魚、あるいは限界性能

志賀雅基

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1.AIに託されたトロッコ問題

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 自動運転車。これが怖い。高齢ドライバーの判断力低下による事故は、あってはならないけれど意味は分かる。どうしたって歩いて行けないのだもの。

 車でサッと行ってサッと帰ってくる。通院とかに超便利。重たい買い物袋下げて歩けないの普通ですから。でもそれであたら幼い子が事故で亡くなったりすると「ううっ…」となる。

 だったらAIに、間違わないAIに運転させよう。人間は乗って座って寝ていてもいい。これは確かにいいね、実現したら最高だ。お高いだろうけど。

 だが自動運転車だけが発達しても無駄である。人間の生活圏内にある全ての、本当に全てのシステムが自動運転車に対応しなければ、これは駄目だと思う。

 AI車サイドが全てのルールを護って機動しても周りはそうじゃない。

 さて、AI車に乗っていたら子供の集団が飛び出してきました。五人はいるかも。真っ直ぐ行ったら轢き殺してしまう。方向転換だ! たまたま方向転換先に街路樹しかない場合。ブレーキかけても止まれないという条件で。
 そうしたらAIは、


1街路樹に方向転換して激突し、あなたを殺す
         or
2そのまま真っ直ぐ行って飛び出し坊やたち五名を轢き殺す


 2022.04現在、世界のあらゆる自動車メーカーでAIに依る自動運転車が開発されテストしていると聞く。それはこのAIに対し『トロッコ問題が起こった際に取り得る最適解』をエンジニアたちが既にインプットしたということでもある訳だ。

 自分を殺して他人を護る車に乗りたがる人間がいるのだろうか。
 そんなシロモノが売れる筈がない。

 じゃあ売るために逆張りなのか? 非常時なら大量殺戮でもするしかないと言い張る気合いの入った倫理学者がエンジニアに何か示唆でもしたのだろうか。

 分からん。マジで疑問だ。

 でも必ず決まってる筈なんですよね、これ。あらゆる条件全てを満たした時の機動をどうするかってことが決まってないとゴーカート場でしか乗れなくなる。

 自動運転車、どっちに決めてあるんでしょう?

                           了
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