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第一章「5年前の『拾都戦争』。開戦の花火が灯り」
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『拾都戦争』は5年前、突然起こった。
自分勝手な政治をする『拾都』。それを正そうとするべく現れたのは、九尾が司る『九想典』。そこに『拾都』から依頼を受け、さらには『拾都』を乗っ取ろうと腹の中で考えている『四気』が対峙することになった。
これは、3年間続いた、その戦争の記憶だ。
まだ、『九想典』本部はなく、冷たい風が吹く野営地に張ったテントの中で会議が始まった。
中には長テーブルと木で出来た長いベンチと少々の機材がある程度だった。
唯一23歳、二兎14歳、三弥砥27歳、華四24歳、五重18歳、六衣15歳、霊七17歳、八舞25歳に九尾。
「『九想典』会議を始めよう」
九尾が厳かな声で言った。何度か互いに話をすることはあったが、会議はこれが初めてだった。
「今から、『拾都』に攻める。二兎、華四、霊七を先頭に送り込む。油断するな。頼んだぞ」
「判った。「にと」が完膚なきまでに叩き潰す」
「了解しました」
「任せてください、僕は僕の戦いをする」
二兎は幼い頃から使っている毒を使える特殊な日本刀『絡繰』、華四はこの日のために六衣が作った最高傑作の大鎌、『無黒』、霊七は顔と身体に開いているピアスに憑いている霊魂を掲げた。
「楽しみにしておるわ。それと『九想典』に助っ人がおるのじゃが」
九尾がテントの外に声をかけると、ボサボサの黒髪に闇色の長いパーカーを着た伊織と、三弥砥と同じ作務衣を着た恰幅の良い女性が入ってきた。
「やぁ、皆様、助っ人の伊織だよ。なんだい、その奇妙な動物を見るような目は。ここは見世物小屋じゃないんだよ?」
「伊織」
あまり声を発さない二兎が呼んだ。
「あぁ、二兎じゃないか。良かった、君がここに居て。隣、いいかい?」
二兎はもぞもぞと動き、空いたスペースに伊織が座った。
「あら、珍しいじゃない、二兎が人に懐くだなんて」
クスクス笑う女性に三弥砥はびっくりした顔で、
「イツじゃないか!どうして、来たんだ!?』
「三弥砥さん、あたしも戦えるよ。暗殺者を甘く見ないで頂戴な」
と言って、イツは、三弥砥の横に遠慮なくどっかりと座った。
「ふむ、役者は揃ったようじゃの」
九尾が鳳凰の扇子をバッと開き、カカカと笑う。テント内に馨しい白檀の香りが広がった。
「『拾都』と『四気』の負けぬよう、気を張っていこうかの」
「春紅さん、今日は豪勢な料理だね」
その時、秋鹿と冬儺と夏梅は、春紅が住んでいる遊郭の『銀狐』の春紅の部屋で酒を呑んでいた。
部屋は猫足の文机、金で装飾された箪笥、明かりを反射して美しく光る鏡台などの豪華な調度品で溢れ、金魚鉢には高級な金魚がスイスイと泳いでいる。
その光景だけで春紅が『銀狐』でも、遊郭でも最上位の花魁だということが判る。
4人が酒盛りをしている周囲は、夏梅の異能力『飴玉賭博』で眠らされていた。
冬儺は、胡座を組んだ足の間に秋鹿を座らせて、上等な冷酒を呑み、
「秋鹿、どれが食べたい?」
「ダメだよ、冬儺。春紅さんの料理なんだから勝手に食べちゃダメ」
ぶー、と頬を膨らませて咎める秋鹿。それを見て、クスリと笑った春紅は、
「大丈夫でありんすよ。料理の金子は全て冬儺が豪快に払いんした」
「え、そうなの?」
驚く秋鹿を酔いが廻った冬儺が抱きしめる。
「お前のためなら、金なんか惜しまねぇよ」
「冬儺は男前やなぁ…」
春紅の笑顔の横では夏梅が
「秋鹿、幸せ者」
とため息を吐いていた。
「冬儺、酒くさーい」
と秋鹿は抱きしめてくる冬儺に抵抗するが、羆対猫のような体格差で勝てるわけもなかった。
渋々、抵抗を諦め、遊郭では滅多に出ない数の子を食べさせてもらってるうちに(数の子が好きな秋鹿のために冬儺が頼んだのだ)秋鹿も抵抗をやめた。
「なんか『九想典』ていうのが動くって聞いたけど?」
「ああ、九尾のところの雑魚軍団」
春紅は優雅な仕草で紅色の煙管に火をつけた。
「九尾と春紅さん、仲良かったんでしょ?弱点とかないの?」
「ああ、九尾の弱点は…」
呑んでいた煙管の灰をコンっと火鉢に落とすと、
「1人じゃ何も出来ないことわいな」
と、ニィと笑って言った。
「何も、とは?」
冬儺が淹れた熱い玄米茶を飲みながら、夏梅が聞いた。
「わちきが一緒にいないと何も出来ない甘えん坊でありんす。異能力を出したことなど、一度もありんせん」
「ふぅん、冬儺がいない僕みたいなものだね」
座敷牢に入らなければ能力が使えない秋鹿が冬儺の腕の中で満腹故の眠気で微睡ながら呟いた。
「わちきは、九尾が何故『九想典』のトップになったのか判らんわ。下の人間は良いように騙されておるわいなぁ」
「じゃあ、目を覚まさせに行く?」
「それ、は、無理」
独り、豪華な食事にあまり手をつけることもなく、身体中の毒素を増やすためにトリカブトを黙々と食べながら、夏梅は言った。
「洗脳されてる奴らは、簡単に、考えを、変えない」
「へぇー。つまんない奴らだね」
冬儺が綺麗な箸の持ち方で掴んだ上質な黒豆を秋鹿に食べさせる。
「…洗脳が解けないんだったら、力の差を見せつけてやれば良いじゃねぇか」
もぐもぐと咀嚼する秋鹿の髪を梳いてやりながら、冬儺は言った。
「梅、は容赦しない」
「わっちも本気を出しんす」
「ボクも頑張っちゃうよー!?」
「『九想典』には負けねぇ」
それぞれが決意を語っていると、窓の外でヒュルルルルルーという音と共に季節外れに大輪の花火が上がった。
「あぁ…」
まるで、祭りが始まるのを知った少女のような笑みを浮かべて春紅が呟いた。
「戦いの開幕で、ありんす」
自分勝手な政治をする『拾都』。それを正そうとするべく現れたのは、九尾が司る『九想典』。そこに『拾都』から依頼を受け、さらには『拾都』を乗っ取ろうと腹の中で考えている『四気』が対峙することになった。
これは、3年間続いた、その戦争の記憶だ。
まだ、『九想典』本部はなく、冷たい風が吹く野営地に張ったテントの中で会議が始まった。
中には長テーブルと木で出来た長いベンチと少々の機材がある程度だった。
唯一23歳、二兎14歳、三弥砥27歳、華四24歳、五重18歳、六衣15歳、霊七17歳、八舞25歳に九尾。
「『九想典』会議を始めよう」
九尾が厳かな声で言った。何度か互いに話をすることはあったが、会議はこれが初めてだった。
「今から、『拾都』に攻める。二兎、華四、霊七を先頭に送り込む。油断するな。頼んだぞ」
「判った。「にと」が完膚なきまでに叩き潰す」
「了解しました」
「任せてください、僕は僕の戦いをする」
二兎は幼い頃から使っている毒を使える特殊な日本刀『絡繰』、華四はこの日のために六衣が作った最高傑作の大鎌、『無黒』、霊七は顔と身体に開いているピアスに憑いている霊魂を掲げた。
「楽しみにしておるわ。それと『九想典』に助っ人がおるのじゃが」
九尾がテントの外に声をかけると、ボサボサの黒髪に闇色の長いパーカーを着た伊織と、三弥砥と同じ作務衣を着た恰幅の良い女性が入ってきた。
「やぁ、皆様、助っ人の伊織だよ。なんだい、その奇妙な動物を見るような目は。ここは見世物小屋じゃないんだよ?」
「伊織」
あまり声を発さない二兎が呼んだ。
「あぁ、二兎じゃないか。良かった、君がここに居て。隣、いいかい?」
二兎はもぞもぞと動き、空いたスペースに伊織が座った。
「あら、珍しいじゃない、二兎が人に懐くだなんて」
クスクス笑う女性に三弥砥はびっくりした顔で、
「イツじゃないか!どうして、来たんだ!?』
「三弥砥さん、あたしも戦えるよ。暗殺者を甘く見ないで頂戴な」
と言って、イツは、三弥砥の横に遠慮なくどっかりと座った。
「ふむ、役者は揃ったようじゃの」
九尾が鳳凰の扇子をバッと開き、カカカと笑う。テント内に馨しい白檀の香りが広がった。
「『拾都』と『四気』の負けぬよう、気を張っていこうかの」
「春紅さん、今日は豪勢な料理だね」
その時、秋鹿と冬儺と夏梅は、春紅が住んでいる遊郭の『銀狐』の春紅の部屋で酒を呑んでいた。
部屋は猫足の文机、金で装飾された箪笥、明かりを反射して美しく光る鏡台などの豪華な調度品で溢れ、金魚鉢には高級な金魚がスイスイと泳いでいる。
その光景だけで春紅が『銀狐』でも、遊郭でも最上位の花魁だということが判る。
4人が酒盛りをしている周囲は、夏梅の異能力『飴玉賭博』で眠らされていた。
冬儺は、胡座を組んだ足の間に秋鹿を座らせて、上等な冷酒を呑み、
「秋鹿、どれが食べたい?」
「ダメだよ、冬儺。春紅さんの料理なんだから勝手に食べちゃダメ」
ぶー、と頬を膨らませて咎める秋鹿。それを見て、クスリと笑った春紅は、
「大丈夫でありんすよ。料理の金子は全て冬儺が豪快に払いんした」
「え、そうなの?」
驚く秋鹿を酔いが廻った冬儺が抱きしめる。
「お前のためなら、金なんか惜しまねぇよ」
「冬儺は男前やなぁ…」
春紅の笑顔の横では夏梅が
「秋鹿、幸せ者」
とため息を吐いていた。
「冬儺、酒くさーい」
と秋鹿は抱きしめてくる冬儺に抵抗するが、羆対猫のような体格差で勝てるわけもなかった。
渋々、抵抗を諦め、遊郭では滅多に出ない数の子を食べさせてもらってるうちに(数の子が好きな秋鹿のために冬儺が頼んだのだ)秋鹿も抵抗をやめた。
「なんか『九想典』ていうのが動くって聞いたけど?」
「ああ、九尾のところの雑魚軍団」
春紅は優雅な仕草で紅色の煙管に火をつけた。
「九尾と春紅さん、仲良かったんでしょ?弱点とかないの?」
「ああ、九尾の弱点は…」
呑んでいた煙管の灰をコンっと火鉢に落とすと、
「1人じゃ何も出来ないことわいな」
と、ニィと笑って言った。
「何も、とは?」
冬儺が淹れた熱い玄米茶を飲みながら、夏梅が聞いた。
「わちきが一緒にいないと何も出来ない甘えん坊でありんす。異能力を出したことなど、一度もありんせん」
「ふぅん、冬儺がいない僕みたいなものだね」
座敷牢に入らなければ能力が使えない秋鹿が冬儺の腕の中で満腹故の眠気で微睡ながら呟いた。
「わちきは、九尾が何故『九想典』のトップになったのか判らんわ。下の人間は良いように騙されておるわいなぁ」
「じゃあ、目を覚まさせに行く?」
「それ、は、無理」
独り、豪華な食事にあまり手をつけることもなく、身体中の毒素を増やすためにトリカブトを黙々と食べながら、夏梅は言った。
「洗脳されてる奴らは、簡単に、考えを、変えない」
「へぇー。つまんない奴らだね」
冬儺が綺麗な箸の持ち方で掴んだ上質な黒豆を秋鹿に食べさせる。
「…洗脳が解けないんだったら、力の差を見せつけてやれば良いじゃねぇか」
もぐもぐと咀嚼する秋鹿の髪を梳いてやりながら、冬儺は言った。
「梅、は容赦しない」
「わっちも本気を出しんす」
「ボクも頑張っちゃうよー!?」
「『九想典』には負けねぇ」
それぞれが決意を語っていると、窓の外でヒュルルルルルーという音と共に季節外れに大輪の花火が上がった。
「あぁ…」
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