35 / 40
34
しおりを挟む
翌日――僕達四人は、体育館のステージ裏で円陣を組んでいた。
「いよいよね」
「ああ、ここまで来たらもう逃げられねえな」
「私、今とてもドキドキしています」
「うん。僕もドキドキしてるよ。絶対に成功させような!」
全員で気合を入れてそれぞれの背中を叩く。紅葉マークがつくんじゃないかってくらい本気で叩かれて、身体がブルブルと震えた。これがきっと、武者震いってやつだろう。
元々は面をつけて出演する予定だったが、それは辞めた。花火との最後の思い出を、自分の顔で、何も飾らずに、何も隔てずに、全身全霊で作りたいと思ったからだ。かけがえのない、最高の思い出にするために。
前のグループの演奏が終わり、体育館内は歓声に包まれた。
幕が降りて、前のグループが帰って来る。メンバーはそれぞれやり切ったとい表情をしていて、気分が良さそうだ。
それを見てもう一度気合を引き締める。
ステージ裏からステージの表へと移動し、幕の前に立った。
中心にボーカルの花火が立ち、右側にベースの僕、左にギターの立夏、後方にドラムの清涼という位置取りだ。
みんなそれぞれが集中して、真剣な表情を見せている。
チューニングを確認して、幕が上がるのを待った。
ここまで来たらやるしかない。絶対に忘れられない思い出を、作るんだ。
「さあて! 続いては『RADWIMPS』のみなさんです!」
バンド名が叫ばれて、幕が上がる。
ステージライトが僕達を照らし出す。今まで経験したことないほど沢山の視線が、僕達に集まっていた。
今、この場では間違いなく僕達が主役だ。
今まで人との関わりを避けて来て、目立つことなんてしてこなかった僕が、みんなの視線を集めている。
喜びもなければ悲しみもない、そんな人生とは今日でお別れだ。
清涼、立夏、花火。今このステージに立っているみんなが、僕を変えてくれた。
よし、やってやる。
花火が右腕を高らかに突き上げて叫んだ。
「会心の一撃!!!」
叫びと同時に、立夏がギターをかき鳴らす。
僕達のライブが、始まった。
花火が力強く歌い出し、再び歓声が上がった。
音が幾重にも重なって会場中を震わせている。
気分が高まっていき、周りの景色がチカチカと光って見えた。
約束通り、ワンフレーズ毎に交互に歌う。
歌詞の一言一言が、心に染み込んで来る。
本当に、僕の生きる世界は、未来は、変わった。
最後のサビを花火と共に歌いきって、ベースに集中する。歌詞が終わっても、まだ曲は終わっていないんだ。
最後まで、集中を切らしてはいけない。
立夏と清涼と合わせて、弦を弾く。後を引くような余韻が残り、音楽が終わった。
拍手喝采が、指笛の音が、聞こえて来る。だけど、そんなのは全く気にならなかった。
僕は肩で息をしながら、メンバー四人と視線を合わせていた。
この視線の絡み合いを、僕は一生忘れないように記憶に焼き付けた。きっと、みんな同じことを思っているだろう。
「あー、えー、みなさん。一曲目、ありがとうございました!」
花火が汗を拭いながら喋り出す。初めて会った時とは比べ物にならないくらい生き生きとした声だ。
「次の曲は、私のことを変えてくれた、私を引っ張り出してくれた人のために歌います」
そう言って、花火は僕の方を向いた。瞳があって、ドキッとする。僕のことを言ってくれているのだろうか。
「聞いてください。ふたりごと」
花火の優しい歌声と、立夏の滑らかなギターの音が、柔らかな音を奏でる。柔らかな音に、清涼のドラムが力強さを加える。
そんな様子を、僕は黙って見ていた。
「俺は地球人だよ。いや、でも仮に木星人でもたかが隣の星だろ? 一生で一度のワープをここでつかうよ」
花火が歌いながら僕を見た。
とくんと心臓が跳ねて熱いものが体を巡っていくのが分かる。
一生に一度しか来れない世界の中で、彼女は僕を見つけてくれた。その事実が溶けかけた雪みたいにじんわりと脳内に染み込んでくる。
真夏の熱狂の中に、人の温もりを感じた。熱くて仕方ないのに、その感覚が心地いい。
催眠のようにとろんと麻痺した中、いつもはあるゆる雑念を加えて希釈されるはずの感情が、原液のまま流れ込んでくる。
曲が終わり、幕が降りて来る。
観客達の盛大な拍手が聞こえる。
周りの景色が輝いて見える。
ああ、本当に、花火と出会えて良かった。
じゃないと、こんな感覚は味わえなかっただろう。
幕が完全に降りる。それでも、この高まった気分は収まらない。
僕達はみんなで視線を合わせて、ステージ裏へと移動した。
そして、みんなで抱き合った。
最高だった。本当に。最高だった。
みんなで、ただそれだけを繰り返し繰り返し、何度も繰り返して言っていた。
「いよいよね」
「ああ、ここまで来たらもう逃げられねえな」
「私、今とてもドキドキしています」
「うん。僕もドキドキしてるよ。絶対に成功させような!」
全員で気合を入れてそれぞれの背中を叩く。紅葉マークがつくんじゃないかってくらい本気で叩かれて、身体がブルブルと震えた。これがきっと、武者震いってやつだろう。
元々は面をつけて出演する予定だったが、それは辞めた。花火との最後の思い出を、自分の顔で、何も飾らずに、何も隔てずに、全身全霊で作りたいと思ったからだ。かけがえのない、最高の思い出にするために。
前のグループの演奏が終わり、体育館内は歓声に包まれた。
幕が降りて、前のグループが帰って来る。メンバーはそれぞれやり切ったとい表情をしていて、気分が良さそうだ。
それを見てもう一度気合を引き締める。
ステージ裏からステージの表へと移動し、幕の前に立った。
中心にボーカルの花火が立ち、右側にベースの僕、左にギターの立夏、後方にドラムの清涼という位置取りだ。
みんなそれぞれが集中して、真剣な表情を見せている。
チューニングを確認して、幕が上がるのを待った。
ここまで来たらやるしかない。絶対に忘れられない思い出を、作るんだ。
「さあて! 続いては『RADWIMPS』のみなさんです!」
バンド名が叫ばれて、幕が上がる。
ステージライトが僕達を照らし出す。今まで経験したことないほど沢山の視線が、僕達に集まっていた。
今、この場では間違いなく僕達が主役だ。
今まで人との関わりを避けて来て、目立つことなんてしてこなかった僕が、みんなの視線を集めている。
喜びもなければ悲しみもない、そんな人生とは今日でお別れだ。
清涼、立夏、花火。今このステージに立っているみんなが、僕を変えてくれた。
よし、やってやる。
花火が右腕を高らかに突き上げて叫んだ。
「会心の一撃!!!」
叫びと同時に、立夏がギターをかき鳴らす。
僕達のライブが、始まった。
花火が力強く歌い出し、再び歓声が上がった。
音が幾重にも重なって会場中を震わせている。
気分が高まっていき、周りの景色がチカチカと光って見えた。
約束通り、ワンフレーズ毎に交互に歌う。
歌詞の一言一言が、心に染み込んで来る。
本当に、僕の生きる世界は、未来は、変わった。
最後のサビを花火と共に歌いきって、ベースに集中する。歌詞が終わっても、まだ曲は終わっていないんだ。
最後まで、集中を切らしてはいけない。
立夏と清涼と合わせて、弦を弾く。後を引くような余韻が残り、音楽が終わった。
拍手喝采が、指笛の音が、聞こえて来る。だけど、そんなのは全く気にならなかった。
僕は肩で息をしながら、メンバー四人と視線を合わせていた。
この視線の絡み合いを、僕は一生忘れないように記憶に焼き付けた。きっと、みんな同じことを思っているだろう。
「あー、えー、みなさん。一曲目、ありがとうございました!」
花火が汗を拭いながら喋り出す。初めて会った時とは比べ物にならないくらい生き生きとした声だ。
「次の曲は、私のことを変えてくれた、私を引っ張り出してくれた人のために歌います」
そう言って、花火は僕の方を向いた。瞳があって、ドキッとする。僕のことを言ってくれているのだろうか。
「聞いてください。ふたりごと」
花火の優しい歌声と、立夏の滑らかなギターの音が、柔らかな音を奏でる。柔らかな音に、清涼のドラムが力強さを加える。
そんな様子を、僕は黙って見ていた。
「俺は地球人だよ。いや、でも仮に木星人でもたかが隣の星だろ? 一生で一度のワープをここでつかうよ」
花火が歌いながら僕を見た。
とくんと心臓が跳ねて熱いものが体を巡っていくのが分かる。
一生に一度しか来れない世界の中で、彼女は僕を見つけてくれた。その事実が溶けかけた雪みたいにじんわりと脳内に染み込んでくる。
真夏の熱狂の中に、人の温もりを感じた。熱くて仕方ないのに、その感覚が心地いい。
催眠のようにとろんと麻痺した中、いつもはあるゆる雑念を加えて希釈されるはずの感情が、原液のまま流れ込んでくる。
曲が終わり、幕が降りて来る。
観客達の盛大な拍手が聞こえる。
周りの景色が輝いて見える。
ああ、本当に、花火と出会えて良かった。
じゃないと、こんな感覚は味わえなかっただろう。
幕が完全に降りる。それでも、この高まった気分は収まらない。
僕達はみんなで視線を合わせて、ステージ裏へと移動した。
そして、みんなで抱き合った。
最高だった。本当に。最高だった。
みんなで、ただそれだけを繰り返し繰り返し、何度も繰り返して言っていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』
M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。
舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。
80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。
「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。
「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。
日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。
過去、一番真面目に書いた作品となりました。
ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。
全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
それでは「よろひこー」!
(⋈◍>◡<◍)。✧💖
追伸
まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。
(。-人-。)
居酒屋で記憶をなくしてから、大学の美少女からやたらと飲みに誘われるようになった件について
古野ジョン
青春
記憶をなくすほど飲み過ぎた翌日、俺は二日酔いで慌てて駅を駆けていた。
すると、たまたまコンコースでぶつかった相手が――大学でも有名な美少女!?
「また飲みに誘ってくれれば」って……何の話だ?
俺、君と話したことも無いんだけど……?
カクヨム・小説家になろう・ハーメルンにも投稿しています。
ループ25 ~ 何度も繰り返す25歳、その理由を知る時、主人公は…… ~
藤堂慎人
ライト文芸
主人公新藤肇は何度目かの25歳の誕生日を迎えた。毎回少しだけ違う世界で目覚めるが、今回は前の世界で意中の人だった美由紀と新婚1年目の朝に目覚めた。
戸惑う肇だったが、この世界での情報を集め、徐々に慣れていく。
お互いの両親の問題は前の世界でもあったが、今回は良い方向で解決した。
仕事も順調で、苦労は感じつつも充実した日々を送っている。
しかし、これまでの流れではその暮らしも1年で終わってしまう。今までで最も良い世界だからこそ、次の世界にループすることを恐れている。
そんな時、肇は重大な出来事に遭遇する。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】結婚式の隣の席
山田森湖
恋愛
親友の結婚式、隣の席に座ったのは——かつて同じ人を想っていた男性だった。
ふとした共感から始まった、ふたりの一夜とその先の関係。
「幸せになってやろう」
過去の想いを超えて、新たな恋に踏み出すラブストーリー。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる