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第10話(BL特有シーン・回避可)

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 それだけでなく京哉の細い腰には霧島の変化した硬いものが当たっていて、もぞもぞした。わざと擦りつけているのは知っている。だがその先端が明らかに湯と違うぬめりを帯び始めると、さすがに京哉も反応してしまう。

 斜めに振り向くと灰色の目には溢れんばかりの情欲が湛えられていた。

「忍さん……欲しい、かも」
「お前のものだ、好きにしていい」

 力強い腕の縛めを解くと同時に霧島はバスタブのふちに腰掛けて脚を開く。京哉は湯をかき分け近づいて完全に変化を遂げた霧島を掴むと、その先端に舌を這わせた。既に溢れ出していた蜜を舐め啜る。だが蜜は止めどなく滲み出てきた。

 同性愛者の霧島だが完全な雄である。そしてこの男が過去そういった意味で不自由したことなどある訳がない。終わったことまで掘り起こす気のない京哉も断片的にだが知り得た事実があった。そのひとつに京哉と出会うまでの霧島は行為に及ぶ際、相手が誰であっても必ず避妊具を使用していたということだ。

 勿論、本来なら京哉と事に及ぶ時も感染症等の予防に避妊具は使用すべきである。でも初めて京哉を抱いた時から霧島は何故か『何の隔てもなく触れ合いたい』と思ったのだという。そしてそのまま現在に至っていた。

 もうひとつ京哉が知り得たのは、過去に霧島と関係を持った誰もがそれなりの人工物を使用しなければ霧島を受け入れることができなかったということだ。それは一目瞭然である。京哉も初めての時は半ば強引に抱かれたが、その際に霧島のものを目にしただけで身が竦んだほどの暴力的な大きさだった。

 霧島自身も無理かと思ったらしい。事実、僅かながら京哉は傷つけられた。それでも受け入れることができたのも事実で霧島も驚いたという。何もかも霧島に委ねてリラックスした京哉は自分でも恥ずかしいくらい濡れる。幾度となく行為を繰り返しても初めて抱かれた時と何ら変わらない躰のままで霧島を受け入れる。

 思わず『初めは躰に惚れた』と言わしめたほど霧島は京哉に溺れていた。

 そんな霧島を焦らすように京哉は舌先を太すぎる霧島の先端に這わせた。音を立ててしゃぶり舌先を潜り込ませ、次には弱い部分を擦る。

「んっ、く……最初からその舌づかいをするか?」
「だって、僕も欲しかったから……っん」
「だからって、だめだ……私が保たない」

 巧みに舐めねぶられ、しゃぶっては啜られて霧島は耳に真綿でも詰められたかの如く、京哉以外の全てを遠いものに感じていた。その京哉が舌先で嬲るのを止め、口を開けて太いものを咥え込む。京哉以外の誰もがそのままでは受け入れられなかったほど太すぎるものは口内全体で擦り立てられて、霧島はもう呻きを押し殺せない。

「ああっ……くっ、京哉、だめだ!」
「何で、んんぅ……だめなんです? んっ、好きにしていいって……んんっ!」

 見下ろすと白い肌に唇だけ赤い京哉が太すぎるものを無心に咥え込んでいるのだ。堪らなくエロティックな取り合わせに霧島も我慢できなくなり、腰を浅く蠢かせ始める。喉元いっぱいまで咥えてくれているのは承知していたが、そうでもしないと京哉をこの場で押し倒し、馴らすこともせずに貫き征服してしまいそうだったからだ。

「んっ、あ……あっふ、そこ、いい……もっと舐めてくれ!」
「ここ、ですか、っん……忍さんを、もっともっと気持ち良くしたい」

 だがやがては霧島も追い詰められる。それでも五分ほどは保たせただろうか。高貴なまでの白い肌に全身を擦りつけ汚し抜いてやりたい思いが膨らんで、霧島は京哉の口の中で己を更に変化させた。もう限界だった。苦し気な京哉の表情が煽る。

「もういい、離せ、京哉……だめだ、許してくれ!」
「んんぅ、いいから……そのままいって……いっぱい出して!」
「くっ、あっ……もう、出る、出すぞ……あ、くうっ!」

 堪り切った疼きを霧島は京哉の口内で解放してしまう。喉にぶつけるように迸らせた。それを京哉はためらいなく飲み込み、霧島が落ち着いたのを見計らって扱き、滲んだものまで舐め取った。バスタブの湯の中で霧島は京哉を抱き締める。

「いつも言っているだろう、そんなものは吐き出していいと」
「僕は貴方の一滴まで自分のものにしたい……おかしいですか?」
「いや。だがこのままではお前がふやけてしまう。続きはベッドだ」

 バスルームから出ると互いにバスタオルで躰を拭い合った。警察官にしては少し長めの京哉の髪を霧島はドライヤーで乾かしてやる。そうして二人は手を繋いで寝室に移った。ダブルベッドに上がるなり霧島はヘッドボードの棚からトワレの瓶を出して胸に一吹きする。愛用のトワレはペンハリガンのブレナムブーケだ。

 京哉も大好きな匂いなのだが、自らも現場に出張ることが多い機捜隊長殿は『現場に匂いを残せない』という理由で滅多に付けてくれない。だが行為の時だけはこうして香らせてくれるのだ。今では京哉が欲しいという意志表示になっている。

 仰臥した霧島の躰に京哉も身を重ねた。上質で清潔感のある香りを吸い込む。

「ああ、いい香り……忍さん、重たくないですか?」
「お前を乗せたくらいで重い筈がなかろう。それより要らんのか、これが」
「その長い指で僕をどうしてくれるんでしたっけ?」

 目の前に翳された指を見つめて京哉は微笑んだ。焦らし合いは霧島の負け、己の長い指を霧島は自ら口に含んでたっぷりの唾液で濡らす。その指を下降させると、腹の上に乗せた京哉の背後を探り出した。幾らもせずに固く収縮した窄まりを探り当て、一本目の指を挿入する。優しくだが確実に根元まで埋めた。

「あぅん……忍さん、いきなり、そんな、はぁん」
「相変わらずいい声をしているな。もっと鳴かせてやる……こうしてな!」
「や、あん……いい、すごい……はぅん」

 本当のところ、互いに戯れている場合ではなくなっていた。お互いが欲しくて堪らず、京哉は次々と霧島の長い指を咥え込み、霧島はそんな京哉の淫らな反応に追い詰められていたからだ。だが狭い京哉の入り口は充分に馴らし緩めておかないと痛いだけでは済まず傷つけてしまう。これまでも幾度か血を見てしまっていた。

 だからといって霧島が慣らした京哉の躰は人工物を嫌う。ローションやバスルームでのボディソープですら潤滑剤として使うのを嫌がる傾向にあった。

 逸る想いを抑えに抑えて霧島は数指の根元を揺り動かし、京哉のそこを拡張する。これ以上無理なほど深爪し整えた指先で粘膜を押すたびにぬめりが滲み出し、熱いそれは抗いがたい誘いのようだった。だが霧島はまだ己を抑えて京哉をほぐし続ける。

 しかし想いを指先の動きで知られたか、京哉は自ら霧島の数指を全て抜いた。

「忍さん、もう大丈夫ですから、入れて……って、貴方すごいかも」

 京哉の太腿に擦りつけられていた霧島のものは、いつものことではあるが一度放ってなお太さを増し、揺れもしないほどに滾り反り返っていた。これを今から自分が受け入れるとは、にわかに信じがたいほどの圧倒的存在感だった。

 それでも京哉は自ら霧島の上から退き、シーツに仰臥すると躰を開いて見せる。膝を立てて広げた脚を霧島がもっと押し広げて割って入った。熱い先端があてがわれ、蜜を塗り込まれる。京哉は努めて躰の力を抜き、ゆっくりとした呼吸を繰り返した。

「京哉、私を入れてくれ」
「はい。あ、くっ……あっあっ……ああん!」
「すまん、京哉……我慢してくれ!」

 太すぎる霧島を受け入れる時はいつも苦しい。ときには痛みを覚えることもある。だが霧島のくれるものなら苦しさも痛みも京哉にとっては悦びだった。それでも僅かな隙間さえ作りたくないとでもいうように、年上の愛し人は京哉の芯のその奥にまで侵入し、太すぎる茎の根元までねじ込んでくる。通常ならば入らないだろう太さだ。

 お蔭で京哉が涙を滲ませてしまうのも仕方ない。けれどこのあとは京哉自身もこの上ない快感を味わえるのだ。低く甘い声が躰を通して伝わってくる。

「大丈夫か、京哉?」

 訊かれ、どう答えても同じことだ。分かっているから京哉も奔放に叫ぶ。

「ん……動いて、突いて……思い切り、貴方の好きにして!」

 だがこれでは霧島も痛い筈で、暫しゆっくりと己を引き出しては突き入れることを繰り返した。そのうち京哉の躰が追い付いてきて淫らな水音がしだす。

 するともう容赦なく霧島は京哉の躰を貫き始めた。掻き回し、反り返った先端で抉っては擦り上げる。頑丈なダブルベッドが軋みを上げるほどの激しさに京哉は呆然と揺らされている他ない。しかし霧島は霧島で無意識に締めつけ巻きついては蠕動する京哉の体内に再び追い詰められてどちらが攻められているのか分からない状態だ。

 自身の変化に気付かない京哉は、激しすぎる攻めに思わず意識を飛ばしてしまいそうでシーツを掴み耐え、高い喘ぎを洩らして既に味わっている快感に酔い痴れる。

「すごい、忍さん……いい、硬い、太いよ!」
「痛く、ないのか?」
「気持ちいい、そこ、すごく擦れて……ああんっ!」

 幾らもしないうちに京哉の背筋を疼きの奔流が逆流してきて溢れそうになった。もはや我慢などできず、限界を訴える自分の声が信じがたいほどに甘い。

「やだ、もう、だめ、かも――」
「私も、一緒に、いくからな!」

 躰を通して響く低い声も甘く優しかった。だが片方の腰を掴んで引き寄せ、叩きつけるように抽挿入する霧島の行為はこの上なく激しい。その天性のテクニックで絶え間なく注ぎ込まれる快感に京哉は溺れきっていた。そんな身で霧島が張り詰めさせたのを知る。

「早く、忍さん、お願い……出る、出ちゃう……はうんっ!」
「京哉、京哉……あっ、く――」

 二人は同時に達した。京哉は自分の胸にまで飛び散らせ、霧島は京哉の奥深くを二度目とは思えないほどずぶ濡れにしている。そのまま上体を倒した霧島は京哉の首筋に咬みつくようなキスをした。きつく吸い上げて赤く濃く己の所有印を穿っている。

「ちょ、また襟から見える処じゃないでしょうね?」
「見えても構わん。本部の誰もがお前は私のものだと知っている」
「だからって吸血鬼じゃないんですから……あ、ああっ!」

 深く繋がったまま躰を返されて細い腰を掴まれた京哉は休む間もなく攻められた。絡む内襞が掻き出されるかと思うような荒々しい攻めだった。閾値を超えてどうにかなってしまいそうな快感にまた涙し、京哉は零れた雫をシーツに擦りつける。そうしながらも霧島にどんな要求をされても応えるつもりでいた。

 霧島は思い切り攻め抜き京哉を我がものにしようとする。それに伴うテクニックだけでなく、世に言う絶倫というタイプだ。対して京哉はそんな霧島の全てを受け入れることで年上の愛し人を征服しようとしていた。

 太すぎる灼熱の楔で京哉を貫き、激しく体内を擦過しながら霧島が低く洩らす。

「京哉……愛している、京哉……誰よりも愛している!」
「僕も、忍さんだけ……愛してます……はぁん、また、いっちゃう!」
 シーツに京哉が零すと同時に窄まりが締まり、霧島も京哉の粘膜を再び熱く濃いもので濡らした。閉じ込めきれなかった霧島の熱が内腿を伝い出す。再び躰を返されて貫き突き上げられる。

 随分と揺れ合い京哉が何も零せなくなった頃、ようやく霧島は京哉を揺らすのを止めて固く抱き締め、唇を奪ってまたも咬みつくようなキスをした。

「お前が気絶するまで攻め抜きたいが、朝になってお前が立てんと困るからな」
「覚えていて下さって、どうも。でもそれもう少し早く思い出して欲しかったかも」
「大丈夫……ではないのか?」
「冗談ですよ。何時間か眠れば、たぶん」
「それならいいが。なら先に寝ていろ」

 そう言われても湯で絞ったバスタオルで躰を拭かれたり、下着とパジャマを着せ付けられたり、横になったまま器用にシーツを交換されたり、口移しで冷たい水を飲ませて貰ったりしながら眠れるほど京哉は鈍くない。だが霧島が非常に機嫌よく京哉を介助してくれるので、京哉も笑って任せるしかなかった。そうしてやっとブルーの毛布を被せられる。

「他に何か要るものはあるか?」
「僕が欲しいのは誰かさんの腕枕だけですよ」
「では、私も抱き枕を抱いて寝るとしよう」

 足まで絡め合ってリモコンで天井のLEDライトを常夜灯にすると霧島が京哉の頭を抱き込んで髪を長い指で梳いてくれる。だが聞こえているのは既に寝息で、指は無意識的な動きのようだった。
 京哉も目を瞑ると温かな白い闇に意識を沈ませてゆく。
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