Blue Revolution[青の公転]~楽園2~

志賀雅基

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第51話(最終話)

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 寝室の建材に紛れた音声素子が震えて二人は目を覚ました。

 リモータ操作でライトパネルを点け、シドは大欠伸して『何で起きたんだ?』と一瞬だけ考えた。そこで再び玄関のチャイムが鳴って起こされた原因が分かる。
 しかし眠かった。

 寝入ったのが午前一時過ぎで今は午前二時なのだから当然だ。

「……ん、眠い。まだこんな時間。通販とかじゃないの?」
「ポチった覚えはねぇよ、真夜中に荷物受け取る趣味も」
「じゃあ宅配爆弾とか?」
「そいつは身に覚えがありすぎ……仕方ねぇな、ったく」
「隣近所に悪いもんね、爆破で起こすなんて」
「爆弾だって決めつけるなよ。大体、一番近い部屋は向かいのテメェの部屋だ」
「言われてみれば」
「本当に爆弾ならテメェの部屋に放り込んで俺は寝るからな」

 寝入りばなに起こされて非常に眠い上、大変に機嫌も悪かった。いつものポーカーフェイスで口調もしっかりしているが、ジョークを言っているのではなく、この上なく本気である。そんな風に口は相変わらず減らないが余りの眠気にふらついていた。

 半分眠りながら手探りだけで部屋着を身に着け玄関までゆく。

「くそう、何だってんだよ」

 愚痴りつつ玄関脇のパネルを操作してモニタを覗くと大手流通センターの正規社員証を胸に着けた作業服の男が映っていた。本当に宅配のようだ。
 シドはロック解除し荷物を受け取る。

「いつもにこにこ、ネコさんマークのタマト宅配便のご利用ありがとうございます」

 社則通りであろう科白を深夜二時とは思えぬほど爽やかに告げてその男は去った。
 玄関で立ったまま眠りそうになったシドの意識をハイファの声が浮上させる。

「ねえ、何なに? 中身は食べれるの?」

 ドレスシャツを羽織って出てきたハイファは興味津々の様子でシドの手元を覗き込んでいた。瞬間、意識が浮上したシドは夢かと思ったが手には荷物を持っている。

 ハイファに腕を取られてリビングのソファに誘導され、腰掛けた。

「ふあーあ。大昔の爆弾、ダイナマイトは中身が食えたらしいぞ」
「知ってるよ、グリセリン混入で甘いんだっけ。それより中身」
「何なんだ、いったい。開けるなり爆発しても文句言うなよ」
「多分そのシチュエーションなら、文句はもう言えないと思う」

 意識を保つためだけに口先でじゃれながら荷物を振ってみたり、耳を当ててみたりしたが何の音もしない。爆弾だとすれば結構小型の片手で掴める大きさの箱で、さほど重たくはなかった。
 外装の包み紙はポチってもいないのに大手ショッピングセンターのロゴ入りで却って中身が全く推測不能である。

 もうシドは差出人もロクに確かめず、大欠伸を連発しながら無造作にビリビリ破った。中はあまり見かけない素材の箱だった。色は黒だが手触りと質感が独特である。

「あっ、それ!」
「んだよ急に。ったく吃驚するだろうが。で、いきなり何だ?」
「エリティスファイバだよ、その箱の素材。電磁シールドなんかに使うヤツ」
「ふうん。ってことは――」

 箱を開け、ごろりとロウテーブルに転がったのは、シドが今着けているリモータとほぼ同じものだった。色はそっくり同じガンメタリック、だが軽合金で出来たそれは現在シドが着けている惑星警察支給の官品より少々、いや、かなり大型である。

「惑星警察の官品リモータのヴァージョン更新か? だったら署で渡せっつーの。ヴィンティス課長の野郎、手の込んだ新手の嫌がらせに走りやがって。ふあーあ」

 再びシドは大欠伸し、長年使った今までのリモータを外した。

「こんなにデカいと袖のボタンが閉まるかどうか。ったく面倒臭ぇな」

 大変に自然な動きプラス、ごく普通の心配を口にしながらシドはそれを着け――。 
 
「ちょっと待ってっ!」

 ハイファが慌てて叫んだ時には既に遅くピピピ……と音がして生体IDが認証された。それが人体に装着されたのは初めてだという合図である。

「だから吃驚するからデカい声、出すなって」

 一方ハイファは柳眉をひそめ固まっていた。暫しの沈黙ののち恐る恐る口を開く。

「落ち着いて聞いて。それ、色と形は惑星警察の官品にかなり似せてるけど、キィの位置とか数とか引き出せるケーブルの多さとかモニタの大きさも僕のと同じ……別室リモータだよ、間違いないなく。ほら」

 ハイファが自分の左手首に嵌ったシャンパンゴールドの、ごつい別室カスタムメイドリモータを突き出して見せた。色違いだが確かにそっくりお揃いである。

「――って、着けちまったん、だが……」

 眠気はある程度飛んだがシドは呆然と自身の左手首を見つめていた。
 痛ましそうな目でシドを眺め、ハイファが溜息混じりに言う。

「あーあ。でもしょうがないよ、誰に強制されるでもなく自分で着けちゃったんだから。便利になるって思うしかないよね。きっと僕のと中身も同じ、惑星警察の機能と別室機能をデュアルシステムにした、カスタム中のカスタムメイドだろうからサ」
「それってこれからも、ってか、これからもっと別室任務にご招待されるような気がするのは俺だけじゃねぇよな、ええ、言ってみろよこのスパイ! 詐欺師! 嘘こき野郎の別室員!」

 己に次々と降りかかる理不尽にシドは自棄になって喚いた。

「どれも否定しないから、やさぐれないで。ほら。これまでのと相互リンクしてデータ移して。別室戦略・戦術コンへのアクセスその他、全機能レクチャするから」
「こんなモン要らねぇっての! これなら爆弾の方がなんぼかマシだったぜ!」
「着けたのは自分でしょ。受け取り通知は嵌めた時点でオート送信されてる筈」
「何なんだ、それはっ! 大体、俺は刑事だぞ、いつ軍に志願したっていうんだよ? ふざけやがってチクショウ、冗談じゃねぇ、あああ、い・や・だ~っ!」

 別室からのプレゼントを外して放り出すシドをハイファはたしなめる。

「外しちゃだめ!『別室員一名失探ロスト』って判断して戦術コンが鳴り出すから!」
「だから俺は別室員じゃねぇ、刑事だ! スパイでもサイキ持ちでもねぇんだ……なのに何だって無給で命をすり減らさなきゃならねぇんだよ!」
「実際、イヴェントへのストライクっぷりはサイキ持ち同然っていうより、ある意味それ以上のような気がするけど。とにかく僕まで呼び出されたくないから着けて」

 巨大レールガンまで持ち出し騒いで暴れるシドを羽交い締めにしながら、別室から今後の自分たちに掛けられた期待の怖さと、これからも二人が共にあることを認められたような嬉しさとが半々の胸中複雑なハイファなのであった。

◇◇☆◇

 そしてこの翌日、シドがセフェロⅤのバザールで抽選しハズレ賞として貰ったテラ連邦直轄銀行発行の宝クジ三枚で一等と前後賞が当選していることが発覚する。

 イヴェントストライカは刑事なんかやっているのが馬鹿馬鹿しいほどの巨額を手に入れてしまう訳だが、天職の刑事を辞める気もバディ解消する気もなかった。

 だが、たびたび別室任務に放り込まれてはドえらい目に遭ってゆくのであった。


                             了

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