殺人鬼の懺悔参り

細雪あおい

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『九想典』、論ずる。

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「では、『九想典』会議を始めよう」

 拾都に太陽から光が注がれ、街が、人が、動物が少しずつ目覚め、今日を始めようとしていた。
 「九想典」本部も例外ではなく、六衣によって油が差されたエレベーターを最上階まで上がったところにある会議室に「九想典」メンバーが各々の席に座っていた。
 会議室は、緑豊かで、外国の樹木や花々にあふれていて、会議がない時は都民の憩いの場として提供されている。
今日は、会議の為、人払いがされて、六衣が皆の身長や体型を考えて作った大きなテーブルと椅子が用意され、メンバーが座っていた。
「…待て、まだ八舞が来ていない」
 霊七が、木目の綺麗なテーブルに、長く伸ばし精緻なネイルアートを施した爪で苛立った様に、コツコツ叩いた。
「なんか、緊急のオペらしいじゃん。ちょっと、待ってあげようよ」
 徹夜明けの六衣が栄養ドリンク片手に大きく伸びをしながら言う。
「その間、茶菓子でも食べないかい?この間、パンを焼き過ぎて余ったから『ラスク』という日持ちのする焼き菓子にしたんだよ。二兎、分けてあげて」
 そう言ったのは、三弥砥だった。三弥砥は、いつも通りの逞しい体つきが判る日に焼けた身体に作務衣を羽織り、坊主頭には手拭いを巻いていた。
その姿は、まるで、縁日にいる好々爺の様だ。
 麻袋から、綺麗にパッケージされたラスクを取り出すと、横にいる二兎に渡す。
 二兎もいつも通り、サラサラの黒髪に、鶴が舞う赤い着物。腰には「絡繰」を差していた。
 姿勢は、とても美しく、ため息が出るほどだったが、残念なのは、幼い頃から人を暗殺してきた為に成ってしまった死んだ黒目だ。
 三弥砥から、ラスクを受け取ると、無言で分け始める二兎。
 紅茶はすでに、唯一が淹れてあった為、それぞれが甘味を食すことになった。
「…ふむ、美味だな」
 華四が、カリっと小気味のいい音と共に咀嚼して言う。
「まだ、余りはあるの?孤児院の皆にも食べさせてあげたい」
 唯一が、1枚目をもう食べ終わり、2枚目を手にしながら、にこりと笑って言った。
「あぁ、残りはあんまりなくてね。今度来る時に持って来るよ」
「勉強のお供にも最高ですね。小生も欲しいです。しかし、本当に美味…今度の小説にも出しましょう」
 五重が、眼鏡の位置を戻しながら言った。
「二兎、美味しいかい?甘いのは、好まないかい?」
 三弥砥が、無表情な二兎の顔を覗き込んで言った。
「…美味しいそうだ」
 嬉しそうに頷きながら、三弥砥は笑った。
「また三弥砥は適当なこと言うんだからー。二兎もちゃんと自分で言いなよ。他人任せは良くないよ?」
 六衣が大きく伸びをしながら、ラスクを齧る。
「いや、わしには二兎の言いたい事は判る。わしが拾ってきた時より、表情はよくなってきた」
「ホントー?それなら、いいんだけどね」
 紅茶を少し飲んだりしていると、エレベーターの歯車が回る音がした。
「…待たせたようだね」
 オーロラガラスで出来た両開きのドアを開け、カツカツとパンプスの踵を響かせて白衣の八舞が入ってきた。
緊急、それも大掛かりなオペだったようだが、長い黒髪はちゃんとアイロンが当てらている。…伊織が指摘した通り、目の下のくまは酷くなっているが。
「遅いぞ、八舞」
 煙草を吸いたいのか、イライラしながら、霊七が呟いた。
「仕方ないわ、急患だもの。遅れたのは詫びるよ。でもね、霊七。煙草を我慢するいい時間にはなったんじゃない?ニコチン中毒の治療、サボってないでちゃんと来なさい」
 舌打ちする霊七の横に座り、ラスクを齧る。
「…働いた後のスイーツは最高ね」
 八舞が来ると、全体の空気が引き締まる。喧嘩しても、お互い、拾都には不可欠な立場なのだ。
「皆、揃ったかえ?」
 1番の上座。後ろに柳が植えられている席から声がした。
 全員がそちらを見ると、長い金髪に鳳凰の扇子で口元を隠しながら、男にも女にも見える身体付きの九尾が表れた。
「はい、九尾様。八舞、只今、戻りました故」
「よいよい、手術、ご苦労であった」
 カカカ、と笑った九尾は、白檀の香りがする扇子をパチンと閉じて、言った。
「本日の会議を始める、外部にはこの会議のことは他言せぬようにな。盗聴器などないのは、もうわっちが確認済みじゃ」
「…会議って、何」
 俯いて、机の下で「絡繰」をガチャリと毒を詰めながら、珍しく二兎が声を発した。
 それは、眠っていたのを起こされて怒っていたからかもしれないし、昨日から「九想典」が騒ついてるのを研ぎ済ませた意識で感じていたからかもしれないが、二兎でも理由は判らなかった。
「珍しいの、二兎が喋るとは。…皆、伊織の事は知っておろう?そやつが兵器を拾いおったのじゃ」
「あの殺人狂か。…銃でも拾ったのか?」
 手を銃の形にしながら、華四が言った。
「いやいや、物の概念に囚われるな。拾ったのは、『遺骸』と呼ばれる兵器」
 扇子をバッと広げ、口にするのも忌々しいというように口元を隠して言った。

「拾都戦争の時に拾都が作りおった人間兵器じゃ」
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