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「ねえ優太くん。来るよ来るよ!!」
僕と来夏は暗い洞窟の中をゆらゆらと進んでいた。水の流れる音と同時に、冷んやりとした空気が顔を撫でる。隣に座っている来夏に視線を向けると、彼女は興奮した様子で安全バーを握り締めていた。
「分かってるよ」
僕もそろそろ覚悟を決めなければならない。それまでチャカチャカと流れていた陽気な音楽が止み、僕達の体が斜め上へと上昇していく。視界の端では、縄で吊るされたウサギのキャラクターがこれから起こる惨劇について説明していた。
僕達が今来ている場所は、夢と魔法が詰まった有名テーマパークだ。
僕達の進路の先には、青空が見える。そこが、洞窟の終わりだった。
「わあああ! いよいよだ! いよいよだね!!」
段々と洞窟の終わりへと近づいて行く。ついに頂点に達して、見えたのはパーク内全ての景色だ。
「うわあ、綺麗」
とか思ってる暇もなく――
「うわあああああああああああ!!!!!」
叫んだ。多分、人生で一番デカい声で。
「きゃあああああああああああ!!!!!」
隣では、来夏も絶叫している。
僕達はそのまま、滝壺へと真っ逆さまに落ちていった。
☆★☆★☆★
数分後、アトラクションの出口で僕は青い顔をして突っ立っていた。
「はぁーっ! 楽しかったねえ」
隣にいる来夏は艶々と満ち足りた表情をしている。
「どこかだよ……」
地獄だった。あんな浮遊感なんて、二度と味わいたくない。
「おっ。優太くん見てよ。私達の写真だよ」
来夏が指差した先、そこにはディスプレイがあり、僕達が落下している瞬間の写真が映し出されている。
「記念に買っちゃお」
来夏は売店でその写真を二枚購入してきた。
「これはねー。私の宝物になるんだよ」
そのうち一枚を僕に渡しながら、彼女は呟いた。
それには僕も、同感だった。
それから僕達は昼食を取って、昼のパレードを見てから帰った。
☆★☆★☆★
次の日は夕方から海へ向かった。暗くなる前に海に飛び込んで、夕焼け空を見上げながら二人でぷかぷか海に浮かんでいた。日が暮れた後に少しだけ花火をやってから帰った。その次の日は、山に向かった。次の日も、その次の日も、僕達は、ずっと遊び続けた。四年前の時間を取り戻すようにひたすら遊び続けた。
そんな日々の中で、僕はあることに気が付いた。
来夏は必ず四時間を目安に帰る。遊園地に行った日も午前中だけで帰った。海に行った日も、海にいたのは二時間ほどだ。山の時だって都内にある山に向かった。彼女は必ずと言っていいほど、四時間で僕の前から姿を消す。
まるで、12時を過ぎると魔法が解けてしまうシンデレラのようだった。その四時間という時間が、来夏にとっては大切らしかった。まさか、本当に魔法にかけられているわけではあるまい。四時間を過ぎると、来夏にかけられた魔法が解けて、天国に戻ってしまう。そんなくだらない妄想をしていた。
☆★☆★☆★
次の日、来夏は夕方頃に我が家へやって来た。
「ジャジャーン。今日はお酒パーティでもやろっか!」
来夏はパンパンに膨れ上がったスーパーの袋を両手に抱えている。
この数日間で、僕達は四年前に約束していたことをやり尽くしていた。実際には地元の夏祭りや温泉旅行など、できていないこともある。だが、それを行うには四時間以上の時間がかかってしまう。その為、僕らの中では暗黙の了解としてそれらの話題に触れることはなかった。
「おっ。いいね。じゃあ上がりなよ」
荷物を受け取ってから部屋へ案内すると、来夏はそわそわと肩をすぼませながら付いて来た。
「どうしたの?」
「なんか、緊張しちゃって」
彼女はにへへ、と昔のように笑って誤魔化した。
「ここに来るのは二度目じゃんか」
「あの時とは訳が違うのよ」
来夏が言っているあの時というのは、前に一度僕が酔っ払ってしまった時のことだろう。確かに、訳が違うだろうな。あまり思い出したい記憶ではない。
「まあでも、あの時みたいに酔っ払わないでよね」
「気を付けるよ」
それにしても一体、どれだけの量の酒を買ってきたのだろうか。来夏から受け取ったビニールの重さが、尋常じゃない。
「てか、僕のこと酔わせる気満々だろ。なんだよこの酒の量」
パッと見ただけでも、かなりの量の酒がある。
「だって酔って馬鹿になった方が楽しいじゃん」
それには大いに同意だったから深くは追求しなかった。それから僕達は軽いつまみを作った。皿を持ってテーブルに座って、それぞれ一本目のお酒を開ける。
二人で昔の話をしていると気分が良くなって、お酒のペースが上がっていく。
「あの時のこと覚えてる? ほら、一緒にコイを見た時のことだよ」
「覚えてる覚えてる!! あれだよね。飼われてるんじゃないかって話した時のやつだ!」
「そうそう! それだよ!」
開始から一時間足らずで、僕達は完全に出来上がってしまった。
来夏との思い出話はとても面白かった。今でも、僕は来夏との出来事を全て覚えている。話していると、それら全てがまるで昨日のことのように感じた。あれから僕の中で時間は進んでいないのだと、はっきりと分かった。
来夏が死んでしまったあの時から、僕の中で時間は止まったままだ。
「いやあ。優太くんと話してると面白いなあ。本当、あの頃は幸せだった。どうしてさ……優太くんが――――」
そこまで言って、彼女はハッと口をつぐんだ。だが、彼女がなんで口をつぐんだのか、僕には分からなかった。頭がボーッとしていて、上手く思考がまとまらない。
ただ、来夏を守れなかった悔しさだけが、込み上げていた。過去を思い出すと、いつもその後悔に襲われる。
目の前の来夏と話していると、まるでそんな過去などなかったかのような錯覚に陥ってしまう。来夏はずっと生きていて、死んでなんかいない。そんなあり得ないことが、夢のようなことが、起きているのではないか。そんな風な幻想に囚われてしまう。
彼女は部屋を暗くして、テレビ画面を見ながら笑っていた。
「ねえ優太くん。見てよ。今日の金ローあの映画だよ」
僕と来夏が数日前に行った神社。あの神社が舞台となっている映画が、放送されていた。
「なんか、すっごく懐かしいね」
部屋を暗くして映画を見てるせいか、来夏の顔が青白く光っている。
「うん。懐かしいよ」
急に、来夏が顔を寄せてきた。
「ねえ、覚えてる? 昔もこうやって、優太くんの家で一緒に映画を見たよね」
彼女のそんな様子を見ていて、やっぱり、今目の前にいる来夏は、昔の来夏と同じなんだと思った。だからだろう。騙されていると分かっているのに、僕は気が付いたら口を開いていた。
「ねえ来夏。聞いてもいい?」
「なーに?」
彼女は首を傾げて次の言葉を待っている。
「君は、本当に来夏なんだよね」
「もちろんそうだよ」
「じゃあ、君は生きてるの?」
僕は一度大きく息を吸い込んでから、続けた。
「それとも、死んでるの?」
来夏の瞳は、震えているようだった。彼女は僕を優しく見つめたまま、口を開く。
「私は、生きてるよ。私はね……」
彼女は手のひらを、僕の手のひらに重ね合わせた。彼女の手のひらは、とても暖かい。どくん、どくん、と生命の鼓動がした。
「優太くんのお陰で、私は幸せなんだ」
彼女の声は、なぜだか震えていた。その言葉に、どんな意味が込められているのか、その真意は分からない。ただ、彼女の言ってることに嘘がないことだけは、なんとなく分かった。
「来夏。じゃあ、もう一つ聞いてもいいかな」
「なーに?」
彼女はまた、甘い声で首を傾げた。
「どうして君は、生き返ったの? どうして君は、また僕の前に現れてくれたの?」
それを聞いてしまったが最後、夢から覚めてしまう。だが、聞かずにはいられなかった。
僕の質問に、彼女は黙ってしまった。彼女が生き返った秘密が、どこかにあるはずなんだ。それは僕には分からないし、思いつくことができないような方法なんだろう。でも、結果的に彼女は僕の前にやって来た。その秘密が、知りたい。
「じゃあ、特別に大ヒントをあげるね」
「うん」
僕は真っ直ぐに彼女の顔を見つめた。
「私は、元々死んでなんかないんだ。安達来夏は初めから生きてる。今言えるのは……っていうか、優太くんに言えるのは、それが限界かな」
ごめんね、と彼女は悲しそうに笑った。
「そっか……そうだよな。ごめん。僕、何やってんだろ」
当たり前だ。これから騙そうとしている奴に、真実を教える馬鹿がどこにいるというのだろう。
「あのさ……笑って聞いてくれていいよ。僕、全部これが現実だったら良いのになって思ってるんだ。来夏は生きてて、実は死んでなんかなくて、僕の前にいる来夏は本物で……」
何を言っているのか、分からなかった。支離滅裂なことを言っている自覚はある。でも、言葉は止まらない。
「過去をやり直せたら、どれだけ幸せだろうって思っちゃってるんだ。あの時、来夏を守れたらって、いつも思ってるんだ。あの四年前に、何度も戻りたいって、僕、いつも思ってるんだ」
来夏はそんな僕の話を、黙って聞いていた。
「そっか……そう思ってくれてるんだ」
彼女はスッと立ち上がってから、僕を見下ろした。
「私、嬉しいよ」
僕の目の前に、手が差し伸べられる。
「優太くん。これから何が起こっても、私を信じてくれる?」
そんな台詞、僕を騙していると公言しているようなものじゃないかと思った。
「信じてくれるなら、手を掴んで欲しいな」
僕は迷わず彼女の手を握り締めた。
「そっか……そうなんだ。ありがとね。じゃあ、今優太くんが言ったことを、叶えてあげるよ」
「え? それ、どういうこと?」
「だから、私達は四年前に戻るんだ。そして、全部やり直そう」
言っている意味が分からない。これは何かの比喩なのだろうか。
「これは比喩なんかじゃないよ。だから聞いたでしょ? これから何が起こっても、私を信じてくれる? って」
そこまで言って、来夏は頭を抑えた。
「ごめん。もう時間だから、そろそろ帰るね」
彼女が家に来てから、四時間ほど経っていた。もう、魔法が解ける時間だ。
「家まで送っていくよ」
玄関まで送ってから、そう呟いた。しかし来夏は「大丈夫」と言って頑なに譲らなかった。
「明日、楽しみにしててね。きっと、願いが叶うから」
来夏はそう言って、僕の家を後にした。
僕と来夏は暗い洞窟の中をゆらゆらと進んでいた。水の流れる音と同時に、冷んやりとした空気が顔を撫でる。隣に座っている来夏に視線を向けると、彼女は興奮した様子で安全バーを握り締めていた。
「分かってるよ」
僕もそろそろ覚悟を決めなければならない。それまでチャカチャカと流れていた陽気な音楽が止み、僕達の体が斜め上へと上昇していく。視界の端では、縄で吊るされたウサギのキャラクターがこれから起こる惨劇について説明していた。
僕達が今来ている場所は、夢と魔法が詰まった有名テーマパークだ。
僕達の進路の先には、青空が見える。そこが、洞窟の終わりだった。
「わあああ! いよいよだ! いよいよだね!!」
段々と洞窟の終わりへと近づいて行く。ついに頂点に達して、見えたのはパーク内全ての景色だ。
「うわあ、綺麗」
とか思ってる暇もなく――
「うわあああああああああああ!!!!!」
叫んだ。多分、人生で一番デカい声で。
「きゃあああああああああああ!!!!!」
隣では、来夏も絶叫している。
僕達はそのまま、滝壺へと真っ逆さまに落ちていった。
☆★☆★☆★
数分後、アトラクションの出口で僕は青い顔をして突っ立っていた。
「はぁーっ! 楽しかったねえ」
隣にいる来夏は艶々と満ち足りた表情をしている。
「どこかだよ……」
地獄だった。あんな浮遊感なんて、二度と味わいたくない。
「おっ。優太くん見てよ。私達の写真だよ」
来夏が指差した先、そこにはディスプレイがあり、僕達が落下している瞬間の写真が映し出されている。
「記念に買っちゃお」
来夏は売店でその写真を二枚購入してきた。
「これはねー。私の宝物になるんだよ」
そのうち一枚を僕に渡しながら、彼女は呟いた。
それには僕も、同感だった。
それから僕達は昼食を取って、昼のパレードを見てから帰った。
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次の日は夕方から海へ向かった。暗くなる前に海に飛び込んで、夕焼け空を見上げながら二人でぷかぷか海に浮かんでいた。日が暮れた後に少しだけ花火をやってから帰った。その次の日は、山に向かった。次の日も、その次の日も、僕達は、ずっと遊び続けた。四年前の時間を取り戻すようにひたすら遊び続けた。
そんな日々の中で、僕はあることに気が付いた。
来夏は必ず四時間を目安に帰る。遊園地に行った日も午前中だけで帰った。海に行った日も、海にいたのは二時間ほどだ。山の時だって都内にある山に向かった。彼女は必ずと言っていいほど、四時間で僕の前から姿を消す。
まるで、12時を過ぎると魔法が解けてしまうシンデレラのようだった。その四時間という時間が、来夏にとっては大切らしかった。まさか、本当に魔法にかけられているわけではあるまい。四時間を過ぎると、来夏にかけられた魔法が解けて、天国に戻ってしまう。そんなくだらない妄想をしていた。
☆★☆★☆★
次の日、来夏は夕方頃に我が家へやって来た。
「ジャジャーン。今日はお酒パーティでもやろっか!」
来夏はパンパンに膨れ上がったスーパーの袋を両手に抱えている。
この数日間で、僕達は四年前に約束していたことをやり尽くしていた。実際には地元の夏祭りや温泉旅行など、できていないこともある。だが、それを行うには四時間以上の時間がかかってしまう。その為、僕らの中では暗黙の了解としてそれらの話題に触れることはなかった。
「おっ。いいね。じゃあ上がりなよ」
荷物を受け取ってから部屋へ案内すると、来夏はそわそわと肩をすぼませながら付いて来た。
「どうしたの?」
「なんか、緊張しちゃって」
彼女はにへへ、と昔のように笑って誤魔化した。
「ここに来るのは二度目じゃんか」
「あの時とは訳が違うのよ」
来夏が言っているあの時というのは、前に一度僕が酔っ払ってしまった時のことだろう。確かに、訳が違うだろうな。あまり思い出したい記憶ではない。
「まあでも、あの時みたいに酔っ払わないでよね」
「気を付けるよ」
それにしても一体、どれだけの量の酒を買ってきたのだろうか。来夏から受け取ったビニールの重さが、尋常じゃない。
「てか、僕のこと酔わせる気満々だろ。なんだよこの酒の量」
パッと見ただけでも、かなりの量の酒がある。
「だって酔って馬鹿になった方が楽しいじゃん」
それには大いに同意だったから深くは追求しなかった。それから僕達は軽いつまみを作った。皿を持ってテーブルに座って、それぞれ一本目のお酒を開ける。
二人で昔の話をしていると気分が良くなって、お酒のペースが上がっていく。
「あの時のこと覚えてる? ほら、一緒にコイを見た時のことだよ」
「覚えてる覚えてる!! あれだよね。飼われてるんじゃないかって話した時のやつだ!」
「そうそう! それだよ!」
開始から一時間足らずで、僕達は完全に出来上がってしまった。
来夏との思い出話はとても面白かった。今でも、僕は来夏との出来事を全て覚えている。話していると、それら全てがまるで昨日のことのように感じた。あれから僕の中で時間は進んでいないのだと、はっきりと分かった。
来夏が死んでしまったあの時から、僕の中で時間は止まったままだ。
「いやあ。優太くんと話してると面白いなあ。本当、あの頃は幸せだった。どうしてさ……優太くんが――――」
そこまで言って、彼女はハッと口をつぐんだ。だが、彼女がなんで口をつぐんだのか、僕には分からなかった。頭がボーッとしていて、上手く思考がまとまらない。
ただ、来夏を守れなかった悔しさだけが、込み上げていた。過去を思い出すと、いつもその後悔に襲われる。
目の前の来夏と話していると、まるでそんな過去などなかったかのような錯覚に陥ってしまう。来夏はずっと生きていて、死んでなんかいない。そんなあり得ないことが、夢のようなことが、起きているのではないか。そんな風な幻想に囚われてしまう。
彼女は部屋を暗くして、テレビ画面を見ながら笑っていた。
「ねえ優太くん。見てよ。今日の金ローあの映画だよ」
僕と来夏が数日前に行った神社。あの神社が舞台となっている映画が、放送されていた。
「なんか、すっごく懐かしいね」
部屋を暗くして映画を見てるせいか、来夏の顔が青白く光っている。
「うん。懐かしいよ」
急に、来夏が顔を寄せてきた。
「ねえ、覚えてる? 昔もこうやって、優太くんの家で一緒に映画を見たよね」
彼女のそんな様子を見ていて、やっぱり、今目の前にいる来夏は、昔の来夏と同じなんだと思った。だからだろう。騙されていると分かっているのに、僕は気が付いたら口を開いていた。
「ねえ来夏。聞いてもいい?」
「なーに?」
彼女は首を傾げて次の言葉を待っている。
「君は、本当に来夏なんだよね」
「もちろんそうだよ」
「じゃあ、君は生きてるの?」
僕は一度大きく息を吸い込んでから、続けた。
「それとも、死んでるの?」
来夏の瞳は、震えているようだった。彼女は僕を優しく見つめたまま、口を開く。
「私は、生きてるよ。私はね……」
彼女は手のひらを、僕の手のひらに重ね合わせた。彼女の手のひらは、とても暖かい。どくん、どくん、と生命の鼓動がした。
「優太くんのお陰で、私は幸せなんだ」
彼女の声は、なぜだか震えていた。その言葉に、どんな意味が込められているのか、その真意は分からない。ただ、彼女の言ってることに嘘がないことだけは、なんとなく分かった。
「来夏。じゃあ、もう一つ聞いてもいいかな」
「なーに?」
彼女はまた、甘い声で首を傾げた。
「どうして君は、生き返ったの? どうして君は、また僕の前に現れてくれたの?」
それを聞いてしまったが最後、夢から覚めてしまう。だが、聞かずにはいられなかった。
僕の質問に、彼女は黙ってしまった。彼女が生き返った秘密が、どこかにあるはずなんだ。それは僕には分からないし、思いつくことができないような方法なんだろう。でも、結果的に彼女は僕の前にやって来た。その秘密が、知りたい。
「じゃあ、特別に大ヒントをあげるね」
「うん」
僕は真っ直ぐに彼女の顔を見つめた。
「私は、元々死んでなんかないんだ。安達来夏は初めから生きてる。今言えるのは……っていうか、優太くんに言えるのは、それが限界かな」
ごめんね、と彼女は悲しそうに笑った。
「そっか……そうだよな。ごめん。僕、何やってんだろ」
当たり前だ。これから騙そうとしている奴に、真実を教える馬鹿がどこにいるというのだろう。
「あのさ……笑って聞いてくれていいよ。僕、全部これが現実だったら良いのになって思ってるんだ。来夏は生きてて、実は死んでなんかなくて、僕の前にいる来夏は本物で……」
何を言っているのか、分からなかった。支離滅裂なことを言っている自覚はある。でも、言葉は止まらない。
「過去をやり直せたら、どれだけ幸せだろうって思っちゃってるんだ。あの時、来夏を守れたらって、いつも思ってるんだ。あの四年前に、何度も戻りたいって、僕、いつも思ってるんだ」
来夏はそんな僕の話を、黙って聞いていた。
「そっか……そう思ってくれてるんだ」
彼女はスッと立ち上がってから、僕を見下ろした。
「私、嬉しいよ」
僕の目の前に、手が差し伸べられる。
「優太くん。これから何が起こっても、私を信じてくれる?」
そんな台詞、僕を騙していると公言しているようなものじゃないかと思った。
「信じてくれるなら、手を掴んで欲しいな」
僕は迷わず彼女の手を握り締めた。
「そっか……そうなんだ。ありがとね。じゃあ、今優太くんが言ったことを、叶えてあげるよ」
「え? それ、どういうこと?」
「だから、私達は四年前に戻るんだ。そして、全部やり直そう」
言っている意味が分からない。これは何かの比喩なのだろうか。
「これは比喩なんかじゃないよ。だから聞いたでしょ? これから何が起こっても、私を信じてくれる? って」
そこまで言って、来夏は頭を抑えた。
「ごめん。もう時間だから、そろそろ帰るね」
彼女が家に来てから、四時間ほど経っていた。もう、魔法が解ける時間だ。
「家まで送っていくよ」
玄関まで送ってから、そう呟いた。しかし来夏は「大丈夫」と言って頑なに譲らなかった。
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