この夏の終わりに君を彩る

37se

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 清涼は太陽が行きそうな場所の検討が付いていた。今清涼が向かっているのは葉月の墓だ。

 ここにいる可能性は低いだろうなと思いながら、清涼は走る。本命は立夏の方だ。

 だからこそ、清涼は立夏を一人で坂の上へと向かわせた。立夏のためだ。太陽のことを、立夏に救わせてやりたい。それくらいの幸せが、彼女にあってもいいはずなんだと、清涼は思っていた。それが、立夏にとっての救いになってくれれば良い。

 墓場の近くは祭りで混み合っていた。清涼は人混みをかき分けて進んで行く。
 人混みを抜けて、墓場の前まで来た。流石に、ここら辺には人がいない。

「いくら空いていても、墓場の近くじゃ打ち上げ花火は見ないか……」

 一人で呟いてから、清涼は階段を登る。

 四段目の左から四番目。そこが、送火葉月の墓だ。

 そこにはやはり、太陽の姿はなかった。

「ふう」とため息をついて、清涼はどかっと腰を下ろした。

「あいつ……やっぱり律儀だなあ。そういうところが、俺とは違うところなのかな」

 清涼は線香立てをぼんやりと眺めていた。そこには、すでに燃え尽きた線香が力無く立っていて、狼煙のように微かな煙が立ち昇っていた。

 太陽が逃げ出した後にここに寄ったのだろう。

 清涼は忙しなく打ち上がり続ける花火を眺めた。

「ほら葉月。沢山打ち上げ花火だぞ。お前も、一緒に見たかったよな。俺も、葉月と一緒に見たかったよ」

 なんだか、葉月と一緒に花火を見てるみたいな気分だ。きっとこの夏の思い出は、一生忘れることはないだろう。

「なあ葉月、太陽に力を貸してやってくれないか? 俺、何にもできないからさ。昔から、何にもできないままだからさ。君の力が必要なんだ。俺、もう誰も失いたくないんだ。離れて欲しくないんだ。だから、太陽に力を貸してやって欲しい。俺じゃあ、太陽を動かせないんだ」

 清涼は自然と言葉が溢れ出てくることに驚いた。周りに誰もおらず、葉月の前にいるからだろうか、本音が、ぽろぽろとこぼれ落ちてくる。

「太陽は俺が欲しくて欲しくてしょうがないモノを持ってるくせによ、なんで逃げ出しちまうんだろうな。全く、羨ましいよ。ほんと……まあ、俺も立夏も、みんなバカなんだけどなあ」 

 少しだけ葉月と喋ってから、清涼は立ち上がった。

「ありがとな葉月。ちょっとだけスッキリしたよ。じゃあ、ちょいと立夏がどうなったか見てくるわ」

 込み上げてくる感情を押さえ込んで、清涼は葉月の眠る場所へ笑顔を向けた。乾いてなどいない、綺麗な笑みを。

 葉月に手を振って「じゃあな」と別れを告げてから、清涼は走り出した。

 きっと、立夏はこれから酷く傷つくはずだ。でも、それが立夏にとっての救いでもある。太陽を救ったということが、立夏にとっての救いになるはずなんだ。

 だって、そうでもしないと、彼女は花火に勝てるところがないだろうから。それくらいの救いがあったって、いいはずだ。

 それが、立夏を底から引き上げる方法だと信じて、清涼は走った。
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