転生したら棒人間

空想書記

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棒人間との生活

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    棒人間はぼんやりと蓮華の帰りを待った。
部屋を片付けたことを少し褒めて欲しい気分になっていた。
フリスビーを投げたら取ってくるワンコのように。
ニャンコは…ニャンコは気分屋なのでどちらかと言うと、猫可愛がりという言葉があるように甘えてくるだけで可愛がられるから違う。

    棒人間はワンコのような立ち位置に来てないかと錯覚し、どうせならニャンコ的なほうが気楽そうだと思った。
自分が可愛さの欠片もない、奇怪な棒人間だと言うことを忘れているようだ。
    そもそも人間なのに…。
棒人間は既に人間よりも、気持ちがペットに寄り添って行ってしまってることに、本日何度目かの敗北感に包まれた。

    玄関の扉を開ける音がした。
パタパタとヒールを脱ぎ捨てる音が鳴り、急いで入ってくる様子が棒人間には嬉しかった。


「ただいま棒君!」


    家を出るまであんなに動いて話していた棒人間の返事がない。
静かにリビングに横たわる棒人間を蓮華は少し揺さぶってみた…。


「棒君?…棒君?」


    蓮華は棒人間の首筋に中る棒に触れてみた…。
脈が…ない。少し目を見開いた蓮華はサスペンスドラマで鉄板のあのセリフを呟いた…。


「し…死んでる…」


「生きてますよ」


「ぎゃあああああああ!!!」


   朝に引き続き、本日二度目のスクリームだ。
はぁ…ビックリしたと一息ついて、蓮華は安堵した。


「心臓に悪いよ棒君」


「ちょっと死んだフリしてみました」


    死んだフリ?何だろう違和感のあるセリフだ。棒人間は元々死んでる…いや、生きてはいない物という認識だ。少なくとも蓮華は24年間、そういう認識で生きてきた。
本来、生きてるほうが変じゃないのかと蓮華は笑い出した。


「君は本来、死んでる物じゃないの?」


「失礼ですね。でも、生きてますから」


「脈がないのにねぇ…。本当に不思議…。ミミズだってオケラだってアメンボにだって脈があるでしょう?」


「アメンボにも脈があるんですか?」


「知らないけど?適当」


    なんだろう…会話をするといつも置いてけぼりのような虚無感に包まれるのは。蓮華は基本的にマイペースだ。子供のように思ったことを口にして、話しを終わらせてしまう。


「ケーキ食べる?」


「はい。買ってきてくれたんですか?」


「二人で食べたほうが美味しいでしょ?」


「…ありがとうございます」


   紅茶とコーヒーどっちにする?という問い掛けに棒人間は紅茶と答えた。紅茶なんだ?カワイイねと微笑んで立ち上がった。
キッチンに向かう時に蓮華は振り返ってもう一度微笑んだ。


「ありがとね」


「何がですか?」


「掃除…してくれたんでしょ?」


「暇だったので」


「別に棒君ボーッとしててもいいのに。」


    フフッと含み笑いをした蓮華は棒君の棒はボーッとしてるのボーにもなるなー。ボー君。棒人間でボーッとしてるからボー君と下らない駄洒落のようなことを繰り返して一人で笑っている。
そんな蓮華を見て、棒人間は呆れ気味に「お母さん…オヤジだ、オヤジがいるよ」と独り言を呟いてハッとした。


「…お母…さん」


「え?」


    母親の顔を思い出せない…。当然のことだった…。自分がどこの誰かも分からないのに、母親の顔など思い出せる筈もなかった。父親は?兄弟は?姉?妹?誰も何も思い出せなかった…。
お母さんと呟いた棒人間の様子に何かしらを察した蓮華は静かに棒人間を抱き寄せた。


「わからなくたって大丈夫。君は一人じゃないよ」


その言葉に先刻の置き手紙のメッセージを思い出した棒人間は目を潤ませた…。


「…いつか…きっと思い出せるよ」


「…はい」



「…棒人間の世界のこと」


    棒人間の世界?!棒人間はハッとして顔を上げた。「何でですか!ボクは人間なんですよ!多分…」
そう言って泣きながら笑ってしまった。
蓮華はニッコリと笑って棒人間の頭を撫でる。


「よしよし笑えた笑えた。笑っていられれば楽しいでしょ」


    そう言ってもう一度、優しく棒人間を抱き寄せた。
出会ったばかりのこの奇妙な女性に抱いた棒人間の感情は温かいだった…。


    翌日の夜、蓮華はいつもより早く戻ってきた。
慌ただしく帰ってきた蓮華は書類の山を抱えてパソコンを開いて苛々していた。


「なーんで、私がこんなに仕事押し付けられなきゃいけないんだよ!全く」


    蓮華の話しでは今年入社したばかりの新人の女子社員が、物凄く甘え上手で、男性陣はメロメロになっている。これは出来ません、あれも出来ませんとは泣き言をいっては仕事を免れる。
そのしわ寄せが蓮華に来て、周りの男性陣はお前が先輩なんだからと、蓮華に丸投げしてきたそうだ。

「大変ですね」


「仕方ないよ。誰かがやらなきゃいけないしさー」


「でも、残業にしないんですか?持ち帰ったら無料奉仕じゃないですか」


「そうだけど…早く家に帰りたいからさ」


「何故ですか?」


「だって棒君、一人じゃ寂しいでしょ?私も早く君に会いたいし」


    この人は時々、こういう事を言ってくれる。ボクの現状を察してくれているのだろうか…。
その言い方にあざとい感じは欠片もなかった。奇妙なところもあるけど、根は優しい人だなと棒人間は改めて思った。
夕食を手早く二人で済ませた蓮華は苛々しながらパソコンに向き合う。


「蓮華さん…ちょっと見せてもらっていいですか?」


    書類に目を通した棒人間はフムフムと頷いてパソコンに向かった。
タッチする指は見えていないが、画面に映し出される文字の驚異的なスピードに蓮華は呆然とした。
蓮華のペースでやっても何時間かこるか分からない書類の山を二時間ほどで片付け、新たに企画書までも作成、経費や利益に関する円滑な取り組み法まで事細かにまとめ上げた。


「これで…どうでしょうか」


「すっごーい…凄いよ!!凄いよ!!棒君」


    熟なした書類の山を見てギラーンと目を光らせた蓮華に何かしらの悪寒を感じた棒人間はお休みなさいと布団へ逃げようとする。


「えへへ棒くーん」


「な…なんですか」


    ちょっとこれ嵌めてみてと、薄手の手袋を渡した。
言われるがままに手袋を嵌めると掌の形が見えた。
ウンウンと頷いた蓮華は腕に筒状にしたスポンジを通し、上から包帯をグルグルと巻き付けて行った。


「いける!!」


「な…なにがですか?」


「棒君さー、その手と頭の円環って曲げたりできる?」


「どうでしょう…やってみます」


    手は見えない掌がある。顔は見えない顔がある。それ以外の場所は仕組みはわからないが、内蔵や骨格とリンクしてそうな感じだ。
自分でそれは何となくわかる。
棒人間は掌近くの円環を曲げてみると、容易に曲げて折り畳めた。
「頭も出来そう?」と言われて棒人間は頭の円環を掴んで、手前に折り曲げた。
蓮華は包帯を棒人間の顔に、腕と同様に巻き付けて感嘆の声を上げた。


「いけるよー!!」


「だから…なにがですか」


「私の会社に行ける」


「は?」


     蓮華はあれだけの事が出来れば会社で働けるからと、棒人間に包帯を巻き付けて服を着せてみた。


「バッチリだよ!どこから見てもミイラか透明人間にしか見えない」


「それはそれで…バッチリでは無いと…思いますが」


「大丈夫よ!火傷の後がーとか、全身に刺青入ってるーとか適当に言えばなんとかなるって」


    自信満々に右親指を上に向けてご満悦な蓮華を見て、この人はボクと社会をどれだけ舐めてるのだろうと、棒人間はとても情けない気分になった。


-翌朝-

    少し早起きをした蓮華は自分の身支度を整え、棒人間の身支度を一緒に整えた。
少し大きめのスーツからはみ出す掌には白い手袋。顔に包帯を巻き付けて目のところは色が濃いめの眼鏡をかけさせた。


「バッチリだよ!ミー君」


「なんでミー君なんですか?」


「ミイラの…」と蓮華が言いかけたところで「もういいです」と食い気味で棒人間は返した。
蓮華の家に来てから初めて外に出る。
不安でいっぱいだったが、それでも試行錯誤してくれた蓮華の気持ちが純粋に嬉しかった。
久しぶりの朝日だ。
なぜ久しぶりと感じるのかは棒人間にも分からなかったが、身体が記憶えてる…。そんな感覚だった。


「なにボーッとしてるの?行くよ棒君」


    アパートの階段を降りると、真っ赤なコルベットc3の前に止まった。
流れるように湾曲した長めのフロントノーズ、膨らんだ前後フェンダー、くびれたように見えるボディ中央部がコーラのビンを連想させることから、“コークボトル”の愛称がついた旧車だ。


「乗って」


「ここ…これ」


「私の車」


    エンジンを始動すると、腹に響くような低音と振動がこの手の車好きには堪らないヴァイブだ。
アイドリングの段階で唸りをあげるエンジン音が電線に止まったスズメを追い払う。


「行っくよー」


「と…飛ばしすぎぃいいいい!!」


    轟音と共にアクセル全開で走り出した。蓮華の運転はお世辞にも安全運転とは言えなかった。
車の間をアミダのようにすり抜ける走り方は、制限速度なんて概念は教習所に全て置いてきたと言わんばかりの飛ばしっぷりだ。
風が心地よい…。街並みを見るのは久しぶりに感じた。先刻の朝日もそうだが、身体が記憶えてる感覚だった。


「こーんやはー、とーことんまで、のーみあーかそー、とーびきーり、おーどれるーレーコードかけてー♪」などと50回転ズの “酔いどれマーチ” をかけながら蓮華は機嫌良さそうに唄っている。
このバンドを棒人間は知ってる。
いつどこで知ったのかは記憶えていない…。
ガレージパンクを基盤とし、ロックンロール、アイリッシュパンクや民族音楽、ハードロックっぽい曲まで演るバンドだ。
ラモーンズを心から敬愛し、メンバーが三人ともラモーンズと同じヘアスタイルを貫いている。
歌詞はダサいとカッコいいのギリギリのところを突いてくる独特のセンスが素晴らしい。
なんでこんなに大好きで記憶えてるのに…いつこのバンドと出会ったのかすら記憶えていないのが、棒人間は悲しかった…。


「そういえば君の名前は今日から黄桜 BOREDOMだから」


「なんでですか?」


「私が棒君って呼びたいから」


   有りがちな偽名を付けても、棒君と呼んでしまう恐れがあるため、ボー君と呼べるような偽名にしたらしい。黄桜というのは蓮華の苗字だという事を今初めて知った。


「BOREDOMって退屈っていう意味でバズコックスの曲ですね」


「バズコックス知ってるんだ?棒君、結構音楽好きなの?」


「はい。そんなに詳しくないですけど」


「私はね、パンクロックが好きなんだー」


   家で話している蓮華は天真爛漫で人の話しを聞かないイメージだったが、また別の蓮華を見れて棒人間はなんだか嬉しくなった。
    会社に着くと蓮華は早速、上司に棒人間を紹介した。
設定は母方の親戚でイギリス人とのハーフの子、最近まで入院していた。大変な色白で皮膚が弱い為に直射日光を浴びてはいけない為、包帯や手袋で身体を覆うということになった。


「名前は?」


「黄桜  BOREDOMです。蓮華さんにはボー君と呼ばれてます」


「なんだか、凄い暴れん坊みたいなアダ名だね」


「部長、それは暴君です。この子のボーは棒…BOREDOMのボーですよ」


   ああっぶねぇー!と蓮華、棒人間共々、冷や汗をかいて目配せをした…。棒人間の目は誰にも見えないのだが…。
見習いという形で入社したが、その日の仕事振りを見た上司は棒人間を気に入り、即日採用となった。蓮華の勤める会社は零細企業に有りがちな猫の手も借りたいという忙しい会社である。


   仕事も思いの外、順調に進み、蓮華との同棲?蓮華はあくまでも棒人間をペットととしての部分があるのだが、自然と同居人のような感じになってきていた。
公私共に過ごす二人は嫌でも仲は良くなった。日が立つに連れて下らないことで言い合うこともあった。それだけ信頼関係が二人の間に出来ていることの裏返しだった。
数週間後、蓮華が通販で注文していたシリコン製のスーツが届き、早速着てみてと棒人間に手渡した。どうですかね?と言う棒人間に言った第一声…。


「すごーい!棒君!人間みたいだよ!」


「いや…そもそも人間ですけど…」


「いやいや、君は棒だよ」


「せめて人間を付けてください」


    アハハごめーんと笑った蓮華の顔に棒人間は胸が高鳴った。
一つの想いが芽生えた瞬間だった。自分の気持ちに気付いた瞬間だった。


ボクはこの人が好きだ


    棒だと言われて人間ですと何度やり取りしたかわからない…。
棒人間と人間が付き合える筈もなく、棒人間は叶わないこの想いを絶対に打ち明けない、悟られないと心に決めた。


笑っていられれば楽しい


    蓮華が時折つかう言葉だ…。棒人間はここに来てから何度かこの言葉に救われた。
蓮華には彼氏も居る。仮に彼氏が居なくてもやっぱり叶わないだろう…。


笑っていられれば楽しい


   それで良いし、それが今の棒人間にとっての一番の幸せだ。
コロコロと笑う蓮華の顔を見るだけでこんなにも高鳴ってしまう。紅潮した顔がわからないのは幸いかも知れない。


   ポトト…。
涙が頬を伝ってしまった。
涙が止まらない…。棒人間はこの瞬間にこんなにも好きになってしまったんだと気付かされた。


「棒君どうしたの?」


「あ…いや、蓮華さんの気遣いが…嬉しくて…」


 「気遣いなんてしてないよ」


「そ、そうなんですか」


「だって、君は私にとって大事な人だもの」


「え?」


「あ、間違えた。大事な棒人間」


「だから人間なんです!ボクは」


「言い張るね~。棒のクセに」


「クセにって何ですか!クセにって!せめて人間をつけてください」


   無意識に出た  “人”  という言葉が嬉しかった。この人は口では棒だのミイラだの言ってるが、人として接してくれている。
もし、別の人に拾われたり、発見されたらどうなっていたんだろう…。蓮華の無意識に出る人柄の良さが棒人間には嬉しくて、温かくて……少し痛かった…。

    知らない女性に拾われて、目が覚めたら棒人間になっていた。
記憶がなくて途方に暮れた…。
仕事も始めた…。
今の生活が回っているのは全て蓮華のおかげだ。


    近頃は会社に居る先輩の女性…。
蓮華の後輩に中る、あの男性陣に気に入られている女性だ。
年齢は短大卒の21歳で、誰が見ても可愛らしいと映る人だ。
彼女が出来ない仕事のフォローを棒人間が全て熟なしている為、社内は円滑に回り、おのずとその女性は棒人間に懐くようになっていた。


「ボーダム君♪」


「はい」


    棒人間のことを社内で唯一、ボーダム君と呼んでいる。
蓮華とは表面上は仲良くしているが、性格は水と油のため合う筈もない。
いつも仕事で迷惑をかけているから、彼女から食事にでもと誘われた。


「いや、でもボクは蓮華さんと一緒に来ているので」


「黄桜さ~ん。黄桜さ~ん」


    手狭な事務所で  ”黄桜さ~ん“  という甘ったるい独特のイントネーションで蓮華の名前を呼ぶと毎回のように空気がピリつく…。
他の社員はもうやめてと目を伏せるのが通例になっているほどだ。
キラッと視線を上げた蓮華が1000%上辺だけの笑顔を見せると周りは背筋に冷たいものが走る勢いで更に目を伏せる。


「なぁに?吉村さん」ニッコリ


こ…怖い…。蓮華さんが苛ついている…。関係ないのに棒人間も目を伏せた。


「今日~。ボーダム君と~ごはんを食べに行きたいので~、借りてもい~ですかぁ~?」


    蓮華は持っている鉛筆をバキッと指で折った。
それに気付いた近くの社員が怖えぇ…と顔を背けるようにして素知らぬ振りをしている。
苛立ちを抑えながら蓮華は100万ドルの笑顔で応える。


「棒君が良いなら…良いと思うよ」


   ギラーンと音がして光ってそうな視線を痛いほど浴びた棒人間はカタカタと震えながら黙々と仕事を続ける。
棒人間は心の中で空気を読んで、お願いしますと祈り続けていたが、そんな祈りは二秒で断ち切られた。


「じゃ~あ~、今日~仕事が終わったら~一緒にいこうね~ボーダム君♪」


   いいなぁ~ボー君と男性陣から声が漏れると、蓮華は更に機嫌が悪そうにパソコンに向き合っていた。仕事が終わり、恐る恐る蓮華のところへ行くと意外にも反応は良かった。
私以外にも触れ合う人は多い方が良い、色んな人と触れ合って自分が良い関係を築けそうな人との繋がりを大切にしたらいいよと言ってくれた。
棒人間ってバレないように気を付けてと念を押された。


「ボーダム君、行こ~」


「ほら、呼んでるよ吉村が。棒君、行っといでよ」


   会社を出た途端に吉村はあの独特な甘ったるい話し方を全くしなくなった。
違和感を感じたので訊いてみると、彼女なりの処世術だと言っていた。
男は単純だから甘えたらなんでもしてくれる。面倒な仕事はやりたくないから、会社ではあのキャラクターを演じていると、吉村はそう話した。
棒人間にはいつも仕事を手伝ってもらってるから、信用してると上から言われて、キャラ設定の話しは内緒にしてと言われた…。
彼女との食事は面白くなかった。
世の中をわかった風のマウントばかりで、自分が如何に可愛くてモテているかという話しを延々としていた。
グッタリと疲れてアパートに戻ると蓮華はいつもと同じ笑顔でお帰りと言ってくれた。


「どうだった?吉村」


「何だか物凄く、疲れました」


「うむ。流石だ君とはうまい酒が呑めそうだね」


-翌日-


「ボーダム君おはよ~♪昨日は~楽しかったね~。また行こうね~♪」


    朝からキャラ設定の挨拶をする吉村にゲンナリする棒人間を見て、蓮華は含み笑いをしていた。

昼下がり…。いつもの様に仕事を熟なしていたその時、事件は起きた。
ガタン!という音と共に悲鳴が上がった。
備品を片付けていた時にバランスを崩して脚立から落ちそうになった吉村を支えて庇った棒人間に、箱から溢れたハサミが掌を掠めて流血した。


「大丈夫ですか?吉村さん」


「私は…大丈夫だけど…ボーダム君の手が…」


    状況を察知した蓮華が立ち上がり棒人間を連れ出そうとしたその時、血で染まっていく手袋を手早く外してしまった吉村が悲鳴を上げた。


「なに…これ…ボーダム君…手が…手が無い…」


   その言葉に周囲の社員も棒人間の手を見て青ざめ、口々に手が無いと騒ぎだした。
取り繕いようの無い状況に言葉を無くす棒人間。
蓮華は騒然とする職場で立ち尽くしていた…。



……続く。

  
















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