薄氷の上で燃える

なとみ

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第三章 四つの創家

懐の内-②

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「リンゼイよ」

 年齢も経験も上の男がその皺混じりの顔をにやりと歪め、もともと凶悪な顔がよりその狂暴さを増した。

「そうだろうがそうでなかろうが、もう決まっている」
「……」
「北で受けた屈辱を、俺は忘れていない」

 獣のように鋭く、その目が光った。

 ラダーシャが話す屈辱とは、隣国との戦闘を耐え抜いたバルドバに王が行った仕打ちのことだ。王は援軍を送るどころか、支援を出し渋った。バルドバはさらに、そこに何者かの奇襲を受けた。隣国からの奇襲であったと王は言ったが、そうではない。リンゼイが目にした紋章は、明らかに近衛兵のものだった。
 バルドバは気性が荒く、ほかの三家から蔑むような目で見られることが多いが、リンゼイが知るのは、気のいい、男気のある仲間たちだ。それが無残に散っていく光景。昨日笑いあった者が冷たい躯となり、震える手でそれに触れた。許されるならばあのときリンゼイは、気が狂うまで叫び続けたかった。たとえ燃え尽きるとしても、最後まで北で仲間と戦い続けたかった。
 だが、ラダーシャから計画を知らされ、そのためならばと王都にやってきた。それを忘れてはいない。分かっている。
 ラダーシャは世間話のように言った。

「あの女とはいつからだ」
「あの女、とは」
「シアーラだ。いつからだ」

 リンゼイは顔色を変えなかった。ラダーシャは鋭い。裏切りの匂いも敏感に察知する。軽率なごまかしは死を意味する。

「……ナターナからか。いや、そういえば共同訓練のときもだろう。お前、相性が悪いな・・・・・・
「どう受け取っていただいても結構ですが」

 興味がないという表情を貼り付けて、リンゼイはラダーシャを見据えた。

「あの女もどこかと繋がっている。なにか、気になります」
「ふうん……庇うような言葉に聞こえたが」

 リンゼイは少し迷って口を開いた。

「あるいは、こちらに引き込めないかと思っていました」

 ラダーシャは、はっ、と嘲るような笑いを吐き捨てた。
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