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第24話
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目を覚ました京哉は反射的に腕時計を見ようとしたが叶わなかった。キッチリと被せられた毛布の上から霧島に固く抱き締められていたからだ。
思い返してみて何となくだが、また自分は失神してしまったのだと想像がつく。誰のせいだとか言い出したらニワトリ卵のような話なので置くとして、さぞかし霧島は心配したに違いない。
「おはようございます、忍さん。貴方はちゃんと寝たんですか?」
「ん、ああ。まあな」
それが嘘なのは赤くした切れ長の目で分かったが、今更どうしようもないので言い募りはしない。京哉の意図を察して霧島が腕時計を見せてくれる。八時十五分。
あれから四、五時間は眠ったのか。ゆっくり起きてみるといつの間にかガウンを着せられている。いつ買ってきたのかアイスティーのボトルを霧島が手渡してくれた。
今日はコージと話をつけて帰るだけだ。窓からはきつい陽光が燦々と降り注いでいて、相当暑くなりそうだった。
そんなことを考えていると霧島がじっと見ている。
「……すまん。何なら宿泊延長するか?」
「大丈夫ですってば。それに僕は気持ち良かったのにどうして謝るんですか?」
「そうか、良かったのか。ならいい。だが実際お前は動けるのか?」
あれこれ言うよりも先に京哉はボトルを霧島に渡すとベッドを滑り降りてみせた。再びボトルを受け取るとソファまで歩いて腰掛ける。それで霧島は安堵したようだ。
最近は京哉も霧島のパートナーとしてさすがに鍛えられてきているのだった。
「では準備して朝飯でも食うか」
「はい。何だかものすごーくお腹が空いちゃいました」
「夜中の運動が効き過ぎたな」
迷い悩むことを知らない性格故か、もうそんな風に平然と言い放つ男と交代でシャワーを浴び、ドレスシャツとスラックスを身に着けるとショルダーホルスタを装着してジャケットを羽織る。共にベルトにはスペアマガジン二本入りのパウチ付きだ。
盗まれても困るのでショルダーバッグ持参、京哉は伊達眼鏡もかけて部屋を出る。
一階カフェテリアのカウンター席ではコージがモーニングセットをつついていた。
コージの右隣に京哉が座り、その更に右に霧島が腰掛ける。同じものを現金と交換に頼んでおいて京哉は火を点けない煙草を咥えた。
霧島はコージから先にカメラの件を切り出させるつもりで黙ったまま様子を見る態勢だ。昨日のネチこさに辟易しているのだった。
その霧島に向かってコージがいきなり言った。
「代替品もカネも要らない。代わりに五日間でいい、僕の下僕になれ!」
「ああ? 下僕だと?」
「そうだ。五日間、僕の言う通りにする。それでカメラの件はチャラだ」
急激に頭にきた。当然だ。
「ふざけるな、何が下僕だ。私はそこまでヒマではない!」
「じゃあ、どうやってレジナG2の落とし前をつけるつもりだ?」
「幾らでも払う、それでいいだろう!」
「あんたは霧島カンパニーの御曹司だろ、なら百億といえば払うのか?」
「子供じゃないんだぞ、不当請求で訴えられたいのか。大体、何故下僕なんだ?」
「あんたらは腕が立つ。だから一緒に来て貰いたい所があるんだ」
そこでカウンターからトレイが差し出され、霧島と京哉は食しながら話を聞いた。
「ニックス=イヴァン将軍に僕は張り付く」
「それは今までと同じだろう。何故腕の立つ人間が必要なんだ?」
「今からちゃんと説明するさ。じつはだな――」
ずっとコージはニックス=イヴァン少将に張り付いてきた。先方もコージの張り付きを承知している筈だった。だがそんなコージにも撮らせない所があるのだという。
「その付近に行くと必ず撒かれるんだ。将軍はその先を絶対に見せない」
「ふん、女でも飼っているんじゃないのか? 野暮な出歯亀はご免だぞ」
意外なことを聞いたとでもいう風にコージは目を瞬かせた。
「女か……そういう可能性もあるのか?」
「訊かれても知らん。で、その将軍の女を撮ったら満足なのか?」
「女はともかく、将軍にはずっと黒い噂が囁かれてるんだ。他国の大物と渡り合ってきただけじゃない、そもそもの内戦の原因である予備選挙に関わる黒い噂が」
薄荷の匂いのアイスティーを啜って京哉が首を傾げる。
「その噂ってどんなのですか?」
「ニックス=イヴァン少将は陰の南軍総司令官だと」
「南軍って……北軍の間違いじゃないんですか、それ?」
「いや、間違いじゃない。噂の真偽はともかくとして」
「うーん、いまいち意味が分からないんですけど……」
「ひとつ言うなら、現在北部アーキン基地副司令のニックス=イヴァンは、この内戦が始まる三年前に異動するまで南部ブレナン基地の副司令だったんだ。その際にスチュアート=ブレナン候補と親交が深かったと聞いている」
そう聞いても京哉には荒唐無稽な話のような気がした。
それに喩えニックス=イヴァンが未だに南軍の旗印であるスチュアート=ブレナン候補と繋がっていても、それがどうしたとしか思えない。
勿論考えれば考えるだけ様々な疑惑は浮かんでくる。だからといって不確定要素の多い内戦の地なんかに長居してもいいことはない。
とにかく特別任務は終わったのだ。海外旅行はプライヴェートで満喫したかった。
一方で霧島は考えてしまっていた。スチュアート=ブレナン候補に義があるとして国連は南軍を政府軍と任じ、梃入れしようとしているのだ。それが何処かで引っ繰り返される事態になれば国連、牽いては国際社会が面目を失うことになる。
「忍さんってばそんな顔して、まさかコージの下僕になるつもりですか?」
「下僕になる気はないが、これはこのまま捨て置けるレヴェルの話ではない」
「確かにそうかも知れないですけど、僕らが首を突っ込むべき話なんですかね?」
「それは今から一ノ瀬本部長に伺いを立てる。いいか?」
いいも悪いもなく京哉は霧島と共に動くのみだ。京哉を窺い霧島が携帯を出す。
「だけど、あああ、何だか嫌な予感がしてきたかも!」
天井を仰いで喚いた京哉は口を尖らせて霧島を恨めしく眺めてから、バディが諦めそうにないのを見て薄荷ティーをストローでじゅるじゅる吸った。
霧島は素早く文面を練ると一ノ瀬本部長にメール送信する。返事を待つ間にトーストとサラダの残りを頬張った。
まもなく霧島の携帯に返信が届いた。嫌々ながら京哉も覗き込む。
「ええと、わあ、やっぱり新しい特別任務だ。【霧島警視及び鳴海巡査部長に特別任務を下す。ビオーラにおいてリンド島内戦の発端となった予備選挙に関わる北部基地副司令ニックス=イヴァン少将の不正疑惑について調査し報告せよ】か。うーん」
「せっかく一件終わったのに私たちは日本にいつ帰れるのだろうな?」
「僕の科白ですよ、それは。自分で言い出しておいて何言ってるんですか。バディの座は譲れないから付き合いますけど、取り敢えず貴方はコージの下僕決定ですね」
「そう言う京哉、お前は下僕その二だろうが」
「そんなこと、コージは言いませんよね?」
あでやかなまでの微笑みにコージはグラスを持ち上げて空と気付きガシャンと置いた。霧島は「ふん」と鼻を鳴らす。
昨日の今朝だというのに京哉はまたもタラシモード発動で非常に機嫌を損ねていた。八つ当たり気味にコージを睨んで低い声で唸る。
「下僕はともかく、今後の予定くらい聞かせて貰いたいのだがな」
「今日、ここを発って北軍の出先基地まで行く。そこからヘリに便乗させて貰って、運が良ければ北軍本拠地のアーキン基地まで出向く。あとはニックス=イヴァン将軍次第だ」
「簡単に言うが、まだドンパチはやっているんだろう?」
「おっ、日本じゃ有名人の大物が、まさか怖いのか?」
「当たり前だ。誰が他国の内戦なんかで死にたいものか。過去に同じく戦場カメラマンが消息を絶っただろう、『もし、うまく地雷を踏んだら サヨウナラ!』とか友人に手紙を寄越してな。それと何ら変わらん、あんた麻痺してるぞ」
まともに指摘されてコージは頬に薄く笑いを浮かべた。
「クメール・ルージュ支配下のアンコールワットに踏み入って処刑され、九年後にようやく遺骨が発見された彼の氏をあんたが知ってたとはね。……麻痺か、確かにそうかも知れないな。初めの頃は恐怖を感じることが怖かった。でもこの生活をしていると恐怖感なんか日常的なもの、もう慣れきってしまったんだ」
「コージ、あんた歳は幾つだ?」
「霧島忍警視のひとつ下、年末で二十七になる。日本の東北地方で十代からの農業生活に我慢できなくなった。逃げたいだけで自衛隊に入ったが所詮は志願理由も邪でそこもドロップアウトだ。結局親父の車を勝手に売り飛ばしてカメラを二台買った」
何を言い出したのかと思ったが、取り敢えず合いの手を入れてやる。
「なかなかの極道息子だな」
「まあな。で、その翌日、親父はタクシーに乗って事故に巻き込まれて死んだんだ」
「そうか……なるほどな」
それで壊れたカメラに固執したのかと納得したが、霧島にはどうしてやることもできない話だった。それこそ現場の警察官としてもっと悲惨な話は幾らでも見聞きし、事欠かない生活をしてきた。
だが少しずつ戦場カメラマンという特異な職業に興味を持ち始めていた。プラス、他人を下僕と言うだけの太い神経も踏まえて気など回さず訊く。
「人が撃たれるのを撮ったりするんだろう?」
「人を撃つあんたまでが、ありきたりなことを言い出してくれるなよ」
「ありきたりなのか?」
「この世界じゃ言うまでもないことさ。ヒューマニズムの欠如とか賞狙いの冷血漢だとか、うんざりなんだ。本当の俺たちを知りたければそれこそ一緒にくるがいい」
何もそこまでデリカシーに欠けた物言いで非難したかった訳ではない。
しかし既に新たな特別任務は下っていて放置できないと断じたのは自分だ。霧島は諸手を挙げてから食し終えたトレイを退ける。
京哉が灰皿を引き寄せ煙草を咥えて紫煙を吐くのを眺めた。
思い返してみて何となくだが、また自分は失神してしまったのだと想像がつく。誰のせいだとか言い出したらニワトリ卵のような話なので置くとして、さぞかし霧島は心配したに違いない。
「おはようございます、忍さん。貴方はちゃんと寝たんですか?」
「ん、ああ。まあな」
それが嘘なのは赤くした切れ長の目で分かったが、今更どうしようもないので言い募りはしない。京哉の意図を察して霧島が腕時計を見せてくれる。八時十五分。
あれから四、五時間は眠ったのか。ゆっくり起きてみるといつの間にかガウンを着せられている。いつ買ってきたのかアイスティーのボトルを霧島が手渡してくれた。
今日はコージと話をつけて帰るだけだ。窓からはきつい陽光が燦々と降り注いでいて、相当暑くなりそうだった。
そんなことを考えていると霧島がじっと見ている。
「……すまん。何なら宿泊延長するか?」
「大丈夫ですってば。それに僕は気持ち良かったのにどうして謝るんですか?」
「そうか、良かったのか。ならいい。だが実際お前は動けるのか?」
あれこれ言うよりも先に京哉はボトルを霧島に渡すとベッドを滑り降りてみせた。再びボトルを受け取るとソファまで歩いて腰掛ける。それで霧島は安堵したようだ。
最近は京哉も霧島のパートナーとしてさすがに鍛えられてきているのだった。
「では準備して朝飯でも食うか」
「はい。何だかものすごーくお腹が空いちゃいました」
「夜中の運動が効き過ぎたな」
迷い悩むことを知らない性格故か、もうそんな風に平然と言い放つ男と交代でシャワーを浴び、ドレスシャツとスラックスを身に着けるとショルダーホルスタを装着してジャケットを羽織る。共にベルトにはスペアマガジン二本入りのパウチ付きだ。
盗まれても困るのでショルダーバッグ持参、京哉は伊達眼鏡もかけて部屋を出る。
一階カフェテリアのカウンター席ではコージがモーニングセットをつついていた。
コージの右隣に京哉が座り、その更に右に霧島が腰掛ける。同じものを現金と交換に頼んでおいて京哉は火を点けない煙草を咥えた。
霧島はコージから先にカメラの件を切り出させるつもりで黙ったまま様子を見る態勢だ。昨日のネチこさに辟易しているのだった。
その霧島に向かってコージがいきなり言った。
「代替品もカネも要らない。代わりに五日間でいい、僕の下僕になれ!」
「ああ? 下僕だと?」
「そうだ。五日間、僕の言う通りにする。それでカメラの件はチャラだ」
急激に頭にきた。当然だ。
「ふざけるな、何が下僕だ。私はそこまでヒマではない!」
「じゃあ、どうやってレジナG2の落とし前をつけるつもりだ?」
「幾らでも払う、それでいいだろう!」
「あんたは霧島カンパニーの御曹司だろ、なら百億といえば払うのか?」
「子供じゃないんだぞ、不当請求で訴えられたいのか。大体、何故下僕なんだ?」
「あんたらは腕が立つ。だから一緒に来て貰いたい所があるんだ」
そこでカウンターからトレイが差し出され、霧島と京哉は食しながら話を聞いた。
「ニックス=イヴァン将軍に僕は張り付く」
「それは今までと同じだろう。何故腕の立つ人間が必要なんだ?」
「今からちゃんと説明するさ。じつはだな――」
ずっとコージはニックス=イヴァン少将に張り付いてきた。先方もコージの張り付きを承知している筈だった。だがそんなコージにも撮らせない所があるのだという。
「その付近に行くと必ず撒かれるんだ。将軍はその先を絶対に見せない」
「ふん、女でも飼っているんじゃないのか? 野暮な出歯亀はご免だぞ」
意外なことを聞いたとでもいう風にコージは目を瞬かせた。
「女か……そういう可能性もあるのか?」
「訊かれても知らん。で、その将軍の女を撮ったら満足なのか?」
「女はともかく、将軍にはずっと黒い噂が囁かれてるんだ。他国の大物と渡り合ってきただけじゃない、そもそもの内戦の原因である予備選挙に関わる黒い噂が」
薄荷の匂いのアイスティーを啜って京哉が首を傾げる。
「その噂ってどんなのですか?」
「ニックス=イヴァン少将は陰の南軍総司令官だと」
「南軍って……北軍の間違いじゃないんですか、それ?」
「いや、間違いじゃない。噂の真偽はともかくとして」
「うーん、いまいち意味が分からないんですけど……」
「ひとつ言うなら、現在北部アーキン基地副司令のニックス=イヴァンは、この内戦が始まる三年前に異動するまで南部ブレナン基地の副司令だったんだ。その際にスチュアート=ブレナン候補と親交が深かったと聞いている」
そう聞いても京哉には荒唐無稽な話のような気がした。
それに喩えニックス=イヴァンが未だに南軍の旗印であるスチュアート=ブレナン候補と繋がっていても、それがどうしたとしか思えない。
勿論考えれば考えるだけ様々な疑惑は浮かんでくる。だからといって不確定要素の多い内戦の地なんかに長居してもいいことはない。
とにかく特別任務は終わったのだ。海外旅行はプライヴェートで満喫したかった。
一方で霧島は考えてしまっていた。スチュアート=ブレナン候補に義があるとして国連は南軍を政府軍と任じ、梃入れしようとしているのだ。それが何処かで引っ繰り返される事態になれば国連、牽いては国際社会が面目を失うことになる。
「忍さんってばそんな顔して、まさかコージの下僕になるつもりですか?」
「下僕になる気はないが、これはこのまま捨て置けるレヴェルの話ではない」
「確かにそうかも知れないですけど、僕らが首を突っ込むべき話なんですかね?」
「それは今から一ノ瀬本部長に伺いを立てる。いいか?」
いいも悪いもなく京哉は霧島と共に動くのみだ。京哉を窺い霧島が携帯を出す。
「だけど、あああ、何だか嫌な予感がしてきたかも!」
天井を仰いで喚いた京哉は口を尖らせて霧島を恨めしく眺めてから、バディが諦めそうにないのを見て薄荷ティーをストローでじゅるじゅる吸った。
霧島は素早く文面を練ると一ノ瀬本部長にメール送信する。返事を待つ間にトーストとサラダの残りを頬張った。
まもなく霧島の携帯に返信が届いた。嫌々ながら京哉も覗き込む。
「ええと、わあ、やっぱり新しい特別任務だ。【霧島警視及び鳴海巡査部長に特別任務を下す。ビオーラにおいてリンド島内戦の発端となった予備選挙に関わる北部基地副司令ニックス=イヴァン少将の不正疑惑について調査し報告せよ】か。うーん」
「せっかく一件終わったのに私たちは日本にいつ帰れるのだろうな?」
「僕の科白ですよ、それは。自分で言い出しておいて何言ってるんですか。バディの座は譲れないから付き合いますけど、取り敢えず貴方はコージの下僕決定ですね」
「そう言う京哉、お前は下僕その二だろうが」
「そんなこと、コージは言いませんよね?」
あでやかなまでの微笑みにコージはグラスを持ち上げて空と気付きガシャンと置いた。霧島は「ふん」と鼻を鳴らす。
昨日の今朝だというのに京哉はまたもタラシモード発動で非常に機嫌を損ねていた。八つ当たり気味にコージを睨んで低い声で唸る。
「下僕はともかく、今後の予定くらい聞かせて貰いたいのだがな」
「今日、ここを発って北軍の出先基地まで行く。そこからヘリに便乗させて貰って、運が良ければ北軍本拠地のアーキン基地まで出向く。あとはニックス=イヴァン将軍次第だ」
「簡単に言うが、まだドンパチはやっているんだろう?」
「おっ、日本じゃ有名人の大物が、まさか怖いのか?」
「当たり前だ。誰が他国の内戦なんかで死にたいものか。過去に同じく戦場カメラマンが消息を絶っただろう、『もし、うまく地雷を踏んだら サヨウナラ!』とか友人に手紙を寄越してな。それと何ら変わらん、あんた麻痺してるぞ」
まともに指摘されてコージは頬に薄く笑いを浮かべた。
「クメール・ルージュ支配下のアンコールワットに踏み入って処刑され、九年後にようやく遺骨が発見された彼の氏をあんたが知ってたとはね。……麻痺か、確かにそうかも知れないな。初めの頃は恐怖を感じることが怖かった。でもこの生活をしていると恐怖感なんか日常的なもの、もう慣れきってしまったんだ」
「コージ、あんた歳は幾つだ?」
「霧島忍警視のひとつ下、年末で二十七になる。日本の東北地方で十代からの農業生活に我慢できなくなった。逃げたいだけで自衛隊に入ったが所詮は志願理由も邪でそこもドロップアウトだ。結局親父の車を勝手に売り飛ばしてカメラを二台買った」
何を言い出したのかと思ったが、取り敢えず合いの手を入れてやる。
「なかなかの極道息子だな」
「まあな。で、その翌日、親父はタクシーに乗って事故に巻き込まれて死んだんだ」
「そうか……なるほどな」
それで壊れたカメラに固執したのかと納得したが、霧島にはどうしてやることもできない話だった。それこそ現場の警察官としてもっと悲惨な話は幾らでも見聞きし、事欠かない生活をしてきた。
だが少しずつ戦場カメラマンという特異な職業に興味を持ち始めていた。プラス、他人を下僕と言うだけの太い神経も踏まえて気など回さず訊く。
「人が撃たれるのを撮ったりするんだろう?」
「人を撃つあんたまでが、ありきたりなことを言い出してくれるなよ」
「ありきたりなのか?」
「この世界じゃ言うまでもないことさ。ヒューマニズムの欠如とか賞狙いの冷血漢だとか、うんざりなんだ。本当の俺たちを知りたければそれこそ一緒にくるがいい」
何もそこまでデリカシーに欠けた物言いで非難したかった訳ではない。
しかし既に新たな特別任務は下っていて放置できないと断じたのは自分だ。霧島は諸手を挙げてから食し終えたトレイを退ける。
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