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第二話「自由に飛ぶためには」前編。
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施設から逃げて、優兎の乗って来たベンツへ美虎は助手席に、優兎は運転席に乗った。
「美虎嬢、辛い思いさせてすんませんでした」
申し訳なさそうに優兎は頭を下げると、エンジンを掛け、車体が眠りから覚める。
「いいよ、みんな大変だったんでしょ?優兎、疲れた顔してる」
美虎は以前より痩せ細った優兎の頬に触ると、優兎の体がビクッと震えた。
「あ…」
「すんません、美虎嬢。ちょっと驚いてしまって…」
言いづらそうな声で優兎が言う。
「ふふ、優兎、さっきから謝ってばっかだね」
明るい声で美虎が笑うと、優兎は一瞬呆気にとられた顔をしたが、いつもの優しい笑みを見せ、
「美虎嬢、帰って来てくれて、本当に良かったです」
周囲の車に、特にサイレンを鳴らしているパトカーには注意しながら、摩天楼の夜に黒いベンツを走らせる。
施設から脱獄をしたが、追って来てはないはずだ。今の美虎の服装や身体の状態を見ればそれこそ施設が警察に捕まるだろう。
「美虎嬢、何か食べますか?」
「その前に服、ないかな?この服、嫌いなんだ。優兎の服でもいい」
「美虎嬢の服なら、後部座席に少し。あの騒動があったんで、ちょっと汚れちまいましたが、ちゃんと洗いましたから」
「ありがとう。優兎は優しいなぁ…」
近くのコンビニの駐車場に止める。狭い駐車場に止まっている車も少なく、コンビニ自体が閑古鳥が鳴いているようだ。
後部座席に移り、見えづらいが、車内灯でガサガサと袋を漁る。
「あ、これ、お気に入りだった服だぁ」
「美虎嬢と言ったら、その服ですもんね」
白のパーカーとデニムパンツだったが、ただの服ではない。組織にいた姐さん高級ブランド顔負けの見事な花の刺繍を入れてくれたのだ。
母親を失って、父親に育てられたが、姐さん達は本当に母親がわりを立派に務めてくれた。
(皆…どこにいるんだろ)
もぞもぞと後部座席で着替えると、ようやく人心地が付けた。
運転席と助手席に戻ると、少し車を走らせ、近くのファミレスに入ることになった。
「ここでいいんですか?」
「いいよ。来るのは久しぶりでしょ?」
どうやら、優兎は何者かに警戒しているらしい。
「…施設の人たちのこと考えてるの?」
優兎は目を見開き、
「なんでもお見通しなんすね。さすが、尚虎の娘さんだ」
「尚虎」は、美虎の父親の名前だ。組織の中では「親父」よりも「尚虎さん」と呼ばれることが多かった。
「俺はこんなに子沢山なのかい?俺が『親父』ならお前らが子供産んだら俺はお年玉の用意が大変なことになるじゃねぇか。そんなんじゃ困っちまうよ」
そう茶化して、尚虎はよく笑っていた。だが、組織の人間が他の組に手を出されると、目の色を変えて、
「俺の可愛い子供に手ェだしやがって!お宅の子供らは躾がなってない!俺が鍛え直してやらぁ!」
と豪快に啖呵を切る程、部下を大事にしていた。
「美虎嬢、行きましょう」
そう言われて美虎は我に返ると、優兎と手を繋いだ。優兎の手は温かく、冷え切った心が解れていく。
「…どうしたんすか」
少し、顔を赤らめて問う優兎に、美虎は笑い、
「助けに来てくれて、嬉しかった。優兎なら、絶対来てくれるって信じてた」
ギュッと手を握った。
「さ、ご飯食べよ。お腹空いたからさ」
真夜中の為か、店内は窓際で眠気覚ましと思われる珈琲を飲みながら課題を熟す学生以外、客は居なかった。
白いエプロンを身につけた店員にドリンクバーの側の席へ案内してもらう。
美虎は、ドリンクバーが好きなのだ。特にこのファミレスは様々な香りの紅茶、様々な味の珈琲、様々なソフトドリンクと種類が充実している。子供の頃から、尚虎や組織の皆とよく通っているほどだ。
優兎は、サンドイッチ、美虎はハンバーグセットを頼み、店員がキッチンに戻った瞬間、美虎は早速ドリンクバーで炭酸飲料、ミルクティー、カフェオレを持って来て、優兎は目を丸くした。
「尚虎さんは酒の蟒蛇でしたが、美虎嬢も蟒蛇ですね」
美虎は笑いながら、席にそれらを持って行き、優兎にはオレンジジュースを差し出した。
「飲みなよ、喉渇いてるでしょ?」
「…いただきます」
優兎は、ストローを挿すと、ゆっくり飲み、ほぅと息を吐き、姿勢を正すと、
「美虎嬢」
その顔は、真剣だった。気迫がこもっていた。
「尚虎さんがやっていた『小鳥遊組』は今やバラバラです」
『小鳥遊組』。それは、美虎の父親、小鳥尚虎が立ち上げた組のことだった。
美虎も一口、紅茶を飲むと、姿勢を正した。
まるで、そこで父親が聞いているかのように。
「美虎嬢には、頭をやってもらいたいです」
「美虎嬢、辛い思いさせてすんませんでした」
申し訳なさそうに優兎は頭を下げると、エンジンを掛け、車体が眠りから覚める。
「いいよ、みんな大変だったんでしょ?優兎、疲れた顔してる」
美虎は以前より痩せ細った優兎の頬に触ると、優兎の体がビクッと震えた。
「あ…」
「すんません、美虎嬢。ちょっと驚いてしまって…」
言いづらそうな声で優兎が言う。
「ふふ、優兎、さっきから謝ってばっかだね」
明るい声で美虎が笑うと、優兎は一瞬呆気にとられた顔をしたが、いつもの優しい笑みを見せ、
「美虎嬢、帰って来てくれて、本当に良かったです」
周囲の車に、特にサイレンを鳴らしているパトカーには注意しながら、摩天楼の夜に黒いベンツを走らせる。
施設から脱獄をしたが、追って来てはないはずだ。今の美虎の服装や身体の状態を見ればそれこそ施設が警察に捕まるだろう。
「美虎嬢、何か食べますか?」
「その前に服、ないかな?この服、嫌いなんだ。優兎の服でもいい」
「美虎嬢の服なら、後部座席に少し。あの騒動があったんで、ちょっと汚れちまいましたが、ちゃんと洗いましたから」
「ありがとう。優兎は優しいなぁ…」
近くのコンビニの駐車場に止める。狭い駐車場に止まっている車も少なく、コンビニ自体が閑古鳥が鳴いているようだ。
後部座席に移り、見えづらいが、車内灯でガサガサと袋を漁る。
「あ、これ、お気に入りだった服だぁ」
「美虎嬢と言ったら、その服ですもんね」
白のパーカーとデニムパンツだったが、ただの服ではない。組織にいた姐さん高級ブランド顔負けの見事な花の刺繍を入れてくれたのだ。
母親を失って、父親に育てられたが、姐さん達は本当に母親がわりを立派に務めてくれた。
(皆…どこにいるんだろ)
もぞもぞと後部座席で着替えると、ようやく人心地が付けた。
運転席と助手席に戻ると、少し車を走らせ、近くのファミレスに入ることになった。
「ここでいいんですか?」
「いいよ。来るのは久しぶりでしょ?」
どうやら、優兎は何者かに警戒しているらしい。
「…施設の人たちのこと考えてるの?」
優兎は目を見開き、
「なんでもお見通しなんすね。さすが、尚虎の娘さんだ」
「尚虎」は、美虎の父親の名前だ。組織の中では「親父」よりも「尚虎さん」と呼ばれることが多かった。
「俺はこんなに子沢山なのかい?俺が『親父』ならお前らが子供産んだら俺はお年玉の用意が大変なことになるじゃねぇか。そんなんじゃ困っちまうよ」
そう茶化して、尚虎はよく笑っていた。だが、組織の人間が他の組に手を出されると、目の色を変えて、
「俺の可愛い子供に手ェだしやがって!お宅の子供らは躾がなってない!俺が鍛え直してやらぁ!」
と豪快に啖呵を切る程、部下を大事にしていた。
「美虎嬢、行きましょう」
そう言われて美虎は我に返ると、優兎と手を繋いだ。優兎の手は温かく、冷え切った心が解れていく。
「…どうしたんすか」
少し、顔を赤らめて問う優兎に、美虎は笑い、
「助けに来てくれて、嬉しかった。優兎なら、絶対来てくれるって信じてた」
ギュッと手を握った。
「さ、ご飯食べよ。お腹空いたからさ」
真夜中の為か、店内は窓際で眠気覚ましと思われる珈琲を飲みながら課題を熟す学生以外、客は居なかった。
白いエプロンを身につけた店員にドリンクバーの側の席へ案内してもらう。
美虎は、ドリンクバーが好きなのだ。特にこのファミレスは様々な香りの紅茶、様々な味の珈琲、様々なソフトドリンクと種類が充実している。子供の頃から、尚虎や組織の皆とよく通っているほどだ。
優兎は、サンドイッチ、美虎はハンバーグセットを頼み、店員がキッチンに戻った瞬間、美虎は早速ドリンクバーで炭酸飲料、ミルクティー、カフェオレを持って来て、優兎は目を丸くした。
「尚虎さんは酒の蟒蛇でしたが、美虎嬢も蟒蛇ですね」
美虎は笑いながら、席にそれらを持って行き、優兎にはオレンジジュースを差し出した。
「飲みなよ、喉渇いてるでしょ?」
「…いただきます」
優兎は、ストローを挿すと、ゆっくり飲み、ほぅと息を吐き、姿勢を正すと、
「美虎嬢」
その顔は、真剣だった。気迫がこもっていた。
「尚虎さんがやっていた『小鳥遊組』は今やバラバラです」
『小鳥遊組』。それは、美虎の父親、小鳥尚虎が立ち上げた組のことだった。
美虎も一口、紅茶を飲むと、姿勢を正した。
まるで、そこで父親が聞いているかのように。
「美虎嬢には、頭をやってもらいたいです」
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