【完結】吉祥天姫~地味な無能と馬鹿にしてますが実は完全無敵のラッキーガールです。悪意は全部跳ね返し最強のイケメンに溺愛されてます~

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第一章 

13 婚約者? の横取り

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 ”調査なんてされたら、僕が盗んだことがバレてしまう”

 なんとか調査や裁判を回避するために、
 今日、ツグロはアイレンの家にやってきた。
 もう何度か訪れていたが、
 いつもは門前払いされていたのだが。

 しかし今日は、アッサリと中まで通してもらえた。
「もしかして僕の情熱にほだされて、
 結婚を認めてくれるのかも!」
 ツグロは大喜びしながら応接間まで歩いていく。

 そしてその途中、家の中が妙にがらんとしており、
 ホコリが舞っていることに気付いた。

 おかしい。何かあったのか?

 そう思いながらも応接間に着くと、
 そこにいたのはアイレンではなく。
「カアラ!? なぜ君がここに?」

 豪華なドレスを着て微笑むカアラが待っていたのだ。
 慌てつつも、ツグロはすぐに気が付いた。

 カアラが着ているドレスは、アイレンのものじゃないか!

 忘れるはずもない、久しぶりにあの分厚い眼鏡を外した、
 アイレンの誕生会で着ていたドレスだ。

 淡いピンク色の光沢のあるシルク生地に、
 手の込んだ薔薇のつぼみの刺繍が散りばめられている。
 ウエストのリボンには古代文字で刺繍が入っていた。

「……それ、アイレンが去年、誕生日に着てたやつだよね」
 ツグロの指摘にカアラが嫌そうに顔をゆがめる。
「よく覚えてたわね」

「もちろんだよ、すっごく綺麗だったもの……でも」
「何よっ! 私は綺麗じゃないとでも言うの?!」
 食ってかかるカアラに、ツグロは落ち着かせようと続ける。

「き、綺麗だよ、よく似合ってる。
 でも、サイズ的にちょっとさ……」
 カアラはハッとした顔になり、自分の体を見た。
 その後、背中が気になるようで、
 しきりに腕を回して確認している。

 カアラよりも小柄なアイレンが、去年の誕生日に着たドレスだ。
 一年以上経っている現在、カアラが着るにはいろいろ無理があった。

「そ、そんなことより、何でそれを君が着ているの?
 そもそもなんでここに居るんだよ」

 そうしてツグロはやっと、
 アイレンに起きた出来事を知ったのだ。

 ーーーーーーーーーーーー

「嘘だろ……なんてことだ……
 アイレンの家族がみんな、
 旅先で死んでしまったなんて……」
 ツグロは呆然とし、木の椅子に座り込む。
「ね? オドロキでしょ? ウフフ」
 人の家の不幸を、おどけた調子でカアラが笑う。

 実際は生死不明なのだが、カアラはあえて”死んだ”と言ったのだ。
 その方がアイレンを悲しませることを知っているから。

 ツグロはキョロキョロと見渡しながら言う。
「あ、アイレンは? どこに? 泣いているんだろ?
 僕が側にいて、慰めてあげなきゃ」

 カアラは鼻で笑い、ツグロに教えた。
「ここにはいないわよ。出て行ったの」
「なんでだよ! それにどこに行くと言うんだ!」

 カアラは意地悪そうに、髪の毛先を見ながら答える。
「知ーらない。ここに住む権利を手放すんだってさ。
 行き先はアパートメントだって。
 信じられる? 華族がよ?」

 限りなく平民に近いカアラとツグロは
 高級アパートメントホテルの存在など知らなかった。

 だから二人とも、住む権利を手放すのは
 お金がないためだと思い込んだのだ。

「ま、親がいなくなったんだもの。
 無能なあの子じゃ、なんにもできないからね」
 カアラの言葉に、ツグロはうなずく。

 そして彼の心には落胆と、
 その後すぐに怒りが湧いてきたのだ。
 ”なんでだよ。なんで落ちぶれるんだよ、アイレン。
 僕が好きだったのは、
 実家が金持ちで無能な女の子、だったのに”

 ただの無能になるなんて。

 ツグロはがバッと立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
「どこ行くのよ? アイレンのところ?」
 カアラが不満そうに尋ねるが、ツグロは首を横に振った。

「うちの親に知らせるんだよ」
 もう、調査も裁判もなくなること。
 もうアイレンと結婚しても何のメリットもないことを。

 するとカアラが言ったのだ。
「ちょっと待ちなさいよ。
 その前に、あなたに聞きたいことがあるの」
「……なんだよ」

 ドレスをひるがえし、
 カアラはツグロのところまで来た。

 その時ちょうど良く、メイドが部屋に入ってきて告げる。
「お嬢様。お茶をお持ちいたしました」
「遅いじゃない。早くテーブルに用意しなさい」

 メイドは一礼し、無言で紅茶を注ぎ始める。
 そんな彼女にカアラはいくつか命令を出し始めた。
「南東の私の部屋、片付けておいてね。
 それから今日の夕食は鴨料理を食べたいわ。
 あとお父様たちがお目ざめになったら、
 アクセサリーの注文がしたいとお伝えして」
「承知しました」
 メイドは無表情のまま一礼し、去って行った。

 一連の流れを見ていたツグロがカアラにたずねる。
「……どういうこと? まるで君が、この家の……」
「そうよ? 私がこの家の令嬢なの」
「えええっ!」

 驚きの声をあげるツグロに、カアラはアゴをあげ
 すました顔で告げたのだ。
「この家はもう、うちの父のものよ。
 ちゃーんと契約したんですもの」

 ツグロの頭の中は、めまぐるしく動いた。
 ただし、間違った方向で。

 そうか、無能なアイレンは後継者として認められず、
 遠縁である小端館家が受け継いだということか?!

「……す、すごいね、カアラ」
 振り絞るような声でツグロが言うと、
 カアラはさっそく本題に入った。
「ウフフ。それでね、ツグロに聞きたいのは……」

 カアラは小首をかしげ、彼の顔を覗き込んで言う。
「ツグロが本当に好きだったのは……
 結婚したいと思っているのはアイレン?
 それとも……」

 ーーーーーーーーーーーー

「まあ、カアラちゃん、本当に可愛らしいわあ」
 ツグロの母の媚びるような声が応接間に響く。

 あの後ツグロは、大急ぎで自宅に戻った。
 そして一部始終を両親と兄に話したのだ。

 普段、ゴシップ欄以外は読まない新聞をひっくり返し
 北海での事故の記事を見つけて読む。
 そして役所の知り合いにも確認すると、
 天満院家の夫妻と幼い長男がその船に乗っていたのは
 間違いない、と言うことだった。

「それでさ、あの家はもう、カアラたちのものなんだ。
 高級なドレスを着て、メイドもいてさ!」
 興奮気味にツグロが説明するのを、
 素野原夫妻は口をあけたまま聞いていた。

 ツグロは安心したように息をついた。
「良かった。これで調査も裁判もなくなったよ」
 それを聞き、兄が皮肉交じりにつっこんだ。
「お前が乗るはずだった玉の輿も消えたがな」

 それを聞き、ハア、と肩を落としたのは両親だけだった。
 ツグロは相変わらず目を輝かせ、頬を赤らめている。
 そして兄を見下すような目で言い放った。

「いいや、兄さん。消えてなんかいないよ。
 というより、僕はもうようなものだ」
「どういうことだ?」
 訳が分からないという顔をする両親と兄に、
 ツグロは誇らしげにうなずく。

 彼がやたらと嬉しそうなのは、
 初めて女の子に好きと……
 結婚して欲しいとまで言われたからだ。

 ツグロは照れた顔でつぶやいた。
「カアラがね、”僕と結婚したい”っていうんだ」

 それを聞いた両親は歓喜し、
 そのままカアラ達のもとに押し掛けたのだ。


 そして現在、先ほどカアラがツグロに甘えながら、
 ”結婚相手を自分に変えて!” とねだった応接間では。

 仲良くじゃれ合うツグロとカアラ、
 そしてそれぞれの両親が顔を合わせていた。

「カアラからツグロ君のことを聞いた時は驚いたよ。
 アイレンよりも、本当はカアラを想っていてくれたとはな」
「いやあ正直、美しいカアラちゃんは
 ツグロには高望みだと思っていたよ。
 ”こいつにはあの無能娘くらいでちょうど良いか”、ってね」
 ツグロの父の言葉は、まさにカアラが求めていたものだ。

 カアラは強く願った。
 あのムカつく令嬢たちの前で、
 同じことを言ってちょうだい!
 いえ、絶対に言わせてやる! と。

 ツグロの両親は口々に、小端館の夫妻とカアラを褒めたたえた。

 姉だったアイレンの母よりも、
 妹のカアラの母のほうが美しいと思っていた。

 あの偽善的で融通の利かないアイレンの父より
 カアラの父の方がずっと才能にあふれているから、
 天満院家の事業を拡大させるだろう。

 そんな言葉をカアラの両親は満足そうに聞いていた。

 しかしカアラの両親が彼らの結婚を許したのは
 今、アイレンに、後ろ盾が出来ると困るからだ。

 アイレンがこのままツグロと結婚してしまい、
 天満院家の全てを譲ってしまったら。
 自分たちの目論見は全てパアになってしまうのだ。

 それぞれの思惑をよそに
 両親たちは満足そうに全員で乾杯をした。

 しかしたくさん話すうち、酒を飲み進めるうち。

 ツグロの両親たちには疑問や違和感が湧いてきた。
「あれ? 死んだのではなく生死不明なんですか?」
 だから財産の分与はまだまだ先だって?
 それを聞いた瞬間、思わず酔いが醒めかける。

 カアラの父が鷹揚にうなずいて答えた。
「まあ、時間の問題だ。なんせ北海の海に沈んだんだからな。
 財産の問題も、あの無能娘は命じればすぐに了承するだろう。
 この屋敷だって簡単に手放したのだからな」

 そんなにうまくいくものだろうか。
 そう思いかけるが、気をとりなおして笑顔で同意する。
 まあ身内なんだし、一部はもらえるだろうからな。

 親しくなっておいて、絶対に損はないだろう。
 ツグロの両親は違和感を酒で飲み込むことにした。

 だが、振る舞われる酒が高級酒ではなく
 自分たちも飲むような安酒だったことに気付いたのは
 帰り際、転がった酒瓶のラベルを見た時だった。



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