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セシルとエリスの絆
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エリスの日常は、もはやセシルのフォローという仕事で成り立っていると言っても過言ではない。
例えば、ある日――授業中の何気ない会話の中で、セシルは爆弾を投下した。
「発音を間違えると爆発する呪文って本当にあるの?」
興味津々な顔で魔法書をめくる彼女に、エリスは慎重に答えた。
「うん、あるみたい。でも危険だから私はやったことないけど……」
「へえー! じゃあ試してみ――」
「やめてセシル!!!」
慌ててセシルの口を塞ぎ、未然に爆発事故を防いだ。
こういう危険なフラグを平気で立てるのが彼女の特徴である。
休み時間になると、中庭でセシルが何やら草を摘んで眺めていた。興味深そうな顔で「この薬草って食べられるのかな?」と呟く。
エリスは即座に「それは薬草じゃなくて雑草だから食べないで」と止めたが、セシルは「なんか美味しそうな見た目なのに」と残念そうだった。
この子は本当に何でも食べようとするのか? とエリスは頭を抱えた。「ヒロインが毒草を食べて病院送り」なんてバッドエンドを想像し、即座に草を取り上げる。
「エリスがいると安心するからつい……」と悪びれもせず言う彼女に、エリスはため息をつく。
放課後、エリスは今日こそ無事に一日が終わると思っていた。しかし、それは甘い考えだった。
セシルが突然「見ててね!」と叫び、廊下に魔法陣を描いたかと思うと、勢いよくスライディングを始めた。魔法の力で滑らかになった床を、氷の上を滑るようなスピードで疾走する姿は、もはや異世界のスポーツ競技のようだった。
「床が滑らかすぎるー!」と叫びながら、廊下を猛スピードで滑り抜ける彼女を、エリスは必死に追いかけた。ようやく止まったセシルは「完璧なスライディングだった!」と満面の笑みを浮かべていたが、エリスはそれどころではない。
直後、教師が現れ、「廊下で魔法を使うのは禁止」と冷静に注意した。エリスは謝罪しながらセシルを引っ張りその場を去る。セシルは「楽しかったね!またやろう!」と無邪気に言ったが、エリスは全力で「やらないで」と釘を刺した。次やったら停学で済むかどうかすら怪しい。
夕暮れ時、二人は寮の庭でベンチに腰掛けていた。
セシルは頬に夕陽を浴びながら、ふとエリスに向き直る。
「ねえエリス、私ってドジなのかな?」
「……いやまあ、ドジっていうか、天然? それも天災級のね」
「えっ、私ってそんなすごいの!? レアキャラ扱い?」
「いや褒めてないから……まあ、レアキャラではあると思うけど」
エリスは疲れたように溜め息をつく。
しかし、セシルは気にする様子もなく、「ねえエリス、いつもありがとう。エリスがいてくれて本当に助かってる」と微笑んだ。
「えっ……急にどうしたの?」
思いがけない感謝の言葉に、エリスは少し驚いた。
いつも天然な言動で振り回されっぱなしのセシルから、こんな真剣な言葉を聞くことになるとは思っていなかったのだ。
「だって、私ってほら……いろいろ迷惑かけちゃうし。でもエリスはいつも私のことを助けてくれるし、怒らないし……すごいなぁって思って」
(怒らないっていうか、諦めてるだけなんだけどね!)
「……まあ、確かにセシルは天然すぎて手がかかるけどさ。私がフォローしないと誰がするのって話だし」
「うん。エリスがいてくれると、私、すごく安心するんだ。だから、これからもずっと一緒にいてね!」
無邪気な笑顔を向けてくるセシルに、エリスは思わず胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
(… これがヒロイン力……?)
「……まあ、仕方ないからこれからもフォローしてあげるよ」
推しのためにもね、と心の中で付け足す。
例えば、ある日――授業中の何気ない会話の中で、セシルは爆弾を投下した。
「発音を間違えると爆発する呪文って本当にあるの?」
興味津々な顔で魔法書をめくる彼女に、エリスは慎重に答えた。
「うん、あるみたい。でも危険だから私はやったことないけど……」
「へえー! じゃあ試してみ――」
「やめてセシル!!!」
慌ててセシルの口を塞ぎ、未然に爆発事故を防いだ。
こういう危険なフラグを平気で立てるのが彼女の特徴である。
休み時間になると、中庭でセシルが何やら草を摘んで眺めていた。興味深そうな顔で「この薬草って食べられるのかな?」と呟く。
エリスは即座に「それは薬草じゃなくて雑草だから食べないで」と止めたが、セシルは「なんか美味しそうな見た目なのに」と残念そうだった。
この子は本当に何でも食べようとするのか? とエリスは頭を抱えた。「ヒロインが毒草を食べて病院送り」なんてバッドエンドを想像し、即座に草を取り上げる。
「エリスがいると安心するからつい……」と悪びれもせず言う彼女に、エリスはため息をつく。
放課後、エリスは今日こそ無事に一日が終わると思っていた。しかし、それは甘い考えだった。
セシルが突然「見ててね!」と叫び、廊下に魔法陣を描いたかと思うと、勢いよくスライディングを始めた。魔法の力で滑らかになった床を、氷の上を滑るようなスピードで疾走する姿は、もはや異世界のスポーツ競技のようだった。
「床が滑らかすぎるー!」と叫びながら、廊下を猛スピードで滑り抜ける彼女を、エリスは必死に追いかけた。ようやく止まったセシルは「完璧なスライディングだった!」と満面の笑みを浮かべていたが、エリスはそれどころではない。
直後、教師が現れ、「廊下で魔法を使うのは禁止」と冷静に注意した。エリスは謝罪しながらセシルを引っ張りその場を去る。セシルは「楽しかったね!またやろう!」と無邪気に言ったが、エリスは全力で「やらないで」と釘を刺した。次やったら停学で済むかどうかすら怪しい。
夕暮れ時、二人は寮の庭でベンチに腰掛けていた。
セシルは頬に夕陽を浴びながら、ふとエリスに向き直る。
「ねえエリス、私ってドジなのかな?」
「……いやまあ、ドジっていうか、天然? それも天災級のね」
「えっ、私ってそんなすごいの!? レアキャラ扱い?」
「いや褒めてないから……まあ、レアキャラではあると思うけど」
エリスは疲れたように溜め息をつく。
しかし、セシルは気にする様子もなく、「ねえエリス、いつもありがとう。エリスがいてくれて本当に助かってる」と微笑んだ。
「えっ……急にどうしたの?」
思いがけない感謝の言葉に、エリスは少し驚いた。
いつも天然な言動で振り回されっぱなしのセシルから、こんな真剣な言葉を聞くことになるとは思っていなかったのだ。
「だって、私ってほら……いろいろ迷惑かけちゃうし。でもエリスはいつも私のことを助けてくれるし、怒らないし……すごいなぁって思って」
(怒らないっていうか、諦めてるだけなんだけどね!)
「……まあ、確かにセシルは天然すぎて手がかかるけどさ。私がフォローしないと誰がするのって話だし」
「うん。エリスがいてくれると、私、すごく安心するんだ。だから、これからもずっと一緒にいてね!」
無邪気な笑顔を向けてくるセシルに、エリスは思わず胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
(… これがヒロイン力……?)
「……まあ、仕方ないからこれからもフォローしてあげるよ」
推しのためにもね、と心の中で付け足す。
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