵らがまた笑った。笑われながら霧島がパイロットは少佐との情報も得る。

「でもまあ仕方ねぇか。俺たちも昨日から急に運び屋稼業を命じられたんだからな」

 話し好きらしいコ・パイロット、ジャックなる男がそう言って振り向いた。

「民間航空便が欠航したのとやはり関係あるのか?」

 京哉に通訳してやりながら霧島が繰り出した質問にジャックが頷く。

「国連は南軍に肩入れするんだろう? だからアーキン基地及び北軍領地への民間人だの物資だのの流入を一旦止めて、国連平和維持軍サマに『はい、叩いて下さい』って訳だ。それまでは俺たちラチェン第一から第三までの基地が交代で南に物資を運ぶんだとさ」
「なるほど。だがすぐにはPKFもやっては来ないぞ?」
「その前に北軍を干上がらせようって策じゃないのかい?」
「でもそれなら何でここの政府はその戦法で最初から叩かなかったんですか?」

 真顔になったジャックは京哉に首を傾げてみせた。

「あんたらはカワイ・フィルムの『戦争を食い物にする男たち』を見てないのか?」
「一応知ってはいますが、それが何か?」
「戦争に群がる虫があれだけいたんだ。実際物資の完全封鎖なんかできるもんかい」
「はあ、確かにそうかも知れませんね」

 だが『群がる虫』のいる海外から派遣されてきた二人であっても、乗員たちは疎外することなく、よく喋りよく笑った。
 流行りのギャグドラマの話などで盛り上がったりして、約一時間を愉しく過ごした二人は時差ぼけ対策にまた眠ることを宣言し目を瞑った。

◇◇◇◇
 
 酷い騒音にも負けずしっかり眠った二人は到着十五分前に声を掛けられ目を覚ました。
 まだポリカーボネートの窓外は薄暗い空で星が瞬いている。

 目を擦りながら現在時を腕時計で確かめた。四時四十五分、予定通りの順調なフライトだったらしい。

「よく寝たな。このまま起きていれば時差ぼけも解消か」
「でもそうなるとかなり昼間が長いですよね。覚悟しなきゃ」
「それより腹が減ったんだが、ブレナン基地で何か食わせて貰えるんだろうな?」

 言い終わらぬうちに霧島の腹が豪快に鳴る。赤くなった京哉が言い訳に走った。

「ちゃんと食べさせてますから!」

 目茶苦茶な英単語の羅列でも意味は通じたらしく皆が大笑いする。

「国連からのお客人を飢えさせたりしねぇさ。食料は積んできた。厨房の食料庫が空になるまで食ってくれていい。それとここの食事は基本的に七時、十二時、十九時でプラス夜食。だが今の時間でも俺たち相手に食堂は開いてる筈だ、安心してくれ」

 その他に十時と十五時にお茶の時間を取ることが多いだの、ブレナン基地では第二食堂の方が厨房長の腕が良いだのといった情報も仕入れると、もうランディングだ。

 大型輸送ヘリは二機連なって無事着陸し、皆と一緒に二人も降機した。

 降りてみるとそこはコンクリートで整地されたヘリ専用の駐機場エプロンのようだった。ここも強力なライトで照らされた中、迷彩塗装された小型偵察機から中型汎用ヘリに大型の輸送ヘリ、更に二十ミリバルカン砲とミサイルポッドを抱いた攻撃ヘリまでがノーズを揃えて綺麗に並んでいる。

 目の前には巨大なカマボコ型の格納庫が三棟も建っていた。

「かなりの大規模基地らしいな」
「そうですね。それに緯度はラチェンと変わらないけど、こっちはもっと暑いかも」
「この時間でこの暑さだ、昼間が思いやられるな」

 喋りながら辺りを見回していると陽気な声が掛かる。

「ヘイ、こっちだ。メシを食いに行くぞ!」

 大声を出したのはジャックで整備兵たちも一緒にいた。寡黙なパイロットは他に用でもあるのか、オープン型車両に乗って何処かに運ばれて行くところだった。

 二人はブロックの間から草が生えだした小径を歩きながら周囲を観察した。

 ここが最初から戦場になることを想定していたのかどうかは定かではないが、ラチェン第一基地のようなドでかいビルといった無茶な建物は見当たらない。
 見える限りでは背の低い、せいぜい三階建てくらいの建物が並んでいるばかりだ。それも殆どがカネの掛からないプレハブ建築を少し頑丈にしたようなものが多かった。

 それらの間を輸入物かライセンス生産か知らないが、ドイツのヘッケラー&コッホ社製サブマシンガンMP5の旧いモデルをスリングで提げた兵士が行きつ戻りつしている。一定時間で交代する歩哨というヤツだろう。

 MP5の使用弾は二人も所持するシグ・ザウエルP226と同じ九ミリパラだが、銃は通常なら銃身バレルが長くなると燃焼ガス圧が高くなり初速が速くなって射程距離も伸びるため、MP5の有効射程は約二百メートルだ。

 そのような殺傷兵器がこの基地内でいったい何を警戒対象にしているのか京哉には分からない。ジャックたちと同行しているので迷彩服の彼らに誰何すいかされなかったが、私服で異国人の目立つ自分たちは不審そうな目で追われてやや歩調が早くなる。

 砲塔を付けた戦車や高射砲、他にもあったヘリのエプロンなどを見物しつつ、普通だったら車両移動する距離を十五分近くもかけて歩き、第二食堂に辿り着いた。

 食堂は士官と下士官以下に分かれていたが、整備兵らに合わせてジャックは下士官以下の方へとためらいなく入った。ここは京哉と霧島も倣って下士官以下の方だ。

 中はトレイを持って並ぶとカウンター内からプレート類が差し出されて受け取る方式だった。警察内の食堂にもありがちなパターンである。京哉たちも何ら戸惑うことなく料理の載ったトレイを手にテーブルに着いた。

 私服の外国人二人は相変わらず人目を惹いているようだったが、食欲を満たす目的を前にしては何事も意に介さず食事にありつく。

「あ、このお魚のムニエルは美味しいかも」
「こっちのワンタン風スープもレシピを知りたいところだな」

 あれこれとメニューを評しながら染みついたサツカンの早食いで瞬く間に食し終えた。トレイを片付けると京哉は喫煙所を探して食堂を出る。
 勿論初めての海外で霧島は京哉を独りにしない。寄り添って一緒に出るとすぐに兵士ら数名が囲んでいる大きな空き缶を見つけた。

 そこで霧島も京哉から一本貰う。元々大学時代まで吸っていたのだ。ここでは異国人で私服のよそ者に警戒する地元兵士らに同じ喫煙者として連帯感を植え付ける策だった。
 一本目を吸っている間にジャックもやってきて仲間に加わる。

 ジャックと京哉のお粗末な片言英語の会話を暫し聞いてから、霧島は京哉に双方向通訳しつつ情報収集を始めた。
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