無限に発散するエッセイ

あq

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2023-12-30

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 僕の髪は黒色だったが今は金色だ。でも僕は僕のままいる。これは僕の全ての部分で言える。僕の鼻が二つになって、腕が緑色になって、眼が見えなくなって、靴が新しくなっても、僕は僕のままでいられる。僕が僕にとって必要なのは、僕であるという感覚だけだ。それさえあれば、どんな変化も僕は受容する。
 しかし、君にとっての僕を考えた場合はどうだろう。君にとって、僕が僕であると感覚していることにはなんの意味もない。君にとって僕は何処まで行っても他者であり、当事者性はない。ならば、君がどんな変化をした僕も僕と呼んでくれるなら、君にとって僕が僕である必要なんてないじゃないか。君にとって、僕は誰でもいいじゃないか。
 反対に、君だってそうだ。君の髪が水色になって、ブーツの底が厚くなって、少し酔っ払って、僕の名前を忘れたって、君は君だ。
 ならば、僕にとって君は君じゃなくてもいいということじゃないか。
 今、僕は誰かに役名をあげているだろうか。多分今僕の周りにいる人は皆エキストラだ。誰だって、誰でもいい。血縁者でさえ、代わりがいるような感覚でいる気がする。父や母が死ぬ想像をすると胸が苦しくなる。しかし胸が苦しくなるのであれば、誰でもいいんじゃないのか。悲しいと思うことができれば、それが誰に向いていようとかまわないと思ってはいないか。

 名指すことだ。愛することは、恐らく名指すことと近い距離にある。名指すこと、その人がその人であると認めること。それは、することもされることも、とても難しい。
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