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閑話:ノア視点

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 次の日、俺は朝から仕事を片付け昨日の森に向かった。
 一日たった今日、あの少女がどうしてるか気がかりだった。

 もう魔物に襲われてたりして…。
 そんなわけないか。

 彼女の家の周辺には強力な結界が張り直された。
 そこから出ない限りはひとまず大丈夫だろう。

 そう思っても焦燥感は消えない。

 向かう速度を速め、結界周辺に着くとあの少女の姿が見えた。

 何やってるんだ?

 彼女は地面にしゃがみ、本を片手に薬草を採取しているようだ。

 それに、昨日は見なかったレイピアを腰に下げてる。
 少なくとも昨日よりは危機感を持ってくれたようだ。

 そのまま俺に気づくことはなくどんどん奥へと進んでいく。

 さすがに結界から離れすぎだ。

 ようやく顔を上げた彼女はうっかり結界の外に出てしまったことを今になって気が付いたようだ。
 急いで本や薬草をしまい、帰る準備をしている。

 たまたまかもしれないが、ここに魔物が来ていたら彼女は危なかっただろう。
 魔法が使えても実践で使えなければ意味がない。

 「きみ、ここまで一人で来たの?ここが危険だってまだ理解してなかったんだ。いくら魔法が使えるとはいえ、きみみたいな子供が一人で生きられるわけないでしょ」

 あくまで偶然を装って、危険性を伝える。
 でも彼女は昨日と変わらず、この森から離れる気はないようだ。

 「ここに住むのは私の自由です。あなたには関係ありません」
 「きみみたいな子供が一人で住んでるって知って、ほうっておいて死なれたら寝覚めが悪いでしょ。それにオルセード様に頼まれなかったらこんなところまで仕事じゃなかったら来るわけないでしょ」

 これは本当のことだ。
 オルセード様は彼女のことが心配なのだろう。
 だから俺を頼った。
 それに、危険区域ので何かあった場合騎士団が動かなければならない。
 今のうちに注意をしておくのも仕事のうちだろう。

 「この森のことを悪く言うのはやめてください。ここに魔物が出ようが私はこの森が好きなんです。ここは私の居場所です私が好きでここに住んでいるのでそれで死んだら自業自得です。悔いはありません。なのでほうって置いてください」

 そういうと彼女は帰るために歩き始めた。

 何かあってからじゃ遅いのに…。
 彼女の怒らせるようなことしか今の俺には言えない。
 
 彼女は一人だ。
 その居場所を俺は奪えるの…?
 そう考えると同じことは言えなかった。
 
 その時、木の後ろからリアムが姿を現した。 

  っこいつ、俺の後をつけてきたな…。

 そのことを気にする様子もなくリアムが彼女に少し近づく。

 「すみません、この人口が悪くて」

 いきなり表れて人の悪口を言うなんて、相変わらず失礼な奴だ。
 そのまま俺に声をかけることなく彼女と話し始めた。

 「あっ、私は怪しいものじゃありませんよ?」

 …いや誰が見ても怪しいでしょ。
 すべての女性が見ほれるような完璧な笑顔を顔に張り付け話している。

 彼の本当の姿を知らないご令嬢たちはいちころだだった。
 すぐに熱い視線を送り女同士の過激な争いが始まる。

 でも彼女の表情を見るとそんな感じはしない。
 逆に俺と同じように怪しいと思ている顔だ。

 ふ~ん、あの笑顔を見て落ちないなんて。
 女なら簡単に落ちると思ってたけど、彼女は違うんだ…。

 「私はリアム。リアム・ブルースティード。見ての通り魔術師をしています。そう警戒しないでください、と言っても無理ですよね。大丈夫ですよ、何もしません。今日は様子見ですから」
 「様子見?」

 貴族でしかも魔術師長をしている男だ。
 身分を知らなくてもあんな反応をする女は珍しい。
 本当に面白い子だな。

 二人を観察しているとなぜか話は俺のことに移っていた。

 「ええ、この人、昨日からあなたのことが気になって仕方ないみたいです」
 「ちょっと、変なこと言わないでくれる?そんなわけないでしょ」

 別に彼女のことが気になっているわけではない。
 この危険区域を管理するのも仕事の内だ。
 私情で来たわけではない。
 なのに彼女もまた変なことを言い出す。
 
 「ご心配頂きありがとうございます。ですが先ほども言った通り私は大丈夫ですから」
 「きみも変なこと言わないでくれる?俺が心配するはずないでしょ」
 「そうですか、余計なことを言ってすみません」
 「………」

 あっさり引いた彼女に少しイラっとした。
 ?
 なぜかはわからなかったが気にする必要はないだろう。

 「ところで、あなたはいつ名乗るんですか?」

 ……そういえば名乗ってなかったな。
 それは単に挨拶する機会もタイミングもなかっただけだ。
 
 でもリアムに言われて名乗るのは癪だな。
 
 「別に、今の状態でもなんの不便もないけど」
 「私だけ名乗るなんて不公平じゃないですか」
 「自分から名乗ったんだろ」
 「まあまあそう言わずに、ね?」
 「………」

 なにが、ね?だ。
 いい大人が気持ち悪い。
 でもこの状況だと絶対にリアムはひかないだろう。
 だからおとなしく答える。
 
 「ノア・グリーンフォード。騎士をしてる。二度は言わない」
 「あっ、ご丁寧にありがとうございます。私はハルと言います。昨日はお伝えするのを忘れましたがこう見えても18歳です。なので本当に大丈夫です。心配はいりませんよ?」

 彼女がそう言うと俺たちは固まった。
 
 18歳?

 まったくそうには見えないけど、彼女の言葉遣いや対応時の態度から考えるとうなずける。
 そうとは知らず、みんなが彼女を子供扱いしていた。

 でも俺はほんとのことしか言ってないし…反省はしない。
 

 「それは…今まで失礼な態度ですみません。主にノアが」
 
 ちょっとっ…。

 「俺だけのせいにするのやめてくれない?リアムも子供だと思ったでしょ」
 「私は何も言ってませんよ?」
 「このっ…」
 
 別に俺だって子供だと直接伝えたことはない。
 いろいろ言っても毎回うまくかわしてしまう。
 正直口でリアムに勝てる自信はない。
 その状況でため息をついても仕方ない事だろう。

 その時、ずっと黙って見守っていた彼女が口を開いた。

 「私はもう気にしませんのでお気になさらず。それよりもう様子見はしなくて大丈夫ですよ?お二人とも仕事があると思いますし、この通り元気なので。でも、今日はわざわざ来ていただきありがとうございます。よろしければうちに寄っていきませんか?お茶くらいはご馳走します」
 
 多分、俺たちのことを気遣てくれたのだろう。
 けど、寄っていく理由はないし彼女にも負担がかかるだろう。
 もろもろの有で断ろうとする前にリアムに先を越された。

 「じゃあお言葉に甘えますね」
 「俺は行くって言ってないけど」
 「じゃあ来なければいいじゃないですか」
 「リアムと二人なんて魔物より危ないでしょ」
 「そんなことありませんよ?」

 いやあるでしょ…。

 見た目や言葉遣いが紳士でも中身は腹黒だ。

 仕方ないか…。
 リアムがついてきたのが運の月だ。
 俺はおとなしく彼女とリアムの後をついていった。
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