2 / 9
呪言 ( ジュゴン )
しおりを挟む-天上界-
雲の遥か上に存在する天上界と呼ばれるこの空間には其々の神や仏が居住を構える神殿や神の宮、寺院などが幾つか点在している…。
その中の一つにナンシーの上司に中る観世音菩薩が存在している。
巨大な鳥居の奥には広大な敷地に面した神の宮が厳格な佇まいを醸し出し、その建物の最深部に中る奥宮の更に奥にある玉座で、ナンシー帰還の報せを聞いた菩薩は首を長くして待っていた…。
「戻りました菩薩様」
「うむ…無事でなによりだ」
「作戦は失敗に終わり、部隊は全滅…。生き残ったのは私一人です。弁解の余地もありません。如何なる処罰も覚悟しております」
「ナンシー…。悪魔の力を侮ってはならぬと…わらわは言うたな」
「仰る通りでした」
解任だ…。間違いなく…。二十人もの仲間と部下を死に至らしめ、自分だけ生還など…。下手をすれば天法会議にかけられて処罰もありうる…。最悪の場合は投獄される可能性も…。そこに居合わせた侍女や天使達は一様にそう思っていた。
「謹慎…ひとつき…よいな?」
「それ…だけ…」
「そうだ…もう下がれ」
「…はい」
「ナンシー…。後ほど、わらわの社 ( やしろ ) へ来い」
「承知いたしました」
深く一礼をし、玉座を後にしたナンシーを見据えていた侍女の一人が戸惑う様子で、失礼ながらと前置きをして菩薩に口を開いた。
「ナンシー様に…甘過ぎでは」
「わらわもそう思うておる…。すまんな…。アレには甘くしてしまう。ヴェイカント夫妻が死んだのは…わらわのせいなのだ…」
「…ルシファー様の事は…私共も痛みに思っております」
「もう遠い…遠い昔の事だ…」
平常時でも人間の三倍ほどの身の丈の菩薩は大きな身体をゆっくりと起こし、今日は社に籠っておる故と言葉を残して奥宮から出ていった…。
その大きな背中に漂う悲哀を侍女達は感じ取って声をかけることが出来なかった…。
「…ルシファー…主は…達者で過ごしておるのか…。わらわは…主に…逢いたい…」
この世界に生きとし生ける者は大まかに天上界、明霊界、人間界、暗霊界、地獄界に存在している…。
天使は位によるが、天上界と明霊界に、死神も位によって地獄界と暗霊界に存在する。
妖精や精霊などは種類によって人間界、明、暗霊界に分布。
神、仏は天上界、その頂点に理 (ことわり) という絶対神が存在する。
悪魔、堕天した地獄天使は地獄界、その頂点に理闇 (りあん) という絶対神が存在する。
存在区域の上下であり、悪魔が天使より下という扱いはない。
ルシファーとは別名サタンとも呼ばれる地獄界に於いて絶対的権力と圧倒的な力で君臨する地獄天使であり、闇の世界-地獄を統べる理闇 (りあん) の側近に位置すると言われる地獄天使である…。
ルシファーは元々天使…それもかなり上位に位置する大天使だった…。我こそが優れていると傲りはあったものの、全ては平等であるべきだと博愛に満ちていた。
絶対的正義の名の下に如何なる者でも粛清する “ 理 ” のやり方に疑念を抱き、その鬱積は怒りとして具現化、天界にて大戦争を起こすまでに発展した…。
第一次天界大戦と称された戦争に敗れたルシファーは天界を追放され、あらゆる権限と地位を剥奪された…。
ルシファーの同志達は徹底的な粛清に遇い、777日という永きに渡る凄惨な拷問の末に皆殺しにされた…。
そのあまりに無慈悲な粛清に心が壊れたルシファーは堕天という道を選択し地獄界へと自ら堕ちていき、地獄天使として新たな生命体となった…。
ルシファー堕天の報せを聞きつけた菩薩はそれを止めるべく急いで駆けつけた…。
堕天する者に光属性の者が触れると堕心 (だしん) という現象に侵され心身が滅却されてしまう…。
逆に闇属性の者には力が増大するという恩恵がある。
それ故にルシファーには誰も触れるなと戒厳令をしいたにも拘わらず、ヴェイカント夫妻は菩薩とルシファーの間柄を知っていた為、菩薩の到着を待てず、沈み行くルシファーを一分一秒でも永く止めるために身体にしがみついてしまった…。
数多の天使達の眼前でヴェイカント夫妻は堕天の巻き添えに遭い、身体は黒く変色して腐敗するように溶けていき、最後は蒸発するように消えてしまった…。
申し訳ありません菩薩様…。ルシファー様を…止められませんでした。
それがヴェイカント夫妻の最後の言葉だった…。
何としてもルシファーの堕天をわらわが止めると言っていた菩薩の言葉を汲み取った事が招いた結果だった…。
袂を分かつ事になってしまった盟友ルシファーの堕天、懇意にしていたヴェイカント夫妻の死亡に気を病んだ菩薩は777日もの間、泣き崩れた…。
その流れ出る涙はあらゆる生命を誕生させ、大戦で荒廃した天界を塗り換えるように煌びやかな物に創り変えた…。
そこから産まれたせせらぎは人間界に恵みの雨となった…。
幾日も溢れ続ける菩薩の涙はやがて濁流を生み出し、生まれた命を飲み込んで大災害となり、アダムとイヴが創り出した人間界を飲み込むまでに至った…。
菩薩の深い哀しみを真摯に受け止めた ” 理 “ (ことわり) は考えを改め、無慈悲な拷問と、絶対的正義の根幹をゆるやかな物に変え、天法の大幅な改定に至り、存在史上で初めて自らの過ちを認めた…。
阿弥陀如来とミカエルに経緯を聞いて諭された菩薩は漸く泣き止む事ができ、事態は収束を迎えた。
その後、ヴェイカント夫妻死亡の責任を感じた菩薩は孤児となったナンシーを引き取り、親代わりとして育て上げて現在に至っている…。
親譲りの責任感の強さ、言い出したら聞かないところはあるが、正義感が強く、博愛と慈愛に満ち、天罰部隊の統括を張る天使にナンシーは成長したていた…。
揺蕩 (たゆた)う行灯の炎に目をやりながら菩薩は昔のことを思い出して一筋の涙を頬に伝わらせていた…。
「ナンシーです」
「入れ」
「失礼します…。菩薩様」
「いつも通りでよい…ナンシー」
「……観ちゃん…。ごめんなさい」
「致し方ない…。亡くなった天使達は滅却はされてはおらぬ故…、何れ転生するであろう…。本人達が望めばわらわの一存で蘇生させる」
「…本当に…本当に…ごめんなさい」
「もうよい…。ナンシー…わらわはもうこれ以上、大切な者を失いとうない…。もう少し、わらわの言うことを聞いてはくれまいか」
「…うん…わかった」
己の過ちを反省している様子のナンシーを菩薩は優しく撫でた…。
子供のようにごめんなさいと泣き崩れるナンシーを菩薩は優しい瞳で見つめていた…。
その時、侍女の一人が息を急ききって社(やしろ)に入ってきた。
「菩薩様!!」
「なんだハイタム」
「戦争の火種を作った者を連行したと悪魔が神の宮の方に」
「なんだと?!」
「尋問にしたところ一度だけですが、俺がやったと自白し、…その後は一転して否認してます」
「して、罪人の名は?」
「ロットン・ファッキンダムの実弟…シド・ファッキンダム」
「噂の愚弟か…。箸にも棒にもかからぬ落ちこぼれの悪魔だという…」
シドの名前を聞いたナンシーはハッとして立ち尽くしていた…。
シドが…罪人?この戦争の火種を作った…?火種は何だったのだ?この戦争の火種を菩薩は知っている?なにより生存の不明だったシドが生きているということにナンシーは安堵したが、あの温かかったシドが罪人だなどと、とても信じられなかった…。
侍女ハイタムの手前、ナンシーは尊敬語で口を開く。
「菩薩様…戦争の火種は何だったのですか」
「…詳細がわからぬ故に話してはおらなんだが…何者かに天使の子供が殺されたのだ」
果ての森という場所に遊びに来ていた家族からはぐれた天使の子供が行方不明になり、捜索していたところ、弱りすぎて自然消滅寸前だった魂が天使に拾われた。
その子供の魂は消滅間際に「悪魔に…」と言葉を残して消滅した。
怒りに震えたその子供の親族に中る天使達はいつまで経っても犯人が解明されない歯痒さから、果ての森へと犯人探しに出向き、たまたまそこに居合わせた男女の悪魔二人を惨殺…。
そこから互いに無差別な弔い合戦と襲撃が広がり、無関係な天使、悪魔は迎え撃つという大義の下に戦い、この大戦に発展したという…。
「…そんな事が…。一人の愚行の為に…。幾人もの命が犠牲になってしまったというの…」
「…そういう事だ。悪魔の連中も苦労したであろうが…ロットンの愚弟だとはな…」
「梲 (うだつ) が上がらない、落ちこぼれ悪魔の末路…といいますか」
「わらわはハイタムと神の宮へ行く故、ナンシーは自宅にて謹慎しておれ」
「…はい」
戦争の発端となった-子供の天使を殺した者は連行されたシド・ファッキンダムという話しだった。
そんな筈はない…。あの後だ…。私を逃がしたあの後に何かがあったのだ…。
あの数週間でシドの温かさは誰よりもナンシーは知っていた…。
シドではない…。
絶対にシドではない…。
おそらくはロットン・ファッキンダムかその周辺の人物が、シドに罪を被せた…。
一度だけ自白して、その後は一転して否認…。まさか…シドは呪言(ジュゴン)を飲まされたのか…。
尋問で自ら吐いてしまった言葉は先ず覆らない…。
シドが戦争犯罪人として確定すればおよそ777年という永きに渡る拷問の後、魂の滅却に処せられる…。
「…シドを…見捨てるわけにはいかない」
自宅に戻ったナンシーはシドを救出する為にどうすれば良いのかを考えた…。
菩薩に相談…。
シドに助けてもらったことから説明してか?
到底…信じてはもらえぬ…。
仮に信じたとしても、それを引き換えに私を罪に問わねばならなくなる…。
菩薩はその事実を公にはせずに、おそらくは戦争を終結させる為にシドを人柱にしてしまうだろう…。
神の宮に出向いた菩薩は拘束されたシドを連れてきたという悪魔が面通しをさせろと喚いた為にその者を奥の宮へと迎え入れた。
「主がシドを捕らえたのか」
「違う。捕らえたのはロットン様だ!俺はロットン様に頼まれたんだ」
「貴様!菩薩様の御前ぞ!!何たる無礼な振る舞いか!!」
「知らねぇよ!!俺から見ればただのデカイ女だ」
その横柄な物言いに菩薩の眉がピクンと動いたが、それ以上に側近の天使と侍女達が憤怒した。
菩薩は左手をゆっくりと横に流して憤る者達を制止する。
「して…、わらわに何用だ」
「ロットン様に、使いだと面通しを命じられたんだ」
「そうか…。ならばもう下がれ」
「なんだと?俺はロットン様の使いで大罪人を連行してきたんだぞ!!」
「そこまで言うのであれば致し方ないな…。わらわは無益な殺生はしとうないのだが」
そう呟いた菩薩は面倒くさそうにして、舌先を艶のある唇から覗かせ、壊力を溜めたツバを悪魔に吐きかけた。
「なにしやがる!!」
ツバを吐きかけられて喚いた悪魔は次の瞬間に青ざめた。
唾液のかかった頬が溶けて穴が空いていく事に慄き、震え上がりながら声を張り上げる。
「おお俺は俺は…ロットン様に!」
「面通しをしてこいと言われたのであろう?」
「…そそ…そうだ」
頬から肉が溶け、骨を溶かし、触れた指も手のひらも見る見る溶けていく…。自分の身体が唾液に食べられるように溶けていく事に絶大なる恐怖を抱きながら、悪魔は涙を流して菩薩に命乞いをし出した。
「その意味はの…主は用済み故、始末してもよいということだ」
断末魔をあげた悪魔は魂もろとも蒸発するように消えていった。
吐きかけた唾液一つで悪魔を滅却した…。
その恐るべき菩薩の殺傷力に侍女と天使達は息を呑んだ…。
この方が本気になってしまったらどれだけの事になってしまうのだろう…。考えただけで背筋が凍りついた…。
「ロットン・ファッキンダム…小賢しい男だ…」
「菩薩様…罪人の肉声をお持ちしました」
「聞かせろ」
「…俺が、天使の子供を拐って、無理矢理○○した…。何日も何日もだ。その度に、お母さん助けてとか言ってやがったな…。泣き叫ぶ度に黙るまで殴ってやった。その後は拷問にかけて殺してやった。目玉を抉り、爪を剥いでから指を折ってやった。あのガキは最後までお母さんと泣き叫びやがって俺はとても…」
「止めろ…。もう聞いてられぬ」
「…酷い」
「なんという…惨たらしいことを」
「これだけ事細かに自白したにも拘わらず、その後は一転して否認しております」
「この男を我等に差し出して…悪魔共は休戦協定を申し入れてきたと…」
「左様にございます」
「肉声が録れた以上、極刑は確定かと思われますが…」
これが事実ならば戦争は終わりになる。だが菩薩はいまいち歯切れの悪い表情を浮かべていた…。
それを察知した侍女が呪言の可能性を指摘すると、それが冤罪に繋がると菩薩は返した。
「相手が悪魔だけに…可能性は否定できませんが…」
「菩薩様!!お言葉ですが、冤罪でも構わないのではないですか?悪魔一人の命と、これまでに失った命、更に現在も失われていく命…天秤にかける必要など在りますまい」
一人の天使がそう声を上げた事に、その場に居合わせた全員が頷いた。敵対する悪魔の命など、どうでもいいという空気に菩薩は気持ちは解らぬわけでもないが、それを口にすることには賛同しかねるという見解を示した。
しばし考え込んだ菩薩は命は平等でなければならない事を前提に天使達の気持ちも汲み取る為、呪言の可能性を否定する為にもう一度だけ自白させることを命じた。
「わらわも…一度会っておこう」
そう言って腰を上げた菩薩は侍女達に通常業務に戻るように指示して、天獄 (テンゴク) と銘打たれる監獄に訪れた…。
戦争の重要参考人となったシドは既に牢獄に拘束されていた。
「主が…シド・ファッキンダムか」
「ああ…そうだ。何の用だ…デカ女」
「…口の回るヤツだな…。主が子供の天使を殺したのか?」
「俺じゃねぇ…。いつの間にか呪言を飲まされた」
「…わらわの予感が当たってしもうたの…。いつの間にかとは、どういう事だ」
「…ナン」
「ナン?」
「何でもねぇ…」
言える筈がなかった…。ナンシーを匿い、逃がすためにロットン達と小競り合い、フラッグを外した為に半殺しにされた。
意識を失ったあの時に呪言を飲まされたのだろう…。
全てを話せばナンシーが罪に問われることは明白だった。
ロットンはそこまで考慮して、呪言を飲ませ、冤罪を被せた。
自分で喋らされた内容は反吐が出るほどの惨たらしいことだった。
やり口からヴィジュだと直ぐにわかった…。おそらくはロットンも一枚噛んでいるとも…。
そして、あの場に居た連中はヴィジュも含め、ロットンの手によって既に滅却されている事も…。
「何だと言うのだ」
「何でもねぇよ…。だが子供の天使を殺したのは俺じゃねぇよ。デカ女」
二度目の無礼な発言に看守が「貴様!!」と声を上げたのを菩薩は制止してシドを見据える。
「…経緯も説明できぬ主の理屈が…通じると思うか?」
「…やってねぇもんは…やってねぇんだよ!!デカ女!!」
「…話しにならぬな…。こやつを死なぬ程度に拷問にかけろ…。呪言の可能性を否定する為に、何としてもあと一回、自白を取れ」
「承知いたしました」
「おい…デカ女」
「なんだ」
「優しいんだな…お前」
「黙れ…チンピラ」
優しい?これから激しい拷問にかけられるというのに?この悪魔は何を言ってるんだと看守には理解ができなかった…。
自白するまで拷問ということは裏を返せば、自白しなければ極刑にはされず刑は執行させないという時間稼ぎだと理解した上で「優しい」と述べたシドの言葉に菩薩は心を痛めていた。
天獄から出た菩薩は小さくため息をついた…。ヤツは嘘を言っておらぬ…。目を見ればわかる。だが経緯を話せなければ調べようもなく、無実の証明も困難だ…。発動されてしまった呪言の痕跡など解りようもない。肉声が残っている以上、余程の事が無ければ先ず覆すのは不可能であろう…。
拷問という時間稼ぎしか出来ずに申し訳なく思っていた…。
冤罪…。人柱か…。天下泰平の為には致し方ないことなのか…。
菩薩は良心の呵責に苛まれ…葛藤していた…。
重い心持ちで社(やしろ)に戻ると謹慎中のナンシーが待っていた。
「お帰り…観ちゃん」
「ナンシー…。主は謹慎中であろう」
「罪人の事が気になって…」
「これはわらわの見解ゆえ、誰にも言うてはおらぬがな…。ヤツはやってはおらぬ…」
「…どういう…こと」
「呪言を飲まされた…。シド本人もそう言うておった」
「それなら…冤罪じゃない…」
「だが…釈放は出来ぬのだ…。どういう訳か…あの男、呪言を飲まされた経緯を話したがらぬのでな…。ただでさえ不利な冤罪の立証が困難になる」
私を庇っている…。ナンシーは直ぐに気付いた…。なぜそこまでして、護ってくれるのだ…。このままではシドは間違いなく極刑に処せられてしまうというのに…。
意を決したナンシーはシドとの経緯を打ち明ける事にした…。
ロットン・ファッキンダムの策略に嵌まってしまい全滅した事。
仲間が逃がしてくれた際に、左脚を千切り飛ばされた事。
その後、瀕死だったところをシドに救われ、三週間という時間をかけて治癒してくれた事。
夜通し寝ずに自分を警護していてくれた事。
それが漏洩して、ロットン・ファッキンダムに狙われたのをシドがブラックフラッグを纏わせて人間界へと逃がしてくれた事。
防御を無くしたシドはロットンによって瀕死にされた事。
おそらく、その後で呪言を飲まされた事。
その後、戦争犯罪人として連行され、呪言が発動し、シドは罪を被せられた事。
全てをナンシーから打ち明けられた菩薩はとても信じられないという様子だった。
「まことか…それは」
「…うん」
「…ナンシー…わらわは今の話し…聞かなかったことにする故…」
「…なんで?!…私は処罰されても構わない…」
「…わらわは…何を犠牲にしてでも…主のことは必ず護りたいのだ」
「待ってよ観ちゃん!!私が投獄されればいいだけ」
「聞くのだ…ナンシー…」
この状況下で、悪魔に匿われた上に施しを受けて生き延びた事が明るみになれば罰せられるのは明白…。なぜ寝首をかかなかったと後指をさされるだけでなく、戦争犯罪人というレッテルが貼られる。刑罰による投獄は軽くても100年以上…。刑が終了しても今ある権限や地位は剥奪、階級の下がった天使は蔑みの対象となり、惨めな生活しか望めない。菩薩がどれだけ庇ってもそれは防ぎようがない事態になってしまう。
ナンシーをそんな目には遭わせたくはないと菩薩は強く説いた。
「…でも…このままだとシドは滅却されてしまう…」
「致し方あるまい…。真実に近づけば主も危うい…。捜索も尋問も打ち切りだ…。直ぐ様シドを天法裁判にかける」
「待ってよ!!おかしいよ!!観ちゃん!!シドは…シドは私を助けてくれたんだよ!!シドは私の命の恩人なんだよ!!」
「ナンシー!!!」
「……」
「わらわはもうこれ以上…大切な者を失いとうない!!失いとうないのだ!!理解しろとは言わぬ!!わらわを恨んでも構わぬ!!」
「…観…ちゃん」
「頼むからナンシー…。主を…主をわらわに…護らせてくれ…」
一筋の涙を頬から伝わらせる菩薩を目の前にしたナンシーはもうそれ以上、シドのことを言えなくなってしまった…。
「……すまぬな、ナンシー。話しは終わりだ…。わらわはこの件で神の宮に赴く故、主は自宅にておとなしく謹慎に服してくれ」
菩薩には孤児になってから現在まで親代わりとして育ててくれた恩がある…。引き取られた当時は、お前のせいでお父さんとお母さんが死んだんだ。返せ!お父さんとお母さんを返せと泣き叫んでいた…。
お前はデカイから怖いと言ってからは菩薩は人並みに身体を縮めてくれるようになった…。
どんなに我儘を言っても菩薩は一度たりともナンシーを怒ることをしなかった…。
わざと家中の皿を割っても掃除のし甲斐があると笑い。
ガラスを割ったときは涼しくなったと笑っていた…。
何をしても怒らない菩薩にナンシーはなぜ怒らないのかを問いたことがあった。
「主はわらわの宝者(タカラモノ)故、怒ることはないのだ」
そう言って優しく抱き締められたナンシーはお皿を割ってごめんなさいと泣いた…。
遠い昔の出来事を思い出しながらナンシーは菩薩が如何に自分のことを大切に思っていてくれているかを改めて噛み締めていた…。
それを理解した上で、ナンシーは一つの決意をした。
私がシドを助ける。
……続く。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる