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第17話
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飛び散る肉片、三十ミリを誇る弾丸の威力に、浩太は身の毛がよだった。人間の身体など、その鉄の塊にとってはなんの障害にもなり得ないのだろう。文字通り、踊るように全身を跳ね回す暴徒に憐れみを覚えた程だ。一発受ければ、着弾した箇所が破裂する。頭に当たれば、顎から上に何も残らない。腹部に当たれば、瞬間的に分断される。上空を舞い上がる上半身が地面に激突すれば、絶命は免れない。
発砲音が止まり、車両の陰から覗く。数秒間の惨劇は、浩太の脳裏に強く焼き付くことになり、真一は、血煙というものを初めて目の当たりにした。
「くそ......イカれちまいそうだぜ......」
すぐさま立ち上がった真一に手をかりる。
「戦争ってのはこんな惨状が普通だったのかもな」
想像したくはないがな、そう付け加えた浩太の背中を達也が叩いた。
「感傷に浸る暇はねえみたいだぞ」
「ああ、そうみたいだな。よし、みんな走れ!」
チェインガンが発生させた新たな砂埃が晴れる前に、浩太の号令が轟いだ。前頭に立ったのは、勿論、浩太だ。武器を積んだトラックまでの距離は、正確に分からないが、自衛官としての経験が生きた。方向を見失うことはない。懸念は、銃撃を免れた暴徒の存在くらいだろう。アーミーナイフを抜き、赤いワゴンに隠れていた暴徒の身体を蹴り倒した。
激しい攻撃を受けた暴徒は、ほぼ全滅しているようだが、新たな暴徒が誕生しつつあるとすればキリがない、と浩太が舌を打った。
「全員立ち止まるな!振り返るな!前だけを見て駆け抜けろ!」
行く手を阻む暴徒の眉間を撃ち抜き、自分に言い聞かせるように大声を張り上げる。マガジンを取り替え、叩き込んだ時、風が揺れた。アパッチが動き出す。
「浩太!野郎、動き出したみたいだぜ!」
「ああ!分かってる!」
だが、浩太は振り返らずに音だけで判断する。やはり、追ってきている。間違いなく、アパッチの目的は生存者の救助ではなく、暴徒ごと生き残りを抹殺することだ。
真っ先に浮かんだ疑問は、何のために、だった。単純に考えれば、感染の更なる拡大を防ぐ為だろう。しかし、それなら、関門橋やあらゆる交通機関を破壊、もしくは、停止すれば事足りる。
いや、今はそんなことを考えている余裕はない。とにかく、一般人が生き延びるにはどうすれば良いかを優先するべきだ。
工業団地が近づいてくる。トラックまで、もう少しだ。コンマ数秒の安堵は、アパッチのモーター音にかきけされる。一瞬だけ振り返れば、開かれたハッチの奥にから、M2重機関銃の銃口が目に飛びこんできた。咄嗟の判断で、浩太は真一に89式小銃を投げ渡す。
「真一、頼む!」
それだけで充分に、真一は役目を理解したようだ。12.7ミリ弾六百五十発、そんなものを好き放題にばら蒔かれるなど、たまったものではない。前髪の奥で浩太の眉間が狭くなった。
発砲音が止まり、車両の陰から覗く。数秒間の惨劇は、浩太の脳裏に強く焼き付くことになり、真一は、血煙というものを初めて目の当たりにした。
「くそ......イカれちまいそうだぜ......」
すぐさま立ち上がった真一に手をかりる。
「戦争ってのはこんな惨状が普通だったのかもな」
想像したくはないがな、そう付け加えた浩太の背中を達也が叩いた。
「感傷に浸る暇はねえみたいだぞ」
「ああ、そうみたいだな。よし、みんな走れ!」
チェインガンが発生させた新たな砂埃が晴れる前に、浩太の号令が轟いだ。前頭に立ったのは、勿論、浩太だ。武器を積んだトラックまでの距離は、正確に分からないが、自衛官としての経験が生きた。方向を見失うことはない。懸念は、銃撃を免れた暴徒の存在くらいだろう。アーミーナイフを抜き、赤いワゴンに隠れていた暴徒の身体を蹴り倒した。
激しい攻撃を受けた暴徒は、ほぼ全滅しているようだが、新たな暴徒が誕生しつつあるとすればキリがない、と浩太が舌を打った。
「全員立ち止まるな!振り返るな!前だけを見て駆け抜けろ!」
行く手を阻む暴徒の眉間を撃ち抜き、自分に言い聞かせるように大声を張り上げる。マガジンを取り替え、叩き込んだ時、風が揺れた。アパッチが動き出す。
「浩太!野郎、動き出したみたいだぜ!」
「ああ!分かってる!」
だが、浩太は振り返らずに音だけで判断する。やはり、追ってきている。間違いなく、アパッチの目的は生存者の救助ではなく、暴徒ごと生き残りを抹殺することだ。
真っ先に浮かんだ疑問は、何のために、だった。単純に考えれば、感染の更なる拡大を防ぐ為だろう。しかし、それなら、関門橋やあらゆる交通機関を破壊、もしくは、停止すれば事足りる。
いや、今はそんなことを考えている余裕はない。とにかく、一般人が生き延びるにはどうすれば良いかを優先するべきだ。
工業団地が近づいてくる。トラックまで、もう少しだ。コンマ数秒の安堵は、アパッチのモーター音にかきけされる。一瞬だけ振り返れば、開かれたハッチの奥にから、M2重機関銃の銃口が目に飛びこんできた。咄嗟の判断で、浩太は真一に89式小銃を投げ渡す。
「真一、頼む!」
それだけで充分に、真一は役目を理解したようだ。12.7ミリ弾六百五十発、そんなものを好き放題にばら蒔かれるなど、たまったものではない。前髪の奥で浩太の眉間が狭くなった。
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