12 / 32
11
しおりを挟む
窓から差し込む朝日と、小鳥のさえずりで目が覚めた。熱はもう、かなり下がっているようだった。頭も痛くなければ、体も重くない。
ベッドから飛び起きて、来夏を探す。彼女に謝りたい。今までごめんと、懺悔したい。しかし、いくら探しても、来夏はいなかった。コテージのどこにも、彼女の姿はなかった。
「来夏さんを探しているんですか?」
脳に直接響くような声が聞こえた。反射的に、僕は天井に視線を向けた。
「随分と久しぶりじゃないか」
「ええ、まあ、貴方が随分と意気地なしだったので、イラついて出てきませんでした」
「言ってくれるじゃないか」
随分な言われようだった。だがまあ、仕方ないだろう。実際、僕はうじうじしていただけだ。
「まあ、貴方の気持ちも分かりますよ。いきなり死んだ幼馴染が目の前に現れたって、普通は信じれませんよね」
「いや、僕はもう開き直ることにしたんだ」
「というと?」
それを口に出して言うのは少し恥ずかしかったが、この際いいだろう。天の声なんかに、今更恥ずかしがる必要もない。
僕は心変わりを天の声に洗いざらい話した。
「もう、完全に認めるよ。僕はあの人のことが好きだ。どうしようもないくらい好きなんだ」
ひゅっ、と掠れた空気の音がした。数秒の間があって、それは天の声が発したものだと気づいた。
「どうしたんだよ。ところで、来夏はどこにいるんだ? できれば、あって謝りた――」
「越生さん」
僕の言葉を遮って、天の声が名前を呼んだ。
「なんだよ」
「来夏さんを、信じてあげるんですか?」
「恥ずかしいからそう何度も言いたいわけじゃないんだ。でも、信じるのとは少し違うかもしれない。好きになったんだよ。来夏とか、来夏じゃないとか関係なく、あの来夏のことが」
「そう……なんですか……」
なぜだろう。天の声はなぜ、こんなにも震えているのだろう。
「越生さん……今から言うこと、絶対に守ってくださいね」
「あ、ああ……なんだよ」
「いいですか。来夏さんとの残りの時間を大切にしてください。後悔のないように――」
天の声は一度声を詰まらせた後、続けた。
「生きてくださいね」
それを最後に、彼女は消えた。
「は? おい。どういうことだよ」
それからは、いくら声をかけても、いくら呼んでも、彼女は現れなかった。
「なんだよ。まるで僕が死ぬみたいじゃないか」
声に出して、思い出した。その可能性に思い当たってしまった瞬間、一気に身体中の毛穴が開いたのが分かった。
天の声は時々、未来を予知したような言動をする。来夏が現れることだって、彼女は匂わせていた。
ということは、だ。
遅かれ早かれ、僕は死んでしまうのだろうか。
ベッドから飛び起きて、来夏を探す。彼女に謝りたい。今までごめんと、懺悔したい。しかし、いくら探しても、来夏はいなかった。コテージのどこにも、彼女の姿はなかった。
「来夏さんを探しているんですか?」
脳に直接響くような声が聞こえた。反射的に、僕は天井に視線を向けた。
「随分と久しぶりじゃないか」
「ええ、まあ、貴方が随分と意気地なしだったので、イラついて出てきませんでした」
「言ってくれるじゃないか」
随分な言われようだった。だがまあ、仕方ないだろう。実際、僕はうじうじしていただけだ。
「まあ、貴方の気持ちも分かりますよ。いきなり死んだ幼馴染が目の前に現れたって、普通は信じれませんよね」
「いや、僕はもう開き直ることにしたんだ」
「というと?」
それを口に出して言うのは少し恥ずかしかったが、この際いいだろう。天の声なんかに、今更恥ずかしがる必要もない。
僕は心変わりを天の声に洗いざらい話した。
「もう、完全に認めるよ。僕はあの人のことが好きだ。どうしようもないくらい好きなんだ」
ひゅっ、と掠れた空気の音がした。数秒の間があって、それは天の声が発したものだと気づいた。
「どうしたんだよ。ところで、来夏はどこにいるんだ? できれば、あって謝りた――」
「越生さん」
僕の言葉を遮って、天の声が名前を呼んだ。
「なんだよ」
「来夏さんを、信じてあげるんですか?」
「恥ずかしいからそう何度も言いたいわけじゃないんだ。でも、信じるのとは少し違うかもしれない。好きになったんだよ。来夏とか、来夏じゃないとか関係なく、あの来夏のことが」
「そう……なんですか……」
なぜだろう。天の声はなぜ、こんなにも震えているのだろう。
「越生さん……今から言うこと、絶対に守ってくださいね」
「あ、ああ……なんだよ」
「いいですか。来夏さんとの残りの時間を大切にしてください。後悔のないように――」
天の声は一度声を詰まらせた後、続けた。
「生きてくださいね」
それを最後に、彼女は消えた。
「は? おい。どういうことだよ」
それからは、いくら声をかけても、いくら呼んでも、彼女は現れなかった。
「なんだよ。まるで僕が死ぬみたいじゃないか」
声に出して、思い出した。その可能性に思い当たってしまった瞬間、一気に身体中の毛穴が開いたのが分かった。
天の声は時々、未来を予知したような言動をする。来夏が現れることだって、彼女は匂わせていた。
ということは、だ。
遅かれ早かれ、僕は死んでしまうのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる