オドロキしっぽ

波音

文字の大きさ
1 / 1

ずっと一緒に

しおりを挟む

生まれたときから尻尾が生えていた。

犬のような毛の生えた尻尾
他の人にないだけで僕は普通の人間だ
病気じゃないから特に困ってない。

保育園のころ、おままごとで犬役
学校の劇で必然的に動物役になってしまう以外に特に不満もない。

この尻尾を個性だと思っている。


「普通に産んでやれなくてごめんね。」と母に何度か言われた。

だけど五体満足なはずの向かいの家のA吉より運動はできるし、隣のクラスのE子からはラブレターを貰ったこともある。
ラブレターを貰ったことはこの話に関係ないし自慢したいだけなんだけど。


先日、僕は小学校を卒業した。
背が伸びるだろうから制服は大きめのものを注文した。

「君のは特注品だよ。」

尻尾穴が必要だから尻尾の根の太さを測って貰った。
穴の部分はファスナーとマジックテープとボタンどれがいいかな?と聞かれたので食い込みも少なく外れにくいものがいいなと思ってボタンとマジックテープを合わせてもらうことにした。


制服、スクールバッグ、ローファー
どれもこれも今の僕にはしっくりこないけどこれからはじまる中学校生活のことを考えるだけで心が躍る。

「ちょっと尻尾がくすぐったいわー。」


振り返ると採寸してくれている、おばちゃんの頭にパタパタと尻尾が当たっていた。

僕の尻尾は犬の尻尾と同じだ。
嬉しい、楽しいときは勝手に振ってしまうし、悲しい、怖いときは垂れ下がってしまう。

「ごめんなさい。制服着れて嬉しくなっちゃって...。」
「それはいいことね。おばちゃん安心したわ。」


部活は何しよう?
バスケかテニスがいいなあ~。
クラスメイトはどんな人がいるのかな。
毎日そんなことを考えていた。

そして入学式の日になった。


月日は経ち、卒業式になった。
もう僕には尻尾はない。


個性を受け入れてもらうなんて
無理な話だった。


僕が僕らしく生きるために
尻尾はあると困るものだった。


あの日、「反抗」でみずから切り取った
尻尾は嫌いなあいつに投げつけた。

悲鳴をあげると同時に赤く染まってゆく制服のシャツ。

ただ、ずっと見ていた。



個性ってなんだろう。
自分ってなんだろう。


すっかり毒されて
忘れてしまった純粋な心を無くしたものと引き換えにこれから取り戻す。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...