Shot~Barter.9~

志賀雅基

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第22話

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 どうしてくれると訊かれてもカネ以外での落とし前の付け方など、霧島には思いつかなかった。事実として他にどうしようもない。
 けれどフィルムまで全てやられてコージは相当機嫌が悪いらしく、壊れた黒いカメラを霧島に突きつけるばかりだ。

 異様に空気が悪い中、代案を捻り出せないまま野次馬をかき分けて地元警察の一団がなだれ込んでくる。

 それから暫くは実況見分に時間を取られ、カフェテラスに置きっ放しだった銀のデジタルカメラ・ドルガE5をコージが回収してみると、画像データを取り込んだメモリが盗まれていたという有様で更にコージの機嫌は悪くなった。

 そのあとも任意同行に応じて所轄署での取り調べなどで忙しくなり、ようやく三人が釈放パイされてみると二十一時を過ぎていた。

 マルカ署を出た三人は空腹を埋めるべくファミリーレストランに足を運んだ。ボックス席でメニュー表を眺めてそれぞれセットメニューを頼む。
 京哉が煙草を出すと珍しく霧島は一本要求した。京哉は箱ごと予備の使い捨てライターと一緒に渡す。

 オイルライターで京哉に火を点けて貰い、霧島は盛大に紫煙を吐き出した。そうしながらコージがネチこく壊れたフィルム式カメラを抱いているのに苛ついていた。
 幾ら大事なものとはいえ、それは粘着気質すぎるだろうと眉間に不愉快を溜める。

 とりなそうと京哉がなるべく柔らかな口調でコージを宥めてみた。

「コージ、それでも貴方が今、生きてるのは忍さんのお蔭ってこと、分かってますよね? 忍さんがいなかったらコージは今頃死体置き場モルグだったかも知れませんよ?」
「分かってるさ、僕が狙われたってことは。でもそれとこれとは別だ」
「別じゃないと思いますけどね。貴方を助けるためにそのカメラは壊れた。仕方ないじゃないですか、命の代償ですよ」
「……」

 頑ななコージの様子に京哉もお手上げである。そこにようやく料理が運ばれてきて三人は黙々と食事にいそしんだ。長い一日を終えて京哉と霧島は欠伸を噛み殺す。

 レジで精算しミルドホテルに戻るとフロントでコージは京哉たちの隣の三〇六号室を取ってから三階に上がった。二人はコージと携帯ナンバーとメアドを交換してそれぞれ部屋に引っ込む。

「特別任務は終わったが後味が悪すぎるな」
「感情論はどうしようもないですもんね」
「だからってあれはネチこすぎるだろう。どうしろというんだ、いったい」
「何処までも食い下がるカメラマン魂ってヤツなのかも」
「ふん。まあ、私も三分の一くらいは悪いと思っているのだがな」

 そう言って霧島がジャケットのポケットからするりと出して見せたのは、盗まれた筈のドルガE5のメモリだった。京哉は唖然として手渡されたそれを眺める。

「って、忍さん、これいつの間に?」
「コージの部屋が爆破された直後だ。私にも考えろとお前が言うからだぞ」
「僕のせいで泥棒に及んだみたいに言いますか。それにしてもすんごい早業ですね。スリとかに職替えしても食べて行けそうなくらい器用かも。でもこれで本当に特別任務は完遂ってことかあ」

 任務完了の安堵感から霧島も京哉の言葉に乗っかって胸を張った。

「お前がタタキで地元警察に捕まるよりマシと思って、私がコソ泥の汚名を着たんだぞ。感謝して欲しいものだな。だがカメラの補償問題は明日に持ち越しか。先にシャワー浴びるぞ」
「どうぞ、ごゆっくり。ドロボー隊長」

 シャワールームに消える霧島を目で追い、京哉はずっと担いでいたショルダーバッグから着替えの下着を出し脱衣所のかごに置いてやった。十分かからず出てきた霧島と交代する。すれ違う際に霧島とソフトキスを交わしシャワールームに向かった。

 衣服を脱いで熱いシャワーを浴び、最後に冷たいシャワーで躰を冷ましてから上がる。警察官にしては長めの髪まで丁寧に乾かすと疲れも蒸発したような気がした。

 下着とホテルの薄いガウンを身に着けて部屋に戻ると霧島は携帯で検索していた。覗き込むとカメラのカタログである。しかしフィルム式カメラは数少ない。

「フィルム式は殆ど選びようがないな。それにいいものは結構値が張る」
「どれですか……へえ、五十二万円、すごいですね」
「だからって高ければいいというものでもない気がするな。まあ、それも明日だ」

 あっさり携帯をロウテーブルに放り出し、霧島は手を伸ばすとソファに座った京哉の髪を嬲った。さらりと指から零れる感触が心地良い。

「明日にでも本人に選んで貰うしかないですよね」
「そうだな。何ならカネを渡して念書でも書かせよう」
「幸い今なら税金の詰まったカードも持っていますしね」

 いつの間にか霧島が買ってきてくれた薄荷茶のペットボトルを開け、京哉は喉を潤す。霧島は立ったままミネラルウォーターを飲んでいた。
 飲み干すと霧島は空ボトルを抜群のコントロールでダストボックスにナイス・インさせる。そして京哉の手首を掴んだ。

「ちょっと、零れちゃうじゃないですか」
「なら、置いてくれ。……なあ、いいだろう?」

 甘えの混じる低音に京哉はぞくりと身を震わせた。霧島の切れ長の目には情欲が揺らめき湛えられている。指で優しく髪を梳かれながら素直に頷いた。

「僕も欲しかったです、忍さん。貴方のものだから好きにして下さい」
「ああ、いつでも私はお前が欲しくて堪らない。今日も覚悟しておいてくれ」

 だがその声色とシャープなラインを描く頬に微かな不機嫌が漂っている。

「どうしちゃったんです、何を怒ってるんですか?」
「別に何も怒ってなどいない」
「嘘、怒ってますよ。もしかして忍さんってば、コージに妬いてる?」
「あんな笑顔を他人に振り撒いて、私がコージを撃たなかったのは僥倖だぞ!」

 吹き出しそうになった京哉だが年上の愛し人は本気で機嫌を悪くしているらしい。

「幾ら何でもそんな。あれは特別任務だったから」
「分かっている。分かっているが……妬いたら拙いのか?」
「ううん、妬かれるくらいの方が嬉しいです。でも僕は貴方だけなんですからね」
「それも分かっている。だが……証拠を見せてくれるか?」

 耳元で低く甘く囁いた霧島は京哉の手を引くとその指を口に含む。温かく柔らかな舌に包まれ、ねぶられた指から流れ込む官能的な感触に京哉はまた身を震わせた。

 初めて抱かれた時もこうして指をねぶられて、この男の優しさに触れてしまい離れられなくなったのだ。今も舐められているのはあの時と同じトリガフィンガー、言いたいことは分かる。

「多分、僕は今日、忍さんに心配させましたよね?」
「いいんだ……撃たなかったから、もういいんだ」
「これから先も似たようなシチュエーションに出くわしたら僕は撃ちます。けれど死者を貴方も一緒に背負ってくれている以上、その重みを無駄に増やしはしません」

 今はその言葉だけで充分だと霧島は思った。

「きっと私とお前でバランスが取れているのだろう。踏み込んでしまっているのに決心のつけられない弱い私と、簡単に踏み越えてしまう強すぎるお前と。互いにカヴァーし合って丁度いいんだ」
「そう、なんでしょうか。カヴァーし合えていれば嬉しいんですけど」
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