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第六章「5年前の『拾都戦争』思わぬ策略家」
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大きな木を曲がると、檜の香りがする大きな屋敷が佇んでいた。
離れて放牧されている鶏がココッと鳴きながら近づいてくると、夏梅はビクッとして、毒が漏れないように着ているローブの合わせ目を固く掴んだ。
「ここが三弥砥の家でありんすか?」
煙管を仕舞う春紅の問いに、頭を傾げながら秋鹿が
「データ上では、そうだね」
「待て、誰か居る」
鋭く冬儺が言うと、向こうからは死角になっている玄関から、ふくよかな女性が出てきた。
「いいかい、華四。あんたは呪縛に罹ってるんだから、ここにいて寝てな!せっかく、八舞に見てもらったんだ。養生してなよ」
それを聞いた夏梅の目の瞳孔が驚いた猫のように細くなる。今まで『レヴェル4』の毒結界から抜け出した人は誰もいなかったからだ。そして、こちらの4人には気づかず、女性が続ける。
「もうすぐ二兎が毒草をもらいにくるから渡しといて。今回のは強い毒だからね」
毒、と聞いて夏梅の表情がわずかに変わる。その変化は、毒ヘ対する恋のような焦がれ。
その女性が裏道を通って居なくなる。その方向は『九想典』本部の方だった。春紅が、
「あの女…三弥砥の妻のイツでありんすなぁ…気に食わんわ」
と、苛立ったようなため息と共に吐き捨てるように言った。
「どうする、跡付けてヤっちゃう?」
冬儺の背中から秋鹿がまるで、花を手折るかの様に軽い口調で言う。
「『相手が欲しければ奪うまで』それが『春紅花魁』の矜恃でありんす」
「じゃー、どうするのー?」
華四は、イツが負傷者用に用意してくれた布団で横になっていた。
身体中の毒はまだ血液と共に身体中を循環しており、所々に痺れ、麻痺が多少残った。
消えそうな意識で考える。
あの時、夏梅から受けた毒、『レヴェル4』は様々な毒を調合していたため、自分では判断が付かず、魔法陣の解き方も判らなかった。
『ああ、某は死ぬんだ』
暗闇が支配しようとしている視界は美しかった。紺色、橙色、そして透明。それが空だとして、死神の自分は行けられないと判っていても、焦がれてしまった。
死神の自分が死ぬのは、ミイラ取りがミイラになったかのようで、華四は痙攣する口で笑った。
毒が鎌首を持ち上げ、蛇のように華四を支配していくにつれ、意識が途切れ途切れになる。その時、誰かが近づいてくるのが見えた。
「華四、何してんだい」
聞こえてきたのは、イツの声だった。
「イ…ツ、危ない、毒…」
ガラガラの声で血を吐いて咳き込む。声帯も侵されたようでまともな発音が出来ない。
イツは、張られた魔方陣の中に入ってくる。いつもの呪具で作られた草履を履いて。
魔方陣がパリパリと破壊されていく。華四のところまで来ると、華四の襟首を掴んで魔方陣の外へ連れ出した。
魔方陣の外に出た途端、華四の身体はふっと楽になった。
「夏梅の毒は強いから気をつけな。解毒方法は八舞に聞こうかね。さ、うちに来な。負傷者はうちで預かるから」
華四が三弥砥の家に行くと、八舞の治療が始まった。『細菌確認』を使ったが、完治はしなかった。
それでも、身体はだいぶ元に戻った。
やはり、何かしらの縛りがあり、それを解かなければならないようだった。
それを探すのは、完成間近の小説を完全消去され、般若の面のような表情の五重が引き受けた。この時の五重は視線だけで人を殺せそうだった。
華四は水差しから冷たい水を飲むと、再び、布団へ横になった。
身体はだいぶ楽になった。もう少し、休んだら、前線に戻ろうと思っていた。伊織が居るとはいえ、今は、『拾都』、異能力集団『四気』を相手にしているのだ。
その時、玄関で物音がした。
(ああ、二兎が来るんだっけ…)
軋む身体に力を入れて立ち上がり、毒草の入った袋を持って玄関に行った。
そこには、赤い着物をぴったりと着た二兎がいた。
「二兎、お前大丈夫だったか?夏梅ってやつには気を付けろよ?あー、死ぬかと思った」
二兎は、無言で頷くと、毒草の入った袋を受け取り、手に持った。
その所作を見て、華四は疑問に思った。
いつもなら、奪われまいとまでに二兎は毒草を懐にしまう。それか『絡繰』に調合する。
不審な点は探せばまだある。いつも肌身離さず持っているその『絡繰』を持っていないのだ。
「…なぁ、二兎、お前…」
華四が問いただそうと声を掛けると、二兎は踵を返して走って出て行ってしまった。
「…なんなんだ、あいつ…」
華四はまた痛み出した頭を掻くと布団へと、よろよろと戻って行った。
…自分は失態を起こしてしまったとも知らずに。
「やったね、春紅さん!申し分なかったよ!」
三弥砥邸の前にある大きな木の影で涼んでいた秋鹿の前には無表情の二兎がいた。しかし、突然弾けるように笑い出すと、
「ああ、もう、笑いを堪えるのが大変でありんした…!まさか華四を出し抜けるとは…!」
途端、二兎の身体ドロっと溶けると、いつもの春紅の姿が現れた。
これが春紅の異能力『花香絢爛』である。
容姿を他人と同じ状態にすることが出来る。ただ、唯一出来ないのは声。見た目は寸分の狂いなく一緒に出来ても、声、口調は変えられない。
遊郭の『銀狐』から抜け出す時に使うことが多い。
合わせ鏡のようにそっくりな見た目でも、例外として『四気』の夏梅、秋鹿、冬儺は春紅が扮しているか、どうかを声を聞かなくても判る。
「毒、ちょうだい。もっと、欲しい…」
飢えた子供にあげるように手を伸ばす夏梅に、春紅は毒草を渡した。
ガツガツと毒草を食む夏梅。この後、何度『飴玉賭博』を使うか判らないためだ。体内に毒がなくなったら使えない異能力だ。異能力が使えないのは、彼女にとって『恐怖』以外の何物でもなかった。
身体の余白には少しでも、毒を蓄えておきたいのだ。
「夏梅、あんまり毒摂ったらキャパオーバーになっちゃうよ?」
「…いい。身体の、隅々、まで、毒で、犯す」
軽く咽せながら、夏梅は本来なら数百人が殺せるほどの致死量の毒を摂る。
「無理しなくていいよ?在庫もあるし」
「でも、ママ、に怒られ、る」
「…その強迫観念、まだ消えてなかったんだ…」
大きくため息をつく秋鹿。
それは、彼女の生い立ちに遡る。
離れて放牧されている鶏がココッと鳴きながら近づいてくると、夏梅はビクッとして、毒が漏れないように着ているローブの合わせ目を固く掴んだ。
「ここが三弥砥の家でありんすか?」
煙管を仕舞う春紅の問いに、頭を傾げながら秋鹿が
「データ上では、そうだね」
「待て、誰か居る」
鋭く冬儺が言うと、向こうからは死角になっている玄関から、ふくよかな女性が出てきた。
「いいかい、華四。あんたは呪縛に罹ってるんだから、ここにいて寝てな!せっかく、八舞に見てもらったんだ。養生してなよ」
それを聞いた夏梅の目の瞳孔が驚いた猫のように細くなる。今まで『レヴェル4』の毒結界から抜け出した人は誰もいなかったからだ。そして、こちらの4人には気づかず、女性が続ける。
「もうすぐ二兎が毒草をもらいにくるから渡しといて。今回のは強い毒だからね」
毒、と聞いて夏梅の表情がわずかに変わる。その変化は、毒ヘ対する恋のような焦がれ。
その女性が裏道を通って居なくなる。その方向は『九想典』本部の方だった。春紅が、
「あの女…三弥砥の妻のイツでありんすなぁ…気に食わんわ」
と、苛立ったようなため息と共に吐き捨てるように言った。
「どうする、跡付けてヤっちゃう?」
冬儺の背中から秋鹿がまるで、花を手折るかの様に軽い口調で言う。
「『相手が欲しければ奪うまで』それが『春紅花魁』の矜恃でありんす」
「じゃー、どうするのー?」
華四は、イツが負傷者用に用意してくれた布団で横になっていた。
身体中の毒はまだ血液と共に身体中を循環しており、所々に痺れ、麻痺が多少残った。
消えそうな意識で考える。
あの時、夏梅から受けた毒、『レヴェル4』は様々な毒を調合していたため、自分では判断が付かず、魔法陣の解き方も判らなかった。
『ああ、某は死ぬんだ』
暗闇が支配しようとしている視界は美しかった。紺色、橙色、そして透明。それが空だとして、死神の自分は行けられないと判っていても、焦がれてしまった。
死神の自分が死ぬのは、ミイラ取りがミイラになったかのようで、華四は痙攣する口で笑った。
毒が鎌首を持ち上げ、蛇のように華四を支配していくにつれ、意識が途切れ途切れになる。その時、誰かが近づいてくるのが見えた。
「華四、何してんだい」
聞こえてきたのは、イツの声だった。
「イ…ツ、危ない、毒…」
ガラガラの声で血を吐いて咳き込む。声帯も侵されたようでまともな発音が出来ない。
イツは、張られた魔方陣の中に入ってくる。いつもの呪具で作られた草履を履いて。
魔方陣がパリパリと破壊されていく。華四のところまで来ると、華四の襟首を掴んで魔方陣の外へ連れ出した。
魔方陣の外に出た途端、華四の身体はふっと楽になった。
「夏梅の毒は強いから気をつけな。解毒方法は八舞に聞こうかね。さ、うちに来な。負傷者はうちで預かるから」
華四が三弥砥の家に行くと、八舞の治療が始まった。『細菌確認』を使ったが、完治はしなかった。
それでも、身体はだいぶ元に戻った。
やはり、何かしらの縛りがあり、それを解かなければならないようだった。
それを探すのは、完成間近の小説を完全消去され、般若の面のような表情の五重が引き受けた。この時の五重は視線だけで人を殺せそうだった。
華四は水差しから冷たい水を飲むと、再び、布団へ横になった。
身体はだいぶ楽になった。もう少し、休んだら、前線に戻ろうと思っていた。伊織が居るとはいえ、今は、『拾都』、異能力集団『四気』を相手にしているのだ。
その時、玄関で物音がした。
(ああ、二兎が来るんだっけ…)
軋む身体に力を入れて立ち上がり、毒草の入った袋を持って玄関に行った。
そこには、赤い着物をぴったりと着た二兎がいた。
「二兎、お前大丈夫だったか?夏梅ってやつには気を付けろよ?あー、死ぬかと思った」
二兎は、無言で頷くと、毒草の入った袋を受け取り、手に持った。
その所作を見て、華四は疑問に思った。
いつもなら、奪われまいとまでに二兎は毒草を懐にしまう。それか『絡繰』に調合する。
不審な点は探せばまだある。いつも肌身離さず持っているその『絡繰』を持っていないのだ。
「…なぁ、二兎、お前…」
華四が問いただそうと声を掛けると、二兎は踵を返して走って出て行ってしまった。
「…なんなんだ、あいつ…」
華四はまた痛み出した頭を掻くと布団へと、よろよろと戻って行った。
…自分は失態を起こしてしまったとも知らずに。
「やったね、春紅さん!申し分なかったよ!」
三弥砥邸の前にある大きな木の影で涼んでいた秋鹿の前には無表情の二兎がいた。しかし、突然弾けるように笑い出すと、
「ああ、もう、笑いを堪えるのが大変でありんした…!まさか華四を出し抜けるとは…!」
途端、二兎の身体ドロっと溶けると、いつもの春紅の姿が現れた。
これが春紅の異能力『花香絢爛』である。
容姿を他人と同じ状態にすることが出来る。ただ、唯一出来ないのは声。見た目は寸分の狂いなく一緒に出来ても、声、口調は変えられない。
遊郭の『銀狐』から抜け出す時に使うことが多い。
合わせ鏡のようにそっくりな見た目でも、例外として『四気』の夏梅、秋鹿、冬儺は春紅が扮しているか、どうかを声を聞かなくても判る。
「毒、ちょうだい。もっと、欲しい…」
飢えた子供にあげるように手を伸ばす夏梅に、春紅は毒草を渡した。
ガツガツと毒草を食む夏梅。この後、何度『飴玉賭博』を使うか判らないためだ。体内に毒がなくなったら使えない異能力だ。異能力が使えないのは、彼女にとって『恐怖』以外の何物でもなかった。
身体の余白には少しでも、毒を蓄えておきたいのだ。
「夏梅、あんまり毒摂ったらキャパオーバーになっちゃうよ?」
「…いい。身体の、隅々、まで、毒で、犯す」
軽く咽せながら、夏梅は本来なら数百人が殺せるほどの致死量の毒を摂る。
「無理しなくていいよ?在庫もあるし」
「でも、ママ、に怒られ、る」
「…その強迫観念、まだ消えてなかったんだ…」
大きくため息をつく秋鹿。
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