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第9話

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 デカ部屋に入るとさすがに皆、浮き足立っていた。今回の慰安旅行参加者は一部の者のみだが、いつもと雰囲気からして違う。武器庫までが解錠され人が出入りしているのだ。

「何で武器庫が開いてるんですかね?」

 開口一番訊いたシドにゴーダ警部が鬼瓦のような顔で笑って答える。

「イヴェントストライカと他星に行くのに丸腰で堪るかい」

 背をどつかれつつ、シドはあれから初めて出てきたマイヤー警部補に目を留めた。

「もういいんですか?」
「ええ。お陰様でゆっくりさせて頂いて、しっかり治しましたから」
「んで、実際、何で武器携帯なんです?」

「今回の旅行の許可を業務管理コンに申請したところ、干渉した捜査戦術コンが参加者全員に武装を勧めてきたんです。やはりイヴェントストライカが参加するとひと味違いますね」

 ニヤニヤと笑うマイヤー警部補も機捜課の人間だった。

 武器庫に出入りする皆から背を小突かれ、閉口したシドは自分のデスクにタマ入りキャリーバッグを置くと、皆も書いたらしい各星系政府法務局共通の武器所持許可申請書を埋める。捜査戦術コンに流すのはハイファに任せて自分も武器庫に入った。

 雑毛布を敷いたデスク上でレールガンをフィールドストリッピングという簡易分解し、内部の絶縁体や電磁石の摩耗度をマイクロメータで測る。納得すると組み上げ、フレシェット弾を満タンにした。予備弾三百発入りの小箱も手にする。

 他の旅行参加者が武器庫から持ち出したのは、惑星警察の制式拳銃であるシリルM220というパウダーカートリッジ式小型セミ・オート・ピストルだ。チャンバ一発マガジン九発の計十連発で、使用弾頭は硬化プラスチックだが至近距離なら殺傷能力は充分である。

 武器庫を出ると他星系や宙艦内でも通用する武器所持許可証がリモータに流れてきた。デスクに戻るとタマのキャリーバッグを囲み合コン旅行参加者が集まっていた。それぞれ泥水の紙コップと荷物を手にしている。シドにもハイファが泥水を調達してきてくれた。

「お、サンキュ。……って、ヤマサキ。ウチの参加はこれだけか?」

 テンパった顔つきでヤマサキが頷く。集まった面々はゴーダ主任にケヴィン警部、マイヤー警部補にヘイワード警部補、ナカムラにヤマサキ、シドにハイファ、それにまだ多機能デスクに就いているヴィンティス課長だ。

「あれ、ヨシノ警部がいないけど?」
「ヨシノ警部はミュリアルちゃんと定期BELで宙港まで先行するそうっス」
「ふうん。それにしても少なくねぇか?」
「じつは……イヴェントストライカが参加と聞いて辞退者が出たんスよ」

 言うなよコラ馬鹿野郎とヤマサキは周囲から足蹴にされる。だがシドは常のポーカーフェイスを崩さず煙草を咥えて火を点けると、ひとことコメントしただけだった。

「へえ、そいつは悪かったな」

 怒らないシドに毒気を抜かれたのか喫煙者が煙草を咥える。そこでサッカーボールになっていたヤマサキが控えめに発言した。

「捜三の人が宙港まで裏取りに行くそうで緊急機を二機出してくれるそうっス。それに便乗するので煙草は一本だけにして駐機場に移動願います」
「おおっ、ヤマサキ幹事代理も様になってきたじゃないか」

 ケヴィン警部に混ぜ返され、まともに受け取ったヤマサキは照れて頭を掻いた。
 一本をそれぞれ灰にし空の紙コップを捨てると駐機場に向かう。緊急機には既に捜三の捜査員が二名ずつ乗っていて恐縮しながら面々はスライドドアから乗り込んだ。

 シドとハイファはパイロット席とコ・パイロット席を占める。捜三の二名の他に乗ったのがゴーダ警部とヘイワード警部補にマイヤー警部補という上級者だったのと、あとはヤマサキ幹事代理に敬意を表し、往きの操縦を請け負ったのだ。

 だがパイロット席に着いたシドは何をするでもない。全てはコ・パイ席のハイファ任せである。役目を心得ているハイファはテラ連邦軍のBEL手動操縦資格・通称ウィングマークを持つという小器用さだが、ここでは腕を披露せずに反重力装置を起動すると宙港に座標をセットし、あっさりオートパイロットをオンにした。

 二機の緊急機はサイレンを鳴らさずテイクオフ、蒼穹へと舞い上がる。

 定期BELなら低空・低速で各停機場を巡るので宙港まで一時間半も掛かるが、緊急機で直行なら三十分だ。その分、負担も軽くなる。
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