【完結】吉祥天姫~地味な無能と馬鹿にしてますが実は完全無敵のラッキーガールです。悪意は全部跳ね返し最強のイケメンに溺愛されてます~

enth

文字の大きさ
15 / 82
第一章 

15 全ての思惑が外れていく

しおりを挟む
 自分たちで広めた虚構の”婚約話”のせいで
 ツグロ一家はさまざまな人たちから
 ”婚約者を見捨て、他の娘に乗り換えた男とその家族”
 として激しい非難を浴びてしまった。

「違うんです! 本当は婚約なんてしてなかったんです!」
 ツグロが必死に叫んでも、
「嘘をつくな! 先週まであんなに何度も
 ”僕らは結婚の約束をしたんです”ってノロケてたくせに!」
「そうよ! あなたのお父さんだってそう言ってたじゃない!」
 などと言われ、さらに相手を怒らせるだけだったのだ。

 もちろんアイレンは以前からその噂を否定していたため
 彼らの”婚約話”が真っ赤な嘘であることを
 ちゃんと知っている人もいたが。

 しかしそういった人々は
 ”彼らがこうなったのは自業自得だ”と思い、
 非難する者たちに”婚約は嘘だった”などと
 わざわざ教えてあげることはなかった。

 ツグロたち素野原家の人々は、家で頭を抱えていた。
「クソっ! 仕入れ先の社長にまで
 ”慰謝料くらい払うのがケジメというものだろう”
 などと説教されたのだぞ!
 なんで我が家があんな無能娘に!」

「でもっ、早く事態を納めないと、
 俺だって学校でチクチク言われるんだよ!
 ”お前の弟は最低だな”って」

「そうよ! 謝罪したのか、許してもらえたのか、
 毎日買い物に行くたびに聞かれるのよ?
 直接言われるならまだマシで、
 私が近づくと、急に足早に去って行く人もいるんだから!」

 嘆いたり愚痴ったりする家族に、
 ツグロはポツンとつぶやいた。
「……わかったよ。アイレンのところに行ってくるよ
 それで適当に話して、謝ったことにするよ」

 三人がツグロに注目し、しばしの間の後、大きくうなずく。
「そうね、それが良いわ」
「ああ、それなら和解済みだと言えるしな」
「確かに会ってもいないのに”謝罪した”と言っても、
 万が一アイレンがそれを否定したら
 あいつらもっと怒り狂うだろうかなら」

 ツグロはさっそく外に向かうが、すぐに足を止めた。
「どうした! 早く行け」
 急かしてくる父に対し、困惑顔でツグロが返した。

「アイレンは……いま、どこにいるんだ?」

 ーーーーーーーーーーーー

 ツグロたちがそんなことになっているとは知らず、
 アイレンは高級住宅街にある
 豪奢なアパートメントホテルのリビングで
 親友のジュアンと一緒にお茶を楽しんでいた。

「家が徒歩10秒なんて、夢みたい」
 アイレンが笑うと、窓の外を見ながらジュアンが指を差す。
「ほら、あの窓! あのオレンジのカーテンのとこね?
 あれが私の部屋だから! 帰ったら手を振るからね!」

 斜め向かいの家ということもあり、
 家の中にいても姿が確認できそうだったのだ。

「素敵すぎます! ね、今度、糸電話で話してみましょ?」
「んんんー、どうやってつながるかが問題よね」
 などと盛り上がっていると。

「ただいま戻りました」
「おかえりなさい!」
「おじゃましてます」
 ジュアンを見つけ、帰宅したばかりの執事は一礼する。

 そして不安顔で見上げるアイレンに、
 執事は苦笑いで告げたのだ。
「アイレン様の今後につきましては……
 公立校へ御進学いただくことになりました」

 きゃあああああ!
 その言葉を聞き、アイレンとジュアンは歓声をあげる。

 本来ならば上位華族の娘として、
 9月からは私立の女学校へ入学する予定だったのだが。

「嬉しいわ! 秋からも一緒に学べるなんて」
 喜ぶアイレンに、ジュアンのほうがちょっと戸惑いがちに
 執事に向かって尋ねた。
「正直あきらめてたけど……良いんですか?」

 執事はゆっくりうなずいて、答えた。
「アイレン様のためでございます」

 ーーーーーーーーーーーー

 先刻まで執事は、入学する予定だった女学校に行っていた。
 そこで年老いた事務員が差し出してきたのは。

 ”こんなクソな学校、いくわけないだろバーカ”
 という乱暴な筆跡で書かれた文字と、
 ”天満院アイレン”、と署名された紙だった。

 執事はそれを手に取ることも無く、フッ……と軽く息を吐いた。
「これはアイレン様の字ではありません!」
 などと取り乱すこともなく、沈黙している。

 事務員のほうも顔をしかめた後、つぶやいた。
「あまりにも稚拙、ですな」

 その言葉の通りだった。
 まず彼女の本名は”天満院 愛蓮”。
 カナ文字の通称で過ごすことが多い昨今であっても、
 公的な文書に漢字で書かないことは
 本人でないことを示すようなものだ。
 なりすましをしたいのなら、まったく意味がなくなる。

 事務員は封筒を出して言った。
「しかもこれ、”配達指定文書”で届いたのです」
 その言葉に、さすがに執事は吹き出してしまう。
 事務員も苦笑いをしていた。

「犯人を特定するのは容易ですが……どうされますか?」
 事務員の言葉に執事はうなずき、
 紙と封筒をカバンにしまい込みながら答える。

「もちろん警察に届けますよ。これは立派な犯罪ですから。
 ……まあ、すぐには動きませんけどね」
 執事はすでに、誰がやったことか判っている。
 だからこそ、最も適したタイミングを狙って
 罰を与えるつもりなのだ。

「……では、失礼いたします。
 お手を煩わせて申し訳ございません」
 立ち上がった執事に、事務員も慌てて立ち上がる。

 そして沈んだ顔で言ったのだ。
「天満院家のお嬢様が、こちらにご入学されないのは残念です」

 実は今日、執事は入学辞退の手続きに来ていたのだ。

 その処理の終了後、事務員が
 ”そういえば先日、こんなものが届いた”と
 このおかしな封書を出してきたのだ。

 だから辞退する理由はもちろん、
 この手紙のせいではない。

 一礼する執事に、年老いた事務員も礼を返す。
 そして最後に一言、付け加えたのだ。

「残念ですが、そのほうが良い。
 ……ここは、変わってしまったから」

 ーーーーーーーーーーーー

「まあ! もちろんですわ。
 カアラはあの女学校に入学いたしますの」
 華族が集うサロンで、
 カアラの母が誇らしげに声を張り上げる。

 その横でカアラもすまし顔でうなずき、
 数日前のことを思い出す。

 アイレンの名前が入学者名簿に無いとわかり、
 家族で大笑いした晩のことを。
「やっぱり入学できなかったのね!」
「無能の上、経歴も粗末なものになるなあ!」
「もう平民としか出会いが無いわね、あの子」

 母があの時に言ったとおり、
 カアラが女学校に入ったのは
 そこで出会う上位華族の娘の、兄や従弟に見初められるためだ。

 ツグロなど、アイレンから引きはがすことさえできれば用済みになる。
 そもそもカアラはツグロなど、まったく好きではなかったから。

 ”私にはもっと、家柄の良い素晴らしいハンサムで、
  能力も高く、武力も秀でていて賢くて、カッコよくて……”

 カアラがそこまで考えた時、
 浮かんできたのはリオのことだった。
 ”本当に素敵だったもの……彼が華族だったら良かったのに”

 ぼおっと考えるカアラの耳に、
 母のすっとんきょうな声が響いてきた。
「……えっ? なんですって?」
 どうやら、周囲の反応に困惑しているようだ。

「ですからね、うちの娘は、別の学校に通いますの」
「ええ、うちのミーシャも」
 聞けば多くの令嬢が、わざわざ遠方の学校に入学しているのだ。
 それも、上位華族のほとんどの娘はみんな。

 さらには平民に近い華族でも、教育熱心な家の親は
「うちの子は公立に通いますわ」
 などとしれっと言い、それを聞いた他の親も
 それが良い、などとうなずいているではないか。

「何故です?! あの女学校に行けば教養も身について
 品格ある淑女に育ち、素敵な方に見初められ……」
 必死で語るカアラの母を、他の華族は冷めた目で見ていた。

 やがて一人の夫人が否定する。
「ご存じないのね……あの女学校が
 良家の子女にとって理想の学び舎だったのは
 2,3年前までですわよ?」

「嘘よ!」
 カアラは思わず叫んでしまった。

 他の夫人も苦笑いしながら言う。
「本当ですわ。ここ1年は特に荒れていて、
 実家が資産家だけど素行の悪い娘が多く在籍しているそうよ」
「ええ、だから良い先生はみんな
 民間の公立校に流出してしまったそうね」

 カアラの父も母も、娘の教育には興味が無かった。

 可愛い顔をしているうちの娘は、
 あの女学校にさえ入れれば
 勝手に教養が身について、品位のある淑女になり
 高位華族の男に結婚相手として選ばれるだろう、
 と思いこんでいたのだ。

 あぜんとするカアラの母に
 ”公立校に入れた”と言った夫人が慰めるように言った。
「どのみち、”ここに入学すれば安泰”
 などという学校は存在しませんわ。
 どこにいても、本人の不断の努力が必要ですもの」

 そしてカアラに対し、小さな声で
 がんばってね、と付け加えた。

 返事もせず、カアラは口を開けたまま動けずにいた。
 真っ白になった頭の中には、一つの言葉が浮かんでいた。

 ”こんなクソな学校”。

 あの女学校を、そう評したのはカアラ自身だ。
 そしてそれが”その通り”になってしまったことに
 ショックと恐怖を感じていたのだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

私を追放した王子が滅びるまで、優雅にお茶を楽しみますわ

タマ マコト
ファンタジー
王国の茶会の場で、マリアンヌは婚約者である王子アレクシスから突然の婚約破棄を告げられる。 理由は「民に冷たい」という嘘。 新しい聖女リリアの策略により、マリアンヌは「偽りの聖女」として追放される。 だがマリアンヌは涙を見せず、静かに礼をしてその場を去る。 辺境の地で彼女は小さな館を構え、「静寂の館」と名づけ、紅茶と共に穏やかな日々を過ごし始める。 しかし同時に、王都では奇跡が失われ、作物が枯れ始めていた――。

異世界に転生したら人生再スタート、追放された令嬢は恋と復讐で輝きます

タマ マコト
ファンタジー
現代日本で“都合のいい人間”として心をすり減らし、27歳で人生に幕を下ろした女性は、異世界の貴族令嬢リュミエールとして15歳に転生する。 王太子の婚約者として完璧を求められる日々の中、冤罪と裏切りによって婚約破棄と追放を言い渡され、すべてを失う。 だがその瞬間、彼女は悟る――選ばれる役割の人生は、もう終わったのだと。 追放の先で、彼女は自分の意思で生き直すための一歩を踏み出す。

人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています

ぺきぺき
恋愛
初代国王と7人の偉大な魔法使いによって建国されたルクレツェン国。そこには世界に誇る有名なルクレツェン魔法学園があった。 非魔法族の親から生まれたノエルはワクワクしながら魔法学園に入学したが、そこは貴族と獣人がバチバチしながら平民を見下す古い風習や差別が今も消えない場所だった。 ヒロインのノエルがぷんすかしながら、いじめを解決しようとしたり、新しい流行を学園に取り入れようとしたり、自分の夢を追いかけたり、恋愛したりする話。 ーーーー 7章構成、最終話まで執筆済み 章ごとに異なる主人公がヒロインにたらされます ヒロイン視点は第7章にて 作者の別作品『わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました』の隣の国のお話です。

婚約破棄されたら、実はわたし聖女でした~捨てられ令嬢は神殿に迎えられ、元婚約者は断罪される~

腐ったバナナ
ファンタジー
「地味で役立たずな令嬢」――そう婚約者に笑われ、社交パーティで公開婚約破棄されたエリス。 誰も味方はいない、絶望の夜。だがそのとき、神殿の大神官が告げた。「彼女こそ真の聖女だ」と――。 一夜にして立場は逆転。かつて自分を捨てた婚約者は社交界から孤立し、失態をさらす。 傷ついた心を抱えながらも、エリスは新たな力を手に、国を救う奇跡を起こし、人々の尊敬を勝ち取っていく。

処理中です...