20 / 142
第一章 王都の護衛兵
暴動-①
しおりを挟む王都シィネルガシアは、この国を導くために四家の力を合わせるという意味を込めてそう名付けられた。夜に沈んだその象徴の都の空気は今、これまでになく殺気立っている。シアーラの肌が、それを痛いほど感じていた。
「我らは二手に分かれる。第一隊は正面、第二隊は門前で堰き止めている暴徒の背後に回り込む。主導者と抵抗をやめない者のみ捕らえろ。最短で抑え込むことを優先する」
「はっ」
皇太后護衛隊が集まった城前の広場には、高い塀の向こうの怒号と悲鳴、何かが打ちつけられる音が渦のように轟き渡っていた。
隊長ドゥイクの指示に、兵士たちはそれぞれの持ち場に向かい駆け出した。彼らの間に隠しきれない動揺があったとしても、その足取りに迷いはなかった。
民衆の暴動において、その全員を捕らえるのは現実的ではない。その場限りの勢いで暴動に参加する者もおり、はじめに組織された人数から集団はどんどん膨れ上がっていく。主導者のみ捕らえ、仲間の情報を得るほうが効率的なのだ。
皇太后護衛隊はドゥイクのもとで騒乱の沈静化に何度も臨んできたが、王都で暴動が起きたのはギルドレイ王期で初めてだ。事前に何の情報も得られず、王の面前での暴動を許した。
明らかな権力の弱体化。
その事実を突きつけられていても、自分たちの心をぐらつかせるわけにはいかない。
私たちがすべきは、城と、王都の住民を守ること。
そう自分に言い聞かせているのは、シアーラだけではないだろう。
城の西部には、有事の際のみ開く、封門(ふうもん)と呼ばれる門がある。城に攻め込まれた際、守兵や王族を密かに塀外へ出すための門だ。シアーラたちはそこから森を通り街へ出ることになる。
足を急がせる彼らの背後、門の方向から地響きのような音が轟いた。
「なんだ……!?」
「門が開きかけてるんじゃないのか……!」
「まさか、いくらなんでも」
「くそっ、国軍は使えねぇ……!!」
「動じるな! すぐに第一隊が向かう!! 門が開くことはない!!」
一瞬で動揺を声にして噴出させてしまった兵たちに、第二隊を任されたフリードが叱責を飛ばした。封門へはすぐそこだ、と続ける平時と変わらぬフリードの様子に、彼らはとりあえずこの瞬間、落ち着きを取り戻したようだった。
塔と塔の間の暗く狭い通路を抜ける。普段は誰も用のない、目立たない場所にそれはある。
近付いた兵士らに気づき、少数の門番がフリードに目配せをして門を開き始めた。複雑な仕掛けを施された門は、決まった門番でなければ開けられない。金属の触れ合う音、ギィ、ギィ、と断続的なネジを巻くような音が鳴る。その作業を待つ時間は何十分にも思われた。
長すぎる。兵の間にその焦りが充満した頃、彼らがようやく手を上げて合図をした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
桜に集う龍と獅子【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
産まれてから親の顔を知らない松本櫻子。孤児院で育ち、保育士として働く26歳。
同じ孤児院で育った大和と結婚を控えていた。だが、結婚式を控え、幸せの絶頂期、黒塗りの高級外車に乗る男達に拉致されてしまう。
とあるマンションに連れて行かれ、「お前の結婚を阻止する」と言われた。
その男の名は高嶺桜也。そして、櫻子の本名は龍崎櫻子なのだと言い放つ。
櫻子を取り巻く2人の男はどう櫻子を取り合うのか………。
※♡付はHシーンです
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
トキメキは突然に
氷室龍
恋愛
一之瀬佳織、42歳独身。
営業三課の課長として邁進する日々。
そんな彼女には唯一の悩みがあった。
それは元上司である常務の梶原雅之の存在。
アラフォー管理職女子とバツイチおっさん常務のじれったい恋愛模様
ソロキャンプと男と女と
狭山雪菜
恋愛
篠原匠は、ソロキャンプのTV特集を見てキャンプをしたくなり、初心者歓迎の有名なキャンプ場での平日限定のツアーに応募した。
しかし、当時相部屋となったのは男の人で、よく見たら自分の性別が男としてツアーに応募している事に気がついた。
とりあえず黙っていようと、思っていたのだが…?
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる