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第17話
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スライドドアを開けて外に出るなり京哉は弾んだ声を上げた。
「うわあ、海ですよ、忍さん! すごい、眩しい!」
「おっ、青くて綺麗だな」
視界の手前半分は白い家屋が建ち並んだ住宅地で、その向こうが波頭も輝く海だった。影の濃いコントラストはこれぞ南国といった光景で京哉は立ち尽くし見入る。
「忍さん、僕、今すごく貴方とキスしたいかも」
「幾らでもしてやる」
パイロットたちの視線にも構うことなく霧島は京哉を抱き締めて口づけた。唇を貪られ舌を絡め合わせられて京哉も積極的に応える。互いに唾液を吸い合った。
「んっ、んんぅ……ん、はあっ! すみません」
「何を謝るんだ、私はこれだけでも特別任務を受けた甲斐があったと思っているぞ」
「それならいいんですけど、今更ちょっと恥ずかしいかも」
「では気持ちを切り替えて船を出して貰う交渉だ」
家屋の裏手にある畑から直接やってきたらしい村の男女が老いも若きも総出でヘリからコンテナを降ろしていた。それに京哉と霧島も混ざって積極的に手伝う。
手伝っている間にマルカ島へ向けて一時間後に出る船に乗せて貰う約束を取り付けた。勿論料金は支払ったが一人百ドルという額が安いのか高いのか京哉には全く分からなかった。
待ち時間に京哉は吸い殻パックを手にして霧島と海沿いを散策する。
荷下ろしを手伝っている間に霧島が聞いたのだが、ここの海は綺麗だがプランクトンが少なく意外と魚介類は獲れないらしい。それでも海際は小規模な漁港になっていて人一人の指の数くらいの漁船が停泊していた。二人は船を一隻ずつ見学する。
やがて重々しいエンジン音が響いてきた。漁船の陰から一隻の船がこちらにやってくる。白地にブルーのラインがペイントされたそれは漁船ではなく、元は観光客相手の遊覧船だったのかも知れない。今は貨物船のようだが見た目は小綺麗だ。
おそらくこれが二人をマルカ島へと運んでくれる船だろう。
接岸した貨物船から顔を見せた中年男二人がこちらに片手を挙げて挨拶した。京哉と霧島も手を挙げて応える。男の一人が歩み板を渡したが彼ら自身は身軽に陸へと飛び移ってきた。二人共に半袖のTシャツとジーンズで、露出している肌は見事に日焼けしていた。
こちらに来てから京哉は思うが大男が多い。
霧島も日本人基準からすれば飛び抜けた長身で百九十センチ近くあるが、それに匹敵する長身なだけでなく、着痩せする霧島より明らかに筋骨隆々とした男が数多く見受けられる。
勿論全員が長身マッチョではないが、この船乗りたちも二人共大男だ。
霧島がいるからまだいいが京哉は子供扱いされそうで妙に身構えてしまう。
歩み板を渡って貨物船に乗り込むと男の片方が白い歯を見せて笑い、何事か言った。屈託ない笑顔に安堵して京哉は霧島が通訳してくれるのを待つ。
「美人二人を待たせてすまないな。あと四人、予約客がくる筈なんだ」
「マルカ島までどのくらい掛かるんだ?」
「最速でも三時間は掛かる。おっ、客が半分きたぞ」
目を上げると確かに家屋の方から走ってくる二人の男が視界に入った。
ぜいぜいと肩で息をしながら歩み板を踏んで甲板に駆け上ってきた男二人は、それほど大柄ではなかった。中肉中背を仕立ての悪いスーツに包み、首からはゴールドチェーン、腕時計はギラギラという明らかに何処かの三下といったチンピラだった。
続けて残りの客が現れる。
何処からか車で乗り付け乗り捨てた男二人は、こちらも大男という訳ではなく着崩したスーツに首から金のチェーンを下げ、腕時計は胡散臭いダイヤでデコレーションされているという、ある種の制服を身に着けたチンピラだった。
全員京哉と同じくらいの年齢と思われるが肩で風を切る様も堂に入っている。
だがあっけらかんと明るい朝日の下では彼らもタダの若者だ。
予定人数が揃った貨物船はすぐに出航した。京哉と霧島は舷側から海を見渡す。
「海水浴するヒマはなくても、これなら海を満喫できますね」
「ああ。なかなか気分がいいな」
霧島も一級小型船舶操縦士の資格を持ち、霧島カンパニー所有のクルーザーを操るくらいで海は嫌いではない。機会を見つけては京哉を乗せて二人きりの時間を愉しんでいるのだ。沖に出てしまえば事件の報も入らず甘い時間を邪魔されずに済むという理由もある。
「わあ、波で虹ができてる! すごい、綺麗!」
「分かった。分かったから、そんなに乗り出すと落っこちるぞ」
あっという間に漁港を離れた貨物船は海の只中に乗り出していた。船体にぶつかり砕ける波頭の粒が朝日を含んで弾けている。
船の重々しいエンジン音は五月蠅かったが波は穏やかで、水平線がくっきりと弧を描く様子は胸がすくような光景だった。
暫し光景を眺めて騒いだら納得したので二人は船室へと赴いた。
客専用の船室はなく、操舵するブリッジと客室が一緒になっていた。日焼けした男たち二人が操船している背後のテーブル席で、客が二人一組でガンの飛ばし合いをしている。
自己紹介など聞かなくても互いに別の組織に属しているのだろうと予想はついた。四人全員が三白眼で睨み合いまさに一触即発の緊張感が張り詰めていた。
だが殺し合いが始まっても構わない京哉と霧島は彼らを一瞥したのみで、操舵する二人に近づく。操舵も殆どオートらしく日焼けした中年男らは雑談に興じていた。
何となく用ありげに傍に立ってみると男らは京哉と霧島を改めてまじまじと見る。
「何だ何だ。この外国人さんたちは二人とも、すげぇ別嬪さんだなあ、おい」
「こんな美人がいったい何しにきたんだ?」
答えず京哉は伊達眼鏡を外し、必殺・男殺しの微笑みを浮かべて質問返しに出た。
「戦場カメラマンのコウジ=マミヤ、間宮孝司をご存じないですか?」
「さあ? お前、聞いたことあるか?」
「いいや、初耳だ」
期待していなかったので落胆せず片言英語の京哉は微笑み仮面のまま引き下がる。
「ヒマならそっちの厨房でコーヒーでも淹れて飲んでてくれ」
「じゃあ、遠慮なく頂きます」
踵を返すとチンピラたちがテーブル上で額に銃口を突きつけ合っていた。
彼らを横目にギャレイに入ると小鍋で湯を沸かし、冷蔵庫にあった豆で京哉が早速コーヒーを淹れる。カップ四つに注ぎ分けると二つを操舵している男らに持って行った。
チンピラたち四名は片手にカップを持たせると銃のトリガに指を掛けたもう片手がお留守になりそうだったのでコーヒーは配給しない。
ギャレイに戻ると京哉はそっと霧島の表情を窺った。年上の愛し人がいきなり不機嫌に陥ったのは自分が眼鏡まで外して他人に対し過剰に愛想良くしたからだと分かっている。そこでカップを持ったまま霧島をキャビンの外に再びつれ出した。
舷側でベンチみたいな箱に並んで腰掛けて、海を見ながらのコーヒータイムと洒落込む。そのうち霧島の機嫌も上向いてきたようだ。
「このビオーラは一般人も銃を持てるのか?」
「ああ、あのチンピラ。でも英語で分からないから貴方が検索して下さい」
京哉から渡された携帯で霧島はいかにも面倒臭そうに検索を始めた。すぐに答えが得られて英語の勉強とばかりに京哉に小さな画面を見せながら英文を指し示す。
「ここも日本と同じだ。一般人は銃の携帯が禁止されている」
「ふうん、そうですか。けどまあ、僕たちには関係ないですしね」
「得物は何か分かったか?」
「タウルスとベレッタ。でも全部パチものです。ちゃんと弾が出ればいいですね」
紫煙を吐きつつ京哉は大海原を見渡した。漁船なのか遠くに何艘か浮かんでいる。
「リンド島以外、島は見当たらないなあ」
「地球は丸いからな。この船上からでも見通し距離はせいぜい七、八キロだろう」
「それはそうですね。かなり遠くまで狙えそうかも」
「だが赤道付近だとコリオリ力も馬鹿にできんという話だな」
京哉は太陽を仰いで頷く。
「ええ。南北方向は特に影響を受けますよ。当然ながら地球の自転速度は一番膨らんでいる赤道上が最も速いですから。その速度はじつに時速約千七百キロメートル、放った弾丸もある意味自転する地球に置いて行かれる。遠距離狙撃ほど着弾点がずれる訳です」
「なかなか勉強になるな、スナイパーとしてのお前の相棒初心者としては」
「今はそういうの忘れませんか? あとたっぷり二時間はこの海を堪能できますよ」
「お前が言い出したんだぞ。しかし泥棒任務中でも心が潤う光景だな」
だが緩んでいたらキャビンから大声が響いてきた。のっそりと霧島が腰を上げる。
「何です、介入するんですか?」
「パチもの銃で船の底板に穴でも空けられては敵わん」
仕方なく京哉も煙草を吸い殻パックに突っ込むとポケットにしまい、カップ片手に霧島のあとを追ってキャビンに入ってみた。
すると四人のチンピラは床で掴み合い、もつれていた。ある者は鼻血を出し、ある者は目の周りを青く染めている。
おまけにそれぞれ片手に銃を持ったまま指はしっかりトリガに掛かっていて、程度は低いが危険度の高い喧嘩だった。他人の船で命懸けの縄張り争いとは頭が悪すぎて呆れる。
二人で眺めていると男が赤毛をむしられながら霧島を見上げて叫んだ。
「兄貴、こいつら何とかして下さいよ!」
こちらも金髪を掴まれ顔を変形させながら一人が霧島に訴える。
「頼んますよ、兄貴! 一発ぶちかまして海に放り込みましょうよ!」
「いつ私がお前らの兄貴になったんだ?」
低く唸りながら霧島はもつれたチンピラたちの襟首を捕まえて引き離した。チンピラ四人は全員不服そうだったが、その不服を身体で表現した男たちに軽く逮捕術で関節をキメてやる。
更にドスの利いた異国の言葉を聞いて大人しく銃をしまった。
「手を焼かせるんじゃない、水葬の主人公にするぞ」
静かになったので再び舷側に出てベンチ状の箱に京哉と腰掛ける。そのうち欠伸が出て霧島は京哉の薄い肩に凭れた。まだ時差ぼけ解消とはいかなかったらしい。
「眠らない方がいいですよ。紫外線は強いし、潮風で風邪引きますから」
「ああ、分かっている」
そう言いながらも霧島は眠る気満々で目を瞑った。
「うわあ、海ですよ、忍さん! すごい、眩しい!」
「おっ、青くて綺麗だな」
視界の手前半分は白い家屋が建ち並んだ住宅地で、その向こうが波頭も輝く海だった。影の濃いコントラストはこれぞ南国といった光景で京哉は立ち尽くし見入る。
「忍さん、僕、今すごく貴方とキスしたいかも」
「幾らでもしてやる」
パイロットたちの視線にも構うことなく霧島は京哉を抱き締めて口づけた。唇を貪られ舌を絡め合わせられて京哉も積極的に応える。互いに唾液を吸い合った。
「んっ、んんぅ……ん、はあっ! すみません」
「何を謝るんだ、私はこれだけでも特別任務を受けた甲斐があったと思っているぞ」
「それならいいんですけど、今更ちょっと恥ずかしいかも」
「では気持ちを切り替えて船を出して貰う交渉だ」
家屋の裏手にある畑から直接やってきたらしい村の男女が老いも若きも総出でヘリからコンテナを降ろしていた。それに京哉と霧島も混ざって積極的に手伝う。
手伝っている間にマルカ島へ向けて一時間後に出る船に乗せて貰う約束を取り付けた。勿論料金は支払ったが一人百ドルという額が安いのか高いのか京哉には全く分からなかった。
待ち時間に京哉は吸い殻パックを手にして霧島と海沿いを散策する。
荷下ろしを手伝っている間に霧島が聞いたのだが、ここの海は綺麗だがプランクトンが少なく意外と魚介類は獲れないらしい。それでも海際は小規模な漁港になっていて人一人の指の数くらいの漁船が停泊していた。二人は船を一隻ずつ見学する。
やがて重々しいエンジン音が響いてきた。漁船の陰から一隻の船がこちらにやってくる。白地にブルーのラインがペイントされたそれは漁船ではなく、元は観光客相手の遊覧船だったのかも知れない。今は貨物船のようだが見た目は小綺麗だ。
おそらくこれが二人をマルカ島へと運んでくれる船だろう。
接岸した貨物船から顔を見せた中年男二人がこちらに片手を挙げて挨拶した。京哉と霧島も手を挙げて応える。男の一人が歩み板を渡したが彼ら自身は身軽に陸へと飛び移ってきた。二人共に半袖のTシャツとジーンズで、露出している肌は見事に日焼けしていた。
こちらに来てから京哉は思うが大男が多い。
霧島も日本人基準からすれば飛び抜けた長身で百九十センチ近くあるが、それに匹敵する長身なだけでなく、着痩せする霧島より明らかに筋骨隆々とした男が数多く見受けられる。
勿論全員が長身マッチョではないが、この船乗りたちも二人共大男だ。
霧島がいるからまだいいが京哉は子供扱いされそうで妙に身構えてしまう。
歩み板を渡って貨物船に乗り込むと男の片方が白い歯を見せて笑い、何事か言った。屈託ない笑顔に安堵して京哉は霧島が通訳してくれるのを待つ。
「美人二人を待たせてすまないな。あと四人、予約客がくる筈なんだ」
「マルカ島までどのくらい掛かるんだ?」
「最速でも三時間は掛かる。おっ、客が半分きたぞ」
目を上げると確かに家屋の方から走ってくる二人の男が視界に入った。
ぜいぜいと肩で息をしながら歩み板を踏んで甲板に駆け上ってきた男二人は、それほど大柄ではなかった。中肉中背を仕立ての悪いスーツに包み、首からはゴールドチェーン、腕時計はギラギラという明らかに何処かの三下といったチンピラだった。
続けて残りの客が現れる。
何処からか車で乗り付け乗り捨てた男二人は、こちらも大男という訳ではなく着崩したスーツに首から金のチェーンを下げ、腕時計は胡散臭いダイヤでデコレーションされているという、ある種の制服を身に着けたチンピラだった。
全員京哉と同じくらいの年齢と思われるが肩で風を切る様も堂に入っている。
だがあっけらかんと明るい朝日の下では彼らもタダの若者だ。
予定人数が揃った貨物船はすぐに出航した。京哉と霧島は舷側から海を見渡す。
「海水浴するヒマはなくても、これなら海を満喫できますね」
「ああ。なかなか気分がいいな」
霧島も一級小型船舶操縦士の資格を持ち、霧島カンパニー所有のクルーザーを操るくらいで海は嫌いではない。機会を見つけては京哉を乗せて二人きりの時間を愉しんでいるのだ。沖に出てしまえば事件の報も入らず甘い時間を邪魔されずに済むという理由もある。
「わあ、波で虹ができてる! すごい、綺麗!」
「分かった。分かったから、そんなに乗り出すと落っこちるぞ」
あっという間に漁港を離れた貨物船は海の只中に乗り出していた。船体にぶつかり砕ける波頭の粒が朝日を含んで弾けている。
船の重々しいエンジン音は五月蠅かったが波は穏やかで、水平線がくっきりと弧を描く様子は胸がすくような光景だった。
暫し光景を眺めて騒いだら納得したので二人は船室へと赴いた。
客専用の船室はなく、操舵するブリッジと客室が一緒になっていた。日焼けした男たち二人が操船している背後のテーブル席で、客が二人一組でガンの飛ばし合いをしている。
自己紹介など聞かなくても互いに別の組織に属しているのだろうと予想はついた。四人全員が三白眼で睨み合いまさに一触即発の緊張感が張り詰めていた。
だが殺し合いが始まっても構わない京哉と霧島は彼らを一瞥したのみで、操舵する二人に近づく。操舵も殆どオートらしく日焼けした中年男らは雑談に興じていた。
何となく用ありげに傍に立ってみると男らは京哉と霧島を改めてまじまじと見る。
「何だ何だ。この外国人さんたちは二人とも、すげぇ別嬪さんだなあ、おい」
「こんな美人がいったい何しにきたんだ?」
答えず京哉は伊達眼鏡を外し、必殺・男殺しの微笑みを浮かべて質問返しに出た。
「戦場カメラマンのコウジ=マミヤ、間宮孝司をご存じないですか?」
「さあ? お前、聞いたことあるか?」
「いいや、初耳だ」
期待していなかったので落胆せず片言英語の京哉は微笑み仮面のまま引き下がる。
「ヒマならそっちの厨房でコーヒーでも淹れて飲んでてくれ」
「じゃあ、遠慮なく頂きます」
踵を返すとチンピラたちがテーブル上で額に銃口を突きつけ合っていた。
彼らを横目にギャレイに入ると小鍋で湯を沸かし、冷蔵庫にあった豆で京哉が早速コーヒーを淹れる。カップ四つに注ぎ分けると二つを操舵している男らに持って行った。
チンピラたち四名は片手にカップを持たせると銃のトリガに指を掛けたもう片手がお留守になりそうだったのでコーヒーは配給しない。
ギャレイに戻ると京哉はそっと霧島の表情を窺った。年上の愛し人がいきなり不機嫌に陥ったのは自分が眼鏡まで外して他人に対し過剰に愛想良くしたからだと分かっている。そこでカップを持ったまま霧島をキャビンの外に再びつれ出した。
舷側でベンチみたいな箱に並んで腰掛けて、海を見ながらのコーヒータイムと洒落込む。そのうち霧島の機嫌も上向いてきたようだ。
「このビオーラは一般人も銃を持てるのか?」
「ああ、あのチンピラ。でも英語で分からないから貴方が検索して下さい」
京哉から渡された携帯で霧島はいかにも面倒臭そうに検索を始めた。すぐに答えが得られて英語の勉強とばかりに京哉に小さな画面を見せながら英文を指し示す。
「ここも日本と同じだ。一般人は銃の携帯が禁止されている」
「ふうん、そうですか。けどまあ、僕たちには関係ないですしね」
「得物は何か分かったか?」
「タウルスとベレッタ。でも全部パチものです。ちゃんと弾が出ればいいですね」
紫煙を吐きつつ京哉は大海原を見渡した。漁船なのか遠くに何艘か浮かんでいる。
「リンド島以外、島は見当たらないなあ」
「地球は丸いからな。この船上からでも見通し距離はせいぜい七、八キロだろう」
「それはそうですね。かなり遠くまで狙えそうかも」
「だが赤道付近だとコリオリ力も馬鹿にできんという話だな」
京哉は太陽を仰いで頷く。
「ええ。南北方向は特に影響を受けますよ。当然ながら地球の自転速度は一番膨らんでいる赤道上が最も速いですから。その速度はじつに時速約千七百キロメートル、放った弾丸もある意味自転する地球に置いて行かれる。遠距離狙撃ほど着弾点がずれる訳です」
「なかなか勉強になるな、スナイパーとしてのお前の相棒初心者としては」
「今はそういうの忘れませんか? あとたっぷり二時間はこの海を堪能できますよ」
「お前が言い出したんだぞ。しかし泥棒任務中でも心が潤う光景だな」
だが緩んでいたらキャビンから大声が響いてきた。のっそりと霧島が腰を上げる。
「何です、介入するんですか?」
「パチもの銃で船の底板に穴でも空けられては敵わん」
仕方なく京哉も煙草を吸い殻パックに突っ込むとポケットにしまい、カップ片手に霧島のあとを追ってキャビンに入ってみた。
すると四人のチンピラは床で掴み合い、もつれていた。ある者は鼻血を出し、ある者は目の周りを青く染めている。
おまけにそれぞれ片手に銃を持ったまま指はしっかりトリガに掛かっていて、程度は低いが危険度の高い喧嘩だった。他人の船で命懸けの縄張り争いとは頭が悪すぎて呆れる。
二人で眺めていると男が赤毛をむしられながら霧島を見上げて叫んだ。
「兄貴、こいつら何とかして下さいよ!」
こちらも金髪を掴まれ顔を変形させながら一人が霧島に訴える。
「頼んますよ、兄貴! 一発ぶちかまして海に放り込みましょうよ!」
「いつ私がお前らの兄貴になったんだ?」
低く唸りながら霧島はもつれたチンピラたちの襟首を捕まえて引き離した。チンピラ四人は全員不服そうだったが、その不服を身体で表現した男たちに軽く逮捕術で関節をキメてやる。
更にドスの利いた異国の言葉を聞いて大人しく銃をしまった。
「手を焼かせるんじゃない、水葬の主人公にするぞ」
静かになったので再び舷側に出てベンチ状の箱に京哉と腰掛ける。そのうち欠伸が出て霧島は京哉の薄い肩に凭れた。まだ時差ぼけ解消とはいかなかったらしい。
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