モブだけど推しの幸せを全力サポートしたい!

のあはむら

文字の大きさ
11 / 41

セシルとエリスの絆

しおりを挟む
エリスの日常は、もはやセシルのフォローという仕事で成り立っていると言っても過言ではない。
例えば、ある日――授業中の何気ない会話の中で、セシルは爆弾を投下した。
「発音を間違えると爆発する呪文って本当にあるの?」
興味津々な顔で魔法書をめくる彼女に、エリスは慎重に答えた。

「うん、あるみたい。でも危険だから私はやったことないけど……」
「へえー! じゃあ試してみ――」
「やめてセシル!!!」

慌ててセシルの口を塞ぎ、未然に爆発事故を防いだ。
こういう危険なフラグを平気で立てるのが彼女の特徴である。

休み時間になると、中庭でセシルが何やら草を摘んで眺めていた。興味深そうな顔で「この薬草って食べられるのかな?」と呟く。

エリスは即座に「それは薬草じゃなくて雑草だから食べないで」と止めたが、セシルは「なんか美味しそうな見た目なのに」と残念そうだった。

この子は本当に何でも食べようとするのか? とエリスは頭を抱えた。「ヒロインが毒草を食べて病院送り」なんてバッドエンドを想像し、即座に草を取り上げる。
「エリスがいると安心するからつい……」と悪びれもせず言う彼女に、エリスはため息をつく。

放課後、エリスは今日こそ無事に一日が終わると思っていた。しかし、それは甘い考えだった。

セシルが突然「見ててね!」と叫び、廊下に魔法陣を描いたかと思うと、勢いよくスライディングを始めた。魔法の力で滑らかになった床を、氷の上を滑るようなスピードで疾走する姿は、もはや異世界のスポーツ競技のようだった。

「床が滑らかすぎるー!」と叫びながら、廊下を猛スピードで滑り抜ける彼女を、エリスは必死に追いかけた。ようやく止まったセシルは「完璧なスライディングだった!」と満面の笑みを浮かべていたが、エリスはそれどころではない。
直後、教師が現れ、「廊下で魔法を使うのは禁止」と冷静に注意した。エリスは謝罪しながらセシルを引っ張りその場を去る。セシルは「楽しかったね!またやろう!」と無邪気に言ったが、エリスは全力で「やらないで」と釘を刺した。次やったら停学で済むかどうかすら怪しい。

夕暮れ時、二人は寮の庭でベンチに腰掛けていた。
セシルは頬に夕陽を浴びながら、ふとエリスに向き直る。
「ねえエリス、私ってドジなのかな?」
「……いやまあ、ドジっていうか、天然? それも天災級のね」
「えっ、私ってそんなすごいの!? レアキャラ扱い?」
「いや褒めてないから……まあ、レアキャラではあると思うけど」
エリスは疲れたように溜め息をつく。
しかし、セシルは気にする様子もなく、「ねえエリス、いつもありがとう。エリスがいてくれて本当に助かってる」と微笑んだ。

「えっ……急にどうしたの?」
思いがけない感謝の言葉に、エリスは少し驚いた。
いつも天然な言動で振り回されっぱなしのセシルから、こんな真剣な言葉を聞くことになるとは思っていなかったのだ。
「だって、私ってほら……いろいろ迷惑かけちゃうし。でもエリスはいつも私のことを助けてくれるし、怒らないし……すごいなぁって思って」
(怒らないっていうか、諦めてるだけなんだけどね!)
「……まあ、確かにセシルは天然すぎて手がかかるけどさ。私がフォローしないと誰がするのって話だし」
「うん。エリスがいてくれると、私、すごく安心するんだ。だから、これからもずっと一緒にいてね!」
無邪気な笑顔を向けてくるセシルに、エリスは思わず胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
(… これがヒロイン力……?)

「……まあ、仕方ないからこれからもフォローしてあげるよ」
推しのためにもね、と心の中で付け足す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...