YAMASAKIは今日も××だった~楽園16~

志賀雅基

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第14話

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 皆が肩で息をしながら宙艦に運ばれる。
 エアロック前でポイと降ろされシドとハイファはその宙艦を見上げて思わず溜息をついた。それは旅客艦ではない、貨物艦だった。それもかなりの旧い型で乗り心地は推して知るべしといったところだ。

「まあ、カルチャーダウンせざるを得ない星だもん。旅行客なんていないよね」
「じゃあこいつはいったい何を積んでるんだ?」
「たぶんテラ連邦議会や民間からの僅かな援助物資だと思う」
「なるほど。仕方ねぇな、乗ろうぜ」

 別室任務で酷い乗り心地の艦にも何度か行き当たってきた二人は、安全に運んでくれさえすれば文句はなかった。だが他のメンバーは違った。誰もが耐乏官品で贅沢は望まなかったものの、ことは慰安旅行なのである。

 貨物艦でチケットは格安とはいえ勿論旅客スペースくらいはあった。定期便のない星系に出張のお父さんを運ぶこともあるからだ。しかしエアロックをくぐり、身を縮めて狭い通路を歩き、辿り着いたのは僅かにベンチがふたつきりの空間だった。

 思わぬ団体様の出現に艦の側が対応しきれなかったのだ。

 ささやかながらオートドリンカが壁際に一台だけ設置されていて、その隣には旅行代理店の執念のようにタマ用キャットイレと小皿ふたつがちんまり置かれている。

 シドはオートドリンカにリモータを翳すと省電力モードから息を吹き返させ、クレジットを移した。ハイファがアイスコーヒーとパライバ星系産天然水のボタンを押す。保冷ボトル二本を手に入れると二人はベンチを他のメンバーに譲って床に直接あぐらをかいた。

 ボトルから小皿に水を空けてタマを出してやると、タマはペシャペシャと水を旨そうに飲んでから、キャットイレの砂をザリザリと掻き始めた。用を足す猫から目を逸らすと丁度オートドアが開いた。宙艦のクルーらしき男が一人、入ってくる。

 男は手にしていた大きな段ボール箱をドスンと置くと、愛想笑いのひとつも寄越さずに出て行った。ハイファとナカムラとヤマサキのペーペー組が段ボール箱を覗く。

「あ、ワープ薬とお弁当と飲み物だよ、良かったね。ビールもあるし」
「この貨物艦には食堂もないのか?」

「文句があるなら十三億キロ向こうの旅行代理店にどうぞ、ヘイワード警部補」
「文句はないが……何だかムゴい気がしてきただけですよ、ハイファス先生」

 聞き流してハイファは皆にワープ宿酔止めの白い錠剤を配った。

「シド、貴方は二錠だね。引っ掻かれて傷を作らないように気を付けて」

 十一人と猫一匹はワープ薬を飲んだが、そのときには既に何の断りもなく宙艦は出航していた。外を映し出すモニタどころか窓のひとつもないので様子も分からず僅かな振動でシドとハイファが気付いた程度だ。

「十二時出航で、確か四十分ごとに二回のワープだから二時間の我慢だね」
「メシ食って、ワープラグ対策に寝てりゃ二時間くらいすぐだぜ」

 ワープラグとは他星に行った際の時差ぼけのことだ。だがヴィンティス課長とゴーダ警部は寝るよりも飲む方を選択し、ヒモを引っ張れば温まる弁当のおかずを肴に酒盛りを始める。

 状況が状況ですっかりヘソを曲げてしまったミュリアルちゃんをヨシノ警部が必死で宥め、ヘイワード警部補は弁当から人参を除ける作業に没頭していた。

 そのうちケヴィン警部がカードを持ち出してナカムラとヤマサキをカモにし始め、マイヤー警部補はそれを微笑んで観戦する。シドは煙草の代わりにヨシノ警部から貰ったスルメを咥えてハイファと一緒にタマの相手だ。

 そうして二回のワープをこなす頃には、ヴィンティス課長は赤い顔でゴーダ警部に凭れて暢気にも高いびきをかいている。

「ったく、みっともねぇなあ。惑星によっては公衆酩酊罪で逮捕だぜ、エドワード=ヴィンティス!」
「まあまあ、いつも他の課にはない苦労に晒されてるんだから」
「ふん。これが表だったら、そのまま埋めてやるのにな」

「酷いなあ、せめて瞼にマジックで目を描くくらいにしてあげなきゃ」
「身ぐるみ剥いでネクタイだけで放り出してやるか」
「だめだよ、シド。黒靴下は残さないと」

 誰が酷いのかはともかく到着十五分前に初めてアナウンスが入った。全員がリモータ操作し艦内に流れる電波を捉えて、これから着くユミル星系第二惑星マーニの第一宙港時間をテラ標準時と並べて表示した。

「惑星の自転周期が七十六時間三分四十八秒、それを三分割で一日約二十五時間か」
「昼の日と普通の日と夜の日があるってことだね」
「まあ、どうせ二泊三日、ワープラグを引きずる前にオサラバだ。楽勝だな」

「着いたら第一宙港は普通の日の十六時だってサ」
「宙港は幾つあるんだよ?」
「資料には確か二ヶ所って載ってたけど」

 一番ペーペーのナカムラが弁当ガラだの空ボトルだのをかき集め、段ボールに収めて綺麗に片付ける。それぞれが自分の手荷物を持ちヴィンティス課長を起こして準備は整った。

 ここにきてシドはカルチャーダウンというのを思い出し、にわかに心配になってくる。なんぼなんでも本当に温泉掘りからは勘弁、そこでヤマサキを肘でつついた。

「宿くらいはちゃんとしてるんだろうな?」
「ええと、まずは降りてからBEL移動になるっス」
「それから?」

「BELで三十分で目的地だそうっス。目的地はテュールっていう都市だそうで」
「へえ、マジで都市があるのか」

 言いつつハイファを見るとハイファは肩を竦めてみせた。ここから先は知らないと言いたいらしい。ハイファだけではない、全員が不安げでシリアスな顔をしていた。

 僅かな振動が起こり、アナウンスがユミル星系第二惑星マーニに到着したことを告げた。
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