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第3話
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「ああ、ああ、またイヴェントストライカがやりやがったぞ」
「涼しい顔して気が短いったらねぇなあ」
口々に野次馬が騒ぐ中、シドはベルトにいつも着けているリングから捕縛用の樹脂製結束バンドを引き抜き、男の二の腕を締め上げて止血処置しながら呟いた。
「十七時三十四分、狙撃逮捕と」
「署の緊急機使うと掃除が大変だから救急機呼ぼうっと」
暢気にハイファがリモータ操作する。その間に鑑識と爆発物処理班に招集が掛かり、実況見分と爆弾処理が平行で手早く行われた。
「現場が近いと楽だよな」
「だからって今日はもうストライクしないでよ。帰りが遅くなっちゃう」
「俺がやってる訳じゃねぇって、何度言ったら……おっ、救急がきたぞ」
緊急音を鳴らして飛来したのは中型BEL、BELは反重力装置を備えた垂直離着陸機だ。AD世紀のデルタ翼機の翼を小さくしたような機体である。
白地に赤い十字をペイントした機体が接地する前に、白ヘルメットの隊員が二人飛び降りてきて、自走担架に載せるまでもなく男を救急機に運び入れた。ちぎれた腕とともに移動式再生槽にボチャン、ザブンと投げ込み、また緊急音を鳴らして速やかに去る。
腕一本の接合だ。培養移植しても二週間と待たずに事情聴取も可能となるだろう。
欠伸混じりに伸びをしてシドがハイファを促した。
「ふあーあ、終わった終わった。書類は明日にして帰ろうぜ」
機捜課の野次馬も満足して散ってゆく。シドとハイファも右方向へとファイバの歩道を歩き始めた。二人の住処はここから七、八百メートル離れた単身者用官舎ビルにある。
何気なく見上げると既に黒くなった空には、超高層ビル同士を串刺しにして繋ぐ通路であるスカイチューブに色分けされた衝突防止灯が灯り、ビルの窓明かりも伴って、クリスマスイルミネーションのような騒々しさだ。
内部がスライドロードになったスカイチューブは七分署と官舎を直通で結んでいる。これを使えばストライクの確率も格段に抑えられるのだが、ずっと信念の足での捜査を続けてきたシドは『刑事は歩いてなんぼ』を主張し、ヴィンティス課長が幾ら口を酸っぱくしても殆ど使うことはない。
だからといってシドが毎日歩き回っているのは、どヒマな在署番から逃げているのでも、ヴィンティス課長への嫌がらせでもない。歩いていなければ見えてこない犯罪から人々を護ろうと、少しでも『間に合おう』としているのだ。それを理解してハイファは、大概文句も言わずに一緒に日々、靴底を擦り減らしている。
左側の大通りにコイルのヘッドライトを眺めながら二人は肩を並べて歩いた。
色とりどりのコイルは小型反重力装置を備えていて、僅かに地面から浮いて走る。殆どの場合、座標を打ち込みオートで走らせるものだ。お蔭で交通量は多いが渋滞で止まってしまうこともなく、排気もないので空気はクリーンで不味くない。
「今日は買い物、どうすんだ?」
二人が住む単身者用官舎ビルの地下は一般人も利用できる大型ショッピングモールになっていて、そこに何軒かあるスーパーマーケットで夕食の食材を買うのが主夫ハイファの日課となっているのだ。手先は器用だが料理のセンスが欠片もないシドは荷物持ちである。
「冷蔵庫が空に近いからね。今日はしっかり働いて貰うよ」
「へいへい」
ノーストライクで官舎まで歩ききると、一般客用のエレベーターで地下に下りた。
何軒かあるスーパーマーケットをハシゴして主夫が納得するまで買い物をしたが、本日のイヴェントは消化したのか、これもノーストライクで無事に住人用エレベーターまで辿り着く。
エレベーターに乗り込むとリモータチェッカに交互にリモータを翳す。マイクロ波でIDコードを受けたビルの受動警戒システムが瞬時に二人をX‐RAYサーチ、本人確認してようやくパネルが階数表示する。銃は勿論、登録済みだ。
仰々しいセキュリティだが、住人は平刑事だけではないので仕方ない。
五十一階で降りて廊下を突き当たりまで歩くと、右のドアがシドで左がハイファの自室である。ここで二人は一旦左右に分かれた。
リモータでロックを外したシドは靴を脱いで上がると、買い物袋をキッチンのテーブルに置く。中身の管理は主夫の領域だ。対衝撃ジャケットを椅子の背に掛け、咥え煙草で執銃を解く頃にはベッドの畳んだ毛布で寝ていたらしいオスの三毛猫タマも起きてきた。
ただ、タマは別室任務に絡んでたらい回しにされた挙げ句に二人の許に宅配便で送られてきたという過去が拙いのか、飼い主のシドやハイファですら気の抜けない野生のケダモノである。
今もしっぽの先に触れただけで「シャーッ!」と吠えた。癒しの欠片もない。
「ふあーあ。仕事は忙しいわ、猫一匹懐きもしねぇわ」
愚痴っているとハイファが勝手に入ってくる。こちらも上着を脱いで執銃を解いただけのドレスシャツにスラックス姿だった。
だがそれだけでなく、ハイファに続いて金髪に水色の目をした軍服のままの若い男と、ヨレた白衣を着た無精ヒゲにボサボサ頭の中年男が続いて入ってくる。
「何だ、カールも遅かったんだな。でも帰れるってことは任務中じゃねぇのか」
軍服のカール=ネスは上品に微笑んだ。シドたちとあまり年齢は変わらない。某星系では何と王まで務めた男だが、訳アリでテラ本星に流れてきて、元軍人でもあったために職業に軍人を選んだ。
優秀過ぎて幹部候補生課程を終わるなり特進で2等陸尉に昇任し、同時に別室入りしたハイファの後輩であり隣部屋の住人である。
「腹が減ったんだがな、何か食わせてくれませんかね?」
情けない声で訴えたのは別室専属医師でサド拷問官との噂も名高い白衣中年のマルチェロ=オルフィーノで、階級は医師免許故の三等陸佐だった。事実『やりすぎ』によってあらゆる星系でペルソナ・ノン・グラータとされている御仁だ。
シドの隣部屋のなので別室任務などで留守にするときにはタマを預かってくれて助かっていた。猫グッズは揃っているので身柄を引き渡すだけの簡単さである。
しかし他星系での生活が長かったためかマルチェロ医師の嗜好は特殊で、部屋にはプラケースがぎっしり積まれ、中では葉物野菜にねぱーっとしたカタツムリとフカフカのイモムシが養殖されているのだ。
勿論、養殖である以上は食うのだ、おやつと称して生食で。
シドとハイファもそろそろ何とかしないと、預けているうちにタマが尾かしら付きのサシミにされ、残りは煮込んで出汁にされ、皮は三味線にでもされるんじゃないかと疑っている。
その点、カールは猫使いの異名をとる、唯一タマを大人しくさせられる人物だが、こちらと同じで別室員なので、いつ何処の星系に飛ばされるのか分からない。
そんなことを考えながらシドは皆をキッチンのテーブルセットの椅子に誘導する。
暢気なシドと違い、主夫ハイファは唐突な人数増加に対応するためのメニューを瞬速で組み立て、もうコンロのヒータにフライパンを置いていた。買い物をしてきて幸いである。
あっという間にワサビショーユと飾り切りのかまぼこを出し、炒め物と一緒にテーブルに置く。カトラリーだけ出したシドは、既に客であるのを辞めている男らと三人でジントニックを飲み始めた。
急いでハイファはカレーにしようと思って朝のうちに仕込んでいた鍋の中身にペシャメルソースを溶く。煮立ったらバターを塗った大ぶりの耐熱皿に流し込み、パン粉やチーズを載せてオーブンへ。
即席グラタンの次はサラダを作り、同時進行で大量の唐揚げを揚げながら、グラタンと入れ替わりにガーリックトーストを焼く。完成した片端から皆に声を掛けて運ばせた。
あとは昨日の残りの煮物や漬け置いていた味付け卵などでテーブルは満載である。
「久しぶりに集まれたもんですからねえ、ハイファスには悪かったな」
「大丈夫だよ、マルチェロ先生。手の込んだことはしてないから」
「これは旨そうだなあ。この前からの演習で人間の食べ物を暫く食べていないんだ」
「別室員がそういっていられるのも今のウチだよ。食べられるだけ幸せって日が来るから」
「ええ? 本当かい?」
「嘘じゃないよ、僕なんかシドと……ああ、シドと組んでからだった!」
自分のことをネタにされてシドがやさぐれた目つきをするが、逆にハイファの声が飛ぶ。
「もう5杯目でしょ、それ以上はダメです!」
「酔わねぇんだから――」
「――肝臓に良くないの! もっと料理を味わって欲しいし」
和気あいあいと喋りつつ、競争の如くバリバリと食事を進めた。基本的に食事に時間を掛けない職業の人間ばかりなので驚異の速さで料理は全てなくなった。
コーヒータイムのコーヒーはシドが淹れる。数少ないキッチンで出来ることなので、割と丁寧にカップに注ぎ分け、次をセットしてからカップのコーヒーにウィスキーを垂らして香りづけをした。
トレイに載せてリビングに持って行くと、それぞれが好きな場所で満腹の幸せを味わっている。ロウテーブルにトレイを置くと、皆がのっそりとカップを取りに来た。
シドは二人掛けソファに座っているハイファの隣をキープだ。マルチェロ医師の煙草の煙に誘われて自分も煙草を咥えて火を点ける。
その紫煙を眺めつつ、カールがポツリと言った。
「今度の星系政府首脳会議、きみたちも警備要員だろう?」
「俺もハイファもそうだが、何かあるのか?」
「気を付けていて欲しい。特に僕の2期下になる現・幹部候補生課程にいる者を」
「何だそれ。そいつらがどうかしたのか?」
「いや、僕の考え過ぎならいいんだけれどね。どうも素行に問題のある者が多いというか」
「喧嘩でも吹っ掛けられたのかよ?」
「君子危うきに何とやらだよ、僕は」
そこでマルチェロ医師が笑った。
「そこの君子サマは降りかかった火の粉は払うタチらしくてな、昨日も二人ばかり病院に治療に来たらしいぞ。俺は通常の外来にゃ殆ど関わらんから詳細は不明だが」
「涼しい顔して気が短いったらねぇなあ」
口々に野次馬が騒ぐ中、シドはベルトにいつも着けているリングから捕縛用の樹脂製結束バンドを引き抜き、男の二の腕を締め上げて止血処置しながら呟いた。
「十七時三十四分、狙撃逮捕と」
「署の緊急機使うと掃除が大変だから救急機呼ぼうっと」
暢気にハイファがリモータ操作する。その間に鑑識と爆発物処理班に招集が掛かり、実況見分と爆弾処理が平行で手早く行われた。
「現場が近いと楽だよな」
「だからって今日はもうストライクしないでよ。帰りが遅くなっちゃう」
「俺がやってる訳じゃねぇって、何度言ったら……おっ、救急がきたぞ」
緊急音を鳴らして飛来したのは中型BEL、BELは反重力装置を備えた垂直離着陸機だ。AD世紀のデルタ翼機の翼を小さくしたような機体である。
白地に赤い十字をペイントした機体が接地する前に、白ヘルメットの隊員が二人飛び降りてきて、自走担架に載せるまでもなく男を救急機に運び入れた。ちぎれた腕とともに移動式再生槽にボチャン、ザブンと投げ込み、また緊急音を鳴らして速やかに去る。
腕一本の接合だ。培養移植しても二週間と待たずに事情聴取も可能となるだろう。
欠伸混じりに伸びをしてシドがハイファを促した。
「ふあーあ、終わった終わった。書類は明日にして帰ろうぜ」
機捜課の野次馬も満足して散ってゆく。シドとハイファも右方向へとファイバの歩道を歩き始めた。二人の住処はここから七、八百メートル離れた単身者用官舎ビルにある。
何気なく見上げると既に黒くなった空には、超高層ビル同士を串刺しにして繋ぐ通路であるスカイチューブに色分けされた衝突防止灯が灯り、ビルの窓明かりも伴って、クリスマスイルミネーションのような騒々しさだ。
内部がスライドロードになったスカイチューブは七分署と官舎を直通で結んでいる。これを使えばストライクの確率も格段に抑えられるのだが、ずっと信念の足での捜査を続けてきたシドは『刑事は歩いてなんぼ』を主張し、ヴィンティス課長が幾ら口を酸っぱくしても殆ど使うことはない。
だからといってシドが毎日歩き回っているのは、どヒマな在署番から逃げているのでも、ヴィンティス課長への嫌がらせでもない。歩いていなければ見えてこない犯罪から人々を護ろうと、少しでも『間に合おう』としているのだ。それを理解してハイファは、大概文句も言わずに一緒に日々、靴底を擦り減らしている。
左側の大通りにコイルのヘッドライトを眺めながら二人は肩を並べて歩いた。
色とりどりのコイルは小型反重力装置を備えていて、僅かに地面から浮いて走る。殆どの場合、座標を打ち込みオートで走らせるものだ。お蔭で交通量は多いが渋滞で止まってしまうこともなく、排気もないので空気はクリーンで不味くない。
「今日は買い物、どうすんだ?」
二人が住む単身者用官舎ビルの地下は一般人も利用できる大型ショッピングモールになっていて、そこに何軒かあるスーパーマーケットで夕食の食材を買うのが主夫ハイファの日課となっているのだ。手先は器用だが料理のセンスが欠片もないシドは荷物持ちである。
「冷蔵庫が空に近いからね。今日はしっかり働いて貰うよ」
「へいへい」
ノーストライクで官舎まで歩ききると、一般客用のエレベーターで地下に下りた。
何軒かあるスーパーマーケットをハシゴして主夫が納得するまで買い物をしたが、本日のイヴェントは消化したのか、これもノーストライクで無事に住人用エレベーターまで辿り着く。
エレベーターに乗り込むとリモータチェッカに交互にリモータを翳す。マイクロ波でIDコードを受けたビルの受動警戒システムが瞬時に二人をX‐RAYサーチ、本人確認してようやくパネルが階数表示する。銃は勿論、登録済みだ。
仰々しいセキュリティだが、住人は平刑事だけではないので仕方ない。
五十一階で降りて廊下を突き当たりまで歩くと、右のドアがシドで左がハイファの自室である。ここで二人は一旦左右に分かれた。
リモータでロックを外したシドは靴を脱いで上がると、買い物袋をキッチンのテーブルに置く。中身の管理は主夫の領域だ。対衝撃ジャケットを椅子の背に掛け、咥え煙草で執銃を解く頃にはベッドの畳んだ毛布で寝ていたらしいオスの三毛猫タマも起きてきた。
ただ、タマは別室任務に絡んでたらい回しにされた挙げ句に二人の許に宅配便で送られてきたという過去が拙いのか、飼い主のシドやハイファですら気の抜けない野生のケダモノである。
今もしっぽの先に触れただけで「シャーッ!」と吠えた。癒しの欠片もない。
「ふあーあ。仕事は忙しいわ、猫一匹懐きもしねぇわ」
愚痴っているとハイファが勝手に入ってくる。こちらも上着を脱いで執銃を解いただけのドレスシャツにスラックス姿だった。
だがそれだけでなく、ハイファに続いて金髪に水色の目をした軍服のままの若い男と、ヨレた白衣を着た無精ヒゲにボサボサ頭の中年男が続いて入ってくる。
「何だ、カールも遅かったんだな。でも帰れるってことは任務中じゃねぇのか」
軍服のカール=ネスは上品に微笑んだ。シドたちとあまり年齢は変わらない。某星系では何と王まで務めた男だが、訳アリでテラ本星に流れてきて、元軍人でもあったために職業に軍人を選んだ。
優秀過ぎて幹部候補生課程を終わるなり特進で2等陸尉に昇任し、同時に別室入りしたハイファの後輩であり隣部屋の住人である。
「腹が減ったんだがな、何か食わせてくれませんかね?」
情けない声で訴えたのは別室専属医師でサド拷問官との噂も名高い白衣中年のマルチェロ=オルフィーノで、階級は医師免許故の三等陸佐だった。事実『やりすぎ』によってあらゆる星系でペルソナ・ノン・グラータとされている御仁だ。
シドの隣部屋のなので別室任務などで留守にするときにはタマを預かってくれて助かっていた。猫グッズは揃っているので身柄を引き渡すだけの簡単さである。
しかし他星系での生活が長かったためかマルチェロ医師の嗜好は特殊で、部屋にはプラケースがぎっしり積まれ、中では葉物野菜にねぱーっとしたカタツムリとフカフカのイモムシが養殖されているのだ。
勿論、養殖である以上は食うのだ、おやつと称して生食で。
シドとハイファもそろそろ何とかしないと、預けているうちにタマが尾かしら付きのサシミにされ、残りは煮込んで出汁にされ、皮は三味線にでもされるんじゃないかと疑っている。
その点、カールは猫使いの異名をとる、唯一タマを大人しくさせられる人物だが、こちらと同じで別室員なので、いつ何処の星系に飛ばされるのか分からない。
そんなことを考えながらシドは皆をキッチンのテーブルセットの椅子に誘導する。
暢気なシドと違い、主夫ハイファは唐突な人数増加に対応するためのメニューを瞬速で組み立て、もうコンロのヒータにフライパンを置いていた。買い物をしてきて幸いである。
あっという間にワサビショーユと飾り切りのかまぼこを出し、炒め物と一緒にテーブルに置く。カトラリーだけ出したシドは、既に客であるのを辞めている男らと三人でジントニックを飲み始めた。
急いでハイファはカレーにしようと思って朝のうちに仕込んでいた鍋の中身にペシャメルソースを溶く。煮立ったらバターを塗った大ぶりの耐熱皿に流し込み、パン粉やチーズを載せてオーブンへ。
即席グラタンの次はサラダを作り、同時進行で大量の唐揚げを揚げながら、グラタンと入れ替わりにガーリックトーストを焼く。完成した片端から皆に声を掛けて運ばせた。
あとは昨日の残りの煮物や漬け置いていた味付け卵などでテーブルは満載である。
「久しぶりに集まれたもんですからねえ、ハイファスには悪かったな」
「大丈夫だよ、マルチェロ先生。手の込んだことはしてないから」
「これは旨そうだなあ。この前からの演習で人間の食べ物を暫く食べていないんだ」
「別室員がそういっていられるのも今のウチだよ。食べられるだけ幸せって日が来るから」
「ええ? 本当かい?」
「嘘じゃないよ、僕なんかシドと……ああ、シドと組んでからだった!」
自分のことをネタにされてシドがやさぐれた目つきをするが、逆にハイファの声が飛ぶ。
「もう5杯目でしょ、それ以上はダメです!」
「酔わねぇんだから――」
「――肝臓に良くないの! もっと料理を味わって欲しいし」
和気あいあいと喋りつつ、競争の如くバリバリと食事を進めた。基本的に食事に時間を掛けない職業の人間ばかりなので驚異の速さで料理は全てなくなった。
コーヒータイムのコーヒーはシドが淹れる。数少ないキッチンで出来ることなので、割と丁寧にカップに注ぎ分け、次をセットしてからカップのコーヒーにウィスキーを垂らして香りづけをした。
トレイに載せてリビングに持って行くと、それぞれが好きな場所で満腹の幸せを味わっている。ロウテーブルにトレイを置くと、皆がのっそりとカップを取りに来た。
シドは二人掛けソファに座っているハイファの隣をキープだ。マルチェロ医師の煙草の煙に誘われて自分も煙草を咥えて火を点ける。
その紫煙を眺めつつ、カールがポツリと言った。
「今度の星系政府首脳会議、きみたちも警備要員だろう?」
「俺もハイファもそうだが、何かあるのか?」
「気を付けていて欲しい。特に僕の2期下になる現・幹部候補生課程にいる者を」
「何だそれ。そいつらがどうかしたのか?」
「いや、僕の考え過ぎならいいんだけれどね。どうも素行に問題のある者が多いというか」
「喧嘩でも吹っ掛けられたのかよ?」
「君子危うきに何とやらだよ、僕は」
そこでマルチェロ医師が笑った。
「そこの君子サマは降りかかった火の粉は払うタチらしくてな、昨日も二人ばかり病院に治療に来たらしいぞ。俺は通常の外来にゃ殆ど関わらんから詳細は不明だが」
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