高貴なる義務の果て~楽園19~

志賀雅基

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第33話

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 コウと喋り、考えに耽っている間に物資の運び出しは終わったようだった。そこで地べたに積まれた物資運びを刑事三人も手伝うことにする。どう見てもロキニの町にはタクシー会社やレンタルコイル会社などなさそうだったからだ。

 コイル一台を快く貸して貰うために肌寒い中、汗を流すほど働いた。
 一緒に荷運びをした男たちがシドたち三人に白い歯を見せる。

「いやあ、綺麗な顔の兄さんたちはミテクレが売りかと思えば力もあるじゃねぇかい」
「本当に助かったぜ。礼と言っちゃなんだが晩メシはウチで食わねぇか?」
「兄さん方、俺の店の方が旨いぜ。保障する」

 皆、気のよさそうな者ばかりで悩んだが、取り敢えずはコンテナが満載になった貨物コイルの、オープンにした荷台に乗せて貰ってロキニの町見物だ。

 あちこちでコンテナを降ろす作業をまたも手伝いながら町を眺めるに、今どき建物の殆どが石と木と土で出来ていた。たまにテラ連邦規格のユニット建築も見受けられたが、元々カネの掛からないシロモノであるそれは、周りの家屋と変わらない茶色に変色していた。

 そうして家屋や店、診療所などにコンテナを次々と降ろした貨物コイルは、最後に町を外れて爆走し始める。乾いた空気に混じった砂埃でむせそうになりながら、シドたちは振り落とされないように数少ないコンテナに掴まって十分ほどを耐えた。

 やがて着いたのがレアメタル鉱床だった。

 アパートほどもある黄色い大型掘削機が四台も動いている。突然男の子に還ったシドが目を輝かせて掘削機に見入った。長い間に掘り捨てられた砂山が山脈の如く囲む中、寒さも忘れてシドは、今度はあのプラモを作ろうなどと思う。

 だが鉱山主は掘削機だけに頼ってはいないらしい。汚れてほつれた灰色の作業服の男たちがシャベルやツルハシを担いで移動し、砂山を引っ掻くように掘り進めているのが見える。
 彼らの手首に嵌ったリモータは最低ランクの機種で、疲れきった彼らの表情と相まって、そのリモータは手枷のようにも思われた。

 それでもまだ彼らには仕事が終われば帰る町がある。それすらなくて、FCの援助で採掘場の傍にユニット建築を並べて暮らしている鉱床もあるのだと、貨物コイルのドライバーは説明した。全てのレアメタルの流通をFCが握っていても、採掘権を持つ訳ではない。

 こうして働く彼らの生活レヴェルを決めるのは、第三惑星ミントの星系首都マイネで貴族の如く着飾り、毎夜パーティーを催す第一次入植者たちなのだ。彼らの持つ会社はどうやって鉱区民の賃金をローコストに押さえようかと日々頭を悩ませていることだろう。

 往路のタイタン行きシャトル便の中で話した通り、こういう事実をFC専務のハイファも知っていて憂い顔だったが、それでもシドは砂山を引っ掻いている彼らをハイファが直接見ることにならなくてよかったと思う。

 薄愛主義を標榜しながら、じつは誰より凹む男なのだ。

 だからといって目を背けないのもハイファという男で、自分が名ばかりの専務でありファサルートの血を持つだけで担がれた玉でしかないと分かっていながら、実父のチェンバーズ=ファサルート会長や秘書のセンリーこと武藤千里むとうせんりと企んで、様々な星系のレアメタル鉱山採掘者の生活改善プランを練っては実行したりしている。

 それはともかく寒かった。昼の日とはいえここはタクトから千キロ以上も北、シャリムでもかなりの高緯度地域である。幌を外した貨物コイルの荷台に直接座っていると尻が酷く冷たい。見上げるとまだ青い空には少し歪だが満月に近いムーンが白くぶら下がっている。

「あの月は何て言うんだ?」
「さあな。他星系出身だから俺は知らん」
「ああ、あれはラームですよ」
「ふうん。それにしても子供が少ねぇな」

 言ってからシドは『学校も殆どないから学生は第三惑星ミントにいる』というハイファの言葉を思い出した。だがふいに硬い顔をしたコウが思わぬことを言い出す。

「この辺りは数年前から赤熱斑の大流行が続いているんです」
「子供の病気だよな、それ。大人には伝染しねぇのか?」

「ええ。大人は平気です。けれどワクチンは高価ですから、こういった鉱山の村や町の子供が全員受けられる訳じゃない。鉱山主も頭を抱える大問題なんですよ」
「へえ、それで子供があんまり見当たらねぇのか。でも鉱山主がワクチン代を出せばいいんじゃねぇか、そんなに心配ならさ」

「心配、ですか。このままでは鉱夫の頭数が少なくなるから頭を抱えているんですよ。そんな心配をする鉱山主がワクチンをタダでくれるっていうのは甘いんじゃないでしょうか。それとも大ファサルートコーポレーションならワクチンくらいタダで配布してくれますかね?」

 珍しくシニカルな物言いをしたコウに、シドも暫し黙って考えていた。

 黙って寒さに耐えていると、またも貨物コイルは爆走し始めた。だが今度はロキニの町までだと分かっているので寒さも尻の冷たさも砂埃も我慢できる。
 やがて貨物コイルは一軒の酒場の前で気が抜けたように停止し接地した。

 寒風に吹かれながらリモータを見ると、シャリム宙港標準時ではもう十九時を回っている。これからゆっくりと空は夕闇に浸食されて夜の日になるのだ。空気中に熱を蓄積する水分が少ない乾燥した土地である。夜は今以上に冷え込むことだろう。

「よう、本当にウチでメシ食って行かないか?」

 貨物コイルのドライバーが声を掛けてきた。シドはユウキの黒い目とコウのすみれ色の瞳を交互に見て了解を取り、ドライバーに頷いて見せた。

「じゃあ遠慮なくご馳走になる」
「この酒場がウチの店だ。幾ら飲んでくれても構わないぞ、今日の礼だ」
「飲むのもいいが、腹が減って胃袋が逃げていきそうなんだがな」
「ウチのカカアがメシは作るさ」

 寒さから逃れたくて喋りながらも酒場のオートではない合板のドアから中に入る。中は意外にも煌々とライトパネルが灯って明るい。電力は発電衛星からアンテナで取り放題なのだろう。石と木で出来た二階建ての一階が酒場、二階が住居になっているようだ。

 飴色になった天然木という高度文明圏では高級品のカウンターにスツールが八。あとは背後にテーブル席が六つ並んでいる。そして酒場の中央では何かの機器が据えられて赤々と燃え、有難くも暖かかった。シドはそれが薪ストーブだというのをドライバーから聞く。

 ドライバーはストーブに薪を何本かくべると、上に置いてあった湯気の立つヤカンを持ち上げ、板張りの床に直接湯を撒いてからヤカンを戻す。
 盛大に蒸気が上がったのちは室内の湿度が上がり、シドは喉を通る空気が柔らかくなったような気がした。
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