Blue Revolution[青の公転]~楽園2~

志賀雅基

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第7話

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 今朝ダートレス――オートクリーニングマシン――の脇にある挿入口にプレスサーヴィスから届いた惑星警察の制服に袖を通してみせるとハイファは異様に喜んだ。

「馬子にも衣装だろ?」
「んなこと言ってないじゃない。本気で惚れ直しちゃったよ。格好いい~っ!」

 上下共に黒でタイはブルーグレイというありふれた警察官の制服だが、シド自身も前に着たのはいつだか思い出せないくらい、ハイファは当然ながら初見だったのだ。

 左胸に輝く特級射撃手徽章はともかく、ずらりとプレートに並ぶ総監賞略綬は圧巻である。巡査部長という下から数えた方が早い階級の平刑事でこれは、通常なら有り得ない。さすがはイヴェントストライカ、検挙率も半端ではないのであった。

 その略綬を数えてはまた褒めるハイファの様子だが、シドの心配をよそに本人は苦笑いをしつつ『大丈夫』を繰り返すばかりで、あまり大丈夫でないのが伺える。

 大丈夫ではなさそうなハイファも今日は刑事でなく情報軍人で、濃いベージュのワイシャツに濃緑の上下という姿だ。スタンダードなスーツ型のシドの制服と違ってこれは上衣が長めのデザインで共布のベルトで軽くウェストを絞るタイプである。
 お蔭で細い体型がより強調されるためにシドの心配を更に煽っていた。

 それはともかく通常の陸軍兵士はタイも制服と同じ濃緑だが、ハイファは中央情報局員の証しである焦げ茶のタイを締めている。これだけで別室員だとはバレない。

 もう準備万端でそれぞれが衣服の内側に武装していた。

「これは着いたら真っ先にホテル取らなきゃ、身動き取れねぇな」

 制帽は被るからいいとして普段着用のスーツなどの着替えを入れた警察及び軍支給のバッグは結構な大きさだった。何せ期間も先行きも不明なのだから仕方ない。

「じゃあ、行くか。つらくなったりしたらすぐに言えよな」
「だから大丈夫だってば」

 透けるような肌色をしたハイファは目許だけを僅かに紅く染めていた。

 ソフトキスを交わして二人はシドの部屋から出た。リモータでロックする。
 定期BEL停機場はこの単身者用官舎ビルの屋上という手軽さだ。軌道ステーションまで三十分の行程である。そこで一時間近く待ち、軌道エレベーターでバルナへ入る予定だった。

 二人が屋上に上がった時には既に強風を避けるためのドームも閉ざされて大型旅客BELがスタンバイし、客の乗り込みが始まっていた。
 係員が持つチェックパネルにハイファがリモータを翳すと二人分のチケットが認識される。タラップドアを上って乗り込み二人並んでシートに収まった。
 少しでも気が紛れるかとシドは窓側にハイファを座らせる。

 五分ほどで風避けドームが開いた。反重力装置が起動、超高層ビルを蹴ってふわりと浮き、大型BELは五十人ほどの客を乗せて早春の薄い色の空に駆け立った。
 イヴェントストライカを乗せて。

 そう。客室内にダミ声が響いたのはテイクオフして十五分も経たない頃だった。

「動くな! このBELは俺たちが完全に掌握した、貴様らは全員人質だっ!」

 古典的な科白を吐いたその声をシドはただ「鬱陶しい」としか思わなかった。それどころではない、ハイファがいつになく青い顔をして冷や汗を浮かべていたのだ。

 元・宇宙を駆け巡るスパイ稼業でミテクレほどヤワではないハイファだが、さすがに昨夜から今朝方にかけてのナニは堪えたらしい。
 シドは萎れるより自分に腹を立てていたので、馬鹿デカい声で喚く男たちが鬱陶しくも苛立ちをカサ増ししてゆく。

 我が身より大事なハイファをこうして追い込んだのは自分なのだ。どんな目に遭わせたのか誰より把握しているため余計に心配でならない。
 酷くつらそうな細く薄い躰を片腕で抱き寄せて自分の肩に凭れさせてやるも、ここではそれ以上の何をどうしてやることもできないのだ。
 今、必要なのは医者なのに、キャビンアテンダントも巡ってこないのである。

「我々は共同革命戦線・紅い虹だ! テラ本星の各星系政府への干渉を――」
 五月蠅い。
「搾取により貧困に喘ぐ星系への援助を怠り――」
 やかましい。
「この上は、貴様ら人質を一人一人殺してでもテラ連邦議会に――」

 これではハイファを眠らせてやることすらできない。シドはとっととタイムアップと断じた。普段はここまで気が短くはないのだが、酷い顔色の相棒が傍でへばっていて余裕がなかったのだ。

「ハイファ、大丈夫か? 熱は……お前、この冷たさは異常だぞ」
「う……ん。それより、これじゃあ軌道エレベーターの時間に遅れちゃうよ」
「いけるのか?」
「何とか。悪いけど僕、前の二人でいい?」
「後ろの三人は任せとけ。そっち二人を残せばいいだろ」
「カウント、お願い。うー、ギボチ悪っ」
「じゃあ、いくぞ。……三、二、一、ファイア!」

 ハイファが元気なら前部の二人も助からなかっただろう。これ以上のダメージを食らわないよう反動リコイルのないレーザーガンをスタンモードで射ったのだから幸運だった。

 そうでなかった客室後部の三人はパルスレーザー小銃を手にしたまま吹っ飛んで壁に叩きつけられていた。無辜の一般人を殺すとまで宣言したテロリストに情けは無用とばかりにシドが速射でぶちかましたフレシェット弾のモザンビークドリル、腹に二発とヘッドショットを食らって勿論即死である。
 乗客たちから悲鳴が湧いた。

 おもむろにシドは席を離れ、ベルトの背に付けてあるリングから捕縛用の樹脂製結束バンドを引き抜いて、ハイファが射ったテロリスト二人を後ろ手に縛り上げた。
 全身麻痺していても意識はある。通路の先にある仲間の末路を遠目に見た彼らは、恐怖の色を目に浮かべてシドに懇願しているようでもあった。

 オートパイロットで飛んでいる定期BELだが、何らかの不具合が起こった時のため、一応パイロットとコ・パイロットは乗っている。

 こういったハイジャック対策で最前部の操縦室ドアは簡単には開かないシステムになっていた。シドはその扉にくっついた識別装置にナノチップ付き警察手帳を押し付け、内側からロックを開けさせる。客室での騒動は全て監視カメラで逐一ライブ中継され、BELの運航会社も同時に把握し既に通報もなされている筈だった。

 だがそれで途中下車されたら困るのだ。ハイファの頑張りも無に帰してしまう。

「取り敢えず軌道ステーションまでは飛んで貰えませんかね?」

 広域惑星警察の制服や手帳より、未だ手にしたままの巨大な武器に目が行ったパイロットたちはカクカクと首を縦に振った。もう誰がハイジャッカーだか分からない。

 結局一分の遅れもなく、むしろ早めに軌道ステーションに到着した。
 軌道ステーションにはここの所轄署と警備部の人間たちが待ち構えていた。
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